森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

逃げるレガート

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 テリュスはエウロペの、無事屋根に着地したシルエットを見、ほっとして手綱を握る。
一気に塔へと戻ると、塔の前ではエリューンとデルデロッテが剣を振っていた。

デルデロッテは一気に剣を振り下げ、はらりと額に垂れる濃い栗毛が、彼の美しさをさりげなく引き立たせ、その余裕は小憎らしくすら見えた。

賊の振る剣を難なく頭を下げて避け様、横から振られる剣に剣を合わせ、瞬間目前の剣を振り切った賊に、一気に合わせた剣を引き、突き刺す。

「ぐっ!」
「がっ!」

鮮やかに剣を振る様は、月光に銀の閃光の軌道を見れば明らか。
あっという間に二人が血を流し倒れ伏し、避けようと後ろに引く賊に、一歩詰めて一気に剣を鮮やかに振りきる。
「ぅ…がっ!」
右腕を切られ剣を落とす、その隙に。
振り切った剣を一気に突き刺し、あっという間に倒した。

残りの一人はかなりの距離を取り、腰を下げて剣を構え、警戒しきってデルデロッテの動向を覗う。

見慣れてるエリューンは、腰を下げ、賊が振る剣を剣を合わせ止め、一気に振り上げて振り切る。
瞬速で切り返すその速さに。
敵は追いつけず斬られ、肩から血をまき散らして仰け反った。
足元には既に斬った一人が転がり、呻いている。

どちらもあと一人。
テリュスはそれを確認した後、塔にロープを投げてる、ラステル配下の元に馬を走らせ、飛び降りざま告げた。
「俺に行かせてくれ!」

登ろうとした男は振り向き、テリュスにその場を譲る。
テリュスはロープを両手で握ると、するすると身軽に登り始めた。

先に登っていた男は、塔の中間の窓に到達し、窓の縁に立ち上がって振り向き、登って来る相手が仲間で無く、テリュスなのに目を見開いた。

テリュスは窓の縁に立ったまま、進まず自分を待つラステル配下を見上げ、それでも登る手を緩めなかった。

「…なんで…止まってる?」

抱いた疑問を、辿り着いた窓の縁に手をかけ、登りながら口にする。
ラステル配下は苦笑した。
「…貴方の、ロープが欲しくて。
この先は、ここから投げないと」

テリュスは配下の登ってきたロープが、窓の縁から下に垂れているのに、視線を送る。
ラステル配下はテリュスのロープのかぎ爪を外し、縄を腕に巻き付け、そして振り回しながら呟く。
「私のは、後続のため残して置くので」

テリュスはそこでようやく、理解出来て頷く。

間もなく他のラステル配下らが、バラバラと塔の正面を少し行った先の、茂みから姿を現す。

“つまり入り口からも、塔の上からも。
多勢で一気に制圧する気なんだな”

もう眼下には、下から登って来る配下が見えた。

カンッ!
屋上の縁にかぎ爪を引っかけ、引いて強度を確かめた横の男が、振り向く。

「先が良いですか?」
問われてテリュスは、ロープを奪うようにひったくり、言葉を返した。
「当然」

そして、登り始める。
ラステル配下はテリュスの…猿並の速さに、舌を巻いた。


レガートは肩から滴り続ける血も、時折訪れる激痛にも、構ってる間なんて無かった。
ともかくこの大事な商品レジィリアンスを。
何としても、誰か大物に手渡し、大金を手にしなければ…!

紅蜥蜴ラ・ベッタは無能者を簡単に見捨て、口封じのため始末する。

大広間の地下に通ずる降り口は。
つるつるの棒に掴まり、一気に地下に滑り降りる仕組み。
嫌がるレジィを片腕で抱え、もう片腕は棒を掴んでなければならず、今や右肩からは血が、ひっきりなしに溢れ出始めていた。

地下に着くと、再び巨大な地下道にトロッコ。
最早痛みと出血で、身が震え始めていた。
が、体を傾け不具者のような格好で、何とか歩を進め、レジィをトロッコに押し込んだ。

けれどレジィリアンスは、逃げようと身を起こすので。
痛みの無い左腕で腹を押さえ込むと、レジィリアンスは両手両足をバタつかせ、暴れ始める。

“…薬が…切れかけてる…?!”

レガートは躊躇ためらった。
が、時間は無い。
追っ手は直ぐ、迫って来るだろう…。

右肩は痛んだが、右手でポケットを探る。
いくつかの小瓶が手に触れる。

取り出すと、親指の腹で瓶の蓋を開けると。
暴れるレジィリアンスの顔に、振りかけた。

レジィリアンスは気づいて必死に、首を振る。
が、口にかかったどろりとした液体が、首を振りまくった拍子に、口の中へ…。

途端、いきなりぐったりし、レガートは薬瓶を見つめた。

強力な、睡眠薬…!

さっき飲ませた、強力な媚薬とは、併用しない方がいい。
とは、分かっていた。

が。
“死ななければそれでいい…!
息さえしてれば、商品で通る…!”

レガートはトロッコの床にある、レバーを引いた。

ガタン…!

トロッコは地下洞窟を走り出す。
ガタゴトと時折激しく揺れ、レガートは右肩に走る激痛に、顔を歪める。

気づくと、止まっていた。

そこから、気絶した商品…レジィリアンスを抱きかかえ、荒い息を吐いて、必死に先へと進む。

三つの通路に続く、それぞれ一つずつあるトロッコが見え始める。
レジィを土床に下ろし、一番左のトロッコに乗り込み、レバーを引き。
走り出すと、飛び降りる。

ガタ…ダンッ!!!
「ぅがっ!」

着地した時、右肩に走る激痛に呻く。

が、左端のトロッコにも、ふらつきながら乗り込み、レバーを下げ、走り出すと飛び降りる。

「………………っ!」

最早痛みに、声すら出ない。

そうしてレガートは、床に気絶するレジィを抱き上げ、真ん中のトロッコに乗り込むと、レバーを引いた。

ガタン…。

トロッコは次第に速度を上げる。
が、今度トロッコが派手に揺れても。
レガートは痛みが遠のくのを感じた。

意識が薄れかけ…気絶しかけてる。
そう、自分でも分かった。

彼はけれどそのままぐったりと…レジィリアンスを左腕に抱いたまま、目を閉じ、気を失った。

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