森と花の国の王子

あーす。

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アールドット国王の別邸

敵の情勢

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 ラフィーレが言い訳る。
“ボク…焦点当てるの、苦手なの…。
だから上手に、“今”に当てられないの。
ディアヴォロス様の中のワーキュラス様が、映像送ってくれるから…それを見せてるの”

エウロペは不思議に思って聞いてみた。
“でもシュアンみたいに、みんなに見せられるの?”
ラフィーレが、首を横に振る。
“違うの。
船で一緒だったみんなと、回路がうっすら繋がってるから。
起きてるか、熟睡してたら無理だけど。
浅い眠りだと意識が薄れてるから、夢見てるように、映像微かに見えるみたい。
だから、スフォルツァとラフォーレンが、見慣れた顔がいるのに気づいて…。
スフォルツァとラフォーレンの方が、映像に焦点当てたから。
はっきり見えたんだと思う”

ラステルも尋ねる。
“君が…強引に見せるんじゃ無くって?”
シュテフが口添えした。
“回路繋がってると。
君らの方から要請すれば、はっきり見えて来る。
能力の強い者は、君らが拒絶しても見せられるが。
弱いと、君らが『見たくない』と拒絶すれば、見えなくなる”

バルバロッサ王が
“なるほど…”
呟き、エウロペも
“双方向の意思が必要なんですね”
と感心した。

けれど映像は続いて行く。

一行は田舎道を進み、なだらかな丘を越え、その先の深い森へと入って行った。
ラフィーレの視点からだと、ワーキュラスはディアヴォロスから離れ、上空へ金の光となって飛び…周囲を見回している。

そこらかしこの薪小屋や隠れ家に、無数の男らが蠢いている。
が、一グループの数は基本、少ない。

アースルーリンドがある方向の、樹海を見る。
それぞれの道を進む盗賊グループは、まだこちらの森には到達していない。
東南のアッハバクテス救出軍は、かなり遠くを進軍してる。

森の中にはぽつん…ぽつんと大きな城や邸宅が見え、バルバロッサ王の城の東南。
かなり近い位置の城の庭には、かなりの数の騎士が集っているのが見えた。

周囲の少数グループのごろつき達が、続々集まっては城門へと押し寄せ、城内の騎士らと合流してる。

城の一室が上空から透けて見え、室内ではくねる赤毛の美青年が指示を出していた。
その美青年と同じ部屋に、ラステルは謀反人らの貴族を幾人か見つけた。

が、ワーキュラスは遙か上空から、透けた城の一室を見ているというのに。
赤毛の美青年は上空へと振り向く。
ワーキュラスに見られてると、気づいたように鋭い緑の瞳で、遙か上空の金の光を、射抜くように見返す。

ディアヴォロスが直ぐ気づき、馬を駆けさせたまま尋ねた。
“『闇の第二』か?!”

ワーキュラスが、金の細い光を青年に向かって放射する。
すると青年と一体化してる『影』が、一瞬苦しんで、正体を現した。

光竜ワーキュラスの、荘厳な声が告げる。
“麗しの赤い魔女…。
『闇の第二』の、配下の一人だ”
アイリスが囁く。
“『闇の第二』の開けた通路を使い、“障気”を飛ばしてるんだな…”

ラステルが直ぐ、尋ねる。
“本体じゃ無いのか?!”
ディアヴォロスが艶然と微笑む。
“本体は、西の聖地の大封印が破られない限り、出て来られない。
代わりに微かな隙間を狙い、“障気”を飛ばしてくる。
が、力を持つと“障気”とて、侮れない”

エウロペは昨夜の騒ぎを思い出し、項垂れた。
“障気ですら、結構な邪悪さですから。
本体なんて出たら、大事ですね…”

ディアヴォロスのいとこ。
真っ直ぐの黒髪のディングレーが、きつい青の瞳を向け、呟く。
“だから俺まで駆り出され、緊急に通路を塞ぐんだ。
これ以上開いたままで、隙間から色んな“障気”が湧いて出たら。
君らじゃとても、手に終えない”

ローランデも囁いた。
“神聖騎士の見張りも居ないから、『影』のやりたい放題…。
それで力を蓄えられ、大封印を揺さぶられると、とても困るんです。
現在『光の王』が没され、次の『光の王』の降臨待ち。
『光の王』、不在の時期ですから”

城の皆は事情が分からず、脳内疑問符だらけの中。
ディアヴォロスが、説明してくれる。
“『光の王』がいらっしゃる時は、多少封印が揺さぶられても、直ぐ修復して頂ける。
が、今ちょうど代替わりで、不在の時期。
奴らにとっては封印を破る、絶好の機会”

ラステルが青ざめた。
“アースルーリンドの情報まではこちらに届かないので…知らなかったですけど。
もの凄く、大事なんですね?”

