森と花の国の王子

あーす。

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 オーガスタスはもう部屋を出、厩に駆け出していた。
「俺も…」
ローフィスが蹌踉めきながらも、ソファから腰浮かす。
直ぐ脳裏に
“お前はくたばってろ!”
とオーガスタスの叫び声が聞こえ、ローフィスは
すとん。
と再び、ソファに腰下ろした。

横を見ると、シュアンは気絶してて。
「今の心話、オーレが伝えたのか?」
と尋ねる。

オーレはミラーレスが、怪我人の治療を始めてるのを見、光送りつつも呻く。
「いや。
ダンザイン。
俺と今、回路繋げてくれて。
心話を受け持ってくれてる」

ロットバルトはそれを聞くなり、脳裏に叫んだ。
“テリュス!
そっちは無事か?!”

けれど直ぐ
“全っ然、無事じゃない!!!”
と返答が聞こえ、その後エディエルゼに
“この死体、どうすればいいんだ!!!”
と叫ばれ、項垂れた。

ラステルが、寝ぼけ眼でふらつく足取りの、バルバロッサ王の騎兵二人を引き連れ、部屋に入ってくる。
「ここと。
後、二階の客室にもかなーり転がってるので」
と説明していて。
騎兵は頷きながら
「目覚めて動けそうな者から、寄越す。
…睡眠薬、城中の水に混ぜられた?」
とラステルに聞き返す。
ラステルは肩すくめると
「魔法使いの仕業」
と言うので。
やって来た騎兵二人は、揃ってオーレを睨んだ。

オーレは直ぐ様
“俺は無実だ!!!”
と脳裏に叫んだけど。
ダンザインは騎兵らとは、回路を繋げてなかったので。
騎兵らには聞こえず。
聞こえたラステルが、騎兵に振り向き、にこにこしながら言って退けた。
「悪い、魔法使いの仕業です。
彼は、良い魔法使い」

騎兵らはそう言われ、決まり悪げに睨み付けてるオーレを、上目使いでチラ見した後。
「誤解して悪かった」
と謝った。

ロットバルトは脳裏に
“魔物に眠らされた城の騎兵らが、じき回収にやって来るから。
嫌だったら、戸口の側にでも転がして置いて”
と二階のエディエルゼに告げた。

直ぐテリュスから
“嫌に決まってる!!!
生きてたら、吐息がかかるくらい近くまで来てたんだからな!!!”
の怒鳴り声。

ミラーシェンは、レジィの中のシャーレが力使い切って疲れ切り、一緒にぐったりして気絶寸前のレジィの様子を、横で伺っていたけれど。
脳裏に叫ぶ。
“テリュスとスフォルツァは、キスするぐらいまで近くに、死体が来ていた!!!”

ノルデュラス公爵はそれを聞いた途端、横の椅子にすとん。と腰下ろし
“私にやって来てた死体は…かなり近くまで迫ってる…って思ってたけど。
それでもかなり、距離が開いてたんだ…。
うんとマシで、良かった…”
と口元に手を当て、自分の幸運を、くたびれながらも喜んだ。

エルデリオンはそれを聞くなり、パチ!と目を開け
“…あんなモノと、キスするぐらいの距離…?”
そう改めてゾッとし、ミラーレスに光を放射され、傷口がまたうずき始めて目を閉じ耐えてる、デルデロッテにきつく、抱きついた。

二階では。
放心状態でソファに腰掛けるスフォルツァの横で、ラウールが心配げに顔を伺う。

“ある意味、レイプに近い…”

スフォルツァの心話を聞き、死体とそこまで近距離接近してないラウールは、どう慰めて良いか分からず、スフォルツァの腕にそっ…と手を添えた。

テリュスはさっさとミラーシェンの座ってるソファの、端に腰下ろし、立ってるエリューンに怒鳴る。
そいつ死体動かすの、手伝えなんて俺に、絶対言うな!」

エリューンは仕方無く、足元に転がり、ちょっと動くと足を引っかけて転びそうな死体が。
自分らの周囲にゴロゴロ転がってるのを見。
一番邪魔なのに屈み込んで、腕を掴むと戸口に向かって、引きずり始めた。

エディエルゼが直ぐ死体を跨ぎ飛び、駆けつけて。
もう片方の腕を引っ張り、エリューンを助けた。

ミラーシェンは、ぐったりしたレジィを伺う。
“レジィが、変!
これって凄く…疲れてるの?!”
そう、脳裏に叫ぶ。

オーレに視線向けられ、くたびれきって椅子に腰掛けてるシュテフは、回路伝ってシャーレと…そしてレジィを診る。

“…ごっそり生気が抜けきってる感じかな…。
多分、咄嗟に結界張ったんだろうけど…。
“障気”があんなに触れて、攻撃受けた事なんて、今まで一度も経験無いから。
“障気”に当てられた…って言うか…”

