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誘拐されたレジィリアンス
検問
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アルトバルデ公は揺れる馬車の中で、周囲を見回す。
両脇の茂みに、人影が見えた気がした。
空はうっすらと、明けかけていた。
ヒヒン!!!
馬車が突然、止まる。
ガクン!!!
止まった馬車の中で、アルトバルデは不安に眉を寄せた。
間もなく、窓の横に男が寄って来て告げる。
「…どちらに?」
アルトバルデは素早く、周囲を確認し、告げる。
「この近くの別邸に出かける途中」
「こんな、夜明けに?」
問う男は地味な装いのくせに、有無を言わせぬ不適な態度。
「(…ラステル配下か…。
もうこんな所まで、検問を設けてるのか?)
私の勝手だろう?
客人を待たせてる。
用が無ければ、行かせてくれ」
けれど地味な風貌の、ラステル配下は素っ気無く告げる。
「王宮警備隊長の厳命により、暫くここで待機して頂く」
が、アルトバルデは声を荒げた。
「…私を、誰だと思ってる?!
アルトバルデ大公だぞ?!」
が、地味な男は怯まない。
「馬車から降りて、こちらにおいで下さい。
身分に合わせ、丁寧な扱いを心がけます。
が、命に背くとそれすら忘れがちで」
「(…つまり力尽くで!
馬車から下ろす気か…!)」
アルトバルデは腹を立てた。
が、仕方無く戸を開けると、馬車から降りた。
コルテラフォール侯爵は、馬車一台がやっと通れる裏道を行かせた。
眠るレジィにかつらを被せ、頬紅を塗る。
そしてドレスに着替えさせた。
「~♪」
間もなく、馬車の前に人が。
両手を広げ、制止する。
御者が馬車を止める。
間もなく、窓の外に男がやって来ると告げる。
「すみませんが、降りて頂けませんか?」
「…構わないが…。
拘束は困る。
これから姪を、母の実家へ送っていかないと」
男は眠るレジィを見る。
「…馬車の中を一通り探索させて頂けましたら。
あと、お名前を頂けますか?」
口調は丁寧。
が、服装は地味。
コルテラフォール侯爵は、微笑むと名乗る。
「コルテラフォール侯爵。
母がエルドシュヴァンに嫁いでね…。
普段はあちらに住んでるので、こっちにはあまり長く滞在してないが…。
何か、事件?」
ラステル配下は頷く。
コルテラフォール侯爵は扉を開けると、降りて男の前に立つ。
「調べたいんなら、どうぞ。
何も出なかったら、行かせて貰えるかな?」
「行き先を告げて頂ければ」
別の男が馬車に乗り込み、中を見て回る。
コルテラフォール侯爵は馬車の中に視線を送ると、忠告する。
「ああ、姪を起こさないで。
夕べは深夜まではしゃいで。
すっかり疲れ切ってるから」
男は頷き、寝ているレジィの周辺を避け、ソファの周囲を見て回る。
幾つかの鞄を開け、中を調べ…。
婦人用衣服を確認し、他は書類。
宝石箱の中の宝石…。
「どちらからいらっしゃいました?」
目前で見張る、ラステル配下に尋ねられ、コルテラフォール侯爵は首を傾げる。
「ナゼータ屋敷、で、分かるかな?」
「ええ。
貴方の母君の別宅ですね?で、これからどちらへ?」
「母の、実家に。
シュワール荘…と言えば、分かるかな?」
相対する男は頷く。
「分かります。
この国には、いつまで?」
「もうひと月ほど、居ようと思う。
こちらにいる友人を、訪ねるつもりだ」
ラステル配下は頷き、馬車の中から仲間が降りて来て、頷くのを見て、告げる。
「…行って頂いて、結構です。
ただ、後ほどご自宅に訪問させて頂くかもしれません」
コルテラフォール侯爵は感じ良く微笑む。
「その頃には、ナゼータ屋敷に戻ってるだろうね。
いらしたら、歓迎するよ」
ラステル配下に頷かれ、侯爵は馬車に乗り込むと、御者に告げる。
「出して」
間もなく、馬車は走り出す。
コルテラフォール侯爵はレジィのドレスの、スカートの中から。
彼の破れた衣服や、巻かれた布を取り出す。
「…これは、燃やしてしまわないと」
御者が、振り向いて尋ねる。
「本当に、ご実家に向かいますか?」
「冗談だろう。
ナゼータ屋敷に決まってる。
実家に送って行く姪なんて、居ないんだから。
実家の方向へ向かって、ぐるっと回って屋敷に行っておくれ」
御者は頷くと、シュワール荘へ続く道に、馬車を乗り入れた。
侯爵は、まだ眠るレジィに囁く。
「偶然通りかかった通行人…。
で済んだようだ。
君にとっては、残念かもしれないけどね」
深い眠りについたレジィには聞こえず、コルテラフォール侯爵は、くすくすと愉快そうに笑い続けた。
両脇の茂みに、人影が見えた気がした。
空はうっすらと、明けかけていた。
ヒヒン!!!
馬車が突然、止まる。
ガクン!!!
止まった馬車の中で、アルトバルデは不安に眉を寄せた。
間もなく、窓の横に男が寄って来て告げる。
「…どちらに?」
アルトバルデは素早く、周囲を確認し、告げる。
「この近くの別邸に出かける途中」
「こんな、夜明けに?」
問う男は地味な装いのくせに、有無を言わせぬ不適な態度。
「(…ラステル配下か…。
もうこんな所まで、検問を設けてるのか?)
私の勝手だろう?
客人を待たせてる。
用が無ければ、行かせてくれ」
けれど地味な風貌の、ラステル配下は素っ気無く告げる。
「王宮警備隊長の厳命により、暫くここで待機して頂く」
が、アルトバルデは声を荒げた。
「…私を、誰だと思ってる?!
アルトバルデ大公だぞ?!」
が、地味な男は怯まない。
「馬車から降りて、こちらにおいで下さい。
身分に合わせ、丁寧な扱いを心がけます。
が、命に背くとそれすら忘れがちで」
「(…つまり力尽くで!
馬車から下ろす気か…!)」
アルトバルデは腹を立てた。
が、仕方無く戸を開けると、馬車から降りた。
コルテラフォール侯爵は、馬車一台がやっと通れる裏道を行かせた。
眠るレジィにかつらを被せ、頬紅を塗る。
そしてドレスに着替えさせた。
「~♪」
間もなく、馬車の前に人が。
両手を広げ、制止する。
御者が馬車を止める。
間もなく、窓の外に男がやって来ると告げる。
「すみませんが、降りて頂けませんか?」
「…構わないが…。
拘束は困る。
これから姪を、母の実家へ送っていかないと」
男は眠るレジィを見る。
「…馬車の中を一通り探索させて頂けましたら。
あと、お名前を頂けますか?」
口調は丁寧。
が、服装は地味。
コルテラフォール侯爵は、微笑むと名乗る。
「コルテラフォール侯爵。
母がエルドシュヴァンに嫁いでね…。
普段はあちらに住んでるので、こっちにはあまり長く滞在してないが…。
何か、事件?」
ラステル配下は頷く。
コルテラフォール侯爵は扉を開けると、降りて男の前に立つ。
「調べたいんなら、どうぞ。
何も出なかったら、行かせて貰えるかな?」
「行き先を告げて頂ければ」
別の男が馬車に乗り込み、中を見て回る。
コルテラフォール侯爵は馬車の中に視線を送ると、忠告する。
「ああ、姪を起こさないで。
夕べは深夜まではしゃいで。
すっかり疲れ切ってるから」
男は頷き、寝ているレジィの周辺を避け、ソファの周囲を見て回る。
幾つかの鞄を開け、中を調べ…。
婦人用衣服を確認し、他は書類。
宝石箱の中の宝石…。
「どちらからいらっしゃいました?」
目前で見張る、ラステル配下に尋ねられ、コルテラフォール侯爵は首を傾げる。
「ナゼータ屋敷、で、分かるかな?」
「ええ。
貴方の母君の別宅ですね?で、これからどちらへ?」
「母の、実家に。
シュワール荘…と言えば、分かるかな?」
相対する男は頷く。
「分かります。
この国には、いつまで?」
「もうひと月ほど、居ようと思う。
こちらにいる友人を、訪ねるつもりだ」
ラステル配下は頷き、馬車の中から仲間が降りて来て、頷くのを見て、告げる。
「…行って頂いて、結構です。
ただ、後ほどご自宅に訪問させて頂くかもしれません」
コルテラフォール侯爵は感じ良く微笑む。
「その頃には、ナゼータ屋敷に戻ってるだろうね。
いらしたら、歓迎するよ」
ラステル配下に頷かれ、侯爵は馬車に乗り込むと、御者に告げる。
「出して」
間もなく、馬車は走り出す。
コルテラフォール侯爵はレジィのドレスの、スカートの中から。
彼の破れた衣服や、巻かれた布を取り出す。
「…これは、燃やしてしまわないと」
御者が、振り向いて尋ねる。
「本当に、ご実家に向かいますか?」
「冗談だろう。
ナゼータ屋敷に決まってる。
実家に送って行く姪なんて、居ないんだから。
実家の方向へ向かって、ぐるっと回って屋敷に行っておくれ」
御者は頷くと、シュワール荘へ続く道に、馬車を乗り入れた。
侯爵は、まだ眠るレジィに囁く。
「偶然通りかかった通行人…。
で済んだようだ。
君にとっては、残念かもしれないけどね」
深い眠りについたレジィには聞こえず、コルテラフォール侯爵は、くすくすと愉快そうに笑い続けた。
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