森と花の国の王子

あーす。

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決着

帰還への遠い道のり 1

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 ディンダーデンはアイリス頭部に立ち、両脇に腕を入れ、上半身を後ろから引き上げるものの…。
ぐったりし、全然自分で動けない様子に、ため息吐く。

「…馬に乗せられるのか?
これ」
ディンダーデンに問われたギュンターは、足を持ち上げたものかどうか、伺いながらも、ため息交じりに呟く。
「…放置しようか?」
ディンダーデンが、頷きかけた時。
シェイルが側に立って、腕組みし、睨み付ける。

シェイルには、なぜか弱いディンダーデンは
「…ちゃんと運べば、いいんだろう?!」
と逆ギレした。

結局、引き上げたアイリスを再び地に下ろし、背を向け屈んで、ギュンターに唸る。
「俺の背に被せろ。
おぶる」

足元に立つギュンターは、思いっきりため息吐く。
アイリスの、腕の横までやって来ると。
腕を引っ張ってアイリスの上半身起こし、自分の肩で倒れかかって来るアイリスの肩を抱き止め。
ふと気づいて、ディンダーデンに唸る。
「お前がここに来い!
こいつ着痩せして見えるが、下は筋肉きっちり付いてて、やたら重い」

ディンダーデンは仕方なしに立ち上がると、ギュンターの横に来、アイリスに背を向けて屈みながら、ギュンターとアイリスの間に入り込む。
背にアイリスの上半身を倒し込み、左腕を持ち上げて肩に乗せ、屈んだまま左足を、アイリスの下半身を跨いで端に置く。

ディンダーデンと入れ替わって立ち上がったギュンターは、掴んでたアイリスの腕を、ディンダーデンの肩に乗せた。

ディンダーデンは首に巻き付けたアイリスの腕を掴み、一気に立ち上がる。
「…腕…痛…」

アイリスの呻き声を聞き、ギュンターはアイリスの左腿を持ち上げると、ディンダーデンに手渡す。
ディンダーデンは掴んでた腕を放し、渡された腿の下に腕を入れこみ、持ち上げる。

「右腿は、自分で掴めないか?」
聞くギュンターに、ディンダーデンは唸る。
「さっさと持ち上げろ」
ギュンターはため息交じりにディンダーデンの背に乗ってるアイリスの、後ろを通って反対側に行き、今度は右腿を持ち上げて言う。
「…嫌々だな」
「前に乗せるとなると…落ちないようにするには、かなりエッチな体勢になるな」
ギュンターは頷く。
「前に乗せるか」

アイリスはぐったりディンダーデンの背に乗ったまま、呻く。
「人ごとだと思って…」

ギュンターがディンダーデンを見、問う。
「人ごとだよな?」
ディンダーデンは背を屈め、上に揺すって落ちないように位置を変え、頷く。
「当然だ」

テリュスは愛馬に寄って、手綱を引き寄せながらそれを見て呆れ、横で黒馬の手綱を握る、ディングレーに顎をしゃくる。
「手伝わなくて、いいのか?」

ディングレーは気づき、視線をディンダーデンとギュンターに向け、素っ気無く告げる。
「あいつら二人は、俺より長身。
その上あいつら、いつも連んで息があってる」

ディンダーデンは
「オーガスタスなら、軽く運べるのに」
と文句言いながら、愛馬ノートスの手綱引いて連れて来る、ギュンターを見た。
ギュンターはノートスをディンダーデンの横まで引きつつ、チラ…と、ザハンベクタに跨がるオーガスタスと、背後から抱きつくディアヴォロスを見ながら唸る。
御大オーガスタスは左将軍にベッタリだから、手伝えない」

ディンダーデンはおぶったまま、馬ら乗ろうとか試み…。
掴んでた腿を放し、鞍を掴むが、アイリスが重すぎて自分が持ち上がらず。
弾みを付けて足を後ろに振り上げた途端、背のアイリスはずり落ちかけ…。
アイリスは
「ぅわっ!」
と叫んで、ディンダーデンの背にしがみつく。

途端、ディンダーデンは半分乗り上がりかけ…けど背にしがみつくアイリスの重みで、それ以上乗り上がれず…。

ギュンターは横で腕組みしてそれを見、顔下げ、ため息吐いた。
「かなりしっかり、落ちないように背に括り付けないと。
乗れないな」

ディンダーデンは今だ馬の横に、顔をしかめ、へばりついたまま怒鳴る。
「そう思ったら、さっさと括り付けろ!!!」

怒鳴られたギュンターは、顔下げて。
自分の愛馬の鞍に付けた革袋に寄ると、袋を開けて縄を取り出す。

再びそれを目にした、騎乗したテリュスは。
横で騎乗してるディングレーに、呟く。
「あれだけいい態度取られても。
従うんだな、ギュンター。
あんたら流に言うと、デキてるとか?」

ぶっっ!!!

