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大国オーデ・フォール
エルデリオンの遠ざかる思惑
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エルデリオンは寝台に横たえられてると感じ、身を起こす。
けれどそこは…見慣れた王宮の私室では無く…明るい若草色の壁紙に、ピンクの小花が散りばめられた…客室のように、思われた。
「オレシニォンです。
レジィリアンス殿は、そちらの扉を開けた部屋の、その奥の寝室にいらっしゃいます」
途端、エルデリオンは寝台から転げ落ちる。
ガタガタ…ガタンッ!
けれど転がったついでに起き上がり、扉に向かって走り出そうとするから…デルデロッテはエルデリオンが目前を通り過ぎる際、腕を掴む。
突然、腕を引き留められて、エルデリオンは前につんのめって、転びそうになるので…デルデロッテはもう片腕を、エルデリオンの腹に差し入れ、転ぶのを防いだ。
「…そんなヨレた格好で。
突撃したら、警戒心バリバリで、言葉も交わせませんよ」
デルデロッテに言われ、エルデリオンは横の、吊り下げ鏡の自分を見た。
確かに髪もボサボサ、衣服も胸元が開かれ、ヨレきってる。
開いた扉の、その向こうの箪笥部屋で、ロットバルトが声を発した。
「で、どの衣服に着替えます?」
エルデリオンはデルデロッテに腕を強引に引っ張られながら、レジィリアンスの部屋に続く扉の前を通り過ぎ、ロットバルトの居る続き部屋へと、連れ込まれた。
衣装箪笥とソファのある部屋で、ロットバルトが箪笥を開け、幾つかの衣服を手に取り、エルデリオンに指し示す。
エルデリオンが紺のビロウドの上着を見、首を縦に振ろうとすると、まだ腕を掴んでるデルデロッテが、次にロットバルトが手に取った、緑の上着に頷く。
「そちらの方が、優美だ」
が、エルデリオンは異論を唱えた。
「…だが、男らしく見えるのは、紺の方だ」
デルデロッテは濃紺の瞳の、美しい顔をエルデリオンに向け、言い渡す。
「あまり男くささを強調すると。
レジィリアンス殿に意識され、引かれますよ?
この際、軟弱に見えるほど優美に装って、警戒心を解かないと」
エルデリオンはずっとデルデロッテの言う通りにした結果、レジィリアンスが微笑んでくれ、ここに残ってくれた事を思い返し、ぐっ…と自分の、男らしさをうんとアピールし、レジィリアンスに男として意識されたい…。
と言う虚栄心を控え、ハンガーにかかった緑色の衣服を持ち上げ、尋ね顔してるロットバルトに、頷いた。
エルデリオンが心から不満げな表情で、レースのシャツの上に緑の上着を着、ロットバルトやデルデロッテに、襟や裾を直されていると。
デルデロッテはエルデリオンのふくれっ面を見、ぼそり。と忠告を口にする。
「共通の居間からレジィリアンス殿の寝室に、突撃したいでしょうが…」
ロットバルトが直ぐ、口挟む。
「ラステルが呼び鈴の数を…めちゃくちゃ増やしたから。
部屋に押し入るなり、レジィリアンス殿に直ぐ紐を引かれ、居間に鐘が鳴り響きますぞ?」
エルデリオンとデルデロッテが、ひっくり返った袖を直しながらそう言うロットバルトに、揃って振り向く。
デルデロッテはそれを聞いて俯くと
「きっとエリューン殿は、今度は剣を抜いて。
侵入者の貴方の首に、剣を押しつけ脅すでしょうね…」
とぼやいた。
エルデリオンは“もうエリューン殿を、止めたくも無い”とため息吐く、デルデロッテに振り向く。
「そうなったら君が…」
「そうならないよう貴方が!
