森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

テリュスの生い立ち

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 デルデロッテとエリューンが食卓に着くと、ロットバルトはテリュスに睨まれまくってた。

デルデは椅子に着きながら、ロットバルトに尋ねる。
「また、失言した?」

ロットバルトは向かいに腰掛けるデルデロッテに、うんうんと頷く。
エリューンはデルデロッテの横に腰掛けると、反対横に座るテリュスに聞く。
「…なんて、言われたんです?」

「…美少女」

エリューンはため息を吐く。
テリュスは早口で勢いつけて訴え続ける。
「美少年でもなく美青年でもなく、だぞ?!
俺の事、幾つだと思ってんだ!!!」

ロットバルトは申し訳無い…と項垂れきって、耳が痛いように顔を下げきる。

デルデはくすくす笑う。
「この年で美少女に間違われるなんて、この国では光栄なことなんですけどねぇ…。
美少年で名を馳せた、誰もが言って欲しい言葉なのに」

「俺をそいつらと、一緒にするな!」

テリュスに叱り飛ばされたデルデは、けれど微笑を浮かべたまま。
「…貴方方は閉鎖的過ぎる。
輸出は我が国だけ。
輸入なんて、殆どしてないでしょう?
その昔、我が国が攻め入った時も。
地の利を得た少数精鋭の騎士らで、大軍の我が国を敗北させた。
確かに、腕っ節が強く無ければ、他国に侵略されていた。
国は小さく、領土は狭い小国だが、貴方方は本当に強い」

そう褒めるデルデを見て、テリュスはエリューンに
“なんでだ?”
と首振る。
けれどエリューンは無言で
“知りませんよ”
と肩すくめた。

デルデは二人のゼスチャーでのやり取りを見ていたけれど、言葉を続ける。
「…だからと言って…筋肉隆々の、いかにもゴツく、男らしい男だけが英雄視されるなんて。
時代錯誤じゃないですか。
ラステルを見てご覧なさい。
貴方方の国に行けば、軟弱な男女扱いされかねない。
が、彼はオーデ・フォール中央王国取り巻く諸国で、名を轟かせ、恐れられている」

ここで、自分を取りなす演説を、デルデがぶってると言うのに。
デルデに庇われてる当のロットバルトは、グラスを手にし、混ぜっ返した。
「ラステルは、特例中の特例だろう?
彼は明らかに、あの容貌を逆に武器にしてる。
相手の警戒を解くのに」

テリュスは鼻を膨らませ、デルデに言い放つ。
「で、俺にもそうしろと?」

デルデは目を見開いた。
「さっきエリューンに聞きましたよ?
貴方とエリューンが王子の護衛で成功したのは。
その容貌で敵の油断を誘ったから」

テリュスはグラスに手を伸ばし、やはり言って退けた。
「それはガキだった頃の話。
レジィが王宮に戻れば。
通用しない」

けれどエリューンが反論した。
「でもテリュスは、ちゃんと凄い。
その姿で、堂々と実力者顔して宮中を威張って歩き、“軟弱”と見下す男を見下し返して欲しいです。
でないと…いつまで経っても女みたいな顔の男は、我が国では半人前の男と、馬鹿にされ続ける。
現に…私も貴方も、宮廷では全く評価されてない。
暗殺を全て退けたのは…エウロペの功績だと思われてる」

テリュスはふてくされて頬杖付く。
「…お前がやれよ。
文句言うヤツ、全部剣で、負かしてやれ。
俺は…その気になると殺しちまうから」

ぶっっっ!!!

シリアスな話の真っ最中、ロットバルトが派手に酒を吹き出す。
デルデロッテにナプキンを手渡され、受け取って口回りを拭きながら、テリュスとエリューンにじっ…と見つめられ、言い訳る。

「…失礼。
つまり練習試合も、ムリ?」

テリュスは頷く。
「俺の武器は弓と短剣。
それに根っからの狩人。
獲物は苦しませず、一撃で殺せと叩き込まれてる」
「親父さんに?」
デルデの問いに、テリュスは首を横に振る。
「…俺の父は婚約中死に、母は俺を出産して死んだ。
父の兄に引き取られたけど…俺は昔、病弱で。
多分、成人せず死ぬと思ったんだろうな。
伯父は俺をなんとか鍛えたくて、弓で狩りする方法を、うんと餓鬼の頃、俺に教えた」

ロットバルトは顔を下げる。
「そんな生い立ちだったなんて…」

エリューンはデルデが、焦るのを見た。
「…かなり飲んだ?」
デルデの問いに、ロットバルトは頷く。
「気まずくて」
「お願いですから、泣かないで」

テリュスとエリューンは、目を見開く。

けれどロットバルトは、項垂れながらアンバーの瞳を潤ませる。
「…そんな…生い立ちを背追ってるテリュスに私は…“美少女”だなんて…」

テリュスがロットバルトを見ながら、呟く。
「…ええと」

デルデはテリュスとエリューンに小声で
「彼、強面こわもてだけど。
こういう話に、それは弱くて」
と、こっそり説明した。

テリュスとエリューンは声潜めるデルデに、揃って顔を傾けてたけど。
二人共が“納得した”と頷く。

「…両親の…愛も知らず…一人で必死に…自分を鍛えてきたんですね…」

ロットバルトの独り言に、テリュスは頷く。
「まあ…確かにそうだ」

「…顔も男の子に見えなくて…女の子にずっと、間違われたんじゃ無いですか?」

テリュスは眉間を寄せたけど、言った。
「…そうだけど!!!
あんたなんで敬語?!」

「…私だったら…開き直ってドレス着てたかも」
「それはナイ」
「…確か歌にもありましたよね…」
「…あったな…」
「ディーザーーーー」

ロットバルトが歌い出すと、テリュスは異論を唱えた。
「それ?!
こっちだろう?!ターローナー」

ロットバルトが顔を上げる。
「おお!!!
それですな!
ターロー」
「ナー…」

テリュスも歌い出し、デルデは小声でエリューンに囁く。
「君の部屋に避難がてら、さっきの話の続き、しない?」

エリューンは無言で頷いた。

間もなく、昨夜同様音外しまくり、間延びしきった、聞くに堪えない酔っ払いの歌声が響き始め。

エリューンとデルデは足早に、エリューンの部屋に避難した。
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