森と花の国の王子

あーす。

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接近

王妃付き侍女達のお茶会 1

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 食後、レジィリアンスはラステルに、南の庭園へと散歩に誘われた。
「…南の庭園は、王家専用の庭園ですので。
王家に関係の無い者は、入れません」

レジィリアンスはラステルを見上げた。
「…でも、貴方は入れるのですね?」
ラステルは爽やかに笑った。
「王家に仕えている…側付の貴族は入れますから」

庭園は、刈り込まれた木々のついたてであちこちが仕切られ、迷路のよう…。
するとついたての奥から、華やかな笑い声がして…。
レジィリアンスはそっと…声のする方へ。
花咲き乱れる庭園の奥へと、歩き出した。

「レジィリアンス様!」
茂みの向こうの、侍女達に呼び止められ、レジィリアンスはそっと茂みを掻き分けた。

華奢な白い庭園用、円テーブルを囲む椅子に腰かけ、色とりどりの華やかな衣装をまとった五人の美しい侍女達が。
軽やかな笑い声を立てながら、レジィリアンスを出迎えた。

侍女達は皆、身分高い貴族の娘達で、王妃に仕え宮廷に住んでいたから、舞踏会でもレジィリアンスの姿を見かけていた。

「こちらでご一緒に、お茶を召し上がりません?」
年上と解る艶やかな美女に誘われ、レジィリアンスはおずおずと、彼女達の輪の中に入って行った。

空いている椅子を示され、レジィリアンスは腰掛ける。
茂みに振り向くが、ラステルの姿は、いつの間にか消えていた。

まだ五月の、爽やかな風が優しく吹き、輝く陽光の中。
年頃の女の子達の憧れの嫁ぎ先、王子エルデリオンがとうとう、森と花の王国《シュテフザイン》から花嫁を連れ帰った。
そう噂が国中を駆け巡り、レジィリアンスの存在は常に多くの人達の、ひそひそ話しの種だったから。
彼女達は自国の王子の選んだ相手を、吟味する機会が持てた事に、少なからず興奮している様子だった。

それぞれ皆美しい女性達だったが、レジィリアンスの愛らしい美貌は、群を抜いていた。
美女達はそれを感じ、レジィリアンスの初々しい美しさにそれぞれ、目を止める。

「エルデリオンは様はどうです?」
硬くなっているレジィリアンスにお茶のカップを差し出しながら、若草色のドレスをまとった、年長の美女が切り出す。

レジィリアンスは昨晩の事を思い返し、思わず俯いてしまった。
「…とてもご立派で…紳士的なお方ですね」
はにかむように微笑むと
「あら、まあ!」
年長の美女の横にいた、ブロンドの華やかな顔立ちの美女が途端、叫ぶ。
「…やはりそうなのね。王妃様のご心配の通り!」
年長の、明るいブラウンの髪を結い上げた艶やかな美女は、彼女をたしなめるように眉を寄せた。
「ご紹介しなくては。
わたくし共は王妃様付きの侍女ですの。
わたくしはエーメ・フェドリック。こちらは…」
先ほどの、ブロンドを指した。
「フランセ・シッタウッド」

紹介を受け、フランセは会釈した。
するとブロンドの横にいた、顔立ちは整ってはいるが控えめな出で立ちの、でも素晴らしく豊満な胸をした、黒髪の女性がみずから名乗った。
「アレキサンドラ・リネスでございます」

アレキサンドラから少し離れた所に座る2人は、まだ少女のようだった。
「アルデリッテ・フォスナーと申します」
「シャルロッテ・デリッツでございます」

アルデリッテはダークブロンドで、その落ち着きが、大人びて見えた。
シャルロッテは柔らかなブロンドで、とても可愛らしく、愛らしい少女だった。

先の三人の、完成された女らしさとはまた違い、初々しさが、2人にはあった。
皆とても洗練され、素晴らしく豪華に見える衣装を着こなし、まるで花が咲き誇るような華やかな美女達。

レジィはたった一言発しただけで王妃の心配と言われ、困惑した。
「あの……」
言いよどんで口火を切ると、察したかのように、エーメが囁く。
「お国ではエルデリオン様のせいで…大変な思いをされたとか」
そう言われて、レジィリアンスは思わず顔を下げた。

フランセが、明け透けに物を言う。
「何もあなた様を花嫁として差し出さないからって…お国に攻め入るなんて。
どう考えても、やり過ぎですわ」

レジィリアンスは顔を上げる。
そして…改めて思い知った。
父は…自分を差し出さないため、戦ったのだと。

ほうっ。
タメ息と共に、アレキサンドラが言う。
「男の方でも、こんなお美しい方なら。
エルデリオン様が、想いきれなくとも無理ありませんわ」

フランセが、目を細め上品な出で立ちで、明け透けに囁く。
「私ども、エルデリオン様がまだ少年の頃、情事の手ほどきを致しましたの。
ですから、ご遠慮は無用ですわ」

レジィリアンスはそれを聞いた途端、頬を真っ赤にして俯き、他の美女達はその様子を見て、一斉にフランセに振り向く。

この華やかな美人は、どうやら気配りが苦手な様子に見えた。

「…フランセ、この方、森と花の王国《シュテフザイン》のお方なのよ」
アレキサンドラに言われ、フランセは慌てて、口を閉じる代わりに優雅に扇を、口に当てた。

エーメが、優しく言う。
「エルデリオン様は…本来、とても優しいお方なんですけれど…」
女性特有の、柔らかく優しい口調。
細やかな心遣いを感じ、レジィリアンスはふいに国の父母を思って、涙がこぼれそうになった。

「……まあ…」
フランセが、心痛むようにつぶやく。
「こんなお方なら、王妃様のご心配も解るわ。
だってどう見ても、悪人はエルデリオン様の方ですものね」
フランセの言い方に、アレキサンドラが釘を刺す。
「悪人だなんて…」
「あら失礼。だってそうじゃない?
何にも知らない、こんなうぶなお方を。
花嫁にしたいが為、国に攻め入って捕虜同然に拉致し、連れていらっしゃるんですから」

「エルデリオン様が、お好きでいらっしゃらないの?」
愛らしいブロンドの少女、シャルロッテが囁く。
アレキサンドラが、タメ息まじりに言った。
「この娘、エルデリオン様に憧れているから」

少し大人びた栗毛の少女、アルデリッテは、心から同情したように言葉を発する。
「ご不幸な事だわ。
誰もが花嫁になりたいと憧れる方の、選んだお相手が。
それを、望んでいらっしゃらないだなんて」

レジィリアンスはこんな、大人びては見えるもののあどけなさの残る少女に、同情される事が恥ずかしかった。

エーメは困ったように告げる。
「でももし、レジィリアンス様が花嫁として。
宮廷で紹介されたとしても、廷臣も国民も、皆納得すると思いますけど。
レジィリアンス様に、そのつもりが無いのでしたら…」

「何も、エルデリオン様の事をご存じないから、余計だわ」
フランセが言うと、レジィリアンスは尋ね返す。
「…エルデリオン様はここでは。
申し分無いお方のようですね」

「ここでは…。そうよね。
森と花の王国《シュテフザイン》から見たらあの方、略奪者ですもの」

フランセの言葉に、皆一様に、沈んだ表情になった。
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