森と花の国の王子

あーす。

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決戦

寄り添い眠るデルデロッテとエルデリオン

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 デルデロッテは頭に来ていた。
自分が、死にかけてたことすら忘れて。

だって。
見えなければ…これ程頭に来ない。
が、幾度も見えて来る。

バルバロッサの逞しく浅黒い肌に抱かれ、激しく突き上げられて喘ぐエルデリオンの姿が。
それだけに留まらず。
金髪、美麗なギュンターの抱かれてる姿まで。

もう見せる能力者を、呪ったら良いのか。
はたまたバルバロッサ、ギュンターを呪ったら良いのか。

さっぱり分からなくなっていた。

けれど…。
左肩に触れる温もり。
それが子供の頃から知ってる、安らかで穏やかで…泣きたいぐらい大切な温もりだと、本能が告げていて…。
いつの間にか怒りはどこかへ、消えていた。

次から次へ。
幼いエルデリオンと触れ合った特別な時間が蘇る。
城へ潜り込んで、見張りの目をかいくぐり、忍び込み。

そして…納屋の二階で待ってくれている、特別高貴な身分の…王子エルデリオンの元へ。
けど駆けつけると、振り向く彼はいつも、歓喜で溢れた笑顔で迎えてくれる…。

昂揚こうようした。
抱きつき
“また会えた!”
そう感激に溢れた態度で出迎え…時にはしがみつき…。
まるで妖精か、滅多に会えない特別な人扱いしてくれる。

毎回、決まって、決意してる自分がいる。
“どれだけ大変だろうが。
見つかったら牢獄行きだろうが。
決して彼を、裏切るまい…”

その時間になると、遊び友達の輪の中から抜ける。
友達らはみんな毎度、口々に抜ける自分に声かける。
“また、城の行くの?”
“その内、牢獄から出られなくなるから!”
“どうしてそんな危険なとこ、行くの?”
“女は分かってないなぁ!”
“男には、冒険なんだぜ?!”

男友達は掴まらず帰ってくる度、賭けをしてて、そして英雄扱いしてくれたけど。
女友達達は、毎回心配げ。
自分の行動が、理解出来ない…って顔をしてたっけ…。

大変な思いをし、忍び込んで…けれど会える、特別な笑顔。
今思えばあれは…捕らわれの美姫に会いに行くような、わくわくする…少年の感覚だったと思う。

幼く物知らぬ彼が、愛おしかった。
彼の知らない場所へ、次々連れ出す。
“デルデ、何でも知ってるんだ。
偉いねぇ…”

自分よりうんと身分の高い彼が…尊敬の眼差しで見つめてくれるなら…何だってした。
無邪気に微笑みはにかむ姿が、それは愛らしくって。
恥ずかしがりで可愛くて…。
相手が、少年だと言う事すら時折り忘れた。
…きっと、恋してたんだと思う…。

した事の無い遊びの度
“こんなこと…初めて…”
最初は躊躇って。
けどやって見せると、おずおずと応ええてくる。

今思えば…塔の窓を開けて外を一周する。
なんて事を王子にさせたと周囲が知れば。
大人達は気が狂わんばかりに大騒ぎ。
自分は投獄の他、どんな罰を受けたことか…。

遙かに高い、その場所で。
下からの風圧を受けながら。
そろり…そろりと歩を進め、無事一周して元の窓に戻った時。
エルデリオンは紅潮した頬で、しがみついた。
“怖かった?”
そう聞くと、ぎゅっ!ときつくしがみついたまま、頷く。
“…怖い…けど、最高!!!”

顔を上げてみせる笑顔が、とても無邪気で。
どんな冒険に連れ出そうと。
絶対彼を…護ろうと心に決めていた。

だからどうしても、聞きたかった。

“エルデリオン…。
ノルデュラス公爵やバルバロッサ…それにギュンターにされた事、怖く無かったんですか?
それに…例え貴方が望んだ事とはいえ、エウロペにされた事は…?”

心の中で囁くと、エルデリオンは答えてきた。
“エウロペはずっと、怖かった…。
いつも私を断罪するような、鋭い瞳で見つめていたから…。
けどもっと、怖かったのは…”

その時彼の中で浮かび上がった姿、それは…自分………。

“私?”

