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ゾーデドーロ(東の最果て)
テリュスとエリューンとオーガスタスと、飛行船
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洞窟の中は時折り壁がくり抜かれ、蝋燭の灯る石壁があって、真っ暗では無かった。
テリュスとエリューンは背後から、先頭を駆けるエウロペの馬に跨がった、大きなオーガスタスの背を見つめる。
その背が、時おり蛍光緑やオレンジ、赤や白に微かに光り、ぎょっとしつつも速度を落とさなかった。
先頭を走るラステル配下の一人が、振り向き叫ぶ。
「洞窟を抜けます!」
間もなく月明かりに照らされた岩道が洞窟の先に見え、五騎は一気に飛び出す。
岩道の周囲は大岩がごろごろし、下り坂になっていて、一同は一気に下って行く。
テリュスとエリューンはオーガスタスの背が、僅か白金に光ったと思うと、空から自分達を見下ろす映像が脳裏に浮かび、目を擦りそうになった。
今いる場所の道を辿ると、先を行くと川が流れ、間もなく森。
起伏ある森が延々続き、その先に渓谷。
途中すとん。と土が無くなる深い渓谷が幾つもあり、その丘に城や屋敷が、ぽつん。ぽつんと建ち、渓谷と川、滝…その向こうの切り立った断崖絶壁の上に、一際大きなグレーの城がそびえ建っていた。
「(…遠いな)」
オーガスタスの呟きだろうか。
テリュスもエリューンもその声が聞こえた気がして、顔を下げる。
途中馬を変え、駆け続けても…丸一日。
いや、もっとかかる。
けれど先頭を走るラステル配下の一人は手を上げ、岩道を下った先のなだらかな丘を、北へ向かい始める。
その時
“彼らの後に続いて”
と声が響き、テリュスとエリューンは思わず周囲を見回した。
先の赤毛の大男、オーガスタスが振り向く。
体の割りに小顔で卵形の顔の、鳶色の鋭い瞳を見ると、テリュスもエリューンもが童話の挿絵でしか見た事の無いライオンを思い出し、彼もエウロペのような…人を超えた人物だと、直感で分かった。
赤毛の男は前を向くと、丘の先の木々の間の、小屋に向かって駆け続けるラステル配下に続く。
テリュスもエリューンも、拍車をかけて軽やかに後に続いた。
間もなく小屋に到着する。
木造の、横に長くかなり大きな小屋。
ラステル配下が指笛を鳴らす。
ピィーーーーィィィィィーーーーーー!
間もなく小屋から人が出てくると、一行を出迎えた。
ラステル配下二人は一気に手綱引いてその人物の横で馬を止め、鞍から滑り降りると、その人物に尋ねてる。
「…準備は?」
「出来てる」
「ちゃんと目的地に着けそうか?」
「五往復して、後の三度は成功してる!」
赤毛のオーガスタスは馬から滑り降り、飛び降りるテリュスとエリューンに振り向く。
「アースルーリンドのオーガスタス」
言って、手を差し出すので、近くにいたエリューンは手を握り
「シュテフザインのエリューン」
そう告げると振り向き、テリュスを促す。
テリュスは避けたエリューンの横に進み、名乗った。
「シュテフザインのテリュス」
オーガスタスは手を差し出して目を見開き、一瞬で動作を止める。
テリュスは大きなオーガスタスが、自分の胸を見てる事に気づき、差し出されたオーガスタスの手を握り込むと、思いっきり振って怒鳴った。
「残念ながら男で!エリューンより年上!」
けれどオーガスタスは、もっとびっくりしたみたいにテリュスの顔を凝視するので、テリュスの横に避けたエリューンが、テリュスに寄って小声で囁く。
「…逆効果みたい」
テリュスはエリューンに歯を剥く。
「じゃ、何か?!
俺は女でお前より年下、って言えば良かった?!」
オーガスタスは真顔に戻ると、ぼそりと呟く。
「…失礼。
アースルーリンドにも、君のような可愛らしい美少年はたくさんいる。
その口調を聞いて、ほっとした。
俺の知ってる、顔ダケは可愛い、口は凄く悪い美少年のようで」
言ってさっさと背を向けるオーガスタスを見、テリュスは頭の中が疑問符だらけになって、横に歩き来るエリューンに尋ねる。
「あれって…けなしたの?
