森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

懇願するエルデリオン

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 デルデロッテは、真顔で言葉を言い放つ。

「私は怒ってるんです。解っていらっしゃらないと思うが」

穏やかに。
さらりとその言葉を言って退ける。

エルデリオンは俯いたまま、首を横に振った。
「解ってる…。
君がもの凄く怒っている事は、良く解ってる…!」

「そうですか?ではあの時……。
エリューン殿が剣を抜くのを、私が止めた時。
…自分の果たす役割に、私のはらわたがどれ程煮えくり返ったか。
ご存知だというのですね?
貴方がレジィリアンス殿をほぼ強姦する行為を、続けさせたも同然。
どれ程不快で二度としたくなく、こんな事が再び起こりうるのなら。
貴方のお側を離れたいとまで思った、私の果たした役割のことです」

強い怒りを含んだ声音で静かにそう言い放ちながらも、ひどく優しい顔を、エルデリオンに近づけ囁く。

エルデリオンは途端、がたがたと震え出した。
「ほん…き…で………?
私から…下がる…つもり………なの…か?」

が、デルデロッテはそれには返答を返さず、更に言葉を叩きつける。

「ロットバルトが『様子見しろ』と目で制止しなければ。
私はエリューン殿が動く、うんと前に馬車に乗り込んでましたからね。
それを我慢したのは、ロットバルトも私も。
少しは貴方に、男なんてまるきり知らず、情事にすらおそろしく不慣れなレジィリアンス殿に。
もっとうんと、優しくされるはずと、期待したからだ。
だが貴方は。
御自分の幸福感にしか、興味が無かった」

エルデリオンの、許しを乞うような…。
首を横に振る、涙混じりの表情を見つめながら、尚も言葉を続ける。

「ロットバルトは貴方を信じた。
そのロットバルトの見解を、私は疑いながらも従った。
…なぜだかお解りになりますか?
いえ…御自分の幸福感にしか興味を持たれない貴方に、決してお解りにならないとは思いますが」

丁寧な言葉使い。
けれどその内容は、エルデリオンの心を突き刺した。

「謝る…!
私を信頼してくれた、ロットバルトにも…そして、貴方にも!
お願いだから…私から去るなんて…。
そんな事、どうか言わないでくれ…!」

心の底からのエルデリオンの懇願。
が、それでもデルデロッテは憮然と呟く。

「…よりによって、恋に狂った貴方を信頼するだなんて…。
ロットバルトはイカれてる。
どうしようもなく、愚かな男だ。
私も同罪。
……貴方などを信頼し、レジィリアンス殿に二度と立ち直れないくらい、酷い初体験をさせたのですから」

デルデロッテの…内心の後悔を吐露した、言い捨てるような呟きを聞いた途端。

エルデリオンはデルデロッテの胸に突っ伏すかのように顔を寄せ、デルデロッテの胸の衣服を掴んで顔を寄せる。

「…去らないと、言ってくれ!
二度と…貴方の信頼を裏切らないし、貴方に…はらわたが煮えくりかえるような職務はさせないと誓う…!
貴方の…誇れる男として精進する…!!!
間違ったら…今まで通り、叱ってくれていい!!!
だから…お願いだ…!!!」

だがまだ気が済まないと言わんばかりの、デルデロッテの攻撃は続く。
「でも貴方はとても利発なお方。
きっとこんなひどい思いをしたレジィリアンス殿の、今後お心をほぐす方法だって。
ちゃんと用意してあるんでしょう?
もちろん、それも計算にいれての行動ですよね?
ロットバルトと私の、信頼まで裏切ってなさったのですから」

エルデリオンはもう、泣き出しそうだった。
だがデルデロッテの冷たい顔は、崩れない。
その唇が今だ動こうとして、エルデリオンは必死に頼んだ。

「頼むデルデロッテ!
心から反省してる、本当だ!
だから…お願い……」

エルデリオンのその声は、震えていた。

エウロペは、自ら“下がる”と脅しでは無く本気で突きつけながら、エルデリオンに乞われる美丈夫のデルデロッテを見た。

とうとうエルデリオンは縋るようにデルデロッテの胸に顔を伏せ、デルデロッテはため息交じりに、最後の言葉を告げる。

「…やめてと頼まれた、あの方のお気持ちが。
少しはお分りになられたか?
…もっとも私は、貴方に甘いから。
あなたの『お願いだ』をまだ、三回しか聞いていない」

エルデリオンがその言葉に、デルデロッテの胸から顔を上げる。

ヘイゼルの瞳が濡れていて、デルデロッテは一瞬動揺したように躊躇ったものの。
やんわりエルデリオンの、自分の胸に置かれた両腕を、手首を掴んで持ち上げると。
自分から離し、エルデリオンの目前から身を避ける。

そして背を向け、エウロペらの座る、横の開いたテーブルの椅子へと腰掛けた。

「私は空腹だが、貴方がたは?」
そうエウロペに、顔を向けて尋ねる。

エウロペはレジィリアンスを見、未だ食欲の無さそうな様子に少し躊躇い、だが頷いて
「食事を頼めるか?」
と言葉を返した。

デルデロッテはまるで隠れるようにして、カウンターの奥にいる宿屋の女将を見つけ、叫ぶ。

「美味いものを山程。
二つのテーブルに運んでくれ!」

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