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4話 あれは嘘だ
しおりを挟む山田はマイルドに対して
「部屋数が少ないから2人で同じ場所を探すのはアリよりのアリ…より正確な情報収集と何かあった時、対処がしやすい」
と、言うがマイルドは考える人のポーズをしながら
「先程扉を開く際に感じた事ではあるが、恐らく周囲にある住宅だった瓦礫は、此処に居る何かしらの使った魔術によって破壊された物……」
「__そう考えるとソイツはこれから先、被害を拡大させる可能性がある。」
マイルドの探偵スイッチが入ったらしい…と山田は思う。
前の事件でカフェオレを飲んでいたと思ったら急に推理し始めたことがあった。
「成程、悠長に調べている時間は無さそうだ。」
「さっさと敵を見付け早々に処理が必要だ…よって山田君、2人バラバラで探索するというのはどうだろう」
「話長かったので途中よく分からなかったけど、そうしマース」
廃墟に入って右側にトイレ、風呂場と順に在り、左側はリビング、そして正面奥に階段が在るがマイルドの情報で2階部分の探索は必要無い。
「どちらから行くか迷った時、人は無意識に左を選択するからクラピカ理論で右から行かね?」
「そうだな…それに右ならトイレと風呂で別れてるし、俺と山田で手分け出来る」
「よし俺がトイレに行こう。山田は風呂、それが良い」
「えー、俺前世で風呂場に良い記憶無いからトイレが良いなぁ」
「お前の前世なんだったんだよ」
「風呂場に良い記憶無いってどういう…いや!!」
「でも、バ○オハザードとか風呂の中に怪物とか居たりするから水辺はちょっとねぇ」
「いやお前の方が戦闘経験あるんだから、絶っっ対マイルドが行くべきと思うわ」
「俺はトイレ行きます!!」
「いやいや此処は公平に行こうじゃないか、ねぇ山田君。」
「そう…ジャンケンだ。」
「じゃあ負けた方が風呂な」
「OK」
「「ジャン…ケンッ!!」」
「「ポン!!」」
勝ったのは山田。
崩れ落ちたのはマイルド。
「シャアッ!!」
(あっぶねぇ、君子危うきに近寄らずだからな)
「はぁ、風呂行きますね」
「行きたくねぇなぁ」
「俺はトイレだな」
そう言うと山田はトイレの中に入った。
至って普通の洋式トイレ。
4人分のスリッパと予備のトイレットペーパーがあり、開いた扉には廃墟になる前に住んでいたであろう家族の写真がある。
床にある4人分のスリッパは子供用の物だけが酷く汚れている。
トイレットペーパーにホコリが付いていていないことに気付いた。
「予備のトイレットペーパー、子供のスリッパ…ふむ。」
山田が思考を纏める為、便座に座ると扉に貼り付けられた家族写真はセロハンテープで接着されている事が分かる。
更に便座に座った時見える写真は扉の中間より若干下、山田の腹部辺りに貼られているという事に不信感を覚えた。
一方その頃マイルド。
少し躊躇したが、覚悟を決めて風呂場の扉を開く。扉の先には洗面台があり、鏡が叩き割られている。
水道が止まっているのか蛇口からは水が出る事はない。
そしてマイルドが携帯のライトを点けながら浴槽の方を見ると、カビか何か分からないが酷く濁った水が浴槽には貯まっていた。
パッと見て得られる情報はこのくらいだった。
「風呂の中は濁っている……これは良くない。」
「山田に手を入れてもらおう」
と言ってマイルドは風呂場を出ると廊下に居る山田と合流した。
「なんか見つけたか?」
「こっちは洗面台の鏡が何者かによって叩き割られていた」
「トイレで気になったのは不自然な位置に貼られた家族写真と、子供用のスリッパだけ使用頻度が高そうだなって事だけかな。」
「え、てか浴槽に何も無かった?」
「……」
「てっきり俺、浴槽の中に血溜りとかヘドロ詰まってるもんだと思ってたわ」
「いや中は確認してない」
「はぁ!?」
「ナニユエ??」
「濁っていたから何か出て来たら怖いじゃん……だから1回戻ってから山田と一緒の方いいかなと」
「女子かよ」
「先頭マイルドで行くならついて行ってもいいかな」
*マイルド・カフェ・ヲーレは身長185cm、筋肉質で体格が良く目付きが悪い男です。
山田との身長差は15cmあります。
「じゃあ行こうか」
マイルドが手を出し、山田が脊髄反射でその手を払う。
「手を繋ぐ必要あるか!?」
風呂場に男2人、先頭のマイルドが先程調べていない場所を山田が細かく調査すると浴槽の中に何か有るように見える。
「これ水ん中に何か有るね」
「マイルド、水抜けよ」
「え、じゃあ浴槽に拳銃で弾丸撃ち込む…」
スッとマイルドは懐から拳銃を取り出しトリガーを引こうとしている。
「いやいや、普通に栓抜けよ!!」
「浴槽の壁に栓に繋がってる鎖あるじゃねえか!!」
「嗚呼、有るね」
「じゃあこれで抜こうか」
「怖いよ…お前…」
マイルドが浴槽の栓を抜くとグポグポ音を立てて濁った水が抜けて行く。
そして浴槽に残っていたのはバスチェア、その横にペンダントが落ちている。
「なんで水の中にバスチェア?」
「あ、マイルド__ペンダント拾えよ」
バスチェアは小さいもので、ぬっるぬる。
ペンダントも恐らくぬるぬるしてそうで山田は直感的に触りたくないと感じる。
「普通シャワー浴びる時に使うんじゃないのか?」
「ん?ペンダント??」
マイルドがペンダントを拾い上げると、それと一緒に何処かの鍵が付いていた。
ペンダントになっているのはルビーだろうか小さな石がキラリと光っており、隣に揺れる鍵はヌルヌルとした粘り気のある水気がある。
そしてその鍵をよく見る為にマイルドは携帯のライトを当てると鍵に付着している液体が血餅、血液が凝固した物だと理解した。
「俺はマイルド。ありとあらゆる経験をしており一般人より表職の探偵でも何度も殺人現場で血を見ているので怖くない、怖くない……」
「キョエッ!!」
何かに驚いているマイルドの背中を見た山田はその場から離れようと廊下の方へ向き直ったが、マイルドが山田を見ずに小声で言い放つ。
「『俺は他人を貶めるような人間じゃない』と先程言ったな…」
「おう、俺はマイルドのこと信じてるぜ」
「__あれは嘘だ」
背後に立つマイルドが何を言ったのか山田には聞き取れなかったが、
次の瞬間、マイルドが大きな声で
「山田、こんな所に山田の名前が!!」
と、言って山田の興味を惹いた。
勿論、「え?なんでぇ?」と、気になってしまった山田が振り返った所にマイルドが血で濡れた鍵をぶん投げ、飛んで来たものを咄嗟に両手で掴んでしまう山田。
「おっと、何これ鍵?」
「ぬるぬるする…なんだこの汚いの」
「うんそれ血固まったやつ」
「嵌めやがったな、この嘘つきめ…だがな、俺は日本一とも謳われる私立探偵の山田悠斗…殺人現場の1つや2つ、数え切れない程見て来た俺がこの程度に………」
「恐れることは無い!!」
「くっそぉ、恐怖しろよ…」
「え、貴方先輩魔術師の方ですよねぇ。活躍してるとこ見た事無いんですけど、いっつもこんな感じなんですか??」
と山田は言いながら、前を通り過ぎようとするマイルドの尻ポケットにスっと掴んでいた鍵を入れるのであった。
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