森と花の国の王子

あーす。

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駆け抜ける三人

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 ざざざざざっ!!!

青い光の点滅する道は、道なき道。
細い道からすら外れ、草むらの木々の間を蛇行し、潜り抜けて行く。

大柄なザハンベクタはほぼ始終、遮る木の葉を散らしまくり、駆けていた。
ギュンターはオーガスタスの直ぐ背後に付こうとし…青白い光の点滅に促され、最後尾に下がる。

テリュスが真ん中を駆けて行く。
が、明らかにとても軽やか。

その乗り方は、足場の悪い道に慣れた、神聖神殿隊付き連隊騎士のローフィスとゼイブンを連想させる。

ダンザインはテリュスの脳裏に赤い光の点滅送り
“背後”
と告げ、敵の射手が潜む木の上の葉陰に、青白い光を光らせた。

もうそれだけでテリュスは手綱放し、小弓を手に取るなり直ぐ矢をつがえ、背後に振り向く。

光らせたのとほぼ同時。
もう矢は放たれ、木の上に潜んでいた紅蜥蜴ラ・ベッタの射手を射殺し、落としてた。

どさっ!!!

ギュンターは咄嗟、背後に振り向く。
テリュスが振り向いたかと思うと、直ぐで。

驚いて目を凝らすけど。
進む速度は速く、藪の中に落ちたので。
あっと言う間に遠ざかり、落ちた賊は確認出来なかった。

それから三度。
同様の事が起こった。

道なんて無いも同然の、藪の中を駆け続け、一度は斜め前。
テリュスが矢をつがえてるところは彼の背に隠れ、ほぼ見えず。
どさっ!!!
と音がした時はもう、藪の中に落ちた後。

二度目は後方。

振り向いた時、音はせず。
暫く後
がさっ!!!
と音がしたので、多分射手では無く、木陰に隠れてた暗殺者。

そして最後。
斜め横にテリュスが矢を構え、放った後。
初めてギュンターは、木の上の射手が落ちて行くところを目にするのに、間に合った。

黒装束の男が、真っ直ぐ頭を下に、足を丸め落ちて行く。
その後、どさっ!!!

ダンザインは脳裏で笑っていた。
“光らせるだけで敵が落ちて行く。
なんて経験は、私ですら初めて。
君は素晴らしい射手だ”

テリュスは脳裏に確認する。
“で、もういないのか?”
“当分居ない”

ダンザインの返事に、テリュスは頷くと。
小弓をベルトの後ろ腰に刺し、手綱を握る。

“的に狙いを定めるのが。
射手の苦労だ。
その点、光る場所に放つ、ダケでいいから。
俺にとっても楽だ”

ダンザインはその回答に、愉快そうに柔らかな白い光をテリュスの脳裏に送り、返答に代えた。

間もなく木陰から。
剣を手に、黒装束の男らが数名、襲いかかって来る。
オーガスタスは速度を少しも落とさず、剣を抜くと一気に薙ぎ払う。

ざっ!!!
ざっっっ!!!

右に左。
素早く器用に振り回すので、敵は腕や肩、脇を斬られ、背後に吹っ飛ぶ。

オーガスタスの剣を避け、テリュスの馬へと駆け寄ろうとした賊ですら。
オーガスタスは剣を回し、後ろに突き刺し、背を斬って阻止した。

ギュンターも速度を落とさぬまま、剣を抜く。
が、テリュスの馬は早く、剣を振られる前に賊の横をすり抜け、ギュンターは通り過ぎ様背を斬りつける。

ざしっ!!!

テリュスは小弓を、再び手に取ろうと後ろ腰に腕を回しかけた。
が、ダンザインは告げる。
“この距離なら、短剣が効果的”

オーガスタスが通り過ぎた後。
斜め前から襲いかかって来る黒装束に、テリュスは懐の短剣を握り、放とうとしたその時。
オーガスタスが、前から斜め後ろに短剣投げつける。

しゅっ!!!
「ぐわっ!!!」

賊は背に短剣喰らい、仰け反って早駆けする三頭の馬の後方に倒れ伏す。

オーガスタスは顔だけ少し後ろに向け、背中越しでテリュスに告げた。
「この程度なら、俺でも短剣で仕留められる」

テリュスは懐に入れた、握る短剣の柄を手放し、頷いた。

青白い光は、木々が途切れた右斜め前の、岩場で点滅する。
三人の脳裏に、ダンザインが叫んだ。

“この先は岩場!!!
禁忌の場所とされているから、もう追っ手は来ない!!!”

