49 / 418
宿屋での取り決め
豪華な宿
しおりを挟む
その宿はお屋敷のように広く、赤絨毯の敷かれた豪華な階段を上がって四階に到達すると、左右に扉のある廊下に出た。
エウロペに右の扉を開けられ、レジィリアンスは部屋へと入る。
広い応接間があって、白い壁に金の模様が彫られたとても優美な部屋で、右手に扉が二つ。
正面に両開きの扉があり、エウロペはその扉を開いて、レジィリアンスを促す。
葡萄茶色のカーテンのかかった、天蓋付きの寝台。
床も壁も、暖炉も白石で、至る所に金の飾り模様が彫られ、とても豪華に思えた。
「…エルデリオン様は…」
エウロペは小ぶりなチェストを寝台横に運び込むと、開いた扉に立ちすくむ、レジィリアンスに振り向く。
金の波打つ長い髪を肩に垂らし、不安げに愛らしい顔を曇らせてる。
エウロペは微笑んで言い諭した。
「…聞いたでしょう?
今夜は私達森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者らだけで…彼はここに入って来ない」
レジィリアンスは俯く。
そしてチェストを開けて、寝台に着替えを乗せてるエウロペの横に来ると、ストン。と寝台に腰掛けて、エウロペの作業を見守る。
「あの…。
エリューンは……剣を抜いたの?」
エウロペはゆっくり作業の手を止め、レジィリアンスの横に腰掛けると、俯き加減の顔を覗いながら、話し始めた。
「抜こうとした時、それを察したデルデロッテ殿が馬で彼の前に立ち塞がった。
彼もエリューン同様、自分の剣の柄に手を掛け、目で告げた。
“…抜いたら切るぞ!”とね。
でもエリューンは引かなかった。
名を轟かせる剣豪相手に一歩も」
レジィリアンスの顔に、恐怖が浮かぶ。
「…でも…あの、大丈夫…だったんだよね?」
エウロペは頷く。
「ロットバルト殿が…目で私に知らせてくれたから。
私がエリューンを止めた」
エウロペはその時、デルデロッテの気持ちが分かった。
止めたくなんて無かった。
エリューンと共に馬車に乗り込み、そしてエルデリオンを引き剥がし…。
けれどレジィリアンスは顔をうんと俯け、小さな声で囁く。
「ご…めんな…さ…い…。
ぼく…我慢出来なくて…。
叫びたくなか…ったんだけ……ど…」
エウロペは心細げなレジィリアンスの背に手を当て、落ち着かせようとさすり、言葉を返す。
「…もしかして…ずっと、我慢されていた?」
レジィリアンスは俯いたまま、こくん…と頷く。
「…もし僕が叫んだら…エウロペは絶対来てくれる…。
でもそうなったら…エウロペはきっと、エルデリオンの命令で僕の側から追い出される…。
僕…エウロペとエリューンとテリュスと…離ればなれになりたくなかった…」
エウロペはその健気でこれからの自分の境遇に、不安だらけで心細げな、レジィリアンスの顔を必死で見つめ、言い聞かせた。
「…あちらの従者達の言葉を聞いたでしょう?
嫌なら、叫びなさい。
そうしなければ…エルデリオンに分からない」
レジィリアンスは顔を上げる。
もう頬に、涙が伝っていた。
「…叫ん…でも…いい…の?」
エウロペは頷く。
「…捕虜では無いと…聞いたでしょう?」
レジィリアンスは泣きながら、こくん。と頷く。
「…じゃあ…僕…の気持ちを…言ってもいい?」
「できるだけ、おっしゃい。
エルデリオンは君に恋してる。
恋する男は時として暴走する。
“そんな事をしたら貴方を嫌いになります”と。
はっきり言っておあげなさい」
レジィリアンスはびっくりした。
エウロペは優しく微笑む。
「今日は色んな事が、ありすぎた…。
ゆっくり休んで。
そうしたら…混乱した状況が落ち着き、取るべき態度が見えて来ます」
レジィリアンスは躊躇ったが、頷いた。
「エルデリオン様は…僕の事…捕虜だとは、思ってないって…おっしゃってた…」
「けれど馬車の中では。
威圧的だった?」
エウロペに聞かれ、レジィリアンスは少し考え込む。
「…僕…には、そう感じられた…。
けれど自分を捕虜だと、思い込んでたから…そう感じたのかも…」
エウロペはにっこり笑った。
「招待された客人として。
エルデリオン殿と相対すといい」
けれど途端、レジィリアンスは頬を染めて顔を下げる。
「あの…でも…。
あの方はぼく…の…その…」
「お尻ですか?
