森と花の国の王子

あーす。

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決戦

洞窟での戦い

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 アイリスは、ディアヴォロスの背に続く。
ディアヴォロスは先が真っ暗な洞穴へ、迷い無く進み行く。

間もなく、とてつもなく禍々まがまがしい“気”の満ちた、行き止まり…。

長身のディアス(ディアヴォロスの愛称)は、振り向かなかった。
が、アイリスは自分が胸に下げて居るペンダント(護符)に、光竜ワーキュラスの黄金の…素晴らしく濃厚で眩い、光が流れ込んで来るのを感じた。

声を発しようとした途端。

ざわっ!

誰も居ないはずの岩壁に、鳥肌立つようなざわめきが起こり…そして周囲から、黒い靄や赤や青の閃光が、そこら中を駆け抜け始める。

“何体いる?”

ディアスの声が脳裏に響く。
アイリスはそれは、自分に向けられたのでは無く、ワーキュラスに向けた質問だと気づく。

荘厳な、ワーキュラスの声が響く。

“主である『闇の第二』が痛手を受け、『影の国』で休んでるため、ここを見張ってる小物の配下が出て来てる様子だが…。
…厄介な者が一人、いる…”

やがて黒い靄と赤や青の閃光が、洞窟内を駆け抜けた後。
靄が集まり始め、大きな顔を浮かび上がらせる。

“おのれ、光竜憑きか…。
やっと我が兄より、この穴を奪おうとした矢先…”

“『闇の第三』?
闇の帝王の、三番目の王子か?”

ディアスの質問に、大きな黒い靄の顔は、つん、とした表情を向けて告げる。
“我はお前らと、いさかう気は無い。
この穴を我に明け渡し、ここから去るのならな”

アイリスは斜め前に立つ、あるじディアヴォロスが。
艶然えんぜんと微笑むのを見た。

黒く長い縮れ毛を背に垂らし、男らしくも整いきって美しい、高貴な彼の落ち着き払った魅力溢れる様子に。
こんな場合なのに、見惚れる。

ディアスは、緑にも青にも、グレーにも見える、浮かぶような神秘的な瞳を向け、大きな黒い顔の『闇の第三』に告げた。

「それは出来ない。
わざわざアースルーリンドを出て。
この“隙間”を埋める為に来たので」

闇の第三王子は、ため息交じりに囁く。
“『闇の第二』を、痛めつけたのはお前か?”

ディアスは即答する。
「神聖騎士だ。
今直ぐ召喚してもいい」

闇の第三王子は、再びため息交じりに俯く。
“…では仕方無い。
苦労してせっかく…押さえ付けたが、放すしか無いな…”

呟くようにそう言った後。
目をかっ!!!と、青く光らせ叫ぶ。

“喰らえ!
我が父と兄の勢力奪い、『影の国』の底で、他の『影』に喰われまいと怯えながらひっそりと隠れ住むしかなくした、父と兄の仇敵!!!
『影の国』ですら最も恐れられた、上の兄…『闇の第二』、最強の眷属けんぞくを!!!”

ヒゥエェェェェエエエエェェェェェェ………。

突如、しわがれ声の呻きが洞窟内に不気味に響き渡る。
黒い靄の、顔が消えた直後。
その場に解き放たれたように現れたのは、黒いトゲだらけの肌の、あまりにも大きく、おぞましい獣…。

長いトゲだらけの尾と、幾本もの額から突き出た角。
鋭い牙の、大きく裂けた口。
赤く光る三つのまなこは、自分の1/5程しかない身長の、ディアヴォロスとアイリスを見下ろす。
太く頑丈で、鋭いかぎ爪の付いた手足。

ディアスとアイリスの、かなり後ろに居て。
光の結界で護られてたディンダーデンは、目を見開いた。

「…単なるコケ脅しで…幻だよな?」
が、横のディングレーは、厳しい表情で呟く。
「実体だ」
「…あれと戦うのか?
…本気か?」

ローランデが横で、小声で囁く。
「怯んでは駄目だ。
奴らは“気”で察する。
気持ちが弱れば、そこを突かれる」

ディンダーデンはこんな時でも気品を損なわない貴公子、ローランデに呆れた視線を投げかけた。
「…マトモな人間なら、怯むのが当然だろう?」

ディンダーデンのその開き直りに、両横で大きく目を見開き、真ん中のディンダーデンを見つめる、ローランデ、ディングレーだけでなく。
前に立つ、シェイルですら振り向いた。