“…貴方に嫌われたのでは無いかと…。
レジィ殿の事…や…。
それに…”

エルデリオンは紫の衣服を素晴らしく粋に着こなし、自分を…調教した時のデルデロッテを思い浮かべてた。

“…貴方に…恥ずかしいところを散々見られ…暴かれ…。
敏感な場所を全部…激しく感じさせられ…自分が変わって…行く時が…”

エルデリオンがそこで言葉を途切れさせるので、デルデは囁く。
“怖かった?
じゃ、紅蜥蜴ラ・ベッタの男らに、された方がいい?”

エルデリオンはそれを聞き、目を見開いて首を横に振る。
ファントール大公の城の地下で掴まった時の…奴らの、冷たい瞳。
はずかしめ、おとしめ、這いつくばらせて支配しようとする…。

人を“物”にする為の行為…。

けれどどうしても…デルデに強引に調教された時の事が、よほど怖かったのか。
エルデリオンは涙をぽろぽろ滴らせ、泣き出す自分を夢の中で意識した。

“…いつも…優しかったし護ってくれたのに…。
あの時は…凄く、怖かった…”

“それが…ショックだった?”
エルデリオンは聞かれて、夢の中で頷く。

“めちゃめちゃに感じて、どうにかなりそうで気が変になりかけても…止めて…くれない…。
でも君の言ってる事は、分かってた…。
紅蜥蜴ラ・ベッタに掴まったら、もっと酷い…って…。
でも…”
“それでも、怖かった?”
“そう…。
だって…だって…。
貴方に、嫌われたからあんなに虐められたのかと………。
あの時は、思った…から…”

デルデはそれを聞いて、思わず黙った。
エルデリオンは囁き続ける。
“貴方に…嫌われて見捨てられることが、一番怖い…。
行為も耐えられなかったけど…。
けど貴方にこんなに嫌われたのだと痛感して…それが一番怖くて…悲しかっ…た…”

デルデはその時、自分の腕を意識した。
抱きしめたかった。

…けれど、上がらない…。
血が抜けきって、力も抜けきってるみたいに。

夢の中で泣いてるエルデリオンを、抱きしめる自分が思い浮かぶ。
胸に縋り付く彼を感じ、幸福感が湧き上がった。
が、激しく拒否した。
“よせ!
魔法使い!
それは幻想だ!
俺はこの腕で!
生身の彼を抱きたい!!!”

暫くしてオーレの
“…だから…。
魔法使いじゃ無い”
と言う文句が聞こえ、レンフの
“格好…いい!!!
顔は優美なのに…気概があるじゃん!”
と感心する声が聞こえ、そしてその後ミラーレスが
“…回復が、早いはずですね…。
幻想で満足出来るのなら。
体の回復は遅くなるはず。
エルデリオンに横で寝て貰ってから、更に早く傷が塞がるから不思議だったけど”
の呟きが聞こえ…。

最後にシュテフの
“ニンジン顔の前にぶらさげられた、馬?”
の声が遠くに聞こえた後。

デルデロッテは腹立ち紛れに怒鳴った。
“誰が馬だ!!!”

けれど意識は深い眠りに沈み込む。

ただ唯一、左横に感じるエルデリオンの温もりが、希望のように灯り続けながら。
それを何より愛おしいと感じ続け…。

デルデロッテは深い…とても深い、眠りに落ちた。

「気絶した」
ミラーレスが呟くと、オーレが頷く。
「いい加減、休まないと…な時期だろう?
タフと言うか、凄まじいというか…」

ミラーレスは、心から頷いた。
「ほんっとに、こんな凄まじい快復力の人間、初めて見た」

けれどエルデリオンだけは。
幻覚の夢の中で、裸のデルデロッテに抱かれ。
甘やかされて愛され。
挿入され、感じて震え…。
心から、幻覚のデルデに告げていた。

“君にされるのが…一番幸福…。
君の腕の中が…一番安心…”

ミラーレスはため息吐くと、とてつもなく深い眠りに落ち込んでるデルデに、その言葉を微かに伝えた。

はっきり意識すると、デルデはまた傷口を治そうと、猛烈に気力を使うから。
目覚めた時、エルデリオンの本心が、届くように。

夢さえ見ない、眠りの底で。
今度こそ、ゆっくり休めるように…。
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