森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

トラーテルに響く声

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 デルデロッテがレジィリアンスと、主寝室へと消えた後。
エウロペはまだ、庭の椅子に座ってた。
間もなく、激しいレジィリアンスの喘ぎ声が聞こえ、椅子から立ち上がる。

北側の自室へ入ると、耳を澄ます。
庭よりは小さかったけど、それでも嬌声は聞こえた。

首を振って廊下の先の東棟、突き当たりのテリュスの部屋をノックする。
テリュスは寝台に腰掛け、振り向く。
微かだけどレジィリアンスの喘ぎ声は聞こえ、エウロペは部屋に入らず、エリューンの部屋も軽くノックし、開けた。

エリューンは衣装箪笥を開けていたけど、顔を出すエウロペに振り向く。
エリューンの部屋は殆ど聞こえない事を確かめ、再びテリュスの部屋に顔を出すと
「構わないかな?」
と聞いた。
テリュスは肩を竦める。

エリューンが部屋から出て、エウロペの背後から聞いた。
「…何が?」

その時、廊下の先、居間の向こうの主寝室から。
レジィリアンスの微かな喘ぎ声が響き、エリューンも顔を下げて、ため息を吐いた。

「…あれ、女性が上げてる声は聞いたことあるけど。
レジィが出してるとなると…微妙かな?」

テリュスの回答に、エウロペは頷く。
「君は耳が良いから。
余計だな。
眺めは悪いが、一番北なら奥まってるから聞こえないと思う」

テリュスは寝台の上に広げた荷物を見つめ、ため息吐いた後、頷いた。

真ん中のエリューンの部屋の、その奥の北側の部屋の扉を開ける。
確かに、一番日当たりは悪かった。
が、全く聞こえない。

エウロペとエリューンが手伝って、テリュスの荷物を運び込む。
エリューンが衣装箪笥の衣服を両手に持って、廊下を進むと、テリュスがぼやく。
オーデ・フォール中央王国側が用意してくれたけど。
着ないような服、ばっかなんだよな」

エリューンも両手一杯の衣装を見て、頷く。
「私のとこも、そうですよ。
なんか…華美で。
軽薄そうに見える」

エウロペは二人の意見に、ぷっ!と吹き出した。


レジィリアンスは情事の後、デルデロッテに抱きついて、ぐっすり眠ってる。
デルデは
「(疲れてるんだな…)」
と思いつつ、そっ…と身を起こす。
衣服は着たまま。

「(風呂以外で、裸でシない…って…。
レジィは毎度、説破詰まってるって事かな?)」

居間に出て行くと、誰も居ない。
それで廊下の先へ出向くと、一番奥の、北側の部屋の扉は開いていて。
中の寝台上で、山と積まれた衣装の前で。
テリュスが衣装を胸に当て、寝台の端に座るエリューンが、首を横に振っていた。

