森と花の国の王子

あーす。

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アールドット国王の別邸

デルデロッテの治療

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 ラステルの脳裏に響く声に、皆はすっ飛んで城中へと雪崩れ込む。

白とグレーの石柱立ち並ぶ広い玄関ホールの、直ぐ横の部屋の扉が開いていて、皆は一斉に飛び込む。

デルデは簡素な寝台に寝かされ、ラステルが傷口に当てた布を剥がしてた。

腹の傷の血はまだ僅かに滴り、布は血まみれで…。
エルデリオンは横で蒼白の顔色で、目を瞑るデルデの青白い顔を見つめてた。

ラフォーレンの腕の中にいたエドウィンは、首振って眠気まなこを必死に開け、空間に向かってさっきのラステルの、言葉を送る。

間もなく寝台上の空間から
“だから俺らは、魔法使いじゃねぇって!!!”
と声と共に、フードを被った青い髪の神聖神殿隊騎士らしき美形が顔を出す。

が、寝台のデルデロッテを見た途端
“俺じゃ手に負えない!
ミラーレスはどこだ?!”
と、叫んで背後に振り向いてた。

室内の誰もが、見慣れたとは言え、空間から絵画のように顔を出して喋ってる魔法使いにぎょっ!としたけど、バルバロッサ王は目を見開いた。

“あれ…人間か?!”

その時、ロットバルトの腕の中のシュアンが目を擦り、目覚めてエドウィンに告げた。
“ボク…起きたから。
エドウィン、もう少し寝てていいよ…”

けれど皆一斉に、暴走がちなシュアンだけが目覚めてることに、不安を覚えた。

空間から顔を出してたフードの男が消え、背後からひょい!と小柄な真っ直ぐの金髪美形が顔を出す。
“…そっちの怪我人の傷口、ほぼ抑えたから、後頼みます”
背後にそう告げた途端、足が出て、一瞬で全身が現れ、宙で浮いていたかと思うと、寝台の横にスタッ!と着地した。

直ぐ、血まみれの布を手にして呆然と見てるラステルの反対側から、傷口の上に手をかざす。
“こら消えるな!
来て手伝って!!!”

ラステルより長身だけど細身の、ミラーレスとか言う美青年が脳裏で叫んで、初めて。
皆は空いた空間の白い靄が、小さくなって行くのに気づいた。

また空間は広がり、フード被った青い髪の男が現れ、横から銀髪の男が姿を現し、飛び降りて来る。

皆、飛行船で共に居た銀髪の神聖神殿隊騎士かと思ったけど、よく見ると別人。
鋭い美貌の麗人だった。
“人使い、荒いぜ…”
文句垂れながら、両手を広げて寝台回りを、白い光で覆い始める。

更にもう一人。
オーガスタスよりも更に背が高く、体格の良い男が空間から現れ、横たわるデルデロッテを見て呻いた。
“傷が深い。
呼ぶのが遅れてたら、逝ってたな”

それを聞き、ラステルはぞっ…と鳥肌立つ。

大柄で真っ直ぐな栗毛の男が、彼らの中では小柄な部類の、女顔の美形、ミラーレスに告げる。

“肩の傷は抑えてる”
ミラーレスはどうやら、治療の腕が一番良いらしく、頷いて
“頼む”
と告げ、腹の傷の上にかざした手を動かしてる。

ラステルは避けたものかどうか、ミラーレスを伺ったけど。
彼は傷口を見たまま、ラステルに注意も払わない。
エルデリオンはラステルの横、デルデの枕元で、デルデの真っ青な顔を、泣きそうな表情で伺ってる。

“塞いだ?”

