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誘拐計画
オーデ・フォール一の美少年の憂鬱
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その日の午後。
エドアルドは王城内の宛がわれた自室で、お茶の席に集う、信奉者らを眺めた。
が、どの顔も王妃の舞踏会で、シュテフザインの王子、レジィリアンスの美貌に、目を奪われた者ばかり。
レジィリアンスには到底手が届かないから。
いつにも増して、自分の機嫌を取ってる。
そう分かると、まるで自分が…余り物のように感じ、プライドがいたく、傷つけられた。
エドアルドは大公家の跡取りだったから、誰もが丁重に扱った。
とはいえ…まだ官職の地位は低く、重臣らの住む王城の東の居室の、端の一階を宛がわれていた。
南は王室関係者のみ。
そして西は客用とされ、北は…城の中で、最も身分の低い者達が住まわされていた。
東庭園に続くテラスで、お茶会は開かれてはいたものの、エドアルドがあまりにも不機嫌なので、取り巻き達はしきりに顔色を覗う。
「…分かります。
エルデリオン王子はてっきり…女性にしか興味が無いと、もっぱらの噂。
それを…」
「貴方を差し置き、他国の美少年に惚れ込むなど…」
「明らかに、貴方への侮辱だ」
エドアルドははっきり言葉にされ、更に悔しさが湧き上がる。
結局、素晴らしく晴れ渡る青空の下。
エドアルドは自分よりは劣る、美少年揃いの侍従らに取り巻き達の相手をさせ、東庭園の散策へと追い出し。
…自分はテラスの椅子に腰掛け、ふてくされきった。
けれど向かいに、黒髪の美男が無遠慮に腰掛ける。
「…誰が許可した?」
エドアルドは不機嫌、そのもので言い放つ。
けれど真っ直ぐな黒髪を胸に流す、細面の美男は、笑う。
「貴方にとっての朗報をお持ちしたのに?」
エドアルドは斜にその男を見つめた。
笑みを浮かべ、態度は余裕。
「…どんな、朗報だ」
男はくすり…と笑う。
「…実は…ずっと、シュテフザインの王子を欲しがってる…趣味人がいまして。
けれど王城には暗殺者が居るので、王子は諸侯を転々とし、居が定まらない上、凄腕の護衛が付いている。
…もちろん、ここにもその護衛は、付いて来ています。
が、機会はこの国の方がある」
エドアルドは興味無さげに、その男を見た。
男はまた、笑った。
「貴方は、レジィリアンスが邪魔。
私は…依頼者に応え、彼をここから連れ去りたい。
どうです?利害は一致してる」
エドアルドはその男をまだ、冷たい紫の瞳で見つめた。
「…ふざけてるのか?
利害が一致しようが…」
「確かに、貴方は王室関係者とは、まだまだ疎遠。
が、南に住まうデルデロッテ殿と、懇意。
王子エルデリオンとも…面識がおありだ」
「だから…どうする?」
退屈そうに…エドアルドはけれど返答を返す。
男はにっりと、微笑んだ。
「呼び出して頂ければ。
レジィリアンスを、こちらの都合の良い場所に。
…後は、我々がする」
エドアルドは一喝した。
「ふざけるな。
ラステルを知らないのか?
私が呼び出して、シュテフザインの王子が行方不明とあらば。
ラステルは簡単に私を誘拐犯と断罪し、私が投獄される!」
男は、笑った。
「いや?
貴方は、被害者になる。
レジィリアンス同様、誘拐されかけ…。
けれど寸での所で、助かる役割。
これで、どうです?」
エドアルドは頬杖付いたまま、目を見開いた。
「…なかなか、良く出来ている」
「では、誘い出して頂ける?」
エドアルドはため息を吐く。
「それだって、簡単にはいくまい」
「策を用意致します。
貴方は、策通り動いてくれれば。
後は、我々がやる」
エドアルドは隙の無い出で立ちの、黒髪の美男が立ち上がるのを、見た。
「…聞いて、いいか?
どこの手の者だ?」
エドアルドはオーデ・フォールを取り巻く諸国の、名高い貴族の名前を期待した。
が、男は振り向き、囁く。
「…紅蜥蜴」
エドアルドは一瞬、頬についた手を頬から外し、固まった。
大陸エルデルシュベインを股にかける、巨大にして最大の、秘密結社。
時には王子をさらい、自分の懇意の王族を、王位に就ける役目すらする。
迂闊に逆らえば、自分も危ない…!
エドアルドはとっくに男が去ったというのに。
温かい日差しの、晴れ渡る青空の下、爽やかな風吹き抜ける気持ちの良いテラスで。
ぞっ…と寒気で身を震わせ、真っ青な顔色で、佇んだ。
エドアルドは王城内の宛がわれた自室で、お茶の席に集う、信奉者らを眺めた。
が、どの顔も王妃の舞踏会で、シュテフザインの王子、レジィリアンスの美貌に、目を奪われた者ばかり。
レジィリアンスには到底手が届かないから。
いつにも増して、自分の機嫌を取ってる。
そう分かると、まるで自分が…余り物のように感じ、プライドがいたく、傷つけられた。
エドアルドは大公家の跡取りだったから、誰もが丁重に扱った。
とはいえ…まだ官職の地位は低く、重臣らの住む王城の東の居室の、端の一階を宛がわれていた。
南は王室関係者のみ。
そして西は客用とされ、北は…城の中で、最も身分の低い者達が住まわされていた。
東庭園に続くテラスで、お茶会は開かれてはいたものの、エドアルドがあまりにも不機嫌なので、取り巻き達はしきりに顔色を覗う。
「…分かります。
エルデリオン王子はてっきり…女性にしか興味が無いと、もっぱらの噂。
それを…」
「貴方を差し置き、他国の美少年に惚れ込むなど…」
「明らかに、貴方への侮辱だ」
エドアルドははっきり言葉にされ、更に悔しさが湧き上がる。
結局、素晴らしく晴れ渡る青空の下。
エドアルドは自分よりは劣る、美少年揃いの侍従らに取り巻き達の相手をさせ、東庭園の散策へと追い出し。
…自分はテラスの椅子に腰掛け、ふてくされきった。
けれど向かいに、黒髪の美男が無遠慮に腰掛ける。
「…誰が許可した?」
エドアルドは不機嫌、そのもので言い放つ。
けれど真っ直ぐな黒髪を胸に流す、細面の美男は、笑う。
「貴方にとっての朗報をお持ちしたのに?」
エドアルドは斜にその男を見つめた。
笑みを浮かべ、態度は余裕。
「…どんな、朗報だ」
男はくすり…と笑う。
「…実は…ずっと、シュテフザインの王子を欲しがってる…趣味人がいまして。
けれど王城には暗殺者が居るので、王子は諸侯を転々とし、居が定まらない上、凄腕の護衛が付いている。
…もちろん、ここにもその護衛は、付いて来ています。
が、機会はこの国の方がある」
エドアルドは興味無さげに、その男を見た。
男はまた、笑った。
「貴方は、レジィリアンスが邪魔。
私は…依頼者に応え、彼をここから連れ去りたい。
どうです?利害は一致してる」
エドアルドはその男をまだ、冷たい紫の瞳で見つめた。
「…ふざけてるのか?
利害が一致しようが…」
「確かに、貴方は王室関係者とは、まだまだ疎遠。
が、南に住まうデルデロッテ殿と、懇意。
王子エルデリオンとも…面識がおありだ」
「だから…どうする?」
退屈そうに…エドアルドはけれど返答を返す。
男はにっりと、微笑んだ。
「呼び出して頂ければ。
レジィリアンスを、こちらの都合の良い場所に。
…後は、我々がする」
エドアルドは一喝した。
「ふざけるな。
ラステルを知らないのか?
私が呼び出して、シュテフザインの王子が行方不明とあらば。
ラステルは簡単に私を誘拐犯と断罪し、私が投獄される!」
男は、笑った。
「いや?
貴方は、被害者になる。
レジィリアンス同様、誘拐されかけ…。
けれど寸での所で、助かる役割。
これで、どうです?」
エドアルドは頬杖付いたまま、目を見開いた。
「…なかなか、良く出来ている」
「では、誘い出して頂ける?」
エドアルドはため息を吐く。
「それだって、簡単にはいくまい」
「策を用意致します。
貴方は、策通り動いてくれれば。
後は、我々がやる」
エドアルドは隙の無い出で立ちの、黒髪の美男が立ち上がるのを、見た。
「…聞いて、いいか?
どこの手の者だ?」
エドアルドはオーデ・フォールを取り巻く諸国の、名高い貴族の名前を期待した。
が、男は振り向き、囁く。
「…紅蜥蜴」
エドアルドは一瞬、頬についた手を頬から外し、固まった。
大陸エルデルシュベインを股にかける、巨大にして最大の、秘密結社。
時には王子をさらい、自分の懇意の王族を、王位に就ける役目すらする。
迂闊に逆らえば、自分も危ない…!
エドアルドはとっくに男が去ったというのに。
温かい日差しの、晴れ渡る青空の下、爽やかな風吹き抜ける気持ちの良いテラスで。
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