褒めたの?」
オーガスタスは小屋の後ろから手招きするラステル配下の元に歩きながら、振り向きもせず言い放った。
「褒めたんだ」
それを聞くなり、テリュスとエリューンは顔を見合わせた。
小屋の反対側へと曲がると。
草の丘に巨大な円筒形の風船。
その下に、長方形に近い大な籠。
テリュスもエリューンも、月明かりに浮かび上がる巨大な…乗り物っぽいものに呆れたけど。
長身のオーガスタスは立ち尽くし、呻いていた。
「…まさかこれに乗れと?」
よく見ると。
巨大な円筒形を横にした風船と下の籠から、そこらかしこからロープが伸び、あちこち地面に木の杭で括り付けられていて、杭の横には必ず一人が側に付いていた。
「貴方でも十分な広さの籠ですから!」
ラステル配下に手招きされ、テリュスもエリューンもが立ち尽くすオーガスタスの背から
「(そういう問題じゃ無い)」
と無言の言葉が聞こえた気がして、同意に頷いた。
結局、籠に乗り込むオーガスタスに従って、エリューンとテリュスも乗り込む。
「…意外に快適」
テリュスが呟くと、オーガスタスが素早く振り向き睨むように見つめるので。
テリュスは肩を竦めた。
船のように腰掛けるでっぱりがあり、毛布も食事用のバスケットも積んである。
いびつな丸眼鏡をかけた、白髪交じりの髭もじゃの男は、舳先に立つと
「大船に乗った気分でいらっしゃい!」
と景気よく告げる。
が、オーガスタスは彼から、さっ!と顔を背け、下げた。
テリュスとエリューンはオーガスタスの後ろのでっぱりに揃って腰掛けると、バスケットから食べ物や飲み物を取り出しながら、話し合う。
「…図体の割りには…小心?」
エリューンの言葉に、テリュスも頷きながらバンズを囓る。
「新しいものには、付いて行けない心配性?」
テリュスも言うと、エリューンは果実酒の瓶を煽りながら、頷いた。
途端、背を向けて座ってるオーガスタスに、きっ!と振り向かれ、テリュスとエリューンは一瞬手を止める。
エリューンは悪びれも無く、顔も表情変えず言い切った。
「あなたの事言ってたって。
分かっちゃいました?」
オーガスタスに、思いっきり頷かれ、テリュスは肩を竦めた。
間もなく、周囲にたくさん繋げられてたロープが木の杭から外され…気球は空に浮いていく。
「テリュスは乗ったんでしたっけ?」
「けど地上から塔にロープで繋がれ、籠の下にロープを通す輪っかがあって…。
浮いたことは浮いたけど、塔の上に上がったと思ったら、ロープを引っ張られて直ぐ地上に降りた」
髭もじゃ丸眼鏡の、怪しい男が振り向いて叫ぶ。
「これは違うぞ?!
ほれ!」
垂れ下がったロープを引くと、右に曲がって行く。
その時初めてテリュスは、籠の横から遠ざかる地上を見つつ、呻いた。
「…で、どうやって地上に降りるんだ?」
髭もじゃ男は叫んだ。
「心配するな!
ガスを減らせば降りられる!」
テリュスとエリューンは顔を見合わせ、オーガスタスがその時頷きながら
「これでも俺が、小心者の心配性か?!」
と怒鳴るのを聞いて。
二人は顔を下げると、揃って首を、横に振った。
テリュスとエリューンは背後から、先頭を駆けるエウロペの馬に跨がった、大きなオーガスタスの背を見つめる。
その背が、時おり蛍光緑やオレンジ、赤や白に微かに光り、ぎょっとしつつも速度を落とさなかった。
先頭を走るラステル配下の一人が、振り向き叫ぶ。
「洞窟を抜けます!」
間もなく月明かりに照らされた岩道が洞窟の先に見え、五騎は一気に飛び出す。
岩道の周囲は大岩がごろごろし、下り坂になっていて、一同は一気に下って行く。
テリュスとエリューンはオーガスタスの背が、僅か白金に光ったと思うと、空から自分達を見下ろす映像が脳裏に浮かび、目を擦りそうになった。
今いる場所の道を辿ると、先を行くと川が流れ、間もなく森。
起伏ある森が延々続き、その先に渓谷。
途中すとん。と土が無くなる深い渓谷が幾つもあり、その丘に城や屋敷が、ぽつん。ぽつんと建ち、渓谷と川、滝…その向こうの切り立った断崖絶壁の上に、一際大きなグレーの城がそびえ建っていた。
「(…遠いな)」
オーガスタスの呟きだろうか。
テリュスもエリューンもその声が聞こえた気がして、顔を下げる。
途中馬を変え、駆け続けても…丸一日。
いや、もっとかかる。
けれど先頭を走るラステル配下の一人は手を上げ、岩道を下った先のなだらかな丘を、北へ向かい始める。
その時
“彼らの後に続いて”
と声が響き、テリュスとエリューンは思わず周囲を見回した。
先の赤毛の大男、オーガスタスが振り向く。
体の割りに小顔で卵形の顔の、鳶色の鋭い瞳を見ると、テリュスもエリューンもが童話の挿絵でしか見た事の無いライオンを思い出し、彼もエウロペのような…人を超えた人物だと、直感で分かった。
赤毛の男は前を向くと、丘の先の木々の間の、小屋に向かって駆け続けるラステル配下に続く。
テリュスもエリューンも、拍車をかけて軽やかに後に続いた。
間もなく小屋に到着する。
木造の、横に長くかなり大きな小屋。
ラステル配下が指笛を鳴らす。
ピィーーーーィィィィィーーーーーー!
間もなく小屋から人が出てくると、一行を出迎えた。
ラステル配下二人は一気に手綱引いてその人物の横で馬を止め、鞍から滑り降りると、その人物に尋ねてる。
「…準備は?」
「出来てる」
「ちゃんと目的地に着けそうか?」
「五往復して、後の三度は成功してる!」
赤毛のオーガスタスは馬から滑り降り、飛び降りるテリュスとエリューンに振り向く。
「アースルーリンドのオーガスタス」
言って、手を差し出すので、近くにいたエリューンは手を握り
「シュテフザインのエリューン」
そう告げると振り向き、テリュスを促す。
テリュスは避けたエリューンの横に進み、名乗った。
「シュテフザインのテリュス」
オーガスタスは手を差し出して目を見開き、一瞬で動作を止める。
テリュスは大きなオーガスタスが、自分の胸を見てる事に気づき、差し出されたオーガスタスの手を握り込むと、思いっきり振って怒鳴った。
「残念ながら男で!エリューンより年上!」
けれどオーガスタスは、もっとびっくりしたみたいにテリュスの顔を凝視するので、テリュスの横に避けたエリューンが、テリュスに寄って小声で囁く。
「…逆効果みたい」
テリュスはエリューンに歯を剥く。
「じゃ、何か?!
俺は女でお前より年下、って言えば良かった?!」
オーガスタスは真顔に戻ると、ぼそりと呟く。
「…失礼。
アースルーリンドにも、君のような可愛らしい美少年はたくさんいる。
その口調を聞いて、ほっとした。
俺の知ってる、顔ダケは可愛い、口は凄く悪い美少年のようで」
言ってさっさと背を向けるオーガスタスを見、テリュスは頭の中が疑問符だらけになって、横に歩き来るエリューンに尋ねる。
「あれって…けなしたの?
褒めたの?」
オーガスタスは小屋の後ろから手招きするラステル配下の元に歩きながら、振り向きもせず言い放った。
「褒めたんだ」
それを聞くなり、テリュスとエリューンは顔を見合わせた。
小屋の反対側へと曲がると。
草の丘に巨大な円筒形の風船。
その下に、長方形に近い大な籠。
テリュスもエリューンも、月明かりに浮かび上がる巨大な…乗り物っぽいものに呆れたけど。
長身のオーガスタスは立ち尽くし、呻いていた。
「…まさかこれに乗れと?」
よく見ると。
巨大な円筒形を横にした風船と下の籠から、そこらかしこからロープが伸び、あちこち地面に木の杭で括り付けられていて、杭の横には必ず一人が側に付いていた。
「貴方でも十分な広さの籠ですから!」
ラステル配下に手招きされ、テリュスもエリューンもが立ち尽くすオーガスタスの背から
「(そういう問題じゃ無い)」
と無言の言葉が聞こえた気がして、同意に頷いた。
結局、籠に乗り込むオーガスタスに従って、エリューンとテリュスも乗り込む。
「…意外に快適」
テリュスが呟くと、オーガスタスが素早く振り向き睨むように見つめるので。
テリュスは肩を竦めた。
船のように腰掛けるでっぱりがあり、毛布も食事用のバスケットも積んである。
いびつな丸眼鏡をかけた、白髪交じりの髭もじゃの男は、舳先に立つと
「大船に乗った気分でいらっしゃい!」
と景気よく告げる。
が、オーガスタスは彼から、さっ!と顔を背け、下げた。
テリュスとエリューンはオーガスタスの後ろのでっぱりに揃って腰掛けると、バスケットから食べ物や飲み物を取り出しながら、話し合う。
「…図体の割りには…小心?」
エリューンの言葉に、テリュスも頷きながらバンズを囓る。
「新しいものには、付いて行けない心配性?」
テリュスも言うと、エリューンは果実酒の瓶を煽りながら、頷いた。
途端、背を向けて座ってるオーガスタスに、きっ!と振り向かれ、テリュスとエリューンは一瞬手を止める。
エリューンは悪びれも無く、顔も表情変えず言い切った。
「あなたの事言ってたって。
分かっちゃいました?」
オーガスタスに、思いっきり頷かれ、テリュスは肩を竦めた。
間もなく、周囲にたくさん繋げられてたロープが木の杭から外され…気球は空に浮いていく。
「テリュスは乗ったんでしたっけ?」
「けど地上から塔にロープで繋がれ、籠の下にロープを通す輪っかがあって…。
浮いたことは浮いたけど、塔の上に上がったと思ったら、ロープを引っ張られて直ぐ地上に降りた」
髭もじゃ丸眼鏡の、怪しい男が振り向いて叫ぶ。
「これは違うぞ?!
ほれ!」
垂れ下がったロープを引くと、右に曲がって行く。
その時初めてテリュスは、籠の横から遠ざかる地上を見つつ、呻いた。
「…で、どうやって地上に降りるんだ?」
髭もじゃ男は叫んだ。
「心配するな!
ガスを減らせば降りられる!」
テリュスとエリューンは顔を見合わせ、オーガスタスがその時頷きながら
「これでも俺が、小心者の心配性か?!」
と怒鳴るのを聞いて。
二人は顔を下げると、揃って首を、横に振った。
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