かの国では、少年を恋人にするのは当たり前ですから。
子供の頃からかの国の少年達は、当たり前に知っているんです」
レジィリアンスはびっくりして、顔を上げる。
エウロペは労るように、微笑んだ。
「…何も知らない貴方は、たいそうショックを受けたと。
あちらの従者らも気遣ってる。
私がそれを、もっと早くに教えるべきだった。
たいへん驚き…辛かったでしょう?」
レジィリアンスは真っ赤になって、顔を下げた。
「あの…ぼく…奥を擦られたら、変になって…」
エウロペは努めて冷静に、即答を返す。
「誰でもそうなります。
けれど初めての貴方に、そんな感覚をもたらすと言う事は…」
「?」
レジィリアンスはエウロペの言葉を待って、顔を上げた。
「…エルデリオン…彼は。
かなりの床上手。
けれど女性相手ですら経験の無い貴方には…辛く思えた事でしょう…」
「…あの…。
じゃあエルデリオン様は…」
エウロペは頷く。
「お聞きになりたい事があれば、お教えします」
「…あの……。
まだ良く…分からないから…。
けれど僕…の男の部分が硬くなった時。
エウロペは笑って“大人になった証拠です”っておっしゃった…。
けれどエルデリオン様は他にもいっぱい…その、恥ずかしい事をされて…。
情事って…あんな事をするのですか?」
エウロペはため息を吐いた。
確かに暗殺者から逃れる毎日で、レジィリアンスは年頃の少年よりも、性の知識が無い。
「少しずつ…中央王国〔オーデ・フォール〕に着いてから、覚えればいい事です。
今は考えず…ともかくお体を休めて。
もしエルデリオンが求めて来たら。
嫌なら叫べばいい」
レジィリアンスはこくん。と頷いた。
エウロペに右の扉を開けられ、レジィリアンスは部屋へと入る。
広い応接間があって、白い壁に金の模様が彫られたとても優美な部屋で、右手に扉が二つ。
正面に両開きの扉があり、エウロペはその扉を開いて、レジィリアンスを促す。
葡萄茶色のカーテンのかかった、天蓋付きの寝台。
床も壁も、暖炉も白石で、至る所に金の飾り模様が彫られ、とても豪華に思えた。
「…エルデリオン様は…」
エウロペは小ぶりなチェストを寝台横に運び込むと、開いた扉に立ちすくむ、レジィリアンスに振り向く。
金の波打つ長い髪を肩に垂らし、不安げに愛らしい顔を曇らせてる。
エウロペは微笑んで言い諭した。
「…聞いたでしょう?
今夜は私達森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者らだけで…彼はここに入って来ない」
レジィリアンスは俯く。
そしてチェストを開けて、寝台に着替えを乗せてるエウロペの横に来ると、ストン。と寝台に腰掛けて、エウロペの作業を見守る。
「あの…。
エリューンは……剣を抜いたの?」
エウロペはゆっくり作業の手を止め、レジィリアンスの横に腰掛けると、俯き加減の顔を覗いながら、話し始めた。
「抜こうとした時、それを察したデルデロッテ殿が馬で彼の前に立ち塞がった。
彼もエリューン同様、自分の剣の柄に手を掛け、目で告げた。
“…抜いたら切るぞ!”とね。
でもエリューンは引かなかった。
名を轟かせる剣豪相手に一歩も」
レジィリアンスの顔に、恐怖が浮かぶ。
「…でも…あの、大丈夫…だったんだよね?」
エウロペは頷く。
「ロットバルト殿が…目で私に知らせてくれたから。
私がエリューンを止めた」
エウロペはその時、デルデロッテの気持ちが分かった。
止めたくなんて無かった。
エリューンと共に馬車に乗り込み、そしてエルデリオンを引き剥がし…。
けれどレジィリアンスは顔をうんと俯け、小さな声で囁く。
「ご…めんな…さ…い…。
ぼく…我慢出来なくて…。
叫びたくなか…ったんだけ……ど…」
エウロペは心細げなレジィリアンスの背に手を当て、落ち着かせようとさすり、言葉を返す。
「…もしかして…ずっと、我慢されていた?」
レジィリアンスは俯いたまま、こくん…と頷く。
「…もし僕が叫んだら…エウロペは絶対来てくれる…。
でもそうなったら…エウロペはきっと、エルデリオンの命令で僕の側から追い出される…。
僕…エウロペとエリューンとテリュスと…離ればなれになりたくなかった…」
エウロペはその健気でこれからの自分の境遇に、不安だらけで心細げな、レジィリアンスの顔を必死で見つめ、言い聞かせた。
「…あちらの従者達の言葉を聞いたでしょう?