シェイルだけは表情変えず、言い放つ。
「あんた自分のこと、マトモだと思ってた?
…本気で?
それとも、冗談?」
ローランデも呟く。
「絶対違うと思ってた」
ディングレーも目を見開いたまま、呻く。
「俺あんたの事。
一度もマトモだなんて、チラとも頭を掠めたことが無い」

三人に見つめられ、ディンダーデンは腕組んで言葉を返す。
「あんまり、褒めるな。
言ったように俺は、大概の人間は怖く無い」

「あれは、ダメなんだな?」

横のディングレーに、ディアス目前の、デカく大きくおぞましい獣を指さされ、とうとうディンダーデンは怒鳴った。
「あんな化け物、怖く無い方がどうかしてる!!!
いいか!
あのデカいディアヴォロスが!
三歳児くらいに、小さく見えるんだぞ?!
建物の、二階くらいのデカさなんだぞ?!
全身、剣だらけなのと代わらないくらい、鋭いトゲだらけなんだぞ?!
お前らの方こそ、その辺のとこ、分かって言ってんのか?!」

「…本気で怖いんですか?
ちょっと怯んでる…程度じゃ無くて」

ローランデに真顔で尋ねられ。
ディンダーデンはむすっ!としつつも、腕組みしたまま、しっか!と頷いた。

“怖がってても、態度デカい…”

三人が三人共、ため息交じりに脳裏に囁く。
が、皆が自分と同じ感想だと知り、思わず振り向き、三人は互いを見つめ合った。

アイリスにもその声は、脳裏に響いて聞こえた。
が。
即座に神聖呪文を叫ぶ。

「アルダ・テレサスアクテスディノス!!!」

獣の爪が、ディアヴォロスの頭上に振り下ろされようとした瞬間。

かっ!!!

周囲の禍々しさを一気に吹き飛ばす、眩いばかりの真っ白な光の閃光が駆け抜ける。

閃光が薄れ始めた時。
光の中に、宙にはためく白い隊服。
神々しく美しい、神聖騎士が二人。

姿を現した。

赤色を帯びた髪のドロレス。
そして金髪のクールビューティ・ムアール。

“おやおや!
ダッケズじゃないか!”

ドロレスが叫び、ムアールは眉間寄せ、囁く。

“相変わらず、見た目だけはおぞましいな…”

獣は光で目が眩み、顔を背けていたけど。
自分より随分小さい筈の、宙に浮かぶ二人の神聖騎士を見、怒鳴りつけた。

“我が名はダッケンダグズ!!!
勝手に縮めるな!!!”

ディンダーデンはその名を古文書で見、当時その名を誰もが恐怖の象徴のように、畏怖いふを込めて囁いてたと言う話を、思い出した。

「…神聖騎士にかかれば。
古代の、誰からも恐れられた魔物も。
あんな扱いか?」

ローランデもディングレーも、ディンダーデンに振り向くものの…。
言葉が出ず、無言。

シェイルだけが、振り向いて告げる。

「昔馴染みの魔物で…おちゃらけ部分とか…欠点とか。
知ってるとか?
かも?」

ディンダーデンは可憐で妖精のような銀髪の美少年、シェイルに。
思い切り眉間寄せると、再び化け物を指さし、怒鳴った。

「お前あのゾッとする化け物が!!!
おちゃらけちゃったりするとか、本気で思ってんの?!」

シェイルは振り向いたまま。
表情変えず、言って退けた。

「『影』って確かに対処法知らないと、ひたすら怖いだけだけど。
神聖呪文使えると、以外と頓馬とんまだったりするって、解って来たし」

そして、ディンダーデンを
“根性無し”
と見下す視線を向けた後。
銀の巻き毛振って、前を向く。

ディンダーデンはそれを見て、歯がみして悔しがった。
「…野郎…!
アースルーリンドに戻ったら!
俺だって神聖呪文、絶対使えるようになってやる!!!」
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