行動を控えて下さい」
尋ねかけた途端、デルデロッテにきっぱり言い渡され、エルデリオンは顔を下げた。
エルデリオンが付き従うロットバルトとデルデロッテと共に、共同の居間に足を運ぶと。
レジィリアンスの部屋の扉の、居間を挟んで向かい合わせの従者の部屋の一つから、変声期前のはしゃいだ声が聞こえる。
「綺麗…!」
エルデリオンが思わず近寄ると、デルデロッテに肩を引かれ、言い含められた。
「努めて、お上品に」
その後、ロットバルトにまで
「お上品の言葉の意味は…分かっていらっしゃるはず」
と言われ、ぶんむくれた。
が、中ではエリューンがエウロペに
「どうして私が、緑の壁紙の部屋なんです?
緑は貴方がお似合いなのに」
と少し憮然と告げていて、エウロペは少し背の低いエリューンを見下ろし
「そういう問題じゃ無い。
紺の壁紙の部屋が、レジィリアンスの部屋の扉に一番近いだけだ」
と言い諭していた。
レジィリアンスは長方形の部屋で、正面は掃き出し窓で、庭に直ぐ出られ、外にもテーブルと椅子のある、簡素だけど居心地良さげな部屋を見回していた。
が、振り向いて叫ぶ。
「私の部屋は、二部屋あるから!
衣装箪笥のある部屋に、エウロペの寝台を運んだら?!」
エルデリオンは出来れば夜中こっそり、夜這い…までは出来なくとも、寝顔くらいは見に行こう。
と内心思っていただけに、その言葉に顔を下げた。
物音をほんの少し立てただけで。
エウロペに扉を開けて飛び込まれ、取り押さえられる絵が浮かんで。
ラステルは即座に
「では、何かあった時、いつでもどなたか泊まれるように。
簡易ベットとして使える寝椅子を、箪笥部屋と寝室に、置かせて頂きます」
と告げ、部屋から出て来て…戸口で覗いてるエルデリオンの横を通り過ぎながらエルデリオンの顔を、しげしげと凝視した。
けれど背後のデルデロッテとロットバルトの、呆れたり沈んだりの表情を見、ナニも言わず通り過ぎると、召使いに直ぐ、寝椅子と余分な枕、布団を置くようにと、言い渡す。
それでもエウロペは、レジィリアンスの部屋の扉の、真正面の部屋をエリューンに譲らず、テリュスにこっそり
「俺の茶色の壁紙の部屋と、交換するか?」
と問われたエリューンは、迷った末、頷いた。
「…緑よりは…落ち着くかも」
けれど戸の外でロットバルトが
「…俺の部屋の壁紙なんて、海老茶だぞ?」
とぼやき、デルデロッテに
「…私の部屋なんて、深紅ですよ」
と言い返され、負けて顔を下げた。
戸の外から聞こえて来る二人の声に、エウロペとエリューンは顔を下げると、エリューンが囁く。
「…壁紙にこだわるなんて…馬鹿な事を言いました」
エウロペが頷き、ラステルは笑顔で部屋に再び戻って来て
「直ぐ、寝椅子をご用意致しますので!」
と言った途端、みんなに顔を見つめられ、目を見開く。
テリュスが代表して、小声で尋ねた。
「…ちなみに、貴方の部屋の壁紙の色は?」
ラステルはにっこり微笑むと
「空色ですよ」
と答えた。
レジィリアンスは笑顔で
「部屋の家具の配置は、みんな一緒?」
と聞き、ラステルに
「左右対称だったりもしますが。
ほぼ、同じですね」
と言葉を返され
「じゃ朝、掃き出し窓から外へ出たら、同様外に出てる人に会える?」
とはしゃいで聞く。
ラステルは笑顔で
「ええ」
と言うと、レジィリアンスは羨ましそうに窓の外を見た。
テリュスはそれを見て、こっそり提案する。
「じゃ、時々私と部屋を、交換する?
