森と花の国の王子

あーす。

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接近

デルデロッテに意見を伺うエルデリオン

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 オレシニォン西の客用離宮に戻ると、レジィリアンスを暖炉の左側の白く美しい扉へと導き、エルデリオンは
「では…」
と告げて、扉が閉まるのを見守る。

居間のソファにエウロペが腰掛けるのを見た後。
エルデリオンも、自室に戻った。


レジィリアンスは部屋に戻ると、エルデリオンの提案について、エウロペに相談しようかと迷い…。
けれど…あんな場所を舐めて欲しい。
なんて欲求について、聞こうとするたび、恥ずかしくって…。

結局湯殿に向かい、一人用の豪勢な浴槽に浸かった。


エルデリオンは落ち着かず、部屋の中を歩き回る。
間もなく、デルデロッテが冴えた美貌の顔を覗かせ、室内へ入って扉を閉めた。
「ご用ですか?」

エルデリオンは縋るような目で、デルデロッテを見つめ…暖炉の前の、ソファに寄って来るデルデロッテと、ほぼ同時に向かい合って腰掛ける。

庭園での、レジィリアンスとの会話について話すと、デルデロッテは目を、見開いた。
「…で。
それで…返答された後。
お預け食らった犬みたいに、食事を与えてくれるまで、待つつもりですか?」

エルデリオンはデルデロッテに尋ねた。
「君なら…どうしてた?」

デルデロッテは両手広げ、肩を竦めた後、言い放つ。
「私ならさっさと、抱き寄せますね」
エルデリオンは顔を上げて問う。
「だっ…そんなコトしたら…」
「大きな、毛虫が居たと、言い訳て」

エルデリオンは納得し、頷く。

「…それで?」
「出来るだけ接近し、触れて意識させ…そして、言い続ける。
どんなに、されて気持ち良かったか。
自分の体験の、良かった話をさりげなく織り交ぜながら、下品にならない程度に、男の欲求についての下ネタを。
そうすると初心うぶなレジィリアンス殿も、男にとっては当たり前の欲求なんだと理解するだろうし、興味は倍増し。
もし私がそうして、相手のソノ気を高めていたなら…」
「いたなら?」

デルデロッテは乗り出した背を、ソファにもたせかけると、言い切った。
「今頃、居間からノックの音が聞こえてる」

エルデリオンはそれを聞いて、ため息を吐いた。
「…今からなら。
どうすればいい?」

デルデロッテは、ポケットに手を入れると、出して手を開く。
エルデリオンはデルデロッテの手の平を見て、目を見開いた。
「…宝石?」

デルデロッテは頷く。
「レジィリアンス殿の、衣服から落ちた物。
つまり落とし物を届け、私がさっき言った事をしなさい。
但し。
手は出さない。
接触のみ。
部屋には毛虫が居ないので…ネズミの影を見たと」

エルデリオンは、頷く。

「出来るだけ優しく。
抱きしめて…いざその時になったら。
優しく気持ち良く、口に含まれる事を想像させる。
そしてそんな事、人にして貰うのは当たり前で、年頃の男は、申し出てくれる相手に、直ぐしてもらうもんだと、刷り込むんです」

エルデリオンはデルデロッテの手から、滑り落ちる宝石を手の平で受け止めながら、顔を下げて言った。
「君ほど首尾良く、出来る自信は無いけれど…」

デルデロッテは頷き、もう一度告げた。
「接触だけです。
顔が寄った時、相手が…口づけ、してほしそうに頬を染めても。
してはいけません。
『して下さい』と、相手に言われない限り」

エルデリオンはため息を吐いた。
「そんな言葉を…レジィリアンスから聞きたいものだ」

デルデロッテは腕を一人掛け用ソファの背に乗せ、真っ直ぐエルデリオンを、夜闇のような美しい濃紺の瞳で見つめた。
「貴方の、首尾次第。
夢では無く、現実に言わせる事が出来る」

エルデリオンは余裕たっぷりのデルデロッテをチラと見、またため息を吐いた。
「…君になりたいよ」

デルデロッテは背もたれに乗せた腕を下ろし、呟いた。
「良く言いますね。
大国の王位継承者。
この国はやがて、貴方の物なのに。
その身分に、どれだけの者が焦がれてると思ってるんです?」

エルデリオンは俯くと、呟いた。
「…けれど、君は知ってる。
私がそれを、どれ程重圧に感じてるか」

デルデロッテは横向き、人差し指を顎に当て、しばしの沈黙の後、言った。
「有能な男達が、貴方に忠誠を誓い、更に貴方に、愛情を持っている。
それを忘れなければ…厄介事は彼らが、全て片付けます」

エルデリオンは頷いた。
「いつも助けられてるのは、痛いほど感じてる」

デルデロッテはエルデリオンを見ると、素っ気無く言った。
「そろそろ、居間へ消えたらいかがです?
レジィリアンス殿が、来る気配も無いし」

エルデリオンはため息を吐くと、立ち上がり、扉へ歩き始めた。
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