森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

アルトバルデの屋敷

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 地下洞窟を走るエウロペが、叫ぶ。
「トロッコを避けろ!」

馬は、引かれて中央に居座るトロッコの、横の隙間を駆け抜けた。
テリュスも難なく続き、ラステル配下も横に馬を寄せて通り過ぎた。

たいして引かれていなかったので、つまりあと少しで、トロッコの辿り着いた先に到着する。

かなり背後から、ラステル配下らしき多数の馬が、駆け来る駒音が空洞に響いていた。

直ぐ、先が行き止まりとなる。
土壁の階段が四段ほどあり、その上に二つの扉。

エウロペは馬から飛び降りると、扉の一つを明ける。
そしてもう一つも。

直ぐ、テリュスとラステル配下も馬から飛び降り、背後から覗き込む。

どちらも石の床だった。

「左ですね…」

ラステル配下の言葉に、エウロペも頷く。

「片方は、罠?!」

テリュスの言葉に頷く間も惜しみ、エウロペは左の床に足を付くと、直ぐ目前にある扉に駆け寄る。

「…なんで、分かる?!」
テリュスは横に駆け込む、ラステル配下に尋ねる。
ラステル配下は小声で、言葉を返した。
「右は綺麗だから」

…つまりあまり、踏まれていない。

テリュスは納得し、頷いた。

ガチャ…ガチャッ!

取っ手を回し押すが、扉は開かない。
かんぬきが、かかってた。

ラステル配下は直ぐ背後に振り向くと、大声で怒鳴る。
「この上の屋敷はどこか。
分かるか?!!!!」

背後、迫り来る駒音と同時に。
返答が返って来る。

「分かる!
屋敷側から潜入する!」

駒音は数騎、引き返して行き、数騎はそのままこちらに向かい走り続ける。

ガチャガチャ!

エウロペは悔しげに、開かない扉を揺する。

がその時。

カチッ。

音がし、扉が開いた。

少し開いた扉の隙間から覗く顔は、明らかに賊では無く、おどおどした召し使い。
エウロペは素早く扉を開け、召使いに囁く。

「ここから来た男を見たか?」

男の…下働きらしき男は、頷く。

「案内してくれ」

召使いは頷いた。
エウロペの背後から、ラステル配下がすかさず尋ねる。
「この上は、誰の屋敷だ?!」

召使いは背を向けかけ、振り向いて告げた。
「アルトバルデ様です」

ラステル配下は、また振り向いて洞窟へと取って戻り、怒鳴る。
「アルトバルデの屋敷を全て!
押さえろ!!!」

声は空洞に響き渡り、やって来る駒音がまた一騎。
反対側に遠ざかって行く。

テリュスはエウロペに続き、先を案内する召使いの後を付いて、階段を上がり地下室へと入って行った。

召使いはずっと、たどたどしく言い訳を口にし、地下室を出て階段を上がりながら、呟き続ける。

「その…。
得体の知れぬ者…らに、占拠されて…。
傷付いた男を残し、既に皆、ここを出て行きました…」

テリュスは言葉通り聞いたけど。
エウロペもラステルも『そう言え』と命じられてる。
と分かっていた。

エウロペは既に何者かがレジィを連れ、ここを去ったのだと。
直感で知る。

素早く、背後から召使いの首に腕を回すと、締め上げる。
「…どんな男が出て行った?!」

召使いは驚き、首を絞める腕を、引き剥がそうともがいて手をかける。

…が。

「ぐっ…止めて…止めて下さい!!!
見知らぬ身分高い男が…数人、来ていたと…!
けど俺…この辺りの見回りが担当で…。
誰一人、目にしてません!」
「…来訪者を見た者の元へ、案内しろ!」

召使いは半泣きで、頷いて呻く。
「これから…案内する、男が知ってる…はず…です。
本当に、俺…は見てません!」

エウロペは腕を放し、召使いの背を乱暴に、前へと押した。

ラステル配下はテリュスの後ろから
「エウロペ殿って、役立つ人ですねぇ…」
と感心したように呟き、テリュスは振り向くと、睨みつけて言い返す。

「彼が凶暴になるのは、非常時だけだ」

案内されたのは、一階の質素な部屋。
窓辺には庭園が見え、その寝台に。
レガートは眠っていた。

エウロペはつかつかと室内に入ると、ばっ!と布団をめくる。
衣服は肩の所で切られ、右肩に布が巻かれているのを見て、誘拐犯だと直ぐ察する。

男の傷付いた右肩を掴む。
すると男…レガートは、かっ!と痛みに目を見開き、そこにエウロペの顔を見つけ、顔を歪めた。

“ロープを…切り落としたかった!
それが出来ていたら、この男を目にする事は無かったのに!”

「…レジィはどこだ。
どの男が連れ去った?」

またきつく、傷口を握り込まれ、レガートは激痛に顔を歪める。
「ぐ…ぅっ…!!!」
ハァハァ…。

痛みに体が震え、吐息も荒い。
が、笑った。

「…知りたいのなら、手を離せ…」

がエウロペはぐっ!
と思いっきり傷口を握り込む。

「…っ!!!っ!!!…ぅがぁっ!!!」

「俺を甘く見るな」

エウロペは激昂する事無く、静かに言い渡す。
そして再び、きつくきつく握る。

「があぁぁぁっ!!!」

レガートは思わず、身を跳ね上げて叫んだ。

「…いいか…。
殺したいのを、我慢してる。
俺をこれ以上怒らせれば。
もっと酷い事になるぞ…!」

レガートは目を見開き、優しいとすら聞こえる声音でそう脅す、エウロペを見た。
瞬間、殺気を感じ、レガートは悪寒に震え上がった。

「シュエッセン伯…爵…」

ラステル配下は、聞くなり直ぐ部屋を出て行く。
戸口で振り向くと
「拉致しといて下さい!!!
大事な情報源だ!
目を潰しても、鼻を削いでも構いませんけど!
絶対、殺さないで下さいね!!!」
と叫んだ。

テリュスはそれを聞き、顔を下げる。

「…鼻を削いだり、しないよな?」

エウロペは傷口から手を放し、頷いた。
「腕か足くらいは、斬り落とすかも」

テリュスは思い切り顔を下げ、傷口を放されたレガートは、ぞっとして真っ青になった。

屋敷には、続々と後続の男らがやって来て、制圧にかかる。

一緒に付いて来たラステル配下は、廊下で彼らを見つけると
「シュエッセン伯爵を逮捕しろ!!!」
と叫ぶ。

直ぐ一人が、屋敷の正面玄関から飛び出して行った。
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