森と花の国の王子

あーす。

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大国オーデ・フォール

西の庭園

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 エルデリオンとレジィリアンスは、剣を剣立てから引き抜く。
横に立たれるだけで。
エルデリオンはレジィリアンスの華奢な体付きから仄かに漂う花の香りに、気を取られた。
少し離れ、目前でレジィリアンスに剣を構えられても、上の空。

けれど…。
突然、しゅっ!と剣が降って来、エルデリオンは咄嗟、無意識に剣を振り切り、弾いてた。
カン…!

ようやく、剣を交えてると気づき、微笑む。
「…どうぞ。
遠慮無く、打ちかかって来て下さい」

レジィリアンスは剣を後ろに下げ、突っ込んで行って、剣を斜めから振り下ろす。
エルデリオンはやはり反射的に弾き返すけど…。
レジィリアンスのピンクの唇が視界に飛び込み、真剣な表情をした愛らしい彼の姿を夢中で、目で追った。

横に回り込む際、走りながら散る豪奢な金の髪。
キラリと光る、青い宝石のような大きな瞳。
そして柔らかな…ピンクの唇。

美しいだけで無く…甘く、愛らしくって、エルデリオンは大国と呼ばれるオーデ・フォール中央王国ですら、滅多にお目にかかれない美貌の少年王子に見とれた。

カンッ!カンカンッ!

反射的に打ちかかって来るレジィリアンスの剣を弾きながら、間近でガッ!と剣を合わせた時。
直ぐ目前にレジィリアンスの美しい顔が迫り、エルデリオンは必死で足を止めた。

剣をレジィリアンスの手から叩き落とし、腕を引いて抱き寄せる事など簡単。
それを、今にもしてしまいそうで、必死に自分を押しとどめる。

剣を外し、背後に跳ね飛んだレジィリアンスの、眉が微かに寄る。

エルデリオンはラステルのせっかくの気遣いをムダにすまいと、今度は自分からレジィリアンスの剣目がけ、打って出た。

ガッッッ!
レジィリアンスの剣がぶれ、手から飛びそうになって、エルデリオンはハッ!と我に返る。
力加減がまるで出来ず、強すぎた…!

けれどレジィリアンスは悔しそうな表情を見せると、直ぐ剣を握り直し、振り上げ、エルデリオンに向かって降り下ろす。

無意識に避けていた。
が、ひょい。と軽々横に避けられたレジィリアンスは、ムキになる。
悔しげにピンクの唇を噛みながら、今度は斜め横から。
エルデリオン目がけ、剣を振り下ろした。

けれどエルデリオンは持っていた剣を軽く持ち上げ、それを弾く。
カンッ!

ムキになる顔まで可愛らしく、愛おしくて…。
つい…エルデリオンは笑っていた。
けれどレジィリアンスはその余裕に、余計腹を立ててる様子。

続けざまに剣を振り込む。
カンッ!カンカンカンッ!

エルデリオンは剣を振りながら、突進して来るレジィリアンスが、間近に見られ、離れ…また間近に迫る様子に、幸福感に浸りきる。

レジィリアンスがどんなに打ちかかっても、微笑を浮かべたまま簡単に剣を弾く余裕のエルデリオンに、どんどんかっかし頭に来て、更に突進し、真剣に打ちかかっていく様を。

エリューンもテリュスも、デルデロッテもが、見た。

とうとうデルデロッテは、手を軽く上げて、合図を出す。
すると端の茂みの間から、貴族の子弟四人が、姿を現した。

「…おや。
我々の場所を使われてる」
「…あんな美少女…この国に居たか?」
「…エルデリオン王子…!
これは大変、失礼致しました!」

テリュスとエリューンは揃って、合図を送ったデルデロッテを、白けた表情で見た。
気づいたデルデロッテは
「やらせじゃないですよ。
こちらに入ってもいい。
と言う合図です。
進入禁止に、してありましたので」
と言い訳た。

「…もう通れるの?
あら!エルデリオン様!」
「え?
エルデリオン様?!
お珍しい…!」
子弟達の後から、貴族の若い娘三人が、華やかなドレスをまとって、姿を現す。

レジィリアンスが気づいて剣を止め、エルデリオンもどう返答して良いのか、困惑しながら振り向いた。

「エルデリオン様?!
エルデリオン様がいらっしゃるの?!」
かしましい声と共に、紫色のドレスを纏って現れたのは、濃い栗毛の美少女。
「かついで、いらっしゃらないこと?
エルデリオン様は花嫁捜しでお忙しくって、暫くこの王宮には…」
ぼやきと声と共に現れたのは、ピンクの花柄の、華やかな金髪の美少女。

が、振り向くエルデリオンを見た途端、頬を染めて頭を下げる。
「あ…あら!
失礼致しました…!」

貴族の子弟達は、レジィリアンスに寄って来ると、笑顔で声をかける。
「エルデリオン様のお相手をなさるなんて…!
とても綺麗で、お可愛らしいのに、実は凄腕ですか?」
「素晴らしい使い手で、いらっしゃるんでしょうね?」

レジィリアンスはそれを聞くなり、剣も顔も下げた。
だってどれだけ打ちかかっても、簡単にエルデリオンに弾かれてしまっていたから。

少女達はエルデリオンを取り囲むと、かしましく話しかけた。
「いつ、王宮に戻っていらしたの?」
「ちっともお姿が見えず、とても寂しゅうございましたわ?」
「こんな所で剣など振り回さず、舞踏会においでになって頂ければ、嬉しゅうございますのに…!」

エルデリオンは困惑しきって、背後、デルデロッテに振り向く。
デルデロッテは笑顔で声を発した。

「君達、今日はどのお嬢さんのお約束をかけて、戦うつもりだったんだ?」

レジィリアンスの横の貴公子が、顔を上げる。
「デルデロッテ殿…」
他の子弟らも、振り向いて返答する。
「貴方の前で、お見せする腕前ではございませんが…」
「キャスリン嬢の、今夜のダンスをかけて。
剣を交えるつもりでした」
「アナスタシア嬢と、ご一緒できる昼食会も賭けておりまして」

デルデロッテは素早くエルデリオンに告げる。
「紫のドレスのレディが、アナスタシア嬢。
花柄のレディが、キャスリン嬢です」

すると、最初に現れた少女ら三人が、騒ぎまくる。
「まあ!
デルデロッテ様にお名前を覚えて頂けてるなんて!」
「美人は、得ね!」
「羨ましいわ…!」

けれどデルデロッテは微笑んで
「シャロン嬢、アナベラ嬢、サラ・アン嬢。
ちゃんと貴方がたのお名前も、覚えてますよ」
と声かけるものだから、三人の少女らは、頬染めて感激する。

がその後、デルデロッテが一言付け足した。
「でもその賭けに、もしエルデリオン王子が参加されたら…」

途端、紫のドレスと花柄のドレスの美少女二人が、きゃーっ!と歓声を上げる。
言われた当のエルデリオンは、困惑しまくるのに、貴族の子弟達は、エルデリオンに挑戦的に告げた。

「幾ら王子でいらしても。
それはないですよ」
「貴方が勝つに、決まってる!」
「どうか今日は、ご遠慮下さい」

レジィリアンスは突然の大騒ぎに、目を見開き、華やかな大国貴族の少年、少女らを、呆然と見つめた。
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