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2話 一次試験
しおりを挟む「打ち明けたのは亡架乃の情報を知りたいからだけでは無い」
大家さんが帰った後ソファーに座り直してマイルドが話し始める。
「元々もう少ししたら言うつもりではあったが、別に隠したところで意味の無いことだと思ったから」
「まぁ依頼としては亡架乃の調査及び俺のタッグ、ひいては魔術師になってもらおうと思って今日は来たんだ。」
「話が全然見えるけど、俺もお前の横で何も無いところからコーヒーとミルクを出せば良いのか?」
「そんな魔術が有れば俺が覚えたいところだ」
「気にしなくてもいい。拒否しても構わないし、考えて貰っても待ってやる」
「うーん。」
「よし考えたな!行こうか」
「3秒も考えてないが!?」
「大丈夫、強制だ。拒否しても良いと言っただろう?」とマイルドは慌てる山田の目に手を当てがう。すると山田の意識は消え、目の前は真っ暗になった。
……………
山田が目を覚ますとそこは暗闇、何も見えず四方を見回しても奥が見えない暗黒。しかし普通なら見えない物が正面奥に溜まっている気がして、すかさず手