森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

エウロペの説明

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コンコン…。

軽い扉を叩く音の後、扉は開く。

レジィリアンスは一瞬、恐怖で身が竦む。

“エルデリオン…?!”

この寝台の上で、馬車の中よりもっと時間をかけ、あんな事を再びする気なのかと、体が勝手に震え出す。
けれど扉が大きく開き、その人物を見た時。
レジィリアンスは歓喜に震えた。

「…………っ!」

エウロペ!
駆け出し、彼の胸に顔を埋めたかった。
けれど足は、竦んだまま。

羞恥が襲い来る。
けれどエウロペは微笑んでいた。

レジィリアンスの頬に、涙が伝う。

「…ど…うしてここ…に?
エルデリオン様は…いいと言った…の?」

ポロポロと頬に涙が零れ落ちていく。
自分が、エルデリオンの物だと言う事を…肯定する自分の言葉に、改めて傷付いて。

エウロペは涙を滴らせて俯く、レジィリアンスの横に腰掛け、そっ…と腕を差し伸べる。
瞬間、レジィリアンスは我慢出来ず、エウロペの胸に飛び込んだ。

「…ぼ…く…僕………」
「どう思ってるか、おっしゃって下さい」
「…死ぬほど、恥ずかしい…」
「どうして?」

問われてレジィリアンスは、抱きついた懐かしいエウロペの胸から、びっくりして顔を上げる。

「…だっ…てあんなこと…は…女性がされる事でしょう?」

エウロペは少し苦痛があるように…眉を悲しげに寄せた。
明るい緑の瞳…。

昔、初めて出会った時、エウロペはまるで…高い山の上空を、悠々と舞う鷹のように思えた。
自然の大らかな“気”を持ち、軽やかでその癖…圧倒的に強くて、大きい。
うんと、幼かったから。
彼の猛禽のような、鋭い緑の瞳に怯えた。

気づいたエウロペは苦笑し、それ以来、優しい輝きを極力その瞳に浮かべ、恐怖を消し去ってくれた…。

優しい…猛禽。
強く羽ばたく大きな翼を持つ…頼もしくて大好きな…。

エウロペは、それでも頬に涙を伝わせる、レジィリアンスに囁く。
「辛かったですか?
酷く乱暴?」

尋ねられて、レジィリアンスはちょっと考え…首を横に振る。

「ではどこか…傷つけられましたか?」

問われて…レジィリアンスは、はっ!とそれが、蕾の奥を意味するのだと分かり、真っ赤になった。

やはり…首を横に振る。
するとエウロペは、ほっ…と安堵の吐息を吐いて、肩を脱力したように落とした。
「良かった…!
一見上品に見える男が…寝室では豹変して乱暴になることは、世間ではある事ですから…!」

レジィリアンスは微笑むエウロペを見つめた。

「あの…痛むようなことは…」
「されなかった?」
問われて、頷く。
「…けれどとても…嫌だったんですね?」

声を落とし囁くエウロペの…同情滲む声音を聞いた途端、レジィリアンスは顔を上げた。

「あの…ぼく…。
あんな…恥ずかしい事を…あんな高貴な人が、ぼくにするなんて思わなくて…。
それで…」

また、ぽろぽろと涙をこぼしながら、喉が詰まったように言葉を途切れさす。

エウロペは小柄なレジィリアンスに身を屈めると、囁く。
「本当に、すみません…。
何も知らないまま、こんな境遇に貴方を追い込んだのは、私の責任だ」

レジィリアンスはびっくりした。
「…恥ずかしい事…をした…のは、エルデリオン様…で…」
「ちゃんと手ほどきを受けていれば…準備さえできていれば。
それほど酷い事ではなかった。
…屈辱では無い、とは言いません。
けれど…初めての貴方を、肉体的に傷つけなかったと言う事は…。
エルデリオンはたいそう、気遣ったと言う事です」

レジィリアンスはまた、びっくりした。
「あの…初めて…は…傷付くの?」

エウロペは苦笑する。
「ええ、大抵は。
女性でも初めての時は…相手が気遣いの無い男だと、傷付いて痛みを伴います」

レジィリアンスは顔を下げた。
蕾の奥に…挿入されたショックで。
無礼なことを突然、無理矢理されて…。
そんな事、思ってもみなかった。

エウロペはレジィリアンスを覗うと、低い声で囁く。
「それでも手ほどきを、貴方が受けていないと言う事は。
…エルデリオンは気づいたはずだ。
…なのに気遣うこと無く強引に事を進め、貴方の心を酷く傷つけるとは…。
真剣に貴方を思う花婿であれば、決してすべき行為ではありません」

きっぱり言い切られ…レジィリアンスは顔を、エウロペに向ける。

「…ぼく…を、軽蔑…して…ない?」
「決して」
「だっ…て…貴方はずっとぼく…が…立派な国王…で…男…に…なるべき…」
もう、レジィリアンスは言葉を続けられなかった。

あまりにも自分が惨めで。

顔を俯け、泣きながら呟く。
「叔父君は…喜んでいるでしょう…ね…。
ぼく…を殺せ…なかっ……けど、花嫁…として略奪…された…のですか………」

エウロペはきっぱりと言った。
「が、公は決して王座には就けない。
貴方を奪った以上、エルデリオンが王座に就く可能性すらある」

レジィリアンスは咄嗟、顔を上げる。
「森と花の王国〔シュテフザイン〕の王に、エルデリオン様が…?!」

エウロペはレジィリアンスを真っ直ぐ見つめ、後の言葉を告げる。
「貴方を王妃にするのですから。
事実上は、貴方が統治することとなるでしょうが」

レジィリアンスは顔を、下げる。

そして…エウロペと話す内、あれほど激しく波打った心の中が、静かに…落ち着いていくのを、不思議に思った。

「エルデリオン様…は…。
それほど酷い…事をした…訳じゃない…?」

エウロペはため息を吐いた。

「一般的には、それ程は。
けれど貴方が嫌だと思えば…それは酷い事です」

レジィリアンスはまた、涙を頬に伝わせ、こくん。
と頷いた。
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