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激突
勝利に導く鷹と疾風
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オーガスタスはまた思いっきり、剣を振り切る。
今や大車輪を避けようと、敵はかなり距離を取って回り込むから、左右に大きく歩を踏み出し、一気に剣を振り回さないと殺れなかった。
「ぅ…がっ!!!」
次第にかなり後方、暗い森の中から矢が飛び始める。
が、左右に激しく身を振り、敵を斬るから、ほぼ当たらなかった。
が…。
ひゅんっ!
ひゅんっ!!!
頬を掠り、腿をも掠り始める。
ゼイブンは目を凝らす。
が、とうとう投げようとした短剣を下げ、テリュスに叫んだ。
「忙しくないなら、射手対決してくれないか?!」
テリュスは直ぐ振り向き、森の中から飛ぶ矢に気づく。
混戦中は、味方や狙う王子を射かねないから、矢を射る許可が出なかったらしい。
が、こちらの大将オーガスタスを倒そうと、敵も本気出して来てる。
けど今や団子のようになって押し寄せ来る敵を、目前のスフォルツァが必死になって降って来る剣を止めながらも蹴り飛ばし、ギュンターも横にずれて隙間に入り込もうとする敵に、次々剣を突き刺していて…。
テリュスはスフォルツァの背に押され、背後のミラーシェンとレジィにぶつかり、ぴったり身を寄せている有様。
が、大将オーガスタスを倒そうと、森の大木の陰に隠れる射手は巧妙に狙いを定め始める。
がっ!!!
とうとうオーガスタスは、心臓を狙う矢を弾き飛ばす。
その隙に敵は滑り込み、ラウールとエリューンが迎え討とうと前に詰め寄る。
が、エリューンは横のノルデュラス公爵に三人の敵が剣を振るのを見、慌てて横にずれて一人の剣を弾き飛ばした。
ラウールは左から来る敵は殺したものの、その隙に右をすり抜けられ、顔を歪めて斜め後ろに振り向く。
咄嗟、レジィがミラーシェンを背後に庇い、伸びる腕を切りつけた。
ざっっ!!!
「…こしゃくな!」
敵は腕に掠り傷を負いながらも、レジィを捕まえようと突進して行く。
ずぶっ!!!
「うぐぅっ!!!」
横から飛び出したロットバルトに腹を突き刺され、敵は背に剣を突き出し、目を剥いた。
どがっ!!!
ロットバルトは敵の腹を蹴り、背を貫いた剣を引き戻し、レジィに振り向いてにっこり笑った。
「お見事でした。
その調子」
背後のミラーシェンは怖くて身が竦んだけど。
ロットバルトに褒められて、嬉しそうなレジィの笑顔で不安が吹き飛んだ。
エルデリオンは気絶するデルデの身を支え、抱きつき、彼が息絶えないよう祈った。
が、ローフィスが長剣を持ち上げるのに、ふと気づく。
ラステルはデルデの肩の傷の手当てを終え、エルデリオンの視線に気づいた。
ローフィスに振り向き、声をかけようとする。
が、口開く前に、ゼイブンが革袋をローフィスに投げるのを見た。
一つ。
ローフィスは振り向きもせず、地面に落ちる前に革袋を左手で受け取る。
もう一つの革袋が宙に弧を描く。
ローフィスは素早く長剣を鞘にしまうと、左手に握る革袋から短剣を一本取り出し、近距離に迫り、剣を振り被る敵に放った。
「ぅがぁっ!!!」
喉に喰らい、血をまき散らして歩を止める敵を睨み据えながら、左に握る革袋の上に、投げられたもう一つの革袋を受け止めた。
素早く右手で革袋から、短剣二本を引き抜くと、時間差でその二本を投げつける。
突進して来る二人の喉に命中させながら、怒鳴った。
「そっちは足りてるのか?!」
尋ねられ、ゼイブンは目前に振り向く。
矢で狙われてる大将、オーガスタスは。
また敵を仕留めようと剣振る隙に矢を放たれ、敵では無く、矢に剣を振る羽目になり。
その間に横をすり抜けられ、腹を立てまくってる。
短剣投げてラフォーレンに襲いかかる敵を射抜き、呻く。
「こっちはそっち程、忙しくない。
で、算段はあるんだろうな?!」
レジィも、ロットバルトも。
そう叫んだゼイブンに振り向く。
テリュスは護ろうと激しく背にぶつかる、スフォルツァの背に押されながらも。
じりじりと、大木の陰に隠れる射手を狙い澄ます。
やっと。
オーガスタスがすり抜けようとする敵に剣を振り下ろした瞬間、大木から横に身を晒し、弓を引く射手を見る。
「(大チャンス!!!)」
がっ!!!
射る寸前、再び背にぶつかるスフォルツァに押されながらも。
テリュスは矢を放った。
オーガスタスは射手の殺気に身がかっ!!!と燃え、反応するのを意識した。
すり抜ける敵に剣を振ってる間の、避けきれない隙を狙われるのは目に見えてる。
が、矢は来ない。
振り切った剣を下げた隙、横をすり抜けようと進み来る敵に気づく。
がオーガスタスは止まったまま、感覚を研ぎ澄まし、矢の気配を探った。
「(…来ない?)」
罠か?とも、思った。
が、一瞬で横をすり抜けた敵の背に、振り向き大車輪を浴びせ倒す。
がっっっ!!!
「ぎゃぁっ!!!」
さっきまでの反射で、振り切った後、矢を警戒する。
…が、飛んで来ない。
テリュスは雪崩れ込む敵を必死で護ってくれるスフォルツァの背に、何度もぶつかられながらもゼイブンにやっと、怒鳴り返した。
「エウロペかエディエルゼ、どっちがあの陰の大将を倒すか!!!
賭けるヤツはいるか?!」
ゼイブンはその声に振り向き、エディエルゼとエウロペが、押し寄せ来る目前の敵を着実に斬り殺しながら、どんどん進み行く背を、笑顔で見る。
「殺ってくれれば、どっちでも!!!」
「エディエルゼ!!!
ボクは絶対、エディエルゼ!!!」
ミラーシェンが叫ぶのを聞いて、レジィは笑顔で叫んだ。
「ボクはエウロペに賭ける!!!」
オーガスタスが呆れたように振り向くのを見て、テリュスはやっとオーガスタスに叫んだ。
「そこそこ腕の良い、臆病者の敵の射手なら、俺が射抜いた!!!」
オーガスタスはそれを聞くなり、両手に握る剣をくるくる回し振り
「ならちょっと、暇になるな」
とぼやいた。
回してる隙に、横をすり抜けようとする左右の敵に、一気に時間差で左右の剣を浴びせ、血しぶき上げて斬り殺す。
ざっっ!!!ざざっ!!!
「ぎゃぁっ!!!」
「ぐぶっ!!!」
ラウールはオーガスタスが、以前のように着実に敵を防いでくれるのを見て、ほっとしたものの…。
後方を護ってくれてるノルデュラス公爵が、あちこち切り傷だらけなのを心配げに見つめた。
エリューンも同様。
衣服が破れ、僅かな血の染みがそこらかしこに見られる。
少し前に出て敵を斬るスフォルツァですら、あちこちに傷を作ってた。
…これ以上長引けば…体力も気力も尽きる…!
「…まだ…来る?!」
不安げに、横に居るラフォーレン。
その向こうのゼイブンに声かけた。
ゼイブンは笑顔で、オーガスタスとローフィスの間から回り込もうとする敵に短剣振りきって叫んだ。
「エディエルゼかエウロペが何とかしてくれる!!!
多分!!!」
けれどラステルは、進む二人と競うように押し寄せ、誰か一人王子を奪おうと、決死で向かって来る多数の敵を見る。
王子を奪われるのが先か。
二人がドーリオ男爵に辿り着くのが先か…!
判断は、付きかねた。
エディエルゼは左右、時に後ろに下がりながらも向かい来る敵を疾風のように殺し続けて突進し、エウロペは着実に最短距離を進んで行く。
背後に回り込まれても落ち着き払い、剣を突き刺された!!!
と思っても、彼では無く敵が崩れ落ちてる。
それはまるで魔法のよう。
ドーリオ男爵は、敵が王子を囲み周囲を護り続ける様を見た。
味方はどんどん倒されながらも、進む事を止めない…!
少し離れた斜め向こうに、倒れたヨランデル大将を軍医が診てる。
松明を持ち、取り囲む数名の顔は、心配げ。
が、簡単にくたばるような男じゃない。
例え虫の息でも、誰か一人王子を捕らえるまで、保ってくれればそれでいい。
けれどとうとう、20名ほどの味方の直ぐ前に、エウロペ。
そして少し後ろにエディエルゼの姿を見つけた時。
ドーリオ男爵は青くなって怒鳴った。
「全員、戻れ!!!
戻って私を護れ!!!」
が、王子を捕らえようとしてる決死の者らに、その声は届かない。
男爵を護ってる20人は眉間を寄せた。
相手は、たったの二人。
「さっさと殺せ!」
「一斉にかかれ!!!」
男爵は目前で盾になっていた部下らが、向かって来る二人に、勢い込んで襲いかかるのを見た。
突然、周囲はがらん…と隙間が空き、不安に襲われる。
が、20人に取り囲まれた敵二人は、間もなく事切れるだろう…。
そう思いながら、成り行きを見守る。
一人。
また一人。
取り囲む味方が、仰け反って倒れ行くのを見、また一人。
そして一人。
倒れ伏すのを見た。
が、まだ数では勝ってる。
けれど16人が13人。
そして瞬く間に6人に減った時。
初めて戦い振りを見た。
銀の長い髪を振る、華奢にすら見える年若い王子エディエルゼは、味方三人に一斉に振られた剣すら、華麗に避ける。
間もなく横の味方が血を吹き出した後、次に左、そして正面の味方が…。
棒立ちになったかと思うと、どたん!!!
と背から地面に倒れ行くのを見た。
その背後から無傷で立ち上がる、銀髪美麗な王子エディエルゼ…!
ドーリオ男爵は首振って、もう一人に視線を向ける。
頑健な体格の栗毛の男は。
視界を塞いでた目前の男の脇を、腕で振り退ける。
その途端、男を囲んでいた味方三人は、一気に進み来る男の背後に倒れ伏す。
どおっ!!!
何気無く剣を下げ、姿を見せたその男の緑の瞳は、射るように鋭い。
エディエルゼの下げた剣は血でまみれ、きつい碧の瞳で睨め付ける。
殺気を帯びたその姿は、美しくすらあった。
男爵は唾を飲み込む。
どちらも鮮血で濡れた剣を下げ、少しずつ近寄って来る。
がっっ!!!
男爵は地に膝を付くと、二人の刺客に降参を告げた。
「降伏するから、殺さないでくれ…!」
直ぐ、エウロペが膝を付く男爵の腕を掴み、乱暴に持ち上げて怒鳴る。
「戦闘中止を今直ぐ怒鳴れ!!!」
男爵は頷き、躊躇い、唾を飲み込む。
エディエルゼが業を煮やし、剣を持ち上げた。
首を斬られると恐れた男爵は、とうとう大声で叫んだ。
「戦いを止めよ!!!」
今や大車輪を避けようと、敵はかなり距離を取って回り込むから、左右に大きく歩を踏み出し、一気に剣を振り回さないと殺れなかった。
「ぅ…がっ!!!」
次第にかなり後方、暗い森の中から矢が飛び始める。
が、左右に激しく身を振り、敵を斬るから、ほぼ当たらなかった。
が…。
ひゅんっ!
ひゅんっ!!!
頬を掠り、腿をも掠り始める。
ゼイブンは目を凝らす。
が、とうとう投げようとした短剣を下げ、テリュスに叫んだ。
「忙しくないなら、射手対決してくれないか?!」
テリュスは直ぐ振り向き、森の中から飛ぶ矢に気づく。
混戦中は、味方や狙う王子を射かねないから、矢を射る許可が出なかったらしい。
が、こちらの大将オーガスタスを倒そうと、敵も本気出して来てる。
けど今や団子のようになって押し寄せ来る敵を、目前のスフォルツァが必死になって降って来る剣を止めながらも蹴り飛ばし、ギュンターも横にずれて隙間に入り込もうとする敵に、次々剣を突き刺していて…。
テリュスはスフォルツァの背に押され、背後のミラーシェンとレジィにぶつかり、ぴったり身を寄せている有様。
が、大将オーガスタスを倒そうと、森の大木の陰に隠れる射手は巧妙に狙いを定め始める。
がっ!!!
とうとうオーガスタスは、心臓を狙う矢を弾き飛ばす。
その隙に敵は滑り込み、ラウールとエリューンが迎え討とうと前に詰め寄る。
が、エリューンは横のノルデュラス公爵に三人の敵が剣を振るのを見、慌てて横にずれて一人の剣を弾き飛ばした。
ラウールは左から来る敵は殺したものの、その隙に右をすり抜けられ、顔を歪めて斜め後ろに振り向く。
咄嗟、レジィがミラーシェンを背後に庇い、伸びる腕を切りつけた。
ざっっ!!!
「…こしゃくな!」
敵は腕に掠り傷を負いながらも、レジィを捕まえようと突進して行く。
ずぶっ!!!
「うぐぅっ!!!」
横から飛び出したロットバルトに腹を突き刺され、敵は背に剣を突き出し、目を剥いた。
どがっ!!!
ロットバルトは敵の腹を蹴り、背を貫いた剣を引き戻し、レジィに振り向いてにっこり笑った。
「お見事でした。
その調子」
背後のミラーシェンは怖くて身が竦んだけど。
ロットバルトに褒められて、嬉しそうなレジィの笑顔で不安が吹き飛んだ。
エルデリオンは気絶するデルデの身を支え、抱きつき、彼が息絶えないよう祈った。
が、ローフィスが長剣を持ち上げるのに、ふと気づく。
ラステルはデルデの肩の傷の手当てを終え、エルデリオンの視線に気づいた。
ローフィスに振り向き、声をかけようとする。
が、口開く前に、ゼイブンが革袋をローフィスに投げるのを見た。
一つ。
ローフィスは振り向きもせず、地面に落ちる前に革袋を左手で受け取る。
もう一つの革袋が宙に弧を描く。
ローフィスは素早く長剣を鞘にしまうと、左手に握る革袋から短剣を一本取り出し、近距離に迫り、剣を振り被る敵に放った。
「ぅがぁっ!!!」
喉に喰らい、血をまき散らして歩を止める敵を睨み据えながら、左に握る革袋の上に、投げられたもう一つの革袋を受け止めた。
素早く右手で革袋から、短剣二本を引き抜くと、時間差でその二本を投げつける。
突進して来る二人の喉に命中させながら、怒鳴った。
「そっちは足りてるのか?!」
尋ねられ、ゼイブンは目前に振り向く。
矢で狙われてる大将、オーガスタスは。
また敵を仕留めようと剣振る隙に矢を放たれ、敵では無く、矢に剣を振る羽目になり。
その間に横をすり抜けられ、腹を立てまくってる。
短剣投げてラフォーレンに襲いかかる敵を射抜き、呻く。
「こっちはそっち程、忙しくない。
で、算段はあるんだろうな?!」
レジィも、ロットバルトも。
そう叫んだゼイブンに振り向く。
テリュスは護ろうと激しく背にぶつかる、スフォルツァの背に押されながらも。
じりじりと、大木の陰に隠れる射手を狙い澄ます。
やっと。
オーガスタスがすり抜けようとする敵に剣を振り下ろした瞬間、大木から横に身を晒し、弓を引く射手を見る。
「(大チャンス!!!)」
がっ!!!
射る寸前、再び背にぶつかるスフォルツァに押されながらも。
テリュスは矢を放った。
オーガスタスは射手の殺気に身がかっ!!!と燃え、反応するのを意識した。
すり抜ける敵に剣を振ってる間の、避けきれない隙を狙われるのは目に見えてる。
が、矢は来ない。
振り切った剣を下げた隙、横をすり抜けようと進み来る敵に気づく。
がオーガスタスは止まったまま、感覚を研ぎ澄まし、矢の気配を探った。
「(…来ない?)」
罠か?とも、思った。
が、一瞬で横をすり抜けた敵の背に、振り向き大車輪を浴びせ倒す。
がっっっ!!!
「ぎゃぁっ!!!」
さっきまでの反射で、振り切った後、矢を警戒する。
…が、飛んで来ない。
テリュスは雪崩れ込む敵を必死で護ってくれるスフォルツァの背に、何度もぶつかられながらもゼイブンにやっと、怒鳴り返した。
「エウロペかエディエルゼ、どっちがあの陰の大将を倒すか!!!
賭けるヤツはいるか?!」
ゼイブンはその声に振り向き、エディエルゼとエウロペが、押し寄せ来る目前の敵を着実に斬り殺しながら、どんどん進み行く背を、笑顔で見る。
「殺ってくれれば、どっちでも!!!」
「エディエルゼ!!!
ボクは絶対、エディエルゼ!!!」
ミラーシェンが叫ぶのを聞いて、レジィは笑顔で叫んだ。
「ボクはエウロペに賭ける!!!」
オーガスタスが呆れたように振り向くのを見て、テリュスはやっとオーガスタスに叫んだ。
「そこそこ腕の良い、臆病者の敵の射手なら、俺が射抜いた!!!」
オーガスタスはそれを聞くなり、両手に握る剣をくるくる回し振り
「ならちょっと、暇になるな」
とぼやいた。
回してる隙に、横をすり抜けようとする左右の敵に、一気に時間差で左右の剣を浴びせ、血しぶき上げて斬り殺す。
ざっっ!!!ざざっ!!!