ミラーシェンは魂抜けた人形のようなレジィを、心配げに見つめたまま、シュテフの返事を待つ。
が、シュテフは
“今ちょっと…こっちもいっぱいいっぱいだから。
も少し、待ってくれるかな…。
多分壮絶に、疲れてるだけだと思う”

ミラーシェンはそれを聞くと、悲しくなって。
こんなになってまで…みんなを光で包み、護ってくれて嬉しくて。
レジィに思い切り、抱きついた。

するとレジィの中の、シャーレが囁く。
“凄く…嬉しいけど…。
君、今、生気を僕とレジィに分けてくれている…。
この…まま…だ…と僕…止められな…い。
君の生気、全部…吸い取っちゃう…”

幻の、透けた小さなレジィが叫ぶ。
“ダメ!!!
ミラーシェン…死んじゃう!!!”
白く薄い光の、シャーレが悲しげに呟く。
“でも僕…力…加減…出来な…”

椅子にへたり込んでたシュテフが、がばっ!と身を起こし、怒鳴る。
“マズい!
ミラーシェンを今直ぐレジィから、引き離せ!”

向かいのソファに座ってたラウールが、慌てて駆け寄り、背後からミラーシェンの細い肩を掴んで、レジィから引き離した。

今度はミラーシェンが、魂の抜けた人形のように放心状態になってる。

シュテフが決死で叫ぶ。
“回路が繋がったまま!
俺じゃ切れない!
ミラーシェンの方から…繋げてるから!”

透けた小さなレジィが、必死になってシャーレに叫ぶ。
“止めて!
ダメ!
ミラーシェン殺しちゃ、ダメっ!!!
後で泣くの、君でしょう?!!!!”

シャーレは必死に成って…枯渇した自分へと流れ込む生気を、力尽くで押し止めた。

ぱんっ!!!

ミラーシェンとレジィの間の空間が弾け、シュテフがほっとして呟く。
“回路が切れた。
ミラーシェンに、もうレジィとシャーレに、“気”を向けるなと言い聞かせて…”

ラウールは人形のようなミラーシェンを、揺さぶって揺り起こし、怒鳴る。
「ミラーシェン!!!
レジィに気持ちを向けないで!!!」

ミラーシェンははっ!と目を見開き、動こうとして…目眩にぐらり…と身を揺らし、額に手を当て、呻く。
「…なんで…?
僕どうして…こんなに突然、くたびれてる…の?」

ラウールはほっとし、囁く。
「レジィの中のシャーレは…もの凄く、くたびれてるから。
君の生気を、死ぬまで吸い取っちゃうから。
君が死ぬと、レジィは泣くから。
もう迂闊に、生きる力を分けてあげようとか、考えちゃ駄目だ」

ミラーシェンは一瞬呆けた後、こくん。と頷く。

エリューンは戸口近くに運んだ死体の腕を、エディエルゼが放してミラーシェンへとすっ飛んで行くのを見。
一つため息吐くと、仕方なしに死体の両腕掴み、戸口に引きずり始めた。

が、開いた扉から頼もしい、バルバロッサ王の騎兵らが数名、どかどか入って来ると
「後は俺達が」
と言ってくれ、心からほっとして、死体の両腕を放した。

エディエルゼはミラーシェンの横に駆け込み、顔を伺う。
そして少し離れた場所に人形のように座ってる、レジィを見る。

「…生気…を、吸い取られた?」

ラウールは頷く。
「レジィの中のシャーレ…コントロールできないみたい…」

レジィは途端、ほうっ…と吐息吐き、億劫そうに囁く。
「シャーレ…泣いてる…。
出来なくて…ごめんなさい…って………。
殺しかけて…ホントに…ごめんなさい…って…」

ミラーシェンはファントール大公の城で、ずっと庇ってくれてたシャーレを思い浮かべ、囁く。
「大丈夫だか…ら…。
泣かないで?」

レジィはぐったりしながらも、ため息吐くと。
「君がそんなこと言うから。
シャーレ、嬉しくて。
もっと、泣いちゃった」
と言うので、同じソファの端でぐったりしてたテリュスが
「いいから、泣かせてやれ」
と、ぶっきらぼうに言い捨てる。

ラウールもエディエルゼも。
ミラーシェンもレジィもが、一斉にテリュスを見た。

テリュスはソファの肘掛けに抱きつき、見つめる皆に背を向けたまま、呻く。
「俺もう暫く、復活できないと思う。
目に焼き付いてるから。
忘れたくても、直ぐ思い出す」

天然のエディエルゼが
「何を?」
と聞き、向かいのソファに腰掛け、放心状態のスフォルツァが
「死体の顔の、超どアップ」
と呟き。

エディエルゼはそれを聞いて目を見開くと、小声で尋ねた。
「…そんな…嫌か?」

ラウールはその言葉に頷いたけど。
ミラーシェンもレジィも、ぐったりしながら、ほぼ同時に頷いた。
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