森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

記憶が戻り始めるレジィリアンス

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 エルデリオンはそっ…と、扉を開ける。
寝台の上、エウロペの横にレジィリアンスの姿を見つけると、駆け寄りたい衝動に駆られた。

抱きしめ、無事を確かめ…。

けれど…。

エウロペの胸に顔を寄せ、まるで護られているように安らかな、レジィリアンスの寝顔を見ると…。
足を、止めざるを得なかった。

ラステルも背後で、こっそり囁く。
「…エウロペ殿が居なければ。
現在も、行方不明でした」

エルデリオンは、顔を揺らす。
その時…エウロペに大きな翼があって、レジィはその翼に、大切にくるまれているように見えた。

無言で、扉を閉める。
「彼が目覚めたら…」
「お知らせします」

ラステルにきっぱり言われ、戸口で待つロットバルトとデルデロッテに背を押され、二階へと歩き出す。

厳重警護が必要無ければ…二階で過ごせる。
二階には湖が一望出来る、バルコニーがある…。
王族専用の湖の一部は、石と鉄柵で囲まれ、簡単に部外者は入って来られない。

…だから…ここに来ると、よく裸で湖に浸かった。

二階に上がる。
寝室は三つ。
どれも湖に面したバルコニーが設えられ、居間と寝室が続き部屋としてあり、浴室付き。

もう少し…暖かくなったら、ここにお誘いしようと…。
一緒に、楽しい時間を過ごそうと…。
そう、思っていたのに。

…なのにこんな形で、このコテージに滞在することになるなんて…!

エルデリオンは一人掛け用ソファにへたり込むと、無言で暫く、俯いていた。

ロットバルトとラステルは、レガートとアルトバルデの事情聴取し、レジィリアンスが記憶を無くすほどの嗜虐を、彼らが与えたのかどうかを、聞き出さなくては。
と、小声で話し合っていた。

「いやしかし…それ程の時間が、あったか?」
ロットバルトの問いに、ラステルも俯く。
「…まあ…長時間の調教は無理でしょうが…。
するだけなら、さほど時間は要らない」
「…多数に、よってたかって乱暴された?」
「可能性はある」

デルデロッテは二人の話を盗み聞きしながら、俯いて放心してるエルデリオンを見た。

とても、気落ちしていた。

“貴方に、責任はない”
そう、言ってやりたかった。
が、それは無理。

デルデロッテはため息吐くと、部屋の壁に背をもたせかけ、顔を下げる。

ラステルとロットバルトがいつの間にか、話を終えていて、自分を見つめてる。

「?」

ロットバルトが、おもむろに呟く。
「…彼も夕べ、一睡もしてない」
ラステルも頷く。
「彼が睡眠不足になると…とんでもない行動に出る」

デルデロッテは二人の言わんとする“彼”が、エルデリオンの事だとすぐ、察する。

「…で、また二人して私に押しつけ、何とか眠らせろと?」

ロットバルトとラステルは、同時に頷く。
デルデロッテは短いため息と共に、壁に押しつけた背を離す。
そして、放心したように腰掛ける、エルデリオンの元へと、歩を運んだ。


エウロペが目覚めた時、窓の外はもう夕暮れで。
眠っているレジィリアンスを起こさないよう、そっと動いたつもりだったのに。
レジィはぱっちり、目を覚ます。

エウロペを見た後、目を擦りながら
「もう…起きる時間?」
と聞く。

エウロペは暫く、両手を寝台に付いて身を起こしかけた姿勢のまま、レジィをじっと見た。

レジィは反対側に身を倒すと、テリュスの背があるので。
テリュスの肩に掴まって、テリュスの寝顔を覗き込む。

「…テリュス…どうして髭だらけ?」

テリュスは
「う…ん…」
と寝返り打つと、目をぱち!と覚まし、肩に掴まって顔を出すレジィを見
「俺の事、分かる?」
と聞いた。

レジィは頷くと
「テリュスでしょ?
エリューン、ぐっすり寝てるから…」
そう言って、人差し指を立て、口に当てる。

テリュスも人差し指を口に当て…その向こうの、エウロペに視線を送る。

エウロペは、レジィの横に腰下ろして尋ねる。
「…髭のテリュス…覚えてない?」
レジィは振り向く。
「えっ…と。
確か、城に戻れる数ヶ月前から。
テリュスって髭、伸ばし始めたんだっけ?
城に戻ると、たくさんの城のお偉いさんに、舐められるから…って」

がば!

エリューンが突然、身を起こし、琥珀色の瞳でじっ…とレジィを見る。

「思い…出した?!」

レジィは暫く呆け…
「え…と…」
と呟く。

「…城に戻った事は?!」

テリュスに叫ばれ、頷く。
「久しぶりにお会いしたお母様…もの凄く、お綺麗だった…」
「…その、後は?!」
「後?」

エウロペも。
テリュスもエリューンもが見守る中、レジィリアンスは思案する。

「…えっと…どうしてここ、城より綺麗な部屋なの?」

エウロペが、ため息を吐く。
「エルデリオンの事は?
覚えてない?」

レジィリアンスは、うっすら浮かぶ…端正な白面の貴公子が浮かびかけて、首を振る。
「…頭が痛い」

エリューンは心配そうに、眉を寄せた。

けれどエウロペは、尚も尋ねる。
「夕べのことは?」

頭痛で首を振っていたレジィリアンスは、ふと顔をエウロペに向ける。

「覚えてるのは…栗毛の人。
なんか…凄く恥ずかしい事された気がする」

「…コルテラフォール侯爵の事か?
もしかして」
テリュスが尋ねると、レジィはテリュスを見る。
「そんな名前?
僕…が目を覚ました時、居たの。
意地悪なのかと思うと、優しくて。
優しいかと思うと、凄く意地悪なの。
でも………」

エリューンが心配げに、レジィを見つめる。
レジィはぽつり…と感想を口にした。

「…乱暴じゃ、無いの」

テリュスは呆れ、エリューンは混乱し、エウロペは、深いため息を吐いた。
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