森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

森と花の王国〔シュテフザイン〕の者達の楽しい食事と対照的な大国従者らの問題

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 エウロペが両扉を開け、レジィリアンスの寝室を出ると、テリュスとエリューンは広い応接間で、運ばれてきた食事をテーブルに並べていた。
「…ここで…我々だけで?」

エウロペの疑問に、テリュスは頷く。
「ラステル殿が。
ゆっくり過ごして下さいと。
俺、あのお方は好きですね」

エリューンはつまみ食いするテリュスを見、ため息を吐いてエウロペに尋ねる。
「レジィリアンスはまだ…ショックが抜けないようですか?」

けれどエウロペは微笑んで背後に、視線を送る。

レジィリアンスはテーブルに並ぶ食事を見、いっぺんに笑顔を見せた。
「…ここで、みんなで?
僕たち、だけで?!」

テリュスは笑って頷くと
「早く来ないと!
無くなりますよ?!」
レジィリアンスは駆けて、テリュスの隣のソファに飛び込むように腰下ろす。
「待って!
僕も食べる!」

その元気な返答に、エリューンは心から嬉しそうに笑い、エウロペは給仕を始めた。
「ほらちゃんと、スプーンとフォークを使って。
テリュスのマネは、いけません」

テリュスとレジィリアンスは手で摘まんだ鶏肉を見、テリュスが口に放り込むとレジィリアンスもマネして放り込み。
その後エウロペから、スプーンとフォークを受け取った。

「ご馳走だね?!」

はしゃぐレジィリアンスを森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者らは嬉しそうに取り囲み、一緒に楽しく、食べて飲んだ。

 
 レジィリアンスらの部屋の、向かいの扉の奥では。
隣の一番良い部屋よりは少し手狭な、同じ造りの、装飾が茶色が基調の応接間で。
ロットバルトとラステルが暗く沈んでいた。

両開きの扉の奥の、主寝室にエルデリオンは閉じこもり、ラステルが僅かに扉を開き覗うが、窓辺に座り込んで、眠る様子が無い。

「…デルデロッテが眠り薬を盛っても、効かなかったと言ってなかった?
確か」

ロットバルトはソファに座り、項垂れながら首を縦に振る。
「…眠り薬はもう早々、盛れないだろう?
ここにお誘いして、酒を浴びるほど飲ませるか?」

向かいのソファに座るデルデロッテが、年上の重臣の言葉に顔を上げる。
「そんな事したら、意識酩酊でレジィリアンスの寝室に雪崩れ込むぞ?」

ロットバルトは聞くなり顔を下げると
「…違いない…」
と沈痛な声音で呻く。

ラステルは二人の間の一人掛けソファに腰を下ろすと、ボトルのコルクを開けてグラスに注ぎ、デルデロッテとロットバルトの前に置くと、自分用に注いだグラスを持ち上げた。
「…が、これ以上睡眠不足が続けば。
いずれ同じ失態をやらかし、完全にレジィリアンスに愛想をつかされる」

ラステルの言葉に、デルデロッテもロットバルトも顔を上げた。

ロットバルトが、デルデロッテに小声で尋ねる。
「…今から手配して…誰か、気の良い女性を送り込むか?」
が、ラステルが囁く。
「それはもちろん、こういう時はそれが一番安らぐが。
仮にもレジィリアンスを花嫁として移送中。
世間体が悪いのは当然の事だが。
恋い焦がれたレジィリアンスが隣の部屋で寝てるというのに、エルデリオンが代理の女で満足すると思うか?」

デルデロッテは無言でグラスを持ち上げ、腕組んで頷く。
「男なら当然、情事で紛らわすのが、この場合一番の特効薬だな」

ロットバルトとラステルの視線が、すました美丈夫、デルデロッテに注がれる。
ロットバルトはラステルに振り向くと
「誰かアテはあるか?」
と聞き、ラステルは首を横に振る。
「…あんな可憐で愛らしい、レジィリアンス殿を忘れさせるほどの妖艶な美女が。
数人候補に、いるにはいるけど…。
エルデリオンが、手を出すかどうかは…」

デルデロッテはグラスを口に持って行き、呟く。
「…要は性欲が有り余ってるから、エルデリオンはレジィリアンス殿を襲う。
それをすればあちらも殺気だって、私もまた、不本意な役目を果たさねばならない。
つまり少し強引に、暫く枯れる程ヌくのが一番良い」
ラステルが即座に異論を唱えた。
「そのアテが無いから、困ってる」

が、ロットバルトがデルデロッテを見つめたまま、ラステルに首を振ってデルデロッテを見ろと促す。

ラステルはその合図に気づくと、腕を組んで酒のグラスを持ち上げ、喉に流し込むデルデロッテを見た。

「…もしかして、君が?」

デルデロッテは答えず、グラスを空にすると、テーブルに置いて立ち上がる。
両扉の前で、振り向いて二人の年上の従者に告げた。
「エルデリオンを眠らせればいいんだろう?」

二人は無言で頷く。
するとデルデロッテは扉を開けて、中へ入って行った。

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