森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

王家のコテージ

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 エウロペはラステル配下から綺麗な毛布を受け取ると、レジィリアンスをくるみ、抱き上げる。

テリュスとエリューンが心配げに、エウロペに抱き上げられたレジィリアンスを見つめた。
金の髪はほつれて頬に、額に張り付き、どこか艶っぽく。

不安げだった大きな青い瞳は、エウロペに抱き上げられて、安心しきってるように見えて、少しほっとする。

けれど…エウロペに抱きつくレジィが。
まるで…逃亡先の、五歳の頃に戻ったように感じ、二人とも沈み込む。

城から出ることになった始めの頃。
見知らぬ屋敷にレジィは怯え…母王妃を恋しがって、いつも不安そう…。
けれど城を発つ前。
父王に
「この男は頼りになる。
どんな時も…エウロペが居れば、危険は回避出来る。
…男の子だろう?
どうか…分かって、耐えてくれ」
そう告げられ…怖くても不安でも。
一生懸命我慢して…我が儘の言いたい子供なのに、必死に耐えてる様子が…健気で。

次第にエウロペに笑顔を見せるようになって。
そして…少しずつ、どれだけ怖い状況でも、エウロペが助けてくれると…彼に心からの信頼を寄せ始めた…あの頃………。

頼りなげで、幼くて、弱々しげで。
けれどいつも一生懸命…そんな自分と戦って…。

言いたい事も、叫びたいことも我慢して。

城とは違った、貧相な宿や食事…。
あまり綺麗で無い毛布…。
賊に追われ、逃げ込んだ、ムカデや蜘蛛だらけの納屋。

時には野宿すらし、食べ物も…櫛に野ウサギを刺した物しか無くて。
レジィは怖がって、最初食べられなくて。

テリュスは必死に、レジィでも食べられる、野いちごを探したっけ。

手渡すと。
幼くて可愛らしいレジィは嬉しそうに。
本当に嬉しそうに微笑んで、感謝を述べて、頬張ったっけ…。

テリュスはエウロペに抱かれながら、一緒に階段を上がり、コテージの正面玄関に向かう。

背後でラステル配下に連行されて行く、コルテラフォール侯爵は。
柱の影で、そっと見つめてる召使いに
「どうして湯に浸からせて着替えさせる、後始末がまだしてなかったんだ!!!」
と喚いてた。

正面玄関に出ると、ラステル配下らが馬を用意してくれていて。
エウロペはレジィを鞍の上に乗せ、自分は後ろに乗って、レジィの脇から両手出して、手綱を握る。

テリュスもエリューンも馬の手綱を手渡され、馬に乗り込む。

先頭の案内役が馬を走らせ始め、大勢のラステル配下が、ずらりと前後、左右を固め、走る中。
エリューンはエウロペの斜め後ろに馬を付けて、走らせた。

レジィは疲れてるように見えた。
けれどエウロペの温もりを背に感じ、安心しきって放心してるようにも。

レジィを護るため、暇を見つけては一生懸命、剣を振っていた。
レジィはよく側に来ると、じっ…と見つめ
「エリューンは凄く、上手だねぇ…」
愛らしい顔で、そう褒める。

まだまだなのに。
でも。
刺客に周囲を囲まれた時、怖がって身を寄せて来るから…必死で剣を振り、護った。

賊に腕を引かれ、泣きそうな瞳を向けられた時。
剣を振り切って、初めて人を殺した。

人を殺した重みより。
死んだ賊に手を放され、抱きついて来たレジィリアンスを、守れたことの方が、嬉しかった…。

テリュスも、エリューンもが。
エウロペの前で馬上で揺られる、レジィに囁き続けた。

“忘れてる…?
本当に、覚えてない?”

心に、今まで過ごした数々の、レジィと苦楽を共にした記憶を蘇らせ続けながら。
幾度も心の中で、問いかけ続けた。


やがて小高い丘の上の、白い豪奢なコテージが見えて来る。
青銅の門に、金の紋章。

門が開けられ、中に入ると。
裸婦の彫刻から噴水が吹き出し、花が咲き乱れる美しい庭園。
中央は石畳で広い道。

かなり奥に、玄関階段と金飾りで綺麗に飾られた、立派な黒い玄関が見えて来た。

レジィはキョロキョロと、豪奢で美しい邸宅や庭園を見回す。
エウロペが顔を傾げ、レジィに顔を寄せると。
レジィリアンスは気づいて囁く。
「凄く…立派で綺麗…」

エウロペは苦笑する。
「ここはオーデ・フォール中央王国で、王様はとてもお金持ちだから」
レジィは背後のエウロペに振り向くと
「僕…ここに、来たことある?」
と尋ねる。

エウロペは優しく微笑むと
「いや?
初めてだ」
と囁き返した。

テリュスとエリューンは、ずっと同行していたラステル配下が
「…王子相手だと。
人が変わられたように、穏やかなんだな」
と呟くのを聞いた。
もう一人が
「…やっぱり一撃で。
扉を破ったの、君でも人間離れしてると思ってるな?」
と言い、言われた方は、頷いてた。

間もなく、玄関前で馬から降りる。
エウロペは先に降りると両腕伸ばし、レジィリアンスはその腕に掴まって馬から降りた。

レジィを抱き止めるエウロペは、本当に嬉しそうで。
同行した大勢のラステル配下らは、皆盗み見ては、微笑んでいた。

レジィを抱き上げたまま、エウロペは開けられた玄関を潜る。
一階の奥の部屋に通され、白い壁にも柱にも、金の飾り彫刻が彫られた豪華さに、レジィは相変わらず、目を丸くしてキョロキョロと見回していた。

居間の奥が、寝室。
その横に、露天風呂に続く浴室。

コテージの執事は、全ての扉を開けてエウロペに見せ
「湯に浸かられた方が、良さそうですね。
召使い達がお世話します」
と告げたが、エウロペは断った。

「いや。私がする。
同行の若者二人に、食事と飲み物。
我が王子には、着替えを用意してくれるか?」
と告げた。

執事はにっこり微笑み
「直ぐ、ご用意致します」
と感じ良く頷き、浴室へと続く扉を開けた。

背後、室内に入って来たテリュスとエリューンはあまりの豪華さに、落ちつかなげに揃ってソファに腰を下ろす。

同行していたラステル配下も入って来ると、浴室に消えて行く、エウロペの背に囁いた。
「ここは、一番警護のしっかりした部屋ですから。
侵入者は入れません」

エウロペはその気遣いに、振り向かぬまま頷いた。

間もなく感じの良い若い女中が、食べ物と飲み物満載のワゴンを押して入って来る。
ラステル配下は陽気に、若い二人に話しかけた。

「寛いで下さい!
エウロペ殿にも、労をねぎらいたかったんですが」

テリュスとエリューンは、皿をワゴンから手前に引き寄せながら、顔を上げる。

テリュスは微笑むと、ラステル配下に答えた。
「あの人にとっては。
レジィと一緒に居ることが、ねぎらいです」

エリューンも微笑んで提案する。
「ご一緒して頂けると。
我々のねぎらいになるんですが」

ラステル配下は嬉しそうに笑うと
「では!
皆、大騒動で、疲れてますからね。
今、あちこちで宴会してますよ!」
そう言って、エリューンとテリュスを笑顔にした。
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