森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

塔を制圧にかかるラステル配下と取り乱すエルデリオン

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 窓から差し込む月光の、薄暗く寂れた広間に。
エウロペは歩を踏み込む。

よく見ると、所々剥がれかけた絨毯の上に、血が滴ってる。

暖炉の横にかなりの数が滴っているのを見て、エウロペはその上。
彫られた彫刻を手でなぞってみる。

天使の翼が揺れ、握って思い切り引くと、暖炉は手前に開き、奥に幾つもの太い棒が、横一列に並んでる。
棒の下には人が三人は通れる、円形の穴が開いていた。

それが、五つ横に並んでる。

地下の部屋に続く通路だとは分かった。
が、どれかは…罠だろう。

エウロペは再び、目を凝らす。
が、暗い。

広間に視線を移す。
朽ちた椅子やテーブル。
垂れ下がる破れたカーテン。
崩れたシャンデリアなどが、床に落ちてる。

その中に、蝋の垂れた短い蝋燭を見つけ、素早く近寄り拾うと。
火打ち石を取り出し、火を付ける。

先に針の付いた燭台に、蝋燭の後ろを突き刺すと、開いた暖炉の前に取って戻る。

蝋燭の明かりで覗うと、右から二番目の穴の周囲に、かなりな血の雫が垂れていた。

カンカンカン…!

屋上に足音。
エウロペはラステル配下らが、駆けつけて来たと感じた。

蝋燭の火を消さず、燭台をそこに置くとチョークを取り出し、今から滑り降りる穴の壁に×印を付け、両手で太い木の棒を握ると、一気に下に、滑り降りて行った。


屋上に上がったテリュスは、広い吹きっさらしの屋上の、端に扉を見つける。
既に開いていて、中を覗くと下に降りる石段があった。

カンカンカンカンカン…!
急いで降りて行く。
すると右手にさびれた大広間が見え、広い廊下はその先に続いてる。

通り過ぎようとした時。
広間の入り口に白いチョークの×印を見つけ、慌てて歩を止めた。

背後から、ラステル配下の男が階段を駆け下りてくる足音が聞こえ、振り向いて怒鳴る。
「ここだ!」

テリュスは広間に飛び込む。
広間の奥の、開いた暖炉の前。
燭台に蝋燭が灯ってた。

「…エウロペが、ついさっきまでここに…!」

ラステル配下も直ぐ続くと、二人は開いた暖炉の奥の、隠し部屋を覗き込む。

下に通じる、滑り降りる木の棒が貫かれた、穴が五つ。

右から二番目の穴の、目線の壁に。
白いチョークの×印を見つけ、テリュスは直ぐ駆け寄る。

両手で棒を握ると、身軽に滑り降りて行き、ラステル配下はその性急さに、思わず吐息を漏らした。

背後からの足音に、叫ぶ。
「ここだ!
既にエウロペ殿とテリュス殿が滑り降りてる!
俺も彼らの連絡役を果たすため、先に行く!」

そして棒を両手で掴むと、叫びながら滑り降りた。
「後は、頼む!」

叫びを聞いた男は直ぐ、広間に顔を出す。
その後から、続々と配下の男らがやって来る。

「ここに見張りを。
後は階段で降りてくれ!」
「罠に気をつけろ!
この階を制圧後、下に降りる!」

男達は次々に散って行き、最初に叫んだ男は、目印の棒に両手を巻き付け、一気に下に滑り降りた。


デルデロッテはエルデリオンが。
後ろにラステルとロットバルトを引き連れ、馬で駆け込んで来るのを見、塔に突入しようとする、歩を止めた。

既に倒した賊らを跨ぎ超し、ラステル配下らが続々と突入して行く。

エルデリオンはデルデロッテの横に馬を駆け込ませ、手綱引いて馬を止めると、いななく馬の背から滑り降りて走り出そうとする。

「デルデロッテ!!!」

背後からラステルに叫ばれ、デルデロッテは走り去ろうとするエルデリオンの手首を、瞬間握って引き留めた。

振り向くエルデリオンは目を見開いていて、デルデロッテは落ち着かせるように言い聞かす。
「今、ラステル配下が安全を確保してる真っ最中だから。
もう少しだけ、ここで待って」

エルデリオンは瞬間、掴まれた手首を下に引く。
振り払うように。

悔しげな…泣きそうな表情を見、デルデロッテは表情を緩め、囁く。
く気持ちは、痛いほど分かる…。
が、エウロペ殿が、どこまでも追っているから…」

「気が狂いそうだ…!
私の…せいだから…!
私が無理に…あんな無茶をしてあのお方を…安全な、シュテフザイン森と花の王国から連れ出した!
私の我が儘で…!!!」

デルデロッテは瞬間、エルデリオンの腕を引き、抱きしめる。
激昂したエルデリオンの身は、激しく震えていて。
デルデロッテはぎゅっ!と強く、エルデリオンを抱きしめた。

「…ラザフォード(過去の侍従長)が見たら、激怒して憤死するな…」

ロットバルトが呻きながら背後にやって来る。
ラステルはまだ、抱きしめてエルデリオンを落ち着かせてるデルデロッテの横を素通りすると、駆け寄って来る配下らから、報告を受け取る。

素早く状況を確認すると、配下に囁く。

「罠はそこら中にありそうか?」
「ここの密偵が、かなりの罠を地図に記していますから。
が、地下があるらしく、そちらは近づけなかったと」
「地下に降りる通路を、大至急!」

配下は頷くと、塔の中へ入って行った。

エルデリオンはデルデロッテの…以前の細い体じゃなく、すっかり逞しく広くなった胸に抱き止められ、体の震えが止まり始めるのを感じた。

あれ程荒ぶる心が…落ち着きを取り戻し始めた頃。
デルデロッテは抱く腕を緩める。

「…落ち着かないと。
貴方は王になる。
王はどんなときでも…」
「“冷静さを無くすな…”」

エルデリオンは呟くと、デルデロッテの胸から、顔を上げた。

デルデロッテは美しい顔で微笑むので、エルデリオンは尋ねる。
「…レジィ殿は…見つかるか?」

デルデロッテが口を開いた時。
塔の入り口から、ラステルが叫んだ。

「見つけます!
必ず!」

デルデロッテは言葉をかっさらわれ、ラステルに視線を送るが、彼は背を向け、既に塔の中に駆け込んで行った。

「…だ、そうだ」
ロットバルトが苦笑いし、塔の入り口に駆け始め。

デルデロッテは暫く状況を忘れ、けど思い出して、エルデリオンに告げた。

「もう、入っても安全なようだ」

エルデリオンはそう告げるデルデロッテを見上げ、一瞬呆けた後。

二人揃って、塔の入り口に駆け出した。
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