アシュターからの伝言

あーす。

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召集 1

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 ギュンターは左将軍将軍執務室の豪華だが重厚な扉の前で、その人物を見つけた。
真っ直ぐな背まである黒髪。
頑健な肩と姿勢の良い立ち姿。

「…ディングレー、あんたも呼び出されたのか?」

ディングレーは扉を開けようとノブを回しかけ、ふいの声に背後に振り向く。
同じ左将軍部隊の、ギュンター。
くねる金髪、紫の瞳の優美な美貌は、やはり一瞬目を惹き付ける。
甘く整ったマスクは明らかにちゃらく、優男に見えた。

が、中身が自分同様、戦い始めると猛獣になり、四の五の言われると言い返す面倒を避け、さっさと殴り倒す方を好む男だと、知っていた。

「お前も、呼び出しか?ギュンター」

尋ねられ、ギュンターは王族の尊大さの影に、上品さとかけ離れた野性味ある迫力を見せる、男っぽさ全開のディングレーの青い瞳を見返し、吐息を吐いた。

最近鏡を見てない。
が、やっぱり自分はやさ男に見えるらしい。

一瞬落胆のため息を吐きかけ、ぐっと堪えてささやく。

「執務室だから…補佐のオーガスタスだろう?
呼び出し主」
言葉を返すと、ディングレーは扉に向き直り、ぼそりと呟く。
「執務室だから、当然左将軍ディアヴォロスだ」

ギュンターは相変わらず自分相手だと、遠慮の欠片も無い直接話法のその男の横に並ぶ。

扉を開けると、正面のどっしりとした、素晴らしい彫刻が随所に掘られた机の奥。
縮れた長い黒髪を、肩に胸に流す、神秘的な浮かぶような薄いグリーンの瞳をした、高貴なる面立ちの左将軍ディアヴォロスが、座しているのを目にする。
机の横にはくねる奔放な赤毛を散らす、誰よりも長身な左将軍補佐、オーガスタスが立っていた。

けれど室内に入って来た二人は、まるで条件反射のように。
室内左横のソファに座す人物に、揃って振り向き視線を送る。

真っ直ぐの銀に近い金髪。
青い瞳の神秘的な瞳。
整いきった顔立ち。
そして…全身から醸し出す白い光。

「…ダンザイン…なんで?」

ディングレーはギュンターの、最上の上司、左将軍の前だろうが、遠慮無い問いを聞きつつ、その人物が室内にいることに、内心驚いた。

だってオーガスタスとディアヴォロスの呼び出しなら、荒っぽい戦闘の筈。
ギュンターも一緒なら、なおさら。

けれど…『光の王』の血を引く神聖騎士の長で超能力者の、ダンザインがいるとなると…。

けれどディアヴォロスはギュンターの質問を無視し、ダンザインに頷く。
ふいにギュンターとディングレーは一瞬で白い光に包まれ、目を見開いた。

“いかがですか?
適しますか?”

ダンザインの心話が、頭の中で響く。

ディングレーはその問いが…その場に居ない、どこか別の人物に向けられてる。
と気づく。

“ああ…!助かります!”

遠い…凄く遠い、けれどはっきりした発音の、言葉が聞こえた後。
体を包む白い光は、突如消えた。

横を見るとギュンターは理解不能な事態に、沈黙し続け…。
が、ダンザインは囁く。

“貴方が…随行されますか?”

ダンザインの心話に、今度は比較的近くからのような返答が、やっぱり皆の脳裏に響いた。
“ええ。
それが好ましいでしょう”

その後、ギュンターとディングレーは揃って部屋の床が、突然透明になり、藍色の…夜空のようになるのを目撃し、揃って目を大きく見開いたものの、更に沈黙を深めた。

まるで夜空の中に浮かんでいるみたいな、あり得ない周囲の景色。

「……………………………」

夜空の中、金色の光に包まれた、とても端正な面立ちの青年が、こちらに歩いて来る。

金色の、緩やかにくねった長髪が靡いてる。
瞳は青で、神秘的に見えた。

近づくにつれ、アースルーリンドで誰より背が高い、と言われてる赤毛のオーガスタスより更に長身なのだと、ディングレーとギュンターは気づく。

“『光の民』!”

