FUCK LIFE !!

週刊 なかのや

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12話 アナホール

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登場したばかりの中村 斗猛矢(21)は膝から崩れ落ち床に横たわる。

「このターン中に応急手当すれば生存だった筈だ!!俺が死なせない!!」

床の氷に固定された両脚を無理矢理引き剥がして走り出したのは巨大フクロウの山田、大きな翼を大きく振って走る姿は何ともシュール。
倒れている中村に駆け寄った山田が羽毛に塗れた両翼で介抱をする。

「お前は!死なせない!!」
《応急手当》成功1D3

「ラーメンが、ラーメンが俺を連れて行こうとしている」
「待ってくれ!お前が居なきゃ俺は生きていけないって言うのに……一体何処へ行こうとしてるんだラーメン!!」HP0→2

「幻覚のラーメンを追い掛けるな」

「ハッ!そういえば俺のラーメンは…ッ!!」

倒れた近くのラーメンに«シャーノクル»が近付いている事に中村は気が付いた。

『……。』

「そうか、君はそういう奴なんだな」
「わかるよ。俺もさ、店内で先に注文を終えていたのに後から来た客が美味しそうに豚骨ラーメンを頬張っている姿を目にすると、この上なく腹が立つ。」
「俺がラーメンを食べている姿に嫉妬したんだな!!どうせ俺がマイルドに殺される様子も嘲笑っていたんだろ!!このひとでなし!!」

「人じゃないだろ…」

「今こそ俺の新魔術を使う時!!」
「喰らえ!魔術【アナホール】ッ!!」

「「ダサっ。」」
目を瞑って聞いていたマイルドと中村を助けた山田の言葉が同時に発せられた。
しかし中村は2人に構わず指を指すと«シャーノクル»前方5m、丁度ラーメンと«シャーノクル»の中間地点が円形状でピンク色に一瞬光る。ピンクの光が消えた地面は元の色に戻り、目を話せば《ラーメンと化け物の中間くらい》としか分からない。

「俺の【アナホール】は指定した箇所に直径1.9m、深度2.2mの落とし穴を設置する魔術。」
「穴上の地面は元々の材質が何であれ円形状に厚さが0.3mmになる。」
「勿論、落ちればダメージを受けるだろう…更に身長が足りなければ出る事が出来ずに朽ち果てるだろう!!」

「マイルドの名前もそうだけど、ネーミングセンスどうにかならなかったのか?」

「おい今俺の名前を馬鹿にしたね山田君…後で君には鉛の雨をプレゼントしようじゃないか」

«シャーノクル»のターンだったが目の前のラーメンという見た事の無い物体に興味を持った為、動くことは無い。«シャーノクル»がラーメンに顔を近付けると無数の黒い目が鏡の様にラーメンを反射して映し出す。100をも越えるラーメンを見てしまった中村は«シャーノクル»に仲間意識を持ってしまった。

「ごめん、俺…君に酷いことを言ってしまったみたいだ。さっきは気が動転してて、言っちゃいけないことまで言ってしまったよね」
「君がもし俺の事を許してくれるなら、俺は君にラーメンを奢るよ」
「お詫びをさせてくれ。そして俺と何軒かラーメンをハシゴして仲を深めよう、君は豚骨が好き?醤油?塩?海鮮系かな…うんうん、大丈夫だよ君が無口な人間でも俺は君と友達で居るからさ」

「何か始まったんだけど」
「え、マイルド?中村君おかしくなっちゃった」

「何も見たくない」

「お前が見なかったら誰が戦うんだ!!」
「てかこの足元の氷どうにかしてくれよ、滑る滑る」

「今俺の足は凍っているのか?」

「めっちゃ凍ってる。膝下までがっしりとな」

目を瞑ったままのマイルドに山田がフンッと鼻で笑う。
それに対してマイルドはゆっくりと目を開いて山田を見る。目の前にはフクロウ、巨大な人間サイズのフクロウ。叫びそうになったが足元に視線を下ろして床と自身、化け物さえも1部凍っているのを視認して声色が変わる。
焦りと怒りが混じり淡々と山田へ質問する。

「その姿は何だ」
「人体変化系魔術なんて代物、適正検査室に置いてねえ…考えられるのは性格の悪い《鴨居》っていう魔術師から魔術を掛けられたか、《鴨居》を殺して魔術式を奪ったか。」
「前者なら話は解る…が、資料室内で俺達が化け物と戦っているこの状況で参戦して来ないのはおかしい。上司からの命令が俺に来るなら検査室に居る筈の《鴨居》に連絡が行くのは確定…気付いていない筈がない、先程の【バレッド】で凄まじい数の弾の反射が有り音が確実に聞こえているだろう、なのに駆け付けない。」
「話は簡単だ。参戦しないのでは無く、出来ない」
「よって後者が可能性としてあるが後者は君に無理だろう。どう頑張ったって魔力も魔術も持っていない人間が俺クラスの魔術師に勝てる訳が無い。」
「ならばどうして友人の山田悠斗が突然フクロウに?」

「……」

「誰に貰った?」
「お前を俺の魔力感知が山田悠斗本人だと言っている。お前、此処に来る前に誰かから魔術式を受け取ったな?誰に渡された?」

山田に緊張が走る。今は正に自分が容疑者となり、目の前に居るのは紛れも無い探偵。
冷たい床と耳障りなラーメンオタクが視界の端に見え、怒られるようなことはしていないのに意識がはっきりとして床に倒れそうになる。
決して彼が山田に怒っている訳では無いと分かっていても威圧とも取れる怒気の篭った質問が無意識に体を揺らした。

「……」

「誰から…受け取った?」

山田とマイルドの話し合いの脇では«シャーノクル»と中村の友情物語が始まっていた。言葉の通じない化け物と人間の男、2人だけの空間で何も起きるわけもなく。

「そうだ!君にこのラーメンを食べさせてあげよう!!」
「ほーら丁度よく冷めて食べやすくなってる!」

『……。』

「ほら、あーん」とラーメンを持ち上げ«シャーノクル»へ食べさせようとした中村は、友人へ近付こうとして自身の魔術【アナホール】で作った落とし穴に落ちた。
«シャーノクル»は突然目の前で人間がラーメンを持って消えるの目にした。
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