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記憶を無くしたレジィリアンス
西のコテージ、トラーテル
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ロットバルトは眠るエルデリオンを連れ、先に馬車でオレシニォンに出立する。
エウロペとテリュス、エリューンは革袋を持ち、玄関広間に出ると。
間もなくデルデロッテとレジィリアンスが、楽しげにやって来た。
けれどレジィリアンスは、エウロペを見るなり駆け寄り、抱きつく。
エウロペは嬉しそうに笑って、レジィリアンスを抱き返して囁いた。
「すっかり、思い出した?」
レジィは弾んだ声で、抱きついたまま頷き、報告する。
「うん!
エウロペとエリューンとテリュスの事、全部はっきり思い出せた!」
テリュスとエリューンも革袋を担いでそれを聞いたけど。
顔を見合わせ、テリュスが聞く。
「…で、いつまで思い出した?」
レジィは途端、少し沈んだ様子で囁く。
「馬車に乗るまで。
それと、宿屋に泊まって…この国に来て…」
テリュスに見つめられ、仕方無くエリューンは聞きにくそうに、尋ねた。
「エルデリオンの事は?」
レジィはピタ、と動きを止め、エウロペに抱きついたまま暫く固まり。
そして口開く。
「…ぼやけて…どうしても顔が思い浮かばない。
えっ…と…デルデロッテよりは、背が低い」
エウロペは頷く。
「それと…」
「頭痛は?」
その声に、皆が一斉に振り向く。
ラステルが笑顔で後ろからやって来ていた。
レジィは首だけ、そう聞くラステルに向けて答えた。
「…かなり、収まった」
「でも、エルデリオンの顔は思い浮かばない?」
レジィは、こっくり頷く。
けど抱きついてるエウロペを見上げると、にこにこ笑う。
「僕、エウロペが…。
逃亡先の未亡人のおばさんに口説かれて、困ってたことも思い出した!」
エウロペはすかさず言う。
「それは、忘れていい」
途端、テリュスとエリューンがぷっ!と吹き出し、エウロペはデルデロッテに目を見開いて見つめられ、思い切り顔を背けた。
「では…おとついの晩のことは?」
ラステルがそう問うた時。
レジィは突然ピタ!と動きを止め、少し震え始める。
デルデは見かねて、ラステルに囁いた。
「…その晩のことは…」
ラステルは直ぐ頷いて、話題を変える。
「この国の王妃が、シュテフザインの大ファンだって事は?
思い出して頂けました?
これから行くトラーテルは、王妃がシュテフザインの家屋敷を模して、特別に作らせたので…。
きっと、懐かしく感じられると思います」
レジィはいっぺんに笑顔になって、ラステルに振り向いた。
「ホント?!」
テリュスもエリューンも。
そしてデルデロッテもが。
失言しても直ぐ取り戻す、機転の利くラステルを、呆れて見つめた。
全員が馬車に乗り込んで、コテージを出る。
背後にラステル配下らの護衛を、ぞろぞろ引き連れて。
間もなく、王城の西正門を潜る。
馬車は南へ伸びる広い道へと入り、周囲が芝生のなだらかな道を進む。
やがて右手にも左手にも農園が広がり、農婦達が仕事をしているのが見えた。
その先は白塗りの高い鉄柵で区切られ、白い鉄柵の門は開いていて、門番は馬車を通した後門を閉め、その後にぞろぞろ付いて来ていた護衛達はそこで止まると、来た道を戻って行った。
なだらかな丘。
目前に広がる池。
池の畔に、かやぶき屋根の平屋。
家の周囲に可愛らしい花が植えられ、窓辺にもピンクの花が置かれていた。
レジィリアンスは瞳を輝かせる。
農家の女将さん風女中が、馬車から降りて来る一行を見ると
「そちらに。
お食事を用意してあります」
と、笑顔で指し示す。
池に面した庭に、屋根代わりに布が張られ、その下に白い木造のテーブルと椅子。
あちこちに花が植えられ、レジィは
「シャトリアンだ!」
と、シュテフザインでしか見られないと言われてる、小さな赤い花をたくさん付けた、草の植えられてる花壇を見つめた。
池を渡る風は心地良く、まだ十分記憶の戻らないレジィリアンスも。
大国の豪華さに、萎縮していたテリュスもエリューンもが。
寛いだように屋外の椅子に腰掛けた。
白い窓から見える内装も、白が基調の木造で、素朴だけど可愛らしいコテージだった。
皆、テーブルに付くと、豪華な食事では無く、素朴な…シチューやパン。
ジャガイモの蒸したのにチーズを乗せて蕩かした物。
イチゴのホイップがけ。
と、どれもシュテフザインならではの料理が並んでるのを見て、心からの笑顔を見せる。
レジィははしゃいで、お皿を取ってはエウロペに、料理を盛られていた。
ラステルは笑顔で
「気に入りましたか?」
と爽やかで陽気な笑顔で尋ね、レジィリアンスが思いっきり首を縦に振る様子に、笑顔をほころばせた。
食後、コテージ内に入ると、石が積まれて出来た暖炉。
白い木の壁に風景画がかけられ、椅子も長椅子もが素朴な作りで、レジィリアンスは嬉しそうな笑顔を見せる。
「ほら!
シャノウセンの女将さんのお家に、凄く似てる!」
テリュスは頷く。
「料理が凄く上手で。
働き者の女将さんだったな」
エリューンも室内を見回す。
「…なんで一気に、肩の凝りがほぐれる気がするかな?」
デルデロッテはエリューンの言葉に、目を見開く。
「その若さで?」
エウロペも椅子に革袋を下ろしながら、エリューンを庇う。
「豪華な王城は、居心地が微妙だから」
ラステルが、居間に続く扉を次々と開け、説明を始める。
「池に面した方に、主寝室。
北側にもう一つ寝室があって…。
廊下の先の東側に三つ、寝室がある」
エウロペは頷くと、主寝室の広さをチラ見し、デルデに告げた。
「レジィと同室でもいいかな?」
デルデは頷くが、直ぐラステルが言葉をさらった。
「それはいい!
デルデロッテなら頼もしい護衛と一緒に、泊まってるも同然ですから!」
エウロペはラステルに頷き、自分は北側の小ぶりな寝室の扉を開き、革袋の荷物を持ち込んだ。
「俺達、東側の寝室?」
テリュスも言って、廊下を歩く。
東の二部屋もとても素朴で、落ち着いたたたずまい。
エリューンも笑顔で、ペパーミントグリーンと白の木の壁を見つめ、頷いた。
ラステルは背後から、開いた扉からエリューンとテリュスを交互に覗き、告げる。
「部屋も決まったようですし。
直ぐ、オレシニォンより貴方方の着替えを届けさせます。
布もガウンも、たくさんありますから。
池で泳ぎたいのなら、遠慮無くどうぞ」
テリュスは顔を下げ、エリューンは
「それはちょっと…」
と、断りを入れた。
エウロペとテリュス、エリューンは革袋を持ち、玄関広間に出ると。
間もなくデルデロッテとレジィリアンスが、楽しげにやって来た。
けれどレジィリアンスは、エウロペを見るなり駆け寄り、抱きつく。
エウロペは嬉しそうに笑って、レジィリアンスを抱き返して囁いた。
「すっかり、思い出した?」
レジィは弾んだ声で、抱きついたまま頷き、報告する。
「うん!
エウロペとエリューンとテリュスの事、全部はっきり思い出せた!」
テリュスとエリューンも革袋を担いでそれを聞いたけど。
顔を見合わせ、テリュスが聞く。
「…で、いつまで思い出した?」
レジィは途端、少し沈んだ様子で囁く。
「馬車に乗るまで。
それと、宿屋に泊まって…この国に来て…」
テリュスに見つめられ、仕方無くエリューンは聞きにくそうに、尋ねた。
「エルデリオンの事は?」
レジィはピタ、と動きを止め、エウロペに抱きついたまま暫く固まり。
そして口開く。
「…ぼやけて…どうしても顔が思い浮かばない。
えっ…と…デルデロッテよりは、背が低い」
エウロペは頷く。
「それと…」
「頭痛は?」
その声に、皆が一斉に振り向く。
ラステルが笑顔で後ろからやって来ていた。
レジィは首だけ、そう聞くラステルに向けて答えた。
「…かなり、収まった」
「でも、エルデリオンの顔は思い浮かばない?」
レジィは、こっくり頷く。
けど抱きついてるエウロペを見上げると、にこにこ笑う。
「僕、エウロペが…。
逃亡先の未亡人のおばさんに口説かれて、困ってたことも思い出した!」
エウロペはすかさず言う。
「それは、忘れていい」
途端、テリュスとエリューンがぷっ!と吹き出し、エウロペはデルデロッテに目を見開いて見つめられ、思い切り顔を背けた。
「では…おとついの晩のことは?」
ラステルがそう問うた時。
レジィは突然ピタ!と動きを止め、少し震え始める。
デルデは見かねて、ラステルに囁いた。
「…その晩のことは…」
ラステルは直ぐ頷いて、話題を変える。
「この国の王妃が、シュテフザインの大ファンだって事は?
思い出して頂けました?
これから行くトラーテルは、王妃がシュテフザインの家屋敷を模して、特別に作らせたので…。
きっと、懐かしく感じられると思います」
レジィはいっぺんに笑顔になって、ラステルに振り向いた。
「ホント?!」
テリュスもエリューンも。
そしてデルデロッテもが。
失言しても直ぐ取り戻す、機転の利くラステルを、呆れて見つめた。
全員が馬車に乗り込んで、コテージを出る。
背後にラステル配下らの護衛を、ぞろぞろ引き連れて。
間もなく、王城の西正門を潜る。
馬車は南へ伸びる広い道へと入り、周囲が芝生のなだらかな道を進む。
やがて右手にも左手にも農園が広がり、農婦達が仕事をしているのが見えた。
その先は白塗りの高い鉄柵で区切られ、白い鉄柵の門は開いていて、門番は馬車を通した後門を閉め、その後にぞろぞろ付いて来ていた護衛達はそこで止まると、来た道を戻って行った。
なだらかな丘。
目前に広がる池。
池の畔に、かやぶき屋根の平屋。
家の周囲に可愛らしい花が植えられ、窓辺にもピンクの花が置かれていた。
レジィリアンスは瞳を輝かせる。
農家の女将さん風女中が、馬車から降りて来る一行を見ると
「そちらに。
お食事を用意してあります」
と、笑顔で指し示す。
池に面した庭に、屋根代わりに布が張られ、その下に白い木造のテーブルと椅子。
あちこちに花が植えられ、レジィは
「シャトリアンだ!」
と、シュテフザインでしか見られないと言われてる、小さな赤い花をたくさん付けた、草の植えられてる花壇を見つめた。
池を渡る風は心地良く、まだ十分記憶の戻らないレジィリアンスも。
大国の豪華さに、萎縮していたテリュスもエリューンもが。
寛いだように屋外の椅子に腰掛けた。
白い窓から見える内装も、白が基調の木造で、素朴だけど可愛らしいコテージだった。
皆、テーブルに付くと、豪華な食事では無く、素朴な…シチューやパン。
ジャガイモの蒸したのにチーズを乗せて蕩かした物。
イチゴのホイップがけ。
と、どれもシュテフザインならではの料理が並んでるのを見て、心からの笑顔を見せる。
レジィははしゃいで、お皿を取ってはエウロペに、料理を盛られていた。
ラステルは笑顔で
「気に入りましたか?」
と爽やかで陽気な笑顔で尋ね、レジィリアンスが思いっきり首を縦に振る様子に、笑顔をほころばせた。
食後、コテージ内に入ると、石が積まれて出来た暖炉。
白い木の壁に風景画がかけられ、椅子も長椅子もが素朴な作りで、レジィリアンスは嬉しそうな笑顔を見せる。
「ほら!
シャノウセンの女将さんのお家に、凄く似てる!」
テリュスは頷く。
「料理が凄く上手で。
働き者の女将さんだったな」
エリューンも室内を見回す。
「…なんで一気に、肩の凝りがほぐれる気がするかな?」
デルデロッテはエリューンの言葉に、目を見開く。
「その若さで?」
エウロペも椅子に革袋を下ろしながら、エリューンを庇う。
「豪華な王城は、居心地が微妙だから」
ラステルが、居間に続く扉を次々と開け、説明を始める。
「池に面した方に、主寝室。
北側にもう一つ寝室があって…。
廊下の先の東側に三つ、寝室がある」
エウロペは頷くと、主寝室の広さをチラ見し、デルデに告げた。
「レジィと同室でもいいかな?」
デルデは頷くが、直ぐラステルが言葉をさらった。
「それはいい!
デルデロッテなら頼もしい護衛と一緒に、泊まってるも同然ですから!」
エウロペはラステルに頷き、自分は北側の小ぶりな寝室の扉を開き、革袋の荷物を持ち込んだ。
「俺達、東側の寝室?」
テリュスも言って、廊下を歩く。
東の二部屋もとても素朴で、落ち着いたたたずまい。
エリューンも笑顔で、ペパーミントグリーンと白の木の壁を見つめ、頷いた。
ラステルは背後から、開いた扉からエリューンとテリュスを交互に覗き、告げる。
「部屋も決まったようですし。
直ぐ、オレシニォンより貴方方の着替えを届けさせます。
布もガウンも、たくさんありますから。
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