嫌なら、叫びなさい。
そうしなければ…エルデリオンに分からない」
レジィリアンスは顔を上げる。
もう頬に、涙が伝っていた。
「…叫ん…でも…いい…の?」
エウロペは頷く。
「…捕虜では無いと…聞いたでしょう?」
レジィリアンスは泣きながら、こくん。と頷く。
「…じゃあ…僕…の気持ちを…言ってもいい?」
「できるだけ、おっしゃい。
エルデリオンは君に恋してる。
恋する男は時として暴走する。
“そんな事をしたら貴方を嫌いになります”と。
はっきり言っておあげなさい」
レジィリアンスはびっくりした。
エウロペは優しく微笑む。
「今日は色んな事が、ありすぎた…。
ゆっくり休んで。
そうしたら…混乱した状況が落ち着き、取るべき態度が見えて来ます」
レジィリアンスは躊躇ったが、頷いた。
「エルデリオン様は…僕の事…捕虜だとは、思ってないって…おっしゃってた…」
「けれど馬車の中では。
威圧的だった?」
エウロペに聞かれ、レジィリアンスは少し考え込む。
「…僕…には、そう感じられた…。
けれど自分を捕虜だと、思い込んでたから…そう感じたのかも…」
エウロペはにっこり笑った。
「招待された客人として。
エルデリオン殿と相対すといい」
けれど途端、レジィリアンスは頬を染めて顔を下げる。
「あの…でも…。
あの方はぼく…の…その…」
「お尻ですか?
かの国では、少年を恋人にするのは当たり前ですから。
子供の頃からかの国の少年達は、当たり前に知っているんです」
レジィリアンスはびっくりして、顔を上げる。
エウロペは労るように、微笑んだ。
「…何も知らない貴方は、たいそうショックを受けたと。
あちらの従者らも気遣ってる。
私がそれを、もっと早くに教えるべきだった。
たいへん驚き…辛かったでしょう?」
レジィリアンスは真っ赤になって、顔を下げた。
「あの…ぼく…奥を擦られたら、変になって…」
エウロペは努めて冷静に、即答を返す。
「誰でもそうなります。
けれど初めての貴方に、そんな感覚をもたらすと言う事は…」
「?」
レジィリアンスはエウロペの言葉を待って、顔を上げた。
「…エルデリオン…彼は。
かなりの床上手。
けれど女性相手ですら経験の無い貴方には…辛く思えた事でしょう…」
「…あの…。
じゃあエルデリオン様は…」
エウロペは頷く。
「お聞きになりたい事があれば、お教えします」
「…あの……。
まだ良く…分からないから…。
けれど僕…の男の部分が硬くなった時。
エウロペは笑って“大人になった証拠です”っておっしゃった…。
けれどエルデリオン様は他にもいっぱい…その、恥ずかしい事をされて…。
情事って…あんな事をするのですか?」
エウロペはため息を吐いた。
確かに暗殺者から逃れる毎日で、レジィリアンスは年頃の少年よりも、性の知識が無い。
「少しずつ…中央王国〔オーデ・フォール〕に着いてから、覚えればいい事です。
今は考えず…ともかくお体を休めて。
もしエルデリオンが求めて来たら。
嫌なら叫べばいい」
レジィリアンスはこくん。と頷いた。
0
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説






ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる