森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

思いを吐き出すエルデリオン

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 間もなく部屋に、ラステルとロットバルトがやって来るのを見て、エリューンとテリュスは顔を見合わせる。
その背後からエウロペが姿を見せた。

ロットバルトは長椅子に横たわり目を閉じる、憔悴しきったエルデリオンを見つめ、屈み込む。
「…俺までこっちに来るんじゃ無かった…」
ラステルが直ぐ、ロットバルトを庇う。
「貴方のせいじゃない。
話では…二日は眠る薬…って事だったから」

ロットバルトとラステルに振り向かれ、エウロペは肩を竦める。
「…むしろ、あの薬を飲んでてここまで来るなんて。
かなりな根性だ。
が、私のせいだというなら。
私がオレシニォン西の客用離宮まで彼を運ぶ」

ロットバルトはため息を吐く。
「不案内な貴方に、そこまでさせるつもりは無い。
…それで…デルデロッテとレジィリアンスの濡れ場を。
タイミング良すぎで、見たんですね?」

テリュスとエリューンはそれを聞いてまた、互いの顔を見合わせた。

ラステルはロットバルトに告げる。
「エウロペ殿にとって不案内と言う言葉は、あって無いも同然」
ロットバルトがラステルに異を唱える。
「なら彼に。
エルデリオンを運ばせるのか?」
「それは頼みませんが…。
ただ、どうして目を覚ましてしまったのかは。
気になりますね…」

「ヤッハなら、聞き出せるが…」

ロットバルトとラステルは揃って振り向き、そう言ったエウロペを見た。
「…自白剤ですか?」

ラステルの問いに、エウロペは肩を竦める。
「頭痛も吐き気も無く、むしろ誰にも言えない胸の内を吐き出せて、投薬後は気分がすっきりする良薬だ」

テリュスとエリューンが同時にため息を吐き、ロットバルトは少し離れた背後に立つ、二人に振り向く。

テリュスはロットバルトに見つめられ、白状した。
「レジィはあまり言いたい事を言えず、我慢する子供だったから…。
城から離れ、まだ城外の生活に馴染めなかった頃、よく使った」

ラステルは目を見開く。
「…王子に使ってたんですか?」

エウロペは頷く。
「体の傷と、心の傷は同じ。
ため込んでると、んで酷くなる」

ロットバルトとラステルは、顔を見合わせた。
「…なるほど」
ラステルはロットバルトに尋ねる。
「では、賛成?」
ロットバルトはため息交じりに頷く。
「二日眠りこける薬なのに。
目覚め、全身に気付けを塗りたくって、ここまで来たんだぞ?」

ラステルも頷くと、エウロペに振り向いて告げる。
「お願いします」

エウロペは頷き、直ぐ自室へ消えると、暫くして白い液の入った小皿を持って来た。

ロットバルトは立ち上がると、エウロペにその場を譲る。
エウロペは屈み込むと、長椅子に目を閉じて横たわるエルデリオンの口に、布に浸した液を数滴、したたらせて含ませる。

数回それを繰り返すと、やがてエルデリオンは首を横に振り…目を閉じたまま、話し始めた。

「…お願いだ…眠りたくない。
起こして…」

エウロペは囁く。
「どうして眠りたくない?」

エルデリオンは泣きそうに顔を歪める。
「…あいつがいる…!
縛られて…石牢に…私は…ここに居たくない!
なのに眠ると…ここに来る…」

ラステルがロットバルトを見る。
「…レガートの事ですかね?」
ロットバルトはただ、唸る。

エウロペの声は平静。
「なぜ、嫌なんだ?」

エルデリオンは泣きそうに顔を歪めた。
「…レジィリアンスは私が…私の…身代わりだと…!
私が捕まらなかったから!
私を…苦しめる為に、レジィをさらった…」

ラステルが口を開こうとした時。
エウロペは静かに言った。
「あいつは君を苦しめたくて、そう言ってる。
詭弁きべんだ。
自分の歪んだ心から生み出す行動を、正当化したくて言ってる」
エルデリオンは叫んだ。
「だが!
それでレジィ殿が記憶を無くすほど辛い目に遭って…私を拒絶してるのは事実だ!
デルデロッテには…あんな…頼り切って縋り付いて!
自分から…口づけするほど懐いてるのに!!!」