…緑の壁紙の部屋でも、いいのなら」
レジィリアンスは頷き
「緑の壁紙の、どこが悪いのか分からない」
と笑顔で返答していた。
エルデリオンはそれを聞いて、忍んで行って寝台を覗いたら、テリュスだった。
と言う、考えたくも無い想像をしてしまい、ますます顔を下げきった。
けれどそこは…見慣れた王宮の私室では無く…明るい若草色の壁紙に、ピンクの小花が散りばめられた…客室のように、思われた。
「オレシニォンです。
レジィリアンス殿は、そちらの扉を開けた部屋の、その奥の寝室にいらっしゃいます」
途端、エルデリオンは寝台から転げ落ちる。
ガタガタ…ガタンッ!
けれど転がったついでに起き上がり、扉に向かって走り出そうとするから…デルデロッテはエルデリオンが目前を通り過ぎる際、腕を掴む。
突然、腕を引き留められて、エルデリオンは前につんのめって、転びそうになるので…デルデロッテはもう片腕を、エルデリオンの腹に差し入れ、転ぶのを防いだ。
「…そんなヨレた格好で。
突撃したら、警戒心バリバリで、言葉も交わせませんよ」
デルデロッテに言われ、エルデリオンは横の、吊り下げ鏡の自分を見た。
確かに髪もボサボサ、衣服も胸元が開かれ、ヨレきってる。
開いた扉の、その向こうの箪笥部屋で、ロットバルトが声を発した。
「で、どの衣服に着替えます?」
エルデリオンはデルデロッテに腕を強引に引っ張られながら、レジィリアンスの部屋に続く扉の前を通り過ぎ、ロットバルトの居る続き部屋へと、連れ込まれた。
衣装箪笥とソファのある部屋で、ロットバルトが箪笥を開け、幾つかの衣服を手に取り、エルデリオンに指し示す。
エルデリオンが紺のビロウドの上着を見、首を縦に振ろうとすると、まだ腕を掴んでるデルデロッテが、次にロットバルトが手に取った、緑の上着に頷く。
「そちらの方が、優美だ」
が、エルデリオンは異論を唱えた。
「…だが、男らしく見えるのは、紺の方だ」
デルデロッテは濃紺の瞳の、美しい顔をエルデリオンに向け、言い渡す。
「あまり男くささを強調すると。
レジィリアンス殿に意識され、引かれますよ?
この際、軟弱に見えるほど優美に装って、警戒心を解かないと」
エルデリオンはずっとデルデロッテの言う通りにした結果、レジィリアンスが微笑んでくれ、ここに残ってくれた事を思い返し、ぐっ…と自分の、男らしさをうんとアピールし、レジィリアンスに男として意識されたい…。
と言う虚栄心を控え、ハンガーにかかった緑色の衣服を持ち上げ、尋ね顔してるロットバルトに、頷いた。
エルデリオンが心から不満げな表情で、レースのシャツの上に緑の上着を着、ロットバルトやデルデロッテに、襟や裾を直されていると。
デルデロッテはエルデリオンのふくれっ面を見、ぼそり。と忠告を口にする。
「共通の居間からレジィリアンス殿の寝室に、突撃したいでしょうが…」
ロットバルトが直ぐ、口挟む。
「ラステルが呼び鈴の数を…めちゃくちゃ増やしたから。
部屋に押し入るなり、レジィリアンス殿に直ぐ紐を引かれ、居間に鐘が鳴り響きますぞ?」
エルデリオンとデルデロッテが、ひっくり返った袖を直しながらそう言うロットバルトに、揃って振り向く。
デルデロッテはそれを聞いて俯くと
「きっとエリューン殿は、今度は剣を抜いて。
侵入者の貴方の首に、剣を押しつけ脅すでしょうね…」
とぼやいた。
エルデリオンは“もうエリューン殿を、止めたくも無い”とため息吐く、デルデロッテに振り向く。
「そうなったら君が…」
「そうならないよう貴方が!