オーガスタスは頷くなり、少し高くなってる岩場へと、一気に馬を駆けさせる。
ザハンベクタが岩場を駆け上がるのに習い、テリュスもギュンターもが愛馬に拍車かけ、ゴツゴツした岩場を一気に駆け昇った。


崩れた洞窟後の岩場では、結局。
皆、岩に腰掛け、援軍を待った。

簡易食料の、パン、ハム、チーズを取り出し、ディンダーデンはさっさと頬張り。
ディングレーはシェイルが嬉しそうに食べ物を、横のローランデに手渡すのを見た。

「なぁ…。
本当にギュンターが来たら、俺の背に隠れる気か?」

ローランデはシェイルに手渡されたお弁当の説明に耳を傾け、聞いてない。

「…おい。
聞いてるんだが」

ディングレーに促され、ローランデは気づいて顔を上げる。
「失礼。
なんでした?」

ディンダーデンが、もぐもぐ食べながら
「ギュンター避けるタメに、ヤツの背に隠れるのかと、ヤツは聞いてる」
と唸った。

ローランデは青い目を見開く。
「…ダメですか?」

ディンダーデンは問われたディングレーを見た途端、顔を背けた。
案の定
「…ダメ…じゃない…が…」
と、いつも王族然として尊大なディングレーが、気弱に言い淀む。

「…自分だって王族の癖に。
上品なヤツに優しく言われると、断れないのか?」

つい文句言うと、ディングレーは歯を剥く。
「お前に言われたら、即座に断れるがな!!!」

それでディンダーデンは嫌味を言う。
「俺にはきっぱり、言えるのに」

ディングレーは途端、項垂れた。
「…シェイルとローランデって…野郎に見えないから、乱暴な態度が取れない…」

シェイルがびっくりして、尋ねた。
「…そうなの?」
ローランデも目を見開いて、尋ねる。
「でも貴方を王族とうやまう、かつての貴方の取り巻き達にも。
あまり乱暴な態度は、なさらなかった」

ディングレーはとうとう、顔を下げ懇願した。
「丁寧語は止めてくれ。
せっかく身分忘れ去り、気分爽快なのに」

シェイルはパンを囓りながら、呟く。
「そんなに王族って負担?」

ディングレーは素直に、こっくり頷いた。

「…ディングレーはローフィスが羨ましいから…」

声がして、皆一斉に振り向く。
ディアヴォロスが起き上がっていて、岩に腕を乗せ、振り向いていた。
シェイルが直ぐ腰上げ、駆け寄って木筒の水筒をを手渡す。

ディアヴォロスは一口飲んだあと、シェイルを見つめ
「ありがとう」
と素晴らしい微笑を見せ、シェイルの頬を染めさせ。
けどその後、ディングレーに視線送る。

ディングレーは直ぐ気づくと、脇に置いてあった酒瓶を、向かいのローランデに手渡した。

ローランデはそれを、シェイルへと手渡す。
シェイルがディアヴォロスに酒瓶手渡すと、ディアヴォロスは一口煽り、今度は力強い微笑を浮かべ、にっこり微笑んだ。
「活力が、戻って来る」

シェイルはそれでも心配げに、ディアヴォロスを伺う。
「ホントに、大丈夫?」
ディアヴォロスは頷く。
「まだ、足が利かない…。
神聖騎士達が、ワーキュラスの回路からかなりの光を送ってくれたから。
けどアイリスはまだ、とても疲労してる」

アイリスは横たわったまま、呻く。
「…背が痛いんですけど…」

ディアヴォロスはシェイルに振り向き、シェイルはローランデに。
ローランデは直ぐ腰を上げて愛馬に歩み寄ると、鞍に括り付けた毛布を手にし、シェイルに手渡した。

ディアヴォロスはぐったりしたアイリスの肩を持ち上げ、背に毛布を敷く。

アイリスはやっと、やつれながらも嬉しそうな表情で
「ありがたい…」
と囁き、再び目を閉じた。

間もなく、青白い光が点滅する。

“オーガスタスが到着する!”

ダンザインが皆の脳裏に告げ、ディンダーデンはため息吐き、ディングレーは嬉しそうな表情で微笑い。

ローランデは光が点滅した方を見つめ、シェイルは直ぐローランデの隣に取って戻って、横に立ち。

ギュンターが来る方向を、きっ!!!と睨みつけ、待ち構えた。
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