47 / 418
宿屋での取り決め
晴れる暗雲
しおりを挟む
エルデリオンの存在を、横に座るラステルの向こうに感じ取り、食事の手の止まるレジィリアンスを目にした途端、ラステルは明るい声を張り上げる。
「さて、この少し先に今夜泊まる宿を手配してある。
レジィリアンス殿のお部屋には、今夜はエウロペ殿に泊まって頂いて…」
レジィリアンスは咄嗟、明るい表情をラステルに向け、その後エウロペを、嬉しそうに見た。
エルデリオンはそれを聞いた途端、暗い表情で顔を下げる。
けれどレジィリアンスは、ふ…と、そこまでは。
またエルデリオンと二人っきりで乗る、馬車で行くのだと気づき、一瞬でその表情から喜びを消し去る。
エルデリオンは嬉しそうな表情から一変。
暗く人形のような表情に沈むレジィリアンスを目にし、心が掻き毟られ、ラステルに頷く。
ラステルはレジィリアンスに笑顔で振り向くと
「乗馬はお出来になりますか?」
そう、屈託のない声で尋ねた。
聞かれた途端、レジィリアンスは驚いてラステルに振り向く。
「……出来ますけれど…私は捕虜でしょう?
そんな事したら…逃げるかもしれないと…警戒なさらないんですか?」
“捕虜”とレジィリアンスの口から聞かされ…エルデリオンは下げた顔を、ショックで揺らした。
けれどラステルは、おどけて空色の目を見開く。
「おや!
お逃げになるんですか?
エウロペ殿。その、御予定が?」
レジィリアンスに見つめられ、エウロペは水の入ったグラスを口元から下げ、言葉を返す。
「…王子がお望みなら、試してみますが。
どうします?」
とレジィリアンスに尋ね返す。
レジィリアンスは途端、連れて逃げて欲しそうな、切なげな表情をエウロペに向けた。
それを見たエウロペ始め、エリューンもテリュスも。
そしてデルデロッテ、ロットバルトですら、幼い少年王子の、頼りなく辛そうな様子に胸塞がれる。
エルデリオンがとうとう、口を開いた。
「…どうか…。
先ほどのような事は、貴方の了承が無い限り、二度と致しませんから…。
我が国に、招待されたとお考えになって…。
その…捕虜では無く。
客人として…いらっしゃっては、下さいませんか?」
掠れた声だったけれど、はっきりとした口調で。
間にラステルを挟んだ向こうから、レジィリアンスにそう告げる。
その返答に、ロットバルトもデルデロッテも顔を見合わせて頷き合い、ラステルはレジィリアンスを気遣うように見つめ、尋ねる。
「いかがです?
ご招待を、受けては頂けないでしょうか…。
我が国の王妃は貴方の母君とご懇意。
あなたの事を大変心配していらっしゃるので、きっといらして頂ければ、大喜び致します」
その言葉にレジィリアンスは表情を、暗雲が晴れたように晴れやかに変え、か細い小声で言葉を返す。
「あの…捕虜で無いのなら…。
私の…了承が無ければ…されないのであれば………。
御招待を…………」
その後の言葉を途切れさせ、まだ躊躇い、続けられないレジィリアンスに、エウロペは頷いて尋ねる。
「受けますか?」
レジィリアンスはこくん。と頷き、途端エリューンもテリュスも、笑顔を取り戻す。
ラステルはにっこりとレジィリアンスに微笑むと
「では我々が。
貴方が楽しんで頂けるよう、尽力致します。
さて。話はお終い。
お食事を続けて下さい。
育ち盛りですから、たくさん食べて頂かないと」
レジィリアンスは目前の、大好物のチーズの乗った蒸し野菜に視線を落とす。
スプーンを持ち上げると、テリュスもエリューンもが、食べ始めた。
エウロペはまた、皿を目前に置く。
やっぱり大好きな、グラタン…。
三人から、優しい気遣いと労りが包むように流れ込んで来る。
レジィリアンスは嬉しくて…涙が零れそうになった。
ふと気づくと…三人の他、隣のテーブルに座るエルデリオンの従者達からも。
労るような暖かい空気が流れ込んで来る。
レジィリアンスは思わず顔を上げ、斜め向かいのデルデロッテを見た。
彼は気づいた途端、振り向いてにっこり微笑む。
エリューン同様、一目で女性が見惚れてしまう程の、姿の美しい素敵な騎士だった。
夜闇のような濃紺の瞳が輝くと、とても綺麗だと、レジィリアンスは思った。
「さて、この少し先に今夜泊まる宿を手配してある。
レジィリアンス殿のお部屋には、今夜はエウロペ殿に泊まって頂いて…」
レジィリアンスは咄嗟、明るい表情をラステルに向け、その後エウロペを、嬉しそうに見た。
エルデリオンはそれを聞いた途端、暗い表情で顔を下げる。
けれどレジィリアンスは、ふ…と、そこまでは。
またエルデリオンと二人っきりで乗る、馬車で行くのだと気づき、一瞬でその表情から喜びを消し去る。
エルデリオンは嬉しそうな表情から一変。
暗く人形のような表情に沈むレジィリアンスを目にし、心が掻き毟られ、ラステルに頷く。
ラステルはレジィリアンスに笑顔で振り向くと
「乗馬はお出来になりますか?」
そう、屈託のない声で尋ねた。
聞かれた途端、レジィリアンスは驚いてラステルに振り向く。
「……出来ますけれど…私は捕虜でしょう?
