森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

ノルデュラス公爵の白亜の城と雪の勇者の国の第一王子エディエルゼ

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 ノルデュラス公爵の城の玄関は、幅広い白い石が数段あり、両横には白石で刻まれたす獅子の彫刻が。
美しい彫刻の彫り込まれた、黄金の鋼鉄の大きな扉…と大変優美で豪華だった。

両開きの扉を開け、中へ入ると。
白い衣服の若い男の召使い達が、中へ招き入れてくれる。

ノルデュラス公爵はラウールの肩に手を添え、召使い達に告げる。
「浴室続きの寝室へ、彼を案内して。
少年を湯に浸からせてから、エシェフガラン雪の勇者の国の第一王子を部屋に通し…」

けれど広い白石の玄関ホールの、廊下の向こうの大きな螺旋階段の上から、真っ直ぐの銀髪の美青年が叫ぶ。
「ミラーシェン!!!」

銀髪の美青年は階段から、一気に駆け下りてやって来る。

公爵はラウールに詰め寄ろうとする、腰まである真っ直ぐの銀髪の美青年の腕を掴み引く。
深いみどりの射るような瞳で、美青年は公爵に振り向いた。
が、長身の公爵は優雅な態度を崩すこと無く、美青年に告げる。
「…意識が朦朧としてる。
休ませてあげたい」

けれど銀髪の美青年は髪を振って再び叫んだ。
「ミラーシェン!!!」

銀髪巻き毛のラウールの腕に抱き上げられてる美少年は、叫び声を聞いて首を億劫そうに振り、そして一筋、頬に涙を伝わせ、力の無い声で囁く。
「エディエル…ゼ……」

オーガスタスがその場にいるせいだろうか…。
皆の脳裏に、明るい日差しの森の中。
振り向くミラーシェンが、微笑んでる幻が見えた。

“明日はお前の誕生日だ。
これを渡そうと思う”

多分それが兄の第一王子、エディエルゼの声…。
ミラーシェンは差し出された宝刀を見つめ、瞳を輝かせた。
“それ…!
兄様がずっと使ってた狩りの時の…!”
“もうジェーバ狩りに出る年頃…。
狩りに出れば誰の助けも得られない。
覚悟は出来てるか?”

けれど微笑むミラーシェンはあまりに愛らしく…素直で可愛らしかった。

エディエルゼの瞳にも、涙がうっすら浮かぶ。
一目で酷い目に合ったと分かる、弟の様子を目の当たりにして。

ノルデュラス公爵が兄王子に囁く。
「…だが彼もエシェフガラン雪の勇者の国の王子…。
戦いの訓練は、出来ていたんだろう?」

エディエルゼは俯き、頬に涙を伝わせる。
「…だが私が王位を継ぐ…。
弟は宰相に。
最低の訓練しか、積んできていない…。
弟は心の優しい…そして利発な子供で…」

ミラーシェンはふうっ…と首を上げると、がくん!と首を垂れて気絶した。

「ミラーシェン!!!」
エディエルゼが叫び駆け寄る。
が、オーガスタスがラウールの背後に立ち、銀髪の戦士王子に告げた。
「あんたの顔を見、安心して気が抜けたんだろう。
休ませてやれ」

エディエルゼはとても背の高い…あまりに立派な体格の男を、目を見開いて見上げる。
そして、こくん…。
と頷いた。

背後からやって来たラステルは、にこにこ笑うと
「さすが、戦士は戦士を知る。
強くなければ王位を追われると言われる、エシェフガラン雪の勇者の国の王子が、従うだけの威風を貴方はお持ちだ!」
と、オーガスタスの横に立って見上げた。

オーガスタスは暫し沈黙した後。
「…褒めても、何も出ないぞ?」
そう、ぼそりと呟く。

ラステルは笑顔を崩さず言い返す。
「そんな下心はありませんよ」
オーガスタスが言葉を返そうと口を開く間に、ラステルはすっ…と前へ出ると
オーデ・フォール中央王国のラステルと申します。
貴方と貴方の弟君を無事お国に帰す、手助けを致します」
と、エディエルゼに手を差し出す。

エディエルゼは横の公爵を見上げる。
公爵は頷くと
オーデ・フォール中央王国の…影の国王と呼ばれてる男。
彼を味方に付ければ、オーデ・フォール中央王国を味方に付けたも同じ」

エディエルゼはラステルの差し出された手を握り、みどりの瞳を真っ直ぐラステルに向けて告げる。
エシェフガラン雪の勇者の国の第一王子、エディエルゼ」
ラステルは戦士の国の王子の鋭い眼差しにも怯まず、笑顔を崩さなかった。
「どうぞよろしく」

その後公爵はようやく、ラステルの背後でエルデリオンを腕に抱き、鋭い濃紺の瞳で睨み付けてるデルデロッテに視線を振って告げた。

「湯殿にどうぞ。
召使いが体を清めますので」
そして背後に立つ白い衣服の青年を前に通し、その青年はデルデロッテに
「こちらでございます」
と言って案内し始めた。

デルデロッテは直ぐ彼の後に続く。
が、公爵に視線を向けながら
「王子の体は私が洗う」
と挑発的に言って退けた。

公爵が、くっ!と苦笑するので、横に立つエディエルゼが尋ねた。
オーデ・フォール中央王国のエルデリオン殿まで…奴らの手に?」
それを聞いたラステルは、にこにこ笑って説明した。
「彼は大丈夫。
エルデリオンが捕らえられた相手は、長年王子に恋してた、宮廷から追放された公爵なので」

公爵はエディエルゼに顔を上げて見つめられ、苦笑いして囁く。
「…今エルデリオンを抱いているのは、彼の婿候補で私の恋敵。
複雑なんです。私の恋は」
エディエルゼは顔を下げて呟いた。
「…そのようだ」

エディエルゼは召使いに案内され、歩き出すラウールの背を追う。
その隙無い動作に、オーガスタスは軽く頷いた。
「かなりの強者だな」

けれど公爵は小声で囁く。
「…が、紅蜥蜴ラ・ベッタが欲しかったのは、実は彼。
見事な戦士を惨めに屈服させたいと欲望を抱く、変態の依頼で」

ラステルが小声で聞き返す。
「…目当ての第一王子を捕らえられなかったので…第二王子を身代わりに?」

公爵は廊下を歩き去る、ラウールとエディエルゼの後ろ姿を見つめながら、首を振る。
「第二王子はあの愛らしい容姿。
しかも身分は王子。
需要は高い。
更にその上、ミラーシェンを餌にエディエルゼも捕らえる気で…さらった。
二人の母は大陸一の美女と呼ばれた、エーメアラルダ姫ですから」

ラステルは頷く。
が、オーガスタスはぼやいた。
「機会があれば一度お目にかかりたいもんだ」

けれどラステルと公爵に同時に顔を見つめられる。
「…美形の宝庫と呼ばれるアースルーリンドにおいでですよね?」
ラステルが問うと、公爵も。
「大陸一の美女も、貴方のお国では。
そこそこいる美女程度では?」

二人に言われたオーガスタスは、口ごもった。
「…アースルーリンドの美形はほぼみんな、雪崩れ込んで来る盗賊に常に狙われてるので、やたら気が強い」

ラステルも公爵もそれを聞くなり暫し沈黙し、その後オーガスタスから、揃って顔を背けた。
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