森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

心砕かれたミラーシェンを助けたい相談が、迷宮入りする件

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 飛行船は速度を極端に落とし、ほぼ浮かんでいた。

理由は…シュアンもエドウィンも快速で駆けつける為、光を大量に二人の神聖神殿隊騎士に送り続け、疲れ切り。
更にエドウィンがずっと、船頭近くのミラーシェンの正面に座って、彼の状態を神聖神殿隊の“癒す者”へと送っていたから。

エディエルゼは横に座り込み、ミラーシェンの反対横にはラウールが。
髭もじゃ丸眼鏡が、船内に常備されてた薬酒の小瓶をエディエルゼに手渡す。

エディエルゼが薬酒を手渡すと、ミラーシェンはゆっくり飲み干した。
けれどミラーシェンは、虚ろな様子で船の壁板に背をもたせかけ、ぐったりしてる。

エドウィンが、エディエルゼに脳裏で囁く。
“…神聖騎士とワーキュラス殿の御力を借りて…彼を光で包みます”
エディエルゼはその言葉を聞いて、尋ねた。
「けど体は…傷付いてないんだろう?」

が、髭もじゃ丸眼鏡が囁く。
「さらわれた子供を幾度も保護しましたけど…。
オーデ・フォール中央王国の子供達はまだ…順応性がある。
けど、この子はエシェフガラン雪の勇者の国の子で…まるで経験が無いんでしょう?
だからきっと…」

エディエルゼは顔を上げて問うた。
「…心が…問題だと?」
ラウールがため息交じりに囁く。
「…された事だろう?問題は」
エディエルゼが厳しい顔でラウールに振り向いた。
「君はその場にいたのか?!」

ラウールは躊躇った後、頷く。
「…幾度かは。
だがあそこでは当たり前の事。
けど…ミラーシェンは特別扱いで、薬を殆ど使われなかった。
ずっと正気でいたからそれが逆に…辛かったのかもしれない。
誇り高いのにか弱い…。
しかもまるで経験が無い…。
だから…奴らは反応する彼を、嗜虐して楽しんだ。
最初の頃は…それでもしっかりしてた。
けど…感じるようになってからは…。
心が引き裂かれたみたいに…一時期は泣き通しで。
で、今は…」

エドウィンが囁く。
“奴らに…抵抗も出来ず踏みにじられた事に、心が耐えきれなかったみたい…”

エディエルゼは、きつく唇を噛む。
ラウールが尋ねた。
「貴方の国は北の国。
雪に包まれたかなり遠い場所で、国交も殆ど無い…。
もしかして、シュテフザイン森と花の王国同様…男と寝るなんて習慣は、まるで無いのか?」

エディエルゼは激しい口調で怒鳴った。
「当たり前だ!
男に辱められる等!
最も惨めな男のされる事!
戦士としては役立たず!
男の慰み者としてか役に立たない、男とすら認識されぬ、侮蔑される者のされる事!!!」

髭もじゃ丸眼鏡は、エドウィンの横で解説する。
「それは助かる情報らしい。
神聖神殿隊騎士じゃダメで、今、神聖騎士が呼びかけてるらしいけど…。
心が殆ど砕かれて、彼は小さくなって呼びかけに応えないし、体に戻ろうとしない…。
体に戻っても、辛くて嫌なことばかりが待ってると」

髭もじゃ丸眼鏡は顔を上げると
「…ギュンター…?」
と呟き、立ち上がって船の中央から船尾付近にたむろってる、体力戦闘派らの方へと歩くと
「ギュンターって…もしかして?」
と言いながら、エウロペとギュンターの二人を交互に首回し、見た。

「…俺だ。
どうした?」
長身で金髪、美貌のギュンターが、顔を向ける。

髭もじゃ丸眼鏡は、ギュンターに向き直って告げた。
「神聖騎士が話があるから、“気”を向けてって。
エドウィンとラフィーレが、かなり疲れてて。
シュアンもくたびれてるから休んでるしで。
心話が途切れがちだからって」

ギュンターは頷く。
そして脳裏で
“どうした?”
と尋ねた。

やはりかなり遠く、小さな声で聞こえる。
“…で…だか…ら…”

髭もじゃ丸眼鏡だけで無く、“気”を向けてたラウールもエディエルゼですら、ほぼ聞こえなかった。
どうやらエドウィンを気遣って、神聖騎士らは力を制御し、光の使用を控えてるらしかった。

が、ギュンターは頷く。
“じゃ当分戻れないから、隊長代理をディンダーデンに…。
え?
俺一人でダメならディンダーデンも寄越すから、別の男を指名しろ?”
そこでギュンターは、口に出して言う。
「待ってくれ。
ここにだってそれ要員の男ぐらい、居そうだろう?
エウロペ、あんた強姦された子、抱いて癒やせるぐらい出来るだろう?」

エウロペは腕組みしてた。
が、顔を上げてギュンターを見る。
その時、ふいにハッキリした荘厳な声が、船に居る全員の脳裏に響き渡った。

“エウロペのサイズはオーガスタス同様とても大きくて、傷付いた少年には向かない”

途端、オーガスタスとエウロペが揃って顔を下げる。
テリュスがその様を見、憤慨し、声の音量とその声を送る者らへの、繊細な調節がとっても苦手な偉大なワーキュラスを怒鳴りつけた。

あんたエウロペ、言う性格じゃ無いから俺が代わって怒鳴ってやる!!!
誰だから知らないが、そんな個人的な事、ここの全員に聞こえる声で怒鳴るな!!!”