そんな事したら…逃げるかもしれないと…警戒なさらないんですか?」
“捕虜”とレジィリアンスの口から聞かされ…エルデリオンは下げた顔を、ショックで揺らした。
けれどラステルは、おどけて空色の目を見開く。
「おや!
お逃げになるんですか?
エウロペ殿。その、御予定が?」
レジィリアンスに見つめられ、エウロペは水の入ったグラスを口元から下げ、言葉を返す。
「…王子がお望みなら、試してみますが。
どうします?」
とレジィリアンスに尋ね返す。
レジィリアンスは途端、連れて逃げて欲しそうな、切なげな表情をエウロペに向けた。
それを見たエウロペ始め、エリューンもテリュスも。
そしてデルデロッテ、ロットバルトですら、幼い少年王子の、頼りなく辛そうな様子に胸塞がれる。
エルデリオンがとうとう、口を開いた。
「…どうか…。
先ほどのような事は、貴方の了承が無い限り、二度と致しませんから…。
我が国に、招待されたとお考えになって…。
その…捕虜では無く。
客人として…いらっしゃっては、下さいませんか?」
掠れた声だったけれど、はっきりとした口調で。
間にラステルを挟んだ向こうから、レジィリアンスにそう告げる。
その返答に、ロットバルトもデルデロッテも顔を見合わせて頷き合い、ラステルはレジィリアンスを気遣うように見つめ、尋ねる。
「いかがです?
ご招待を、受けては頂けないでしょうか…。
我が国の王妃は貴方の母君とご懇意。
あなたの事を大変心配していらっしゃるので、きっといらして頂ければ、大喜び致します」
その言葉にレジィリアンスは表情を、暗雲が晴れたように晴れやかに変え、か細い小声で言葉を返す。
「あの…捕虜で無いのなら…。
私の…了承が無ければ…されないのであれば………。
御招待を…………」
その後の言葉を途切れさせ、まだ躊躇い、続けられないレジィリアンスに、エウロペは頷いて尋ねる。
「受けますか?」
レジィリアンスはこくん。と頷き、途端エリューンもテリュスも、笑顔を取り戻す。
ラステルはにっこりとレジィリアンスに微笑むと
「では我々が。
貴方が楽しんで頂けるよう、尽力致します。
さて。話はお終い。
お食事を続けて下さい。
育ち盛りですから、たくさん食べて頂かないと」
レジィリアンスは目前の、大好物のチーズの乗った蒸し野菜に視線を落とす。
スプーンを持ち上げると、テリュスもエリューンもが、食べ始めた。
エウロペはまた、皿を目前に置く。
やっぱり大好きな、グラタン…。
三人から、優しい気遣いと労りが包むように流れ込んで来る。
レジィリアンスは嬉しくて…涙が零れそうになった。
ふと気づくと…三人の他、隣のテーブルに座るエルデリオンの従者達からも。
労るような暖かい空気が流れ込んで来る。
レジィリアンスは思わず顔を上げ、斜め向かいのデルデロッテを見た。
彼は気づいた途端、振り向いてにっこり微笑む。
エリューン同様、一目で女性が見惚れてしまう程の、姿の美しい素敵な騎士だった。
夜闇のような濃紺の瞳が輝くと、とても綺麗だと、レジィリアンスは思った。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる