森と花の国の王子

あーす。

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大国オーデ・フォール

デルデロッテの忠告

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 かなり速度を上げ、休みも取らず、一行は森の中を駆け続けた。
やがて昼をかなり過ぎた頃、鬱蒼とした森を抜け、木々もまばらな草原に出る。
上下に起伏の激しい岩道を抜けた後、その丘に出た。

進み出たエウロペは、背後のレジィリアンスの横に避け、レジィリアンスは馬上でその景色を眺めた。

丘の目前に、一気に広がる広大な風景。
高いその場所から眼下に見下ろす、どこまでも広がる景色の、遙か遠い先。
遠目からでもその大きさが推し量れる、高台に白石で出来た荘厳な城が、そびえ立っていた。

高台の下には、数え切れない程の屋敷や街が。
くねった細い道々は、城を中心に幾つもその裾野すそのを広げてる。

道に沿って小さな建物が無数に見え、その家々はこちらに向かう程だんだん、まばらに、小さくなっていく。

その間に荘園や草原。
小さな林、まばらな木々が、なだらかな曲線の上に緑のアクセントを散りばめていた。

『これが、オーデ・フォール中央王国

木々に囲まれ、起伏が多くて平地の少ないシュテフザイン森と花の王国と違って、広々と広がる平地の王国。

国の中心に位置する高台には、美しくも立派で荘厳な白亜の城。
けれどここはまだ、王都に過ぎない。
この東西に、オーデ・フォール中央王国の領土は広がっていく…。

一行は丘を駆け下り、王城へ向かう道をひた走る。
降りきった広い草地で、やっと休憩を取った。

レジィリアンスは空の馬車を引く御者の背後、ずらりと群れるオーデ・フォール中央王国の騎兵らの、数の多さに目を見張った。
ずっと森の中を走っていたから、木々に隠れて背後に続くその数が、どれ程多いのかを目にしたのは、初めて。

エルデリオンは馬上で、先に馬から降りたロットバルトに木筒の飲み物を渡され、一気に喉を潤した。
ラステルがバスケットを広げ、折りたたみ用の椅子をも広げ、待っているので馬から降りて歩み寄る。
エルデリオンの視線が、少し離れた場所でやっぱりバスケットから食べ物を出して囲む、シュテフザイン森と花の王国の皆を見やる。

レジィリアンスはピクニックのようなその昼食に、はしゃぐ様子すら見せ、エウロペやテリュス、エリューンに順繰りに、笑顔を向けていた。
そうする気は無かったけど、気づくとエルデリオンは腰を浮かせ、デルデロッテに袖を掴まれ、囁かれていた。
「邪魔は無粋。
レジィリアンス殿をもっと元気にしたいのなら。
しょっ中顔を出してはいけません。
貴方の、逆をしないと」

エルデリオンは浮かせた腰を椅子に落とすと、横のデルデロッテに振り向く。
「逆?」
デルデロッテは具材を挟んだバケットを囓りながら、頷く。
「しょっ中顔を見れば、やがて見飽きます。
けれど貴方は二ヶ月間もレジィリアンス殿を見られず、結果思いが募って恋い焦がれてる。
もし、貴方が暫く姿を消したら。
レジィリアンス殿は貴方のように、思いは募らせないとは思いますが、たいそう気になさるでしょうね。
どちらがいいんです?
鬱陶うっとおしがられるのと。
姿が見られず、寂しく思われるのとでは?」

結果、エルデリオンはそのまま椅子から立たず、憮然と昼食を終えた。
出立の為、馬に寄って騎乗しようと手綱を握った時。
視線に気づいて振り向くと、レジィリアンスと目が合う。
彼は恥ずかしげに頬を染めて俯いた後、微笑んで頷いた。

エルデリオンは心が浮き立ち、全開の微笑を送って頷き返した後、横に騎乗したデルデロッテに、馬に乗りながら弾んだ声で報告した。
「君の、言うとおりだった!」
デルデロッテは頷きながら、尋ねる。
「…ラザフォード(追い出された従者頭)はこんな場合、どう勧めましたか?」

エルデリオンは少し考え込むように顔を下げ、その後デルデロッテの整いきった男らしい美貌を目にし、囁く。
「特には…。
けど彼は…気に入った女性がいたら、できうる限りお側に控え、何かとお世話をして、自分を印象づける事が大切だと…」

デルデロッテは大きく頷く。
「彼が憧れの女性にそれをして…三度、振られてるのを私は見ている。
女性は鬱陶しがってるのに、まるで気づかず、ずっと付きまとうものだから」

エルデリオンはそれを聞いて、青ざめて顔を下げた。
それを見たデルデロッテは、小声で尋ねる。
「今まで貴方はどんな女性でも、あちらの方から寄って来て、気を引きたいなんて思った事すら、無いでしょう?」

エルデリオンは無言で頷いた。

やがてラステルを先頭に、一行は走り出す。
エルデリオンはどうしても振り向いてしまい、再びエウロペの背後から馬で駆けてるレジィリアンスの姿を盗み見た。

もう、怯えたうさぎのようでは無くなって、朗らかに横のテリュスの言葉に、笑顔を向けている。

金の波打つ髪が馬上で散り、大きな青い瞳は輝き、可愛らしい唇は赤く染まっていた。

エルデリオンは心からほっとして、内心デルデロッテに、こっそり礼を告げた。
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