けれど知ってるデルデロッテは顔を下げ、公爵はオーガスタスとエウロペを極力見ないよう、顔を背けて腕組みし、知ってるエルデリオンは顔を真っ赤にし、ラステルは
「…なるほど」
と呟き、デュバッセン大公は
「完全に、私向きですね」
と言い放って、片手でオーガスタス、もう片手でエウロペのを握ってる妄想をし、なぜかその妄想まで、全員の脳裏に映像として映し出された。

“…パーセル………”
銀髪の神聖神殿隊騎士が呻くと、赤毛の神聖神殿隊騎士は顔を下げ
“…すまん…面白すぎて、つい…”
とため息交じりに囁いた。

テリュスはきっっっ!!!と顔を上げてデュバッセン大公に詰め寄ると、正面に立ち、喰ってかかった。
「…ふざけるな!!!
エウロペもオーガスタス殿だって!!!
そんな要員に使って良い人材じゃ無い!!!」

デュバッセン大公は美麗な顔で、綺麗系可愛い子ちゃん顔の、テリュスにぼやく。
「男は脱いじゃえば。
後はテクと品格。
どれだけ世間で英雄視されてる男でも、寝室ではただの、ガサツ下品お下劣ど変態に成り下がるのを、私は知ってますからね」
と現実を突きつける。

けれどテリュスはムキになって怒鳴った。
「これは本来なら、エリューンが言うことだが。
ここに居ないから俺が代わりに言う!!!
エウロペに限って、いくら脱ごうが!
そんな事態には成り果てない!!!」

デュバッセン大公は濃紺の目を見開く。
「おや。
貴方、彼と寝てるんですか?」
テリュスはまた、ムキになった。
「エウロペは人格者だ!
部下に手なんて出さない!」

デュバッセン大公は肩眉寄せる。
「…それ、寝てないのに言える台詞じゃないですよね?
寝室でも品格あるなんて絵空事」

テリュスが憤慨して肩を吊り上げる。
その肩に手を置き、ラステルが囁く。
デュバッセン大公、仕事では本当に有能なんですけど。
情事では他の感覚を寄せつけない、独自路線を貫いてますから。
別世界の住民だと諦めて。
マトモに議論するなんて不条理な事態は、避けるべきです」

今度はデュバッセン大公が、きっっっ!!!
とラステルを睨み付けて言う。
「それでいっつも!
私がそちら系の話すると、話題を変えるんですか?!」

「普通、変えたくなるよな…」
デルデロッテがかろうじてラステルを擁護し、デュバッセン大公にまた、きっっっ!!!
と睨まれても、耐えた。

けど天然のエルデリオンが
デュバッセン大公っくらいになると、エウロペのでも耐えられるの?
エウロペ、本当に大きくて凄いんだけど」
と小声で呻く。

今度は公爵とデルデロッテが、エルデリオンをきっっっ!!!と見て
「どう凄かったんです?!」(公爵)
「つまりやっぱり、私よりヨかった?!」(デルデロッテ)
とほぼ同時に怒鳴る。

エルデリオンは顔を下げると
「…小声で言ったのに…」
と言い訳け、オーガスタスに
「口は災いの元」
と釘指され、エウロペに大きく、頷かれた。

ギュンターだけが
「…つまりここで、慰め要員が調達できない現実を知ってたから。
俺だけじゃダメなら、ディンダーデンも寄越すって…神聖騎士は言ったのか?
ワーキュラス…」
と尋ね、エドウィンが疲れ切りながら
“そうみたいです…”
と頷きながら、脳裏で呟いた。

シュアンもかなり疲れた顔で、それでも無邪気に笑うと
“どうしてみんな、裸の話になると恥ずかしがったり怒ったりするのかな?
面白いけど”
と爆弾発言し、テリュスにきっっっ!!!と睨みつけられた。

オーガスタスとエウロペはため息交じりに同時に顔を下げ、エルデリオンは真っ赤な頬で顔を下げ、公爵とデルデロッテには脳裏で
“大問題だからです!!!”(公爵)
“大問題だからだ!!!”(デルデロッテ)
と同時に叫ばれ、デュバッセン大公とラステルに
“面白がる話じゃ無いですよね?”
と呟かれた。

そこでエルデリオンは、無邪気なシュアンがしゅん…と顔を下げるのを見て、言った。
「口は災いの元」

シュアンは
“思っただけなんだけど”
と言い訳し、赤毛の神聖神殿隊騎士、パーセルに
“お前の場合、無意識に心話回路オンにしてるから。
他に聞こえないよう、思わないと…”
“ダメ?”

シュアンに聞かれ、銀髪の神聖神殿隊騎士は、おもむろに頷いた。
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