「ぎゃぁっ!!!」
「ぐぶっ!!!」
ラウールはオーガスタスが、以前のように着実に敵を防いでくれるのを見て、ほっとしたものの…。
後方を護ってくれてるノルデュラス公爵が、あちこち切り傷だらけなのを心配げに見つめた。
エリューンも同様。
衣服が破れ、僅かな血の染みがそこらかしこに見られる。
少し前に出て敵を斬るスフォルツァですら、あちこちに傷を作ってた。
…これ以上長引けば…体力も気力も尽きる…!
「…まだ…来る?!」
不安げに、横に居るラフォーレン。
その向こうのゼイブンに声かけた。
ゼイブンは笑顔で、オーガスタスとローフィスの間から回り込もうとする敵に短剣振りきって叫んだ。
「エディエルゼかエウロペが何とかしてくれる!!!
多分!!!」
けれどラステルは、進む二人と競うように押し寄せ、誰か一人王子を奪おうと、決死で向かって来る多数の敵を見る。
王子を奪われるのが先か。
二人がドーリオ男爵に辿り着くのが先か…!
判断は、付きかねた。
エディエルゼは左右、時に後ろに下がりながらも向かい来る敵を疾風のように殺し続けて突進し、エウロペは着実に最短距離を進んで行く。
背後に回り込まれても落ち着き払い、剣を突き刺された!!!
と思っても、彼では無く敵が崩れ落ちてる。
それはまるで魔法のよう。
ドーリオ男爵は、敵が王子を囲み周囲を護り続ける様を見た。
味方はどんどん倒されながらも、進む事を止めない…!
少し離れた斜め向こうに、倒れたヨランデル大将を軍医が診てる。
松明を持ち、取り囲む数名の顔は、心配げ。
が、簡単にくたばるような男じゃない。
例え虫の息でも、誰か一人王子を捕らえるまで、保ってくれればそれでいい。
けれどとうとう、20名ほどの味方の直ぐ前に、エウロペ。
そして少し後ろにエディエルゼの姿を見つけた時。
ドーリオ男爵は青くなって怒鳴った。
「全員、戻れ!!!
戻って私を護れ!!!」
が、王子を捕らえようとしてる決死の者らに、その声は届かない。
男爵を護ってる20人は眉間を寄せた。
相手は、たったの二人。
「さっさと殺せ!」
「一斉にかかれ!!!」
男爵は目前で盾になっていた部下らが、向かって来る二人に、勢い込んで襲いかかるのを見た。
突然、周囲はがらん…と隙間が空き、不安に襲われる。
が、20人に取り囲まれた敵二人は、間もなく事切れるだろう…。
そう思いながら、成り行きを見守る。
一人。
また一人。
取り囲む味方が、仰け反って倒れ行くのを見、また一人。
そして一人。
倒れ伏すのを見た。
が、まだ数では勝ってる。
けれど16人が13人。
そして瞬く間に6人に減った時。
初めて戦い振りを見た。
銀の長い髪を振る、華奢にすら見える年若い王子エディエルゼは、味方三人に一斉に振られた剣すら、華麗に避ける。
間もなく横の味方が血を吹き出した後、次に左、そして正面の味方が…。
棒立ちになったかと思うと、どたん!!!
と背から地面に倒れ行くのを見た。
その背後から無傷で立ち上がる、銀髪美麗な王子エディエルゼ…!
ドーリオ男爵は首振って、もう一人に視線を向ける。
頑健な体格の栗毛の男は。
視界を塞いでた目前の男の脇を、腕で振り退ける。
その途端、男を囲んでいた味方三人は、一気に進み来る男の背後に倒れ伏す。
どおっ!!!
何気無く剣を下げ、姿を見せたその男の緑の瞳は、射るように鋭い。
エディエルゼの下げた剣は血でまみれ、きつい碧の瞳で睨め付ける。
殺気を帯びたその姿は、美しくすらあった。
男爵は唾を飲み込む。
どちらも鮮血で濡れた剣を下げ、少しずつ近寄って来る。
がっっ!!!
男爵は地に膝を付くと、二人の刺客に降参を告げた。
「降伏するから、殺さないでくれ…!」
直ぐ、エウロペが膝を付く男爵の腕を掴み、乱暴に持ち上げて怒鳴る。
「戦闘中止を今直ぐ怒鳴れ!!!」
男爵は頷き、躊躇い、唾を飲み込む。
エディエルゼが業を煮やし、剣を持ち上げた。
首を斬られると恐れた男爵は、とうとう大声で叫んだ。
「戦いを止めよ!!!」
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