デルデに良く似たアイリスが、あくまでゆったり優雅に告げる。
“それで右将軍まで、旅に同行すると買って出られたんです。
が、彼まで不在だと、統治者不在で軍が困るので”

青い流し目のディンダーデンが、思いっきりぶすっ垂れた。
“…それで俺が来る羽目になった…。
『影』関連は、俺は向いてないのに”
言った後、美麗な顔を向け、問い正す。
“ローフィスはどうした?
ギュンターも向いてるぞ。
あいつ、馬鹿だから。
『影』だろうが、平気で立ち向かう”

ディアヴォロスが、穏やかに囁く。
“彼らの置かれてる状況も、過酷なんだ。
援軍が来られず、城に王子が…五人もいる。
しかも一人は、大国オーデ・フォール中央王国の王子。
もし敵に掴まれば、大陸エルデルシュベインの勢力図は、全て塗り替えられる”

ローランデが、ディアヴォロスを見つめ囁く。
“存亡の危機ですか?”
ディアヴォロスに頷かれ、ローランデは俯いた後、顔を上げて告げる。
“ギュンターに伝えて下さい。
もしこちらが早く済めば…直ぐ様駆けつけると”

けれどシュテフは、ため息吐いた。
ラフィーレが、明るい声音で言い放つ。
“ギュンター、今ローランデ様をアップで見て、ヌいてる真っ最中で達しそうだから。
返事出来ないって”
言った後、即座にギュンターが怒鳴る。
“ラフィーレこら!
そこまで言わなくていいって、言ったろう?!”

皆、映像の中のローランデが、頬染めて俯き…その後顔を上げ
“そんな余裕、あるのか!
君の心配なんて、するだけ無駄だったな!!!”
と、怒鳴りつけるのを聞き、ラステルもエウロペもその通りなので顔を下げた。

バルバロッサ王だけが
“近くに居ない、愛しい相手の顔見たら…朝方だし、ヌくのも当然なんじゃ無いか?”
とギュンターを擁護し、ディンダーデンに
“今の話の分かるギュンターと同類の男、ダレだ?”
と聞かれた。

ラフィーレがディンダーデンにバルバロッサ王の映像を送る。
ディンダーデンは頷くと
“アーシュラスに似てるが話の通じる、アールドットの王様か…”
と呟く。

銀髪の可憐な麗人、シェイルも顔を向けて囁く。
“ローフィス、大丈夫?
全然出て来ないって事は…凄く、疲れてるんだね?”

エウロペが、優しく囁いた。
“とても、活躍して皆を護ってくれたから”

シェイルがキョロ…とするので、ラフィーレがエウロペの映像をシェイルに送る。
シェイルの頬が、ぼっ…と赤くなるのを、ディンダーデンは目を見開いて見つめた。
レンフがすかさず
“俺が先に唾付けたんだから!
横入りするなよ!”
と怒鳴った。

“い…今の…は?”

戸惑うシェイルに、ラフィーレがレンフの映像を送り
“西の里の、ル・シャレファ金の蝶の一人”
と説明した。

エウロペは小声で
“シェイル…って確か、ディアヴォロス殿と…じゃ、無いんですか?”
と尋ね、シェイルは真っ赤になって
“だってただ単に『素敵』って思っただけで…。
別に、浮気とかじゃ無いよね?!”
と、ディンダーデンとディアヴォロス、交互に顔を向け、尋ねていた。

ディンダーデンは頷きながら
“間違いなく『浮気』だ”
と言い放ち、ディアヴォロスはやはり素敵に微笑みながら
エウロペは小国ながらも勇猛果敢で有名な、シュテフザイン森と花の王国の重臣。
いずれ王子の側近となる実力者で、大勢の人に慕われているから。
魅力的で、当然。
君が惹き付けられても、無理無いよ”
と優しく告げた。

ラフィーレが
“ディアヴォロス様って、お優しい~。
あんな恋人、いいなー”
と呟くと、シュテフが
“俺は分かりやすく、嫉妬してくれる相手がいい”
と、大人の発言をした。

ディアヴォロスは微笑むと、うっとりするような男らしい美声を響かせる。
“さて、我が国もそちらも、かなりの危機にもかかわらず、余談で盛り上がるんだから頼もしい限り。
こちらは一刻も早く、『闇の第二』の開けた通路を探し、防ぐので、会話はこれぐらいで”

バルバロッサ王は
“状況を知らせてくれて、感謝する”
と告げ、ディアヴォロスの素晴らしい笑顔を残し、映像は白く消えて行った。

その後エルデリオンの、寝言のような言葉が脳裏に響く。

“ディアヴォロス様…ってやっぱり素敵な人…”
直ぐデルデロッテの
“ミラーレス、今直ぐ起き上がれるようにしてくれないか?!”
な怒鳴り声がし、寝ているミラーレスから即座に
“無理”
の返答が大音響で響き渡り、項垂れるデルデロッテのイメージが皆の脳裏を占め、ラステルとエウロペの、ため息を誘った。
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