森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

デルデロッテの提案

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 ダミ声に、レジィが目を覚まし、ガウンを羽織ると居間へ出て行く。

テリュスとロットバルトが愉快そうに歌っているのが見え、レジィは椅子に座るとワゴンから皿を取り、料理を乗せてフォークで食べ始める。

テリュスがグラスに酒を注ぎ
「遠慮無く飲め!」
と叫ぶ。

ロットバルトもすっかり出来上がって
「美味いですぞ!」
と叫ぶもんだから…レジィは片手でフォークに刺した肉を口に運び、片手でグラスを煽って、口の中の肉を極上の酒で飲み込んだ。


デルデはエリューンの部屋に避難したものの…暖炉の前の椅子を勧められ、腰掛け…。
グラスを煽りながら、暖炉の炎に照らされたエリューンの綺麗な鼻筋を見つめる。

琥珀の瞳は美しく、改めて見ると鼻も頬も顎も、綺麗なラインでまるでゴツくない。

見つめられてると気づき、エリューンも視線をデルデロッテに向ける。
顔立ちは整いきって、大人の余裕を身に付け、濃い栗色巻き毛を背に垂らす姿は、小憎らしいほど粋に見えた。
レジィの寝室で見た時。
ガウンを肩から滑り落とした長身の肉体は、引き締まりきっていて。
抱き合ってる姿ですら、とても美しく見えた。

「…少年って胸がナイから…具体的にどこを愛撫するんです?
見てた限りでは、キスしかしてませんよね?」

デルデロッテは沈黙して顔を下げた。
「…確かにさっきのは、参考にはならないかも」

そう言って顔を上げ、エリューンを見る。
濃紺の瞳を向けられ、エリューンは彼が、他と違う存在感を見せるのは、この瞳のせいだ。
と気づいた。
夜闇の瞳がキラリと光ると…理知的…神秘的…男としての余裕…。
そんな事を一瞬で相手に知らしめる。

デルデロッテは見つめ返され、言葉を続けた。
「レジィは記憶が戻りかけていて…。
エルデリオンに最初にされたことも。
誘拐中にされた事にも、怯えてる。
自分の望まないことを、無理強いされたから。
だから…出来るだけ彼がしたいように…させてるんだ」

エリューンは目を見開いた。
「…意外に…優しいんですね」

デルデロッテは肩すくめる。
「君が私をどう思ってるのかから、聞いた方がいい?」

エリューンは即却下する。
「続けましょう。
つまり…?」

デルデロッテはエリューンを見ながら、説明した。
「ぶっちゃけ、あのヘンタイ侯爵が開発したんだと思うけど。
…あ、その前にエルデリオンもしてるか。
レジィは乳首を吸われるの、結構好きだ」

デルデは言ってから、エリューンの顔を伺う。
けれどエリューンのすまし顔は崩れない。
「なるほど」

デルデは頷くと、聞いてみた。
「…君って…どれだけ女性経験ある?
どんな…抱き方とか、するのかな?」

エリューンは初めて少し戸惑って、デルデから顔を背けた。
「…普通のことは、一通りしてると思いますけど…。
不足ですか?」
そう言った後、真っ直ぐデルデロッテを見据える。

デルデはちょっと困って
「…じゃ、キスしてみてくれる?
私をレジィだと思って」
と、言ってみた。

エリューンの眉が、思いっきり寄る。
「かなりの想像力を動員しても、難しいですね…」

デルデはため息を吐いた。
「…やっぱり男相手にキスするって…出来そうに無い?」

エリューンは直ぐ言い返す。
「しらふでロットバルト殿に、貴方キスできます?」

今度はデルデが、目を丸くした。
「…………無理」

エリューンは頷くと、言った。
「それと同じです」

デルデは片眉寄せ、片眉上げて聞く。
「…私とロットバルトが、同等?」
「貴方にとってのロットバルト殿と。
私にとっての貴方が同じか?
と聞かれたんなら、そうです。
じゃ貴方、エウロペにキス出来ます?」

デルデは考えた後、言った。
「…私がしようとしたら、ぶん殴られるか首締められそうなんだけど。
ロットバルトを相手にするのが、無理と言ったのは。
ロットバルトが嫌がるから。
君だって、嫌がる相手にキスは出来ないだろう?
私は君にキスされても別に嫌じゃ無いから。
私にとってのロットバルトが、君にとっての私には、ならない」

エリューンはデルデを、じっと見た。
「…嫌じゃないんですか?」

デルデは笑った。
「嫌ならキスしてみて。
なんて言ったりしない」

その時デルデは、ようやくエリューンが自分のことを
“凄い垂らし”
と思ってる事に気づいた。

けれど“教えてくれ”と言ったのはエリューンの方。
「だって…実技は必須。
てっとり早いのは…君が私と寝てみるといいんだけど。
そうすれば、どんな感じか分かるし。
第一、一度されてみないと。
レジィがどんな感じか、分からないだろう?」

エリューンの眉が、みるみるうちに寄る。
「…それ、どうしても必要?!」

デルデは肩すくめる。
「だって…例え話をすると、一度も怪我したことの無い…痛みを知らないヤツに、傷を手当てして欲しい?
こっちはめちゃくちゃ痛いのに、痛みを知らなかったら配慮無く乱暴に扱うだろう?
逆に、痛みを知ってる相手に治療されたら?
痛み加減が分かるから…気遣って痛まないよう、治療してくれる」

エリューンは俯く。
「それは…そうですけど」

デルデは更に言う。
「私の代わりをするんなら、私がどういう扱いをしてるかを、知っておいた方がいいし。
レジィみたいな、強姦された相手なら。
怖がらないよう、気遣わなきゃならない。
けど…挿入されるのがどういう事かも全然知らなかったら…。
どこをどう気遣えば良いか。
まずそこから、分からないと思うんだけど」

エリューンの顔がだんだん下がり…後、上目使いでデルデロッテを睨む。
「それ、言いくるめて単に面白がって、私と寝ようとか。
画策してません?」

デルデは肩を竦めた。
「…別に君を嫌らしい目で、見てないよ」
「でも面白がって、興味はある」
「否定しないけど」
「…否定しないんですか?!」
「…うーん、抱き合えば大抵相手のことがよく分かるし。
君、実は寝室ではガンガン攻めるタイプとか?」

エリューンは思いっきり眉を寄せ、唸った。
「だから!
普通ですよ!」

デルデは眉間を寄せた。
「その、普通がどういうのを指してるのか。
そこが、分からない」

けれどデルデは立ち上がる。
「無理強いはしない。
好みじゃないんだ、嫌がる相手と無理にするの。
私は、楽しくない情事はしない方針なんで。
考えといてくれ。
君の考え次第。
他に聞きたいことあったら、また別の機会に」

戸口に行こうとしたけど、エリューンに手首を握られ、引き留められ、言われた。
「分かってるんですか?
私は挿入経験、無いんですよ?
それで…貴方が挿入出来るとか、本気で思ってます?」

デルデは微笑んだ。
「…どうしても無理なら、しない。
けれど初めての相手でも。
出来なかった事は今まで一度も無いから。
君がどうしても痛くて無理なら。
君が初めて挿入出来なかった相手になるな」

それを聞いて、エリューンは呆れ返った。
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