行動を控えて下さい」
尋ねかけた途端、デルデロッテにきっぱり言い渡され、エルデリオンは顔を下げた。
エルデリオンが付き従うロットバルトとデルデロッテと共に、共同の居間に足を運ぶと。
レジィリアンスの部屋の扉の、居間を挟んで向かい合わせの従者の部屋の一つから、変声期前のはしゃいだ声が聞こえる。
「綺麗…!」
エルデリオンが思わず近寄ると、デルデロッテに肩を引かれ、言い含められた。
「努めて、お上品に」
その後、ロットバルトにまで
「お上品の言葉の意味は…分かっていらっしゃるはず」
と言われ、ぶんむくれた。
が、中ではエリューンがエウロペに
「どうして私が、緑の壁紙の部屋なんです?
緑は貴方がお似合いなのに」
と少し憮然と告げていて、エウロペは少し背の低いエリューンを見下ろし
「そういう問題じゃ無い。
紺の壁紙の部屋が、レジィリアンスの部屋の扉に一番近いだけだ」
と言い諭していた。
レジィリアンスは長方形の部屋で、正面は掃き出し窓で、庭に直ぐ出られ、外にもテーブルと椅子のある、簡素だけど居心地良さげな部屋を見回していた。
が、振り向いて叫ぶ。
「私の部屋は、二部屋あるから!
衣装箪笥のある部屋に、エウロペの寝台を運んだら?!」
エルデリオンは出来れば夜中こっそり、夜這い…までは出来なくとも、寝顔くらいは見に行こう。
と内心思っていただけに、その言葉に顔を下げた。
物音をほんの少し立てただけで。
エウロペに扉を開けて飛び込まれ、取り押さえられる絵が浮かんで。
ラステルは即座に
「では、何かあった時、いつでもどなたか泊まれるように。
簡易ベットとして使える寝椅子を、箪笥部屋と寝室に、置かせて頂きます」
と告げ、部屋から出て来て…戸口で覗いてるエルデリオンの横を通り過ぎながらエルデリオンの顔を、しげしげと凝視した。
けれど背後のデルデロッテとロットバルトの、呆れたり沈んだりの表情を見、ナニも言わず通り過ぎると、召使いに直ぐ、寝椅子と余分な枕、布団を置くようにと、言い渡す。
それでもエウロペは、レジィリアンスの部屋の扉の、真正面の部屋をエリューンに譲らず、テリュスにこっそり
「俺の茶色の壁紙の部屋と、交換するか?」
と問われたエリューンは、迷った末、頷いた。
「…緑よりは…落ち着くかも」
けれど戸の外でロットバルトが
「…俺の部屋の壁紙なんて、海老茶だぞ?」
とぼやき、デルデロッテに
「…私の部屋なんて、深紅ですよ」
と言い返され、負けて顔を下げた。
戸の外から聞こえて来る二人の声に、エウロペとエリューンは顔を下げると、エリューンが囁く。
「…壁紙にこだわるなんて…馬鹿な事を言いました」
エウロペが頷き、ラステルは笑顔で部屋に再び戻って来て
「直ぐ、寝椅子をご用意致しますので!」
と言った途端、みんなに顔を見つめられ、目を見開く。
テリュスが代表して、小声で尋ねた。
「…ちなみに、貴方の部屋の壁紙の色は?」
ラステルはにっこり微笑むと
「空色ですよ」
と答えた。
レジィリアンスは笑顔で
「部屋の家具の配置は、みんな一緒?」
と聞き、ラステルに
「左右対称だったりもしますが。
ほぼ、同じですね」
と言葉を返され
「じゃ朝、掃き出し窓から外へ出たら、同様外に出てる人に会える?」
とはしゃいで聞く。
ラステルは笑顔で
「ええ」
と言うと、レジィリアンスは羨ましそうに窓の外を見た。
テリュスはそれを見て、こっそり提案する。
「じゃ、時々私と部屋を、交換する?
…緑の壁紙の部屋でも、いいのなら」
レジィリアンスは頷き
「緑の壁紙の、どこが悪いのか分からない」
と笑顔で返答していた。
エルデリオンはそれを聞いて、忍んで行って寝台を覗いたら、テリュスだった。
と言う、考えたくも無い想像をしてしまい、ますます顔を下げきった。
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