森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

紅蜥蜴、ラ・ベッタの勢力図

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 ようやく、レクトール男爵が話し始める。

「北担当のドナルドン公爵から連絡が来ていまして。
シュテフザイン森と花の王国の方は、少しずつ彼と部下がエウロペ殿の一族のお肩の力を借り、紅蜥蜴ラ・ベッタを追い出しにかかっています。
が、西北の…更に北の雪国、エシェフガラン雪の勇者の国の第二王子が…。
どうやら紅蜥蜴ラ・ベッタの手に落ちたと。
第一王子が現在こちらに向かって、救出に来てるらしいんです。
更に西の隣国、シャロナス公国シャロナス公の国は。
王族から重臣に至るまで、殆どが紅蜥蜴ラ・ベッタと繋がりある者らに、取って代わられようとしてる。
その者らが政権を握れば。
民は重税を課され、美少年や美少女、果ては美女から美青年に至るまで。
全て独断で拉致され、王族、重臣らの慰み者にされる事が、法律で定められると予測され、民は悲鳴を上げている。
今はまだ、非公式にですが。
既におおっぴらに。
王弟騎士団が、美形狩りを問答無用でひっきりなしに行い、異論を唱える者は投獄。
逆らう者は斬り殺されてる。
直系の王子は行方不明、王は現在病床に就いているので。
第二継承者の叔父が、やりたい放題。
シャロナス公国シャロナス公の国は隣国なので、ここを紅蜥蜴ラ・ベッタに落とされると大事おおごと
一刻も早く手を打たないと」

エウロペはそれを聞いて、顔を下げた。
「…レジィリアンスが奴らに奪われていたら。
我が国もそうなっていたな…」

レクトール男爵は黙して頷く。

ここでデュバッセン大公が、口を挟んだ。
エシェフガラン雪の勇者の国の、拉致された第二王子は我が管轄地域で一番入り込みにくい、反乱分子の拠点の東の。
丘と崖と森の、入り組んだ地に運ばれたと。
ついさっき連絡が入ったんで…。
困っていたところです。
何せ現在、シュテフザイン森と花の王国にかなりの人員をいてる。
中央寄りの東ですら、合間に丘と森の広大な地域で、見張りに人手が要る中。
最果ての東は地形が入り組みまくり、どれだけ人員割いても全ては把握出来ない。
が、誘拐した者を連れ込む隠れ家をほぼ潰し、囚われた者を救出致しましたが…。
我々が容易に手の出せない御大が居て、今現在囚われた者らは全て、そこに運び込まれてる。
当然、運び込むルートを探り、運び込まれる前に、助け出せる限りは助け出してる。
が、絶壁の高い崖の上に、王家の血を引くキチガイ男と呼ばれてるファントール大公が城を構え、城の周囲は洞窟だらけ。
ここの攻略に大変、手こずってる。
現在、ファントール大公は周囲の崖に住む、追放同然の身分高い男らの、反乱分子の親玉に担ぎ上げられている。
エルデリオン王子、貴方のお父上の、腹違いの息子。
ご存知でしたか?」

エルデリオンは頷く。
「…ええ。
父は後妻の息子で…。
本来は先妻の息子、ファントール大公が王国を継ぐはずだったと。
けれど…」

真っ直ぐな黒髪を肩にながすデュバッセン大公は、見かけは大変美麗な美少年風だったが。
碧緑の眼光鋭い様は、流石ラステル配下。
と思える風格を見せていた。
即座にエルデリオンの言葉を継いで、口開く。

「…王には不適格と判断され、追放同然に東の最果ての地へ。
だが公自身はあまり王位に執着が無い。
彼は自分の城で。
新しいおもちゃと遊ぶ事を愉しみとして生きている。
そして新しいおもちゃとは…身分が高い美少年を指す。
身分は、高ければ高いほど良い。
が、公は城を出ず、運び込まれなければ自身は動きません。
エシェフガラン雪の勇者の国、そして行方不明のシャロナス公国シャロナス公の国の直系王子も、誘拐されてファントール大公の城にいるのでは。
と推測されています。
が、公の城は我々ですら手を焼く、からくりだらけ。
しかも直系王族。
迂闊に…表だっての城の手入れは…当然出来ません。
それで秘密裏に潜入するしか無いのですが…。
探索に長けている者、皆が口を揃え、エウロペ殿の御力を借りろと」

テリュスが直ぐ、言い返す。
「エウロペが特別優れてるのは、レジィリアンスを救い出す為だからで…」
エリューンも頷く。
「レジィが絡むと、彼は超人に成る」

アッカマン侯爵が二人に告げる。
「けれど我が軍団きっての有能な探索者達が、揃って
『エウロペ殿は我ら10人分に匹敵する』
と。
人を褒めたことなど無い、自尊心の強い男らが言う程なんですけど」

デルデはつい横の、エウロペを見る。
エウロペはデュバッセン大公に負けぬ眼力の、鋭い緑の瞳をきらりと光らせ、静かに言い放つ。
「残念だが私は王子の護衛。
彼の側を離れる訳にはいかない」

けれどエウロペの横のレジィリアンスは、顔を下げ、震える声で尋ねた。
エシェフガラン雪の勇者の国の第二王子って…幾つなの?」

レクトール男爵が呻く。
「13の誕生会の、前日に行方知れずに成りました」

レジィは目を見開き、更に聞く。
「…シャロナス公国シャロナス公の国の王子は?」

レクトール男爵は顔を下げた。
「彼が行方知らずになったのは、二年前だそうで。
直系男子だが母親の身分が低く、母親とひっそり、国の外れの屋敷で暮らしていたそうです。
が、王妃の産んだ王子が先ごろ宮中で毒殺され、突如彼が第一継承者となった時。
訪れてみたら行方知れずになっていたと。
銀髪の…美麗な王子で、今は16・7にはなってるそうです」

場は一気に、静まり返った。

ロットバルトが尋ねる。
「…それでシャロナス公国シャロナス公の国は、王の叔父が第一継承者に?
その叔父は…紅蜥蜴ラ・ベッタと関わりが、そんなに深いのか?」

レクトール男爵は頷く。
「大変劣等感の強い男で。
そこにつけ込んで、言いなりになる美少年、美少女を好きなだけ抱かせ、紅蜥蜴ラ・ベッタ懐柔かいじゅうした」

アッカマン侯爵も言葉を挟む。
「…実は…一番被害の多い、秘境アースルーリンドからですら…。
数人がこの地にやって来て、行方知らずのさらわれた者らの行方を追っている」

デルデが呆けて呟く。
「…人食いとかの、ぞっとする化け物が出まくるけど…。
美形と宝石の宝庫と呼ばれてる…あの…秘境の国?」

アッカマン侯爵が頷くと、皆興味津々で伺った。

レジィリアンスを除いて。

エルデリオンは心配げに、俯くレジィを見つめる。
「…どうか…。
自分が囮となって捕まり、エウロペ殿に追って貰う…。
なんて考えは、絶対しないで下さい」

レジィは聞くなり、目を見開いて頷く。
「…その方法、ありましたね!」

途端、考えの及びつかなかったレジィに、余計な知恵を吹き込むエルデリオンを。

エウロペ、テリュス、エリューンは一斉に睨んだ。
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