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20話 かごめかごめ
しおりを挟む家の中に2人が戻ると野原がリビングでキムチ鍋を作って待っていた。
「外にある巴月さんのお宅から貰ったキムチ鍋の材料で作ったんだ、ほら食え食え!味見をしたが中々美味いぞ」
テーブルの上に置かれた鍋は別名キムチチゲ。
「朝鮮半島で広く食べられている辛口の鍋料理・スープ料理である。その名のとおり白菜キムチが味の主体で、具には肉類または魚介類、野菜、豆腐などが使われる。Wikipediaから引用。」
「いや此処も巴月さんの家だろ。」
「因みに俺は好きだけど、君は食べれそう?」
隣に座る女子高校生は山田が聞く前に食べ始めていた。
「へ?なんはいいまひたか?」
「食事中に話し掛けて来ないでください」
「当たり強。」
野原が「そう言えば、この子は誰なんだ?巴月さんの連れか?」と小指を立てて口を挟む。
「私巴月さんの彼女じゃありません、これ知ってますよね」
女子高校生がポケットから出した1枚の黒いカードを野原と山田に見せる。
「え、何これ。ブラックカード?ラグジュアリーカードか?」
「違う。」
「山田は未だ見た事が無い筈だ、所属して1週間も経ってないからな。」
「このカードは俺達が所属する国際機関へ国の者が直接、その場にいる魔術師へ救助を依頼するカードだ。通常は一般人が持っている物では無いと俺は思うが、君一体これを何処で手に入れたんだ?」
野原がキムチ鍋に追いキムチと茹でたラーメンを入れて混ぜながら女子高校生に聞く。
「実は私、魔術師の友人が居て。その友人がこれをくれたんです…『ヤバくなったら、これを使って助けて貰え』って。」
「それをくれた友人の名前を教えて欲しい」
「俺はマイルドと野原以外に2人しか名前を知らないから、これで野原の人脈が知れるな」
「俺はお前と違って社交的なんだ。カフェオレマニアとしか関わりの無い陰キャと一緒にすんな」
「おっとガスが切れてるな、予備予備...予備はと、良しあったぞ。」
「中村 斗猛矢っていう男の人です。」
ガスの調整をしていた野原と、話を聞いていた山田の動きが一瞬止まる。
それも当然だった。
__中村 斗猛矢は、数日前に亡架乃の手で殺されたはずだ。
しかも、それは山田とマイルドが目の前で見届けた惨劇だった。
脳裏に焼き付いた悪夢が、今まさに山田の意識を蝕む。
無惨に殺される中村の姿がフラッシュバックし、胸の奥を抉るような痛みが走る。
苦悶の表情を浮かべる山田に気づいたのか、野原がそっと手を伸ばす。
巨躯に髭面という風貌ながら、その仕草は驚くほど優しかった。
まるで、人の痛みを知る善良な半巨人のように、そっと山田の背中をさする。
そんな中、静寂を破ったのは、一人の女子高生だった。
「中村さん何かあったんですか」
「大丈夫だ」とハ○リッド元い野原を押し退けて山田は下を向きながら恐る恐る女子高校生に伝える。
「中村は死んだよ」
「そう……ですか、残念です」
悲しそうでも辛そうでも無く女子高校生は顎に手を当ててそう言った。
深い関係では無く只の知り合い、若しくは知り合ったばかりの関係…と山田は感じる。
「申し遅れました。私、宮本 彩花(みやもと あやか)と言います。」
「中村さんとは友人の紹介で知り合いましたが、まさか亡くなっているなんて思っていなくて…なんて言えばいいか、お悔やみ申し上げます」
「俺も中村君とは同じく知り合ったばかりの関係で隣の野原も俺の話を聞いて知ってるくらいだから、悔やまれることは無い…けれど。」
「目の前で死んで逝った彼をどうにかしてあげる事が力の無い俺には出来なかっただけなんだ。」
と、話つつ宮本彩花の表情を疑う。
山田には宮本が中村と知り合いだという話に"嘘を吐いている"ように思えるがこの場で言及する必要は無いと考える。
「因みにだけど中村と出会ったのって何処で?青森?」
「大分の別府ですね」
「へぇ、中村はやっぱり大分県のラーメン魔術師目指してたのかな」
「ところで宮本さんの依頼内容は教えて貰えたりって…」
「そうですね、先ほど助けていただきましたし、“アレ”が見えるなら話しても問題ないでしょう。」
宮本は静かに息を整え、続けた。
「先ほど私を殺そうとしていた化け物ですが、簡単に言えば“使い魔”のような存在です。そして、私はその主…つまり、私を執拗に狙っている者から、もう三年ほど逃げ続けています。」
一瞬、宮本の表情に陰りが差す。
「途中、何度も心が折れかけました。でも、最近になって頼んだお祓い業者の方に魔術師である中村さんを紹介されて、さらにその中村さんから巴月さんを紹介されました。言わば、たらい回しの状態ですね。」
「その右手の傷…化け物にやられたものか?」
野原が宮本の腕を指し示す。
手首辺りにある小さな火傷の痕。
「……いいえ、これは別件です。昔のことなので、今の話とは関係ありません。」
宮本の声はどこかよそよそしく、そこに踏み込まれたくないという意思が滲んでいた。
「ところで宮本さん、一人であの化け物と対峙していたけど……もし俺たちが助けなかったら、やっぱり殺されてたのか?」
山田が真剣な眼差しで問いかける。
「……そうですね。殺されていた、というよりは……」
宮本は少し言葉を選びながら、続ける。
「あの使い魔に触れられたとき、違和感を覚えたんです。ただ殺すのではなく、気を失わせて……どこかへ連れて行こうとしていたような気がしました。」
「化け物に触れられたのは何度もありますか?」
「今日が初めてですね」
「その化け物、んと使い魔を差し向けている相手に心当たりは?」
「ありません」
「ふむ…なるほど。」
心当たり有りよりのアリアリアリアリそうだ。山田は宮本が嘘をついていると思った。
「それで、依頼っていうか救助して欲しいというかで巴月さんに話をしに来たって感じですね」
「あと外には巴月さんが居らっしゃるので安心だとは思いますが、念の為で私は山田さん達の部屋で寝ますね」
「急展開キタ?」
「寝室をさっき見てしまいましたがクローゼットがあったので私はそこで寝ますね」
「クローゼットで寝んの!?」
「俺と野原でクローゼットの周りでかごめかごめして夜明かすことなるのか…」
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