銀髪の美貌の男に聞かれ、ミラーレスは頷く。
“もうちょい裂けてたら、ヤバかったな…。
血がかなり減ってるから、当分結界内に置かないと”

言われて、銀髪美貌の男は、扉近くで群れて見守ってる皆の中の、ロットバルトに抱かれたシュアンを見る。

“ここに居続けて能力使うの、限界あるぜ…。
あいつシュアンの意識も保たない”

すると突然、ゼイブンに抱かれてたラフィーレが跳ね起きて叫ぶ。
“ボク!
ボクも居る!
エドウィンも!
起こしてくれない?
お薬入ったデザート食べたら…眠くて起きられない…”

銀髪美貌の神聖神殿隊騎士の男は、ため息と共に手を持ち上げる。
するとシュアン、ラフィーレ、エドウィンの体から、緑色の靄が上空へ立ち上り、空間に緑の靄が消えた後。
エドウィンとシュアンは目を、ぱっちり開けた。

銀髪美貌の男は顔を下げる。
“代謝されれば眠気消えるが、眠ると代謝は著しく低下する…。
ほっとけば、三日ぐらいは軽く寝てたな”

“デルデ!
酷い!!!”

シュアンが、傷付いたデルデを見て叫んだ。

体格の良い男は少しずつデルデの肩の傷を癒しながら、呟く。
“里一の治療師、ミラーレスが助けるから心配するな…”

ミラーレスは体格の良い男に
“もう少し、ゆっくり…。
血がかなり失われ、体力気力とも落ちきってるから、急いで傷口塞ぐと、ショックで死にかねない”
と注意を促す。

体格の良い男は、慎重に頷いた。
“人間の体は我らと違い、ヤワだしな…”

ラステルが見てると…腹の傷は金の光の糸で、縫われて行く。
金の光が傷口を塞ぎ、ミラーレスは顔を上げると、ラステルに囁いた。

「この金の光が消えたら、命の心配は無い。
が、死ぬ、ぎりぎりまで失血してる。
光の結界の中に居れば、これ以上は悪くならず、血が作られ始めて体力が戻れば、治っていく」

そこで言葉を区切ると、ラステルの顔をじっと見る。
ラステルは頷いた。

「本来持ってるこの男の治癒力は、とても強いようだが…。
いかんせん、大量失血してるから…血が戻るまでは、その治癒力は発動出来ない」

エルデリオンはとうとう叫んだ。
「…助かるの?!!!!」

体格良い男が、顔を上げる。
「血が戻るまで、結界張れれば助かる。
が…」

銀髪の男も顔を上げる。
「この城の周囲、敵だらけだな…。
攻め込まれず、ここで安静に出来れば助かる」

皆、一斉にバルバロッサ王を見た。
が、バルバロッサは
「ちゃんと、言葉も話せるんだな…」
と呻くので、皆がっくり、首を下げる。

ロットバルトがとうとう
「そこじゃない…」
と呻き、オーガスタスがすかさず、バルバロッサに尋ねる。
「彼が癒えるまで。
ここを保持できるか?」

バルバロッサは腕組みすると
「誰に聞いてる?
陰謀の王…ラステル…だったか?
…の部下らを、俺の部下が護り、彼の軍隊が来られるよう、一緒に積み上げられた石を退けてる。
一気に攻め込まれないよう、城の周囲を徘徊する偵察隊が、出来るだけ敵を減らして回ってる」
と言い返す。

ローフィスは
「…一国の、王様だっけ…」
と思い出して呟いた。

エウロペも顔を上げると
「自国の軍隊を連れてきているのか?」
と尋ねた。

バルバロッサは笑う。
「第五分隊まである内、精鋭部隊の第一をそっくり連れて来てる」

けれどアールドットの内情を知らない者ばかりだったので、皆理解出来なかった。

エドウィンが直ぐ、助け船を出す。
皆の脳裏に映像が浮かび上がる。

広大な南の平地。
大勢の軍隊には奴隷も組み込まれ、今や正規の将軍や将校らは追い落とされ、実力在る奴隷達が軍隊を統べていた。
その数、優に千は超える。

バルバロッサは脳裏に浮かぶその映像に、肩すくめた。
「これが一つの部隊で、後四つある」

ノルデュラス公爵が、呻いた。
「…身分が全て…ひっくり返ったのか?
大したもんだ…」

バルバロッサは吐き捨てるように呟いた。
「威張って兵を虐めるしか能の無い、腐った馬鹿貴族らなど。
軍に用は無い。
奴らが軍に居座るのは、肩書きに合わせた賃金のためだからな!」