エウロペは戸口近くの椅子に腰掛け、眺めていたけど。
デルデロッテからは戸の影に隠れ、見えなかった。

「衣装のより分け?」
戸口からデルデロッテが姿を現した途端、テリュスとエリューンが顔を見合わせる。

テリュスが代表で尋ねた。
「済んだ?」

デルデは暫く沈黙した後、尋ねる。
「聞こえた?」

エリューンが言い訳る。
「私の部屋はそんなに」
テリュスも頷く。
「この部屋なら、大丈夫だ。
多分一番ハデにに聞こえてるの、エウロペの部屋?」

テリュスがエウロペに顔を向けるので、デルデは扉の影を覗き込む。
椅子に座るエウロペが、顔を出すデルデに告げた。
「一番聞こえるのは、庭」

デルデは思い当たる。
「…窓が開いてたからかな?
気に障る?」
エウロペは、請け負った。
「私は別に」

デルデは肩を竦め、扉を閉めかけた時。
エウロペが聞いた。
「ついでだから。
レジィがどんな状態か、教えてくれるとありがたい」

デルデは寝台の上に乗せた、衣装に埋もれそうなテリュスと。
寝台の端に座るエリューンを、交互に見る。
が、扉を開けて室内に入って来ると、暖炉の前の椅子に腰掛けた。

「…まだ、衝動がキツいですね…。
薬には、詳しいんですよね?
衝動が消え、本人が自発的に欲情してる。
って、どう見分けるんです?」

テリュスとエリューンにまで、じっと見つめられ、エウロペは手を口元に持って行く。

「…本人の、性質もあるから。
情欲に流されやすく、自制が無ければ…」

デルデは頷く。
「薬無しでも、発情しまくる」

エリューンが尋ねる。
「けど、発情を落ち着かせる薬、あるんですよね?」

エウロペは頬に手を当てた。
「…だが、正直あまり使いたくない。
発情は自然なことで、それを無理に押し止める訳だから。
食事制限同様で、ヘタに押さえ付けると。
薬が切れた頃、もっと激しく欲情する場合もあるから」

テリュスもエリューンも、デルデロッテもが。
ため息交じりに、納得した。

エウロペは言葉を足す。
「投薬された媚薬の効果を、中和するのが好ましいけど…」

テリュスが頷いた。
「レジィが使われた薬には…無いんだな?」

エウロペは首を傾げた。
「無くは無いけど…使うと…人によっては気分が落ち込んだり、異常に気分が弾んだりの、副作用が出るから。
非常時以外は、使いたくない。
レジィは?」

「多分薬で、ひっきりナシに興奮するし。
誘拐の疲労が、かなり残ってて。
眠ってる」

エウロペは頷くと、首を振って寝台を示す。
「テリュスの衣装のより分け、手伝ってくれる?」

デルデは寝台に上に山と乗ってる衣装と。
直ぐ横のテリュスを見比べた後、テリュスに尋ねた。

「どうして髭、剃らないんだ?」

テリュスは憤慨して怒鳴った。

「どうしてオーデ・フォール中央王国のみんなって、決まって髭剃れって、勧めるんだ?!」

エリューンとエウロペが途端、笑う。
デルデは二人交互に見つめ、言い放つ。

「だって二人だって。
似合って無くて変だって。
思ってる癖に」

エリューンもエウロペも、笑いをピタリ。と止める。
テリュスが二人を睨み付けるので、エウロペが落ち着きを装って告げた。
「…せめて、鼻髭が口髭か顎髭の。
どれか一つにしたら?」

エリューンも、しどろもどろって呟く。
「目の下がほぼ、髪って…。
まるで、ぬいぐるみ?」

デルデロッテがとうとう吹き出して、叫んだ。
「どうして二人とも、テリュスを見るたび笑わずに済むのか!
その忍耐力に、乾杯ですよ!」

テリュスがいっぺんに気分を害し、怒鳴りつける。

「さてはあんた、俺見る度に吹き出すの、我慢してたのか?!
いかにもクールですって、すまし顔しといて!」

デルデはとうとう、ヒッヒッ!と笑い声を立てた。
「だっ…顔の下半分は髭もじゃなのに、青い目はぱっちりで、可愛らしくって…ヒッ!
凄…く……アンバランスで……ぷっ!く…くっ…!」

テリュスはむくれきり、エリューンは顔を下げて肩揺らし、こっそり笑いこけ。

エウロペだけが、気の毒そうにテリュスに囁いた。
「…鼻髭だけにするとか」

テリュスがエウロペを睨む。
「俺の顎、つるんとして女みたい。
って、思ってる癖に!!!」

デルデが笑いながら囁く。
「じゃ…口髭だけ?」

エウロペは顔下げる。
「最初、それだったけど。
口回りにドーナツが付いてるみたいで…エリューンとレジィが大爆笑して」

エリューンはもっと顔を下げると、とうとうヒッ!と、笑い声を立てた。

「…顎髭だけ…?」
デルデに問われ、テリュスとエウロペがデルデを見据える。

とうとう、エリューンが叫んだ。
「女が、髭生やしてるみたいでめちゃくちゃ異様いよう!」

とうとうエリューンは爆発的に笑いこけ
「はーっはっはっはっ!
ひーっひっひっひっ!」
とハデに声を立てた。

それでエウロペは、デルデに向き直る。
「…だから我々の間では。
テリュスの髭はイジらないと。
暗黙の了承があったんだ」

デルデはお腹を押さえて笑い転げるエリューンと、睨むテリュスを見つめ、やっぱり肩を揺らして吹き出しながら。

けれどテリュスがあんまりギンギンと睨むので。

顔を下げて、こっくり頷いた。
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