森と花の国の王子

あーす。

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大国オーデ・フォール

デルデロッテとの格差を意識するエルデリオン

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 ラステルが各自の部屋で荷物を片付けてる、皆に告げる。
「そろそろ夕食の用意が出来ました」

そして、テリュスの部屋に入り浸ってるレジィリアンスの元へと、足を運ぶ。
けれど部屋の外の、扉の後ろから。
覗いていたエルデリオンは、動かず。
デルデロッテは扉の外の壁で、腕組みして立ちんぼしてるのを見て、ラステルは軽く肩を竦めた。

「レジィリアンス殿。
我々は食堂で食べますが。
貴方とエルデリオン様は、お部屋に運ばせる事が出来ます」

レジィリアンスはテリュスの、壁紙に合わせた緑色の、布団の敷かれた寝台の上に座っていたけれど。
直ぐ、顔を上げて笑顔で告げる。
「私も食堂で。
みんなと一緒に食べたい」

ラステルが笑顔で頷く。
レジィリアンスは直ぐ、再びラステルに振り向いて叫んだ。
「あ、私の事は、レジィ…って。
実はテリュスもエリューンも…エウロペも。
内輪ではそう呼んでくれる」

ラステルは再びにっこり微笑むと
「では、レジィ。
貴方の食事は食堂にご用意します。
朝は、どうします?
寝室までお持ちしますから、横たわったまま食べられますよ?」
と尋ねた。

レジィリアンスは直ぐ、言葉を返した。
「食堂で。
エウロペと一緒だと、凄く安心だから!」

ラステルは笑顔で頷き、背を向け戸を潜ると…楽しそうなレジィリアンスを戸口でこっそり覗いてるエルデリオンに、小声で念押す。
「…つまり貴方も。
夕食も朝食も、食堂ですね?」

エルデリオンは、クローゼットに衣服をしまってるテリュスを見てる、楽しそうなレジィリアンスに視線を向けたまま、頷く。

レジィリアンスは
「壁紙が緑だと、布団もクローゼットの色も、テーブルでさえ、緑なんだねぇ…」
と感心したように室内を見回す。

テリュスが振り向き
「じゃ、食事にするか!
もうぺこぺこ」
と言うので、レジィリアンスははしゃいでテリュスより先に、部屋を出た。

戸口で覗いてたエルデリオンは慌てて離れ、壁に背をもたせかけ、腕組みしてるデルデロッテはそのまま残り…。
レジィリアンスは直ぐ横の壁に立ってるデルデロッテに、気づいて尋ねる。

「…深紅の、壁紙なんですか?」
デルデロッテは自分からしたら、うんと背の低いレジィリアンスに微笑みかけ、告げる。
「…見ます?」

レジィリアンスは頷き、後から出て来たテリュスに
「俺は先に行って、座ってるから!」
と叫ばれ、デルデロッテの後に付いて歩き始めながらも、振り向いて頷いた。

その際テリュスは、凄くわざとらしく背を向けつっ立つ、エルデリオンの横を通り過ぎながら、不審そうにしゃれ込んだ緑色の上着の、貴公子の背を見つめた。

デルデロッテが扉を開けると、レジィリアンスは目を見開く。
「…ホントに全部が深紅!
けど凄く…お洒落で優美…」

デルデロッテは戸口で腕組みし、室内をきょろきょろ見回しながら歩き出す、レジィリアンスを見つめ、ぼやく。
「…そうですか?
女性向きですよね?」

「だって…深紅に金飾りだと、豪華すぎて落ち着かないけど…。
アクセントの色が、金じゃ無くてパール色だから…」
デルデロッテに振り向くが、レジィリアンスの視線は深紅のクローゼットに釘付け。
感嘆したように、囁く。
「壁紙の色が違うだけで…ほぼ同じ配置でも、こんなに印象、違うんですね…」

デルデロッテは顔を下げた。
「壁紙だけならまだしも。
別に家具まで同色にしなくても、いいと思うんですけどね。
…気に入った?」

レジィリアンスは長身のデルデロッテに振り向くと、頷き…その後、彼があんまり男らしい美しさで、見惚れて頬を染めた。

艶のある焦げ茶の長いくねる髪が、彼の胸元を飾り、腕組みしていたけどその胸元は、どきりとする程、男の色香が溢れ、抱き寄せられたりしたら、頬が真っ赤に染まりそう。
夜闇のような濃紺の瞳は、きらりと光るととても強く印象に残り、整いきった顔立ちは本当に美しいのに、男らしさは少しも、損なわれない…。

エルデリオンはやっぱりこっそり、戸の外で覗いていたけど。
「(…やっぱり、デルデロッテも意識されてる…)」
とレジィリアンスの表情を、喰い入るように見つめた。

けれどデルデロッテは綺麗に微笑んで、からかうような口調で告げる。
「私を見る女性は、大抵そういう顔をします。
けど自分の恋人にそんな顔をされた男は大抵、私を睨み付けますけどね」

それを聞いたエルデリオンは
「(…そうか…。
私はデルデロッテを、睨まなきゃ成らない場面だったのか…)」
と思い、顔を下げる。

が、レジィリアンスは首を傾げた。
「そうなんですか?
だって…貴方みたいに洗練され、お洒落で…綺麗で男らしい男性は、シュテフザイン森と花の王国で、見た事ありません」

デルデロッテは肩を竦めた。
「逆に、この国ではエウロペ殿のように。
素朴で自然の気配と迫力を感じさせる、野性味がありながらも抑制のよく効いた、颯爽とした出で立ちの男性は珍しいから。
彼が宮廷に出たら、女性達に色目使われまくりますよ」

そう言って、ウィンクするものだから。
レジィリアンスはとうとう、くすくす笑い出した。

エルデリオンはデルデロッテの話術に、呆けた。
確かに彼は、自分の時も。
凝り固まった心を、ほぐしてくれた…。

茶化すような物言いで、どうにもならない事で思い悩むなんて、馬鹿げてる。
そんな暇があったら、楽しい事を見つけ、楽しむ方が、数倍いい。
…いつもそう、導いてくれていた…。

エルデリオンはため息を吐くと、どう頑張ってもデルデロッテのようには、レジィリアンスの笑顔は引き出せそうに無い。
と感じ、落胆のため息を吐いた。

ちょうど隣部屋から出て来たロットバルトに
「…まだお声もかけられず、覗き見ですか?」
ほうけて告げられ、エルデリオンは赤面して、背を向けるロットバルトの後ろに続き、食卓へと向かった。

追いついたデルデロッテは、横のレジィリアンスをエウロペの開いた横の席に促し、自分はエルデリオンの、横に座る。

エルデリオンが俯いてるのを見、デルデロッテは小声で告げた。
「私が彼を笑顔にした事で、コンプレックス感じていらっしゃる?
でも、私にはそれが出来る」

エルデリオンは俯き、無言で頷く。
「…理由が、分かります?」
デルデロッテに問われ、エルデリオンは顔を上げて聞き返した。
「理由が、あるの?」

デルデロッテは子供の頃のようなエルデリオンの問いに、懐かしそうに少し、目を細め…そして言った。
「…私はレジィリアンス殿に、欲情してないから」

それを聞くなり、エルデリオンは赤面して顔を下げた。
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