FUCK LIFE !!

週刊 なかのや

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5話 マイルドの魔術

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山田とマイルドは2人でリビングへと足を踏み入れた。

テレビや食器棚が倒れ、床は皿の破片が落ちている無惨な部屋。
テーブルの上に乗っている皿には腐ったパンと割れたコップが散乱している。
山田は所々、床に落ちている割れた皿の破片やテーブル下に敷かれた絨毯に血の跡が残っていることに気が付く。

「皿の破片に血痕、地震で皿が割れたとするなら破片の上から血が付着するのはおかしい。」
「破片を踏んだ?としたら目が悪いのかそれとも……」

山田が割れた破片をテーブル上でパズルのピースを組み合わせるように並べている。
2人は両方探偵だ。魔術関係無しに頭はキレ、観察眼は本物だ。

「山田、汚ねえ食事だな。」

「腐ってるパンを食ってたのは誰だろうな」
「この床で割れてた皿は誰も片付けない。」
「破片が足りない。足に刺さってどっかに行ったらしい」

「飲みかけのコップは割れ、少々腐ったパンが載せられた皿は割れていない」
「テーブルの下、敷かれた絨毯にも血痕が有るな…」

「人間の体は大きい傷より小さい傷の方が痛く感じる__特に足の裏や指には非常に多く神経が集まって敏感だ」
「俺も画鋲が足に刺さった時は痛かったなぁ」

ここでマイルドが絨毯に何かを発見する。

「小さい指の痕だ。」
「最後に歩き回ったのはテーブルより低い身長の子供……幼稚園児くらいか?」

「そうだな…トイレの中で見た家族写真が俺の腹部辺りに貼られていたのも、そこの目線に来るのは餓鬼。」

「いいシーンで餓鬼っていうな」

「餓鬼は嫌いなんだよ」

「なるほど風呂で見付けたバスチェアは、浴槽で子供が溺れないように使っていたのか」
「山田が見付けた皿の破片を踏んでしまったから___おい、見てみろ」

マイルドが山田に見せたのはテーブル下、絨毯の真ん中程1箇所に少し不自然な盛り上がり。
華麗なテーブルクロス引きの要領でマイルドが絨毯を抜き取り、現れたのは床に取り付けられた扉。
盛り上がっていたのは鍵をかける為の南京錠だ。

「さっきの鍵か!!」
「山田、鍵貸して」

「君のケツポケットに入れといた」

「最悪だ…こんなのスリの逆だろ。物忍ばせ罪とか日本に無いのか?」
「しかもすんげぇヌメヌメ」
と言って鍵を使い、南京錠を外すマイルド。

その間に周囲を見て台所に目が行く山田は近くに冷蔵庫があり、その中に肉や魚が無いことに気付く。

「たぶん肉とか新鮮な物は電気の通っていない冷蔵庫より地下に持って行った方が鮮度を落とさずに居られるのかもしれない。」

そんな風に山田が独り言を呟くと辺りは不穏な空気が更に増した気がした。
山田が耳をすませると玄関にある扉の音の他に、何か不気味な言葉の羅列が足元から聴こえてくる。
それは今正にマイルドが開けようとしている扉の下から聞こえると山田は確信する。

「マイルド、この扉の先…何か居る。呪文かな、お経みたいな声が聞こえる」

「俺はなーんも聞こえない」

マイルドが床にある扉を開くとそこには地下へと続く長い梯子があり、底は見えず床に落ちていた皿の破片を落としてみても一切音が返ってくることは無い。

「此処はジャンケンじゃないか?」
「いや、一応これも2次試験。1人で戦ってくるのも試練じゃないのかね」

「俺は冷蔵庫に集中しているのでマイルドが扉を開ける前から光景を見ていないね」
「いやぁ~、この冷蔵庫最新機種だ。電気通ってたら凄いんだろうな…」

「冷蔵庫好き過ぎだろ!」
「冷蔵庫に魅惑スキル使われたのか!?」
「ジャンケンしようぜ山田君、俺ばかり恐怖体験するのはフェアじゃないと思うんだ」

「貴方先輩魔術師の方ですよね、それに俺より年上ですよね?」
「俺を連れて来たのは貴方なので危険な物を最初に見るべきは貴方だと俺は思いますよマイルドさん!!」
と、言って山田はまた冷蔵庫をウットリした目で見ている。

「1番嫌なタイプの探偵だこれ…なんでコイツ日本で人気者なのか理解に苦しむよ」
「しかも、ま~た冷蔵庫見てる。山田悠斗は冷蔵庫マニアなのか?」

「冷蔵庫の誘惑に俺は勝てないからマイルドが行ってきていいよん」

「はぁ、行きますよ。俺から先に降りるさ」

長い梯子を降りるとそこは地上より幾分か湿っぽく、足元は視認出来ない何かに濡れている。
暗闇の中に白熱球の光が今にも途切れそうになりながらも広い部屋の中心を照らし、その中心には真っ赤に光る魔法陣の上にはローブを被った背の高い男が小さな女の子を抱えて胡座をかいていた。
マイルドは少しでも近付いて情報を得ようと考えるが、「いや、山田にやらせよう」と考え直して踵を返し梯子を登り始める。

何か嫌な予感を感じた山田はマイルドの入った地下への扉を閉め、ついでに南京錠も掛ける。

「これでよし、っと。」
「ふぅ……冷蔵庫冷蔵庫~」

暫くすると開いていた筈の扉に頭を強く打ち付け、出口の扉が閉まっていることに気が付いたマイルドが叫ぶ。

「おい!閉めたな山田ァ!!」
「許すまじ!!そんなお前に鉛玉をプレゼントしてやる!!」

マイルドは魔術【Bullet】を使用する。
狭い空間で突如取り出した拳銃を頭上に向け連続して6発撃ち込み、扉に風穴を空ける。
更に天井で跳ね返った弾丸達はマイルドの指示した方向、及び南京錠と山田の体へと向かって飛ぶ。

「死ねぇ!!」

「か、回避!回避回避ッ回避ィ!!」

次の瞬間、天井や壁で反射した跳弾が山田を捕捉する。

(反射した弾丸が威力減衰すると思っているんだろうが、魔術で強化された鉛玉が普通であるとは考えていないだろ?)
「なァ、山田探偵」

「てて、テーブルぅぅ!!」
山田は咄嗟の判断でテーブルの下に潜り込む。予想通り山田は跳弾で威力減衰しテーブルを貫通するとは思っていない。

「あっぶねぇ。死ぬかと__お、」

ズガガガガッ

刹那、テーブルを貫通し山田に鉛の雨が降り注ぐ。

「うわああああ"あ"!!」

跳弾した弾丸の何発かは山田の頬や服を掠め、残りは南京錠を外側から破壊した。
地上1階に上がったマイルドは一息ついて

「扉閉めるからこうなるんだ」

と言って山田に拳銃をスッ…と山田の肩に当てて「次は当てるからな」と言った。

「マジで勘弁してください」

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