ディングレーは内心の呟きのその声が、脳裏に響いた途端、しまった。
と顔を下げる。
連中との会話は、頭の中に思い浮かべた言葉が、皆に筒抜け。

けれど金髪の『光の民』は、にこやかな笑顔を浮かべたまま、囁く。

“適応力はあるようだ。
飛び上がって叫んだりは、しないから”

ギュンターはそれを聞いて、よりいっそう顔を下げ、内心呟く。
“本音はそれをしたいが…女、子供、軟弱男がするようなみっともないこと、俺が出来るか。
あ、ゼイブンならするかもな”

言った後、気づいて顔を上げる。
横のディングレーを見ると
“聞こえてる”
と頷いてた。

ギュンターはまだ、夜空に浮かぶ空間の中の、ソファに腰掛けたままのダンザインに振り向く。
「断りも無く、人の頭の中をさらさないのが、あんたらの礼儀じゃ無かったか?」

が、ダンザインでは無く『光の民』の青年が、青い瞳を見開き、心話を皆の脳裏に響かせた。
“それが…礼儀か?
失礼、人間との会話に慣れて無くて”

ダンザインが、ため息を吐く。
「彼の住む『光の国』で、会話は心話が当たり前。
それに彼の能力はとても強いので…」

ダンザインはそこで、心話に切り替える。
“心話フィールドの調節…は、出来る?”

ギュンターとディングレーが揃って『光の民』の青年を見ると、彼は首を横に振る。
“能力を高める訓練ばかりしてるので…。
特定人物との心話の加減は…まだ体得してない”

オーガスタスが、ため息交じりに初めて口を開く。
「…つまりこのままだ。
慣れろ」

日頃『御大』と呼び、一応敬意を払う自分らのリーダーの言葉に、ディングレーとギュンターは顔を見合わせた。

ディアヴォロスは零れるような笑みを浮かべ、『光の民』の青年を促す。
“どうぞ、お話を”

ディングレーとギュンターは、『光の民』らが日頃神秘の能力を使うので、人の時間よりもうんと短縮され、物事が進む事を思い出す。

彼は相変わらず心話で話しかけた。
“先ほどの人物は、別の星、別の空間の人物で、アシュター殿と言われる。
この所、『光の国』でも頻繁に起こる、時空の亀裂の原因を知っておられ、それを…止めるために、三次元体の人間が必要との事だ”

ディングレーとギュンターの頭の中が、疑問符だらけになったのを見て、黒い縮れ毛、高貴なる左将軍ディアヴォロスが、彼らの理解を促す。
「つまり君達の事だ。
私は…高次元の憑依体が共に居るので…つまり、光竜ワーキュラスの事だが。
君らとは少し、毛色が違うらしい」

その時、ディアヴォロスと繋がっている『光の国』の光竜ワーキュラスの荘厳な声が、皆の脳裏に響き渡る。

“異次元からの酷い爆破の影響で、次元にヒビが入り、どこに亀裂が出来るか分からない、不安定な状態になりつつある。
我ら(光竜ワーキュラスらは、とてつもなくデカい)が動き回ってもびくともしない『光の国』ですら、亀裂が入り始めているので、アシュター殿のいらっしゃる世界では、もっと深刻。

その事態を利用し、周囲の地域を支配しようと、邪悪な種族が動いてる。
鍵となるのが地球と言う惑星…つまり別世界で、その世界で邪悪な種族がこれ以上力を持つと…他の地域では亀裂が入りまくり、皆今までの環境で暮らせなくなり、衰退して…邪悪な種族に支配されてしまう”

「それは、大変だ」
ギュンターの抑揚の無い言葉を聞いて、ディングレーは顔を下げた。
“言葉と裏腹に、全然無関心だな”

今度はディングレーが、隠しておきたい内心が曝され、ギュンターに睨まれて顔を下げた。

オーガスタスは二人の体たらくに、ため息交じりに首を横に振る。
が、『光の民』の青年は笑った。
“どこが不都合か理解はしがたいが…楽しいじゃないか”

その途端
“笑われてる”
“笑われてないか?”
とディングレーとギュンターの言葉が同時に脳裏に響き、ワーキュラスが少し弾んだ口調で、『光の民』に話しかけた。
“頼もしい連中だろう?”

ギュンターとディングレーが揃って『光の民』の青年を見ると。

彼は大きく頷いていた。
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