エウロペはため息を吐いた。
「自分のした事を、悔いている?」

エルデリオンは頷く。
「…戦の準備をしてる時…デルデロッテに腕を掴まれ言われた。
“今直ぐ止めて…王の言った言葉は全て忘れ、身分を隠しシュテフザイン森と花の王国に出かけ。
機会を見つけてあの方に思いを伝えなさい!!!"
…聞けば…良かった………。
けれど私は、第一従者ラザフォードの言葉に従った!
“王子である貴方に望まれたんですから。
それを断るなど不敬極まりない。
彼らにそれがどれ程の恵みかを、思い知らせるためにも。
戦は必要…"
………わたし…は…馬鹿だ……」

エウロペは“その通りだ”と言う代わりに、ため息を吐く。
「…それで自分を責めている…レガートの言葉を聞くんですか?」

エルデリオンは顔を揺らす。
「…けどその通りだ!
あの男が言った通り…私のせいでレジィ殿が…辛い目に遭ったのは!
それは事実だ!!!」

ラステルがまた、口を挟もうとした時。
エウロペはきっぱり言った。
「責めるなら…レジィリアンスに責められるべきだ。
レガートにでは無い」

エルデリオンはその時、ふうっ…と石牢から、レガートから。
解き放たれる気がした。
「加害者の言葉なんて、聞く必要は無い。
レジィリアンスに責められなさい」

その言葉は眠ってるエルデリオンの心に届き…皆はエルデリオンが、切なげに眉を寄せるのを見た。
「レジィリアンスはまだ、奴らに与えられた薬の影響下にあり、それで記憶が戻らない。
記憶が戻った時。
レジィリアンスに責められなさい。
その時まで、どれ程辛くとも、貴方は待たなくてはならない」

エルデリオンは震えながら…こくん。と頷いた。

エウロペは静かに言った。
「…眠れますか?」

エルデリオンはやっと、やつれた顔に安らかな表情を覗かせて、頷く。

「では、お眠りなさい」

暫く後、エルデリオンはすぅーと寝息を立て、寝入った。

エウロペはその場から立ち上がり、ロットバルトに振り向く。
ロットバルトは直ぐやって来ると、眠るエルデリオンを抱き上げ、部屋を出て行く。

ラステルはエウロペの横に駆け込むと、微笑んで囁いた。
「貴方は心の分野でも、名医だ!」

が、エウロペは頷く。
「…だが拒絶は、レジィリアンスの本心。
彼は不安な状況に叩き込まれ、自身の望みは贅沢と。
思える境遇に居る。
できるだけ、安心させてやりたい」

ラステルは頷く。
「レジィがデルデと居る場に、二度とエルデリオンを寄越さない」

エウロペは静かに呟いた。
「お願いします」

ラステルが頷きかけた時。
テリュスが横のエリューンに、囁く声を聞く。

「…あいつ。
とんでも酷いヤツと思ってたが…人柄知ると、割と可愛いとこあるよな?」
エリューンも小声で言い返す。
「そうですか?
私はきっぱり、自業自得だと思いますけど」
テリュスがすかさず言い返す。
「大国の王子だぞ?
まだ自分の権力の使い方、良く分かってない風だろう?
側に居るヤツの言葉で、踊らされる。
レジィだって…エウロペがずっと側に居るからいいコだけど」

エリューンは真顔で頷いた。
「…確かに。
付いてるヤツが悪いと、とんでも我が儘王子になってたかも」

エウロペはぷっ!と吹き出し、ラステルは肩すくめた。
「…貴方の人選は、確かだ」
「…だろう?」

テリュスとエリューンは、吹き出し続けるエウロペと、肩を竦めて退室するラステルを、きょとん。として交互に眺めた。
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