そしてその後、第一部隊の千を越える軍人らが、秘密裏にオーデ・フォール中央王国の東のこの城に入り込む映像が浮かんだ時。
バルバロッサは呻いた。
「腐れ貴族の頂点。
逃亡し続けたかつての王、アッハバクテスを捕らえぬ限り。
謀反を企む貴族は後を絶たない。
ヤツを捕らえて初めて。
俺の王座は安泰」

そして誰に礼を言えば良いのかと、首を振って治療してる三人の空間から現れた魔法使い。
やっとそれぞれの抱く腕の中から床に足を付ける、ル・シャレファ金の蝶と呼ばれる三人の美少年らを見回し、脳裏で告げる。

“アッハバクテスの居所を教えてくれた者には、心から感謝する!”

エドウィンは長身褐色の肌の美丈夫、バルバロッサを見上げ
「それは、シャーレで…。
彼は薬じゃ無く、能力をいっぱい使ったから。
疲れ切ってレジィの中で、まだ寝てる」
と言って退けた。

三人の治療師は、くすくす笑いながら治療を続け、バルバロッサはそれでも胸を張って言い返す。
「ありがたかったから、礼が言いたかった。
我らが近くに居るとバレると、アッハバクテスは毎度姿を消して逃げおおせるから」

エルデリオンは笑う三人の神聖神殿隊騎士に、思わず怒鳴る。
「デルデが瀕死なのに!!!」

けれど大柄な神聖神殿隊騎士の、デルデの肩の傷口を少しずつ閉じてる男は、笑う。
「手を握ってやれ。
あんたが側に居るだけで。
この男の生きる気力はみなぎる」

エルデリオンは気づき、デルデのぐったり垂れた手を持ち上げ、握った。

途端、デルデロッテの全身から、小さな金の粒のようなものが立ち上がり始める。

銀髪の男が、エルデリオンに告げた。
「“気力”を視覚化した様子だ。
我らは普通に見えるが…あんたら、物質じゃない“現象”は見えないらしいからな」

バルバロッサが尋ねる。
「物質じゃないものも…見えるのか?」

三人は揃って、顔を上げて振り向く。
その時、群れて見てる皆の体の周囲に、色の粒が立ち上ってる様子が見えた。

“…スフォルツァは青。
ノルデュラス公爵も青っぽいな…。
色が明るいほど元気で、青に近い色は精神の疲労が濃い”

銀髪美貌の神聖神殿隊騎士が解説するのを皆は聞き、自分から立ち上る色の小さな粒を確認し始めた。

「…ローフィス、平気な顔してるけど、かなり疲れてないか?」
ゼイブンに言われ、皆ローフィスから立ち上る、青に近い色の粒を見る。

「…ノルデュラス公爵とスフォルツァは、目で見ても疲れてると分かるのに…」
ロットバルトに言われ、ローフィスは無言。

エリューンは暗い緑で、エディエルゼですら、オレンジに青味がかかっていたのに。
エウロペとオーガスタスだけは、金に近い黄色だった。

けれど銀髪の神聖神殿隊騎士は、言い切った。

「それは気力で、体の疲労は別物だが…。
まあだいたい、精神が元気だと、体が疲労してても回復が早い」

皆、黒に近い色の寝台に横たわるデルデロッテを、心配げに見守る。
けれど少しずつ、金の粒が立ち上り始めていて…。

やがて少しずつ、暗いオレンジへと変わって行った。

「な?
あんたが、治療薬だ」

銀髪の男に言われ、エルデリオンは嬉しそうにデルデロッテの手を、しっかと握り、頷いた。
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