テリュスは思わず髪振ってディングレーに振り向く。
ディングレーは肩を小刻みに揺らし、笑ってた。
「…いいなそれ。
めちゃくちゃ愉快だ」
「どこが?」
さっぱり笑いどころが分からず、テリュスは尋ねる。

シェイルもとっくに騎乗し、笑ってるディングレーを白い目で見、唸る。
「…あんた…」
テリュスは口開く、緩やかなウェーブの銀髪をふんわりと胸に流し、長い銀の睫、大きく美しいエメラルドグリーンの瞳、愛らしいピンクの小さく柔らかそうな唇の、超美形シェイルに言葉を返す。
「テリュス」
「…テリュス。
あんたがもし。
いつも男に突っ込まれ、気持ち良さげに腰振ってるんだろう?
とかって言われたら、どんな気分だ?」

シェイルは、肩までの明るいくねる栗毛の、愛らし系のテリュスが。
少し垂れ目気味の青い瞳を、まん丸に見開くのを見た。
暫くしてテリュスは顔下げ、呻く。
「…ああ、びっくりした。
人間離れした超美形から、そんな下劣な言葉が飛び出すと、思わなかった」

ディンダーデンの騎乗を待ってたオーガスタスは、背後でディアヴォロスが身を揺らし、笑ってるのに呆れた。

シェイルはテリュスを睨み付けて言う。
「聞いてるんだ」
テリュスはまだ、シェイルがその言葉を口にしたショックから立ち直れず、ぼやく。
「…ええと…。
顔と言葉のギャップがキツ過ぎて…。
ショックで脳が機能停止してる」

とうとう、騎乗したローランデも、こっそり笑い始める。

テリュスは告げる言葉を思い出し、ぽつり…と口に出す。
「俺はかつて一度も、そんな事言われたことナイし。
俺の国では、俺を手込めにしたい。
なんて男は、一人もいないし。
するとしたら女みたいにひ弱そうだと、嘲笑われる程度。
まあ、それはそれで、こたえるが。
…男に突っ込まれること考えたら…一人前の男扱いされないって、マシな方なのか?
もしかして」

逆に問われたたシェイルが、眉間を思いっきり寄せるのを見、とうとうディングレーも、テリュスの隣の馬上で声を殺して笑い出す。

やっとディンダーデンの背に、アイリスを幾重にも縄で括り付け終わったギュンターは、ため息交じりにディンダーデンに
「…いいぞ」
と合図出し。
鞍に手をかけたままノートスの横に立つディンダーデンは、左足あぶみにかけ、右足振り上げ、アイリス毎やっと乗り上がり、騎乗すると呻く。
「…人が苦労してる間に。
良くそんな間抜けな会話、してられるな」

そのぼやきを聞くなり、背後のディアヴォロスがハデに身を揺らし、笑いこけてるのをオーガスタスは感じ、ため息吐き。

アイリスは縄でぐるぐる巻きにディンダーデンの背に括り付けられ
「縄が食い込んで、すっごく痛い…」
と文句垂れた。

仕方なしにギュンターは鐙に乗ったディンダーデンの足を、つま先で蹴って退かし、乗り上がって、アイリスに食い込んだ縄を、緩め始める。

テリュスはシェイルを見ると
「…で。
ナニが言いたかったんだ?」
と聞き、シェイルは顔を下げると
「ナンだっけ…」
と囁いた後。
顔を上げて
「忘れた」
と言って退けるので。

とうとうディアヴォロスは、くくくくくっ…と笑い声を漏らし、ディングレーは、ヒッ!と笑い声を立てかけ、テリュスに振り向かれて慌てて口に手を当て、笑いを殺した。

シェイルはこっそり笑ってるローランデに振り向くと
「俺がナニ言いたかったか。
分かる?」
と聞き、首を横に振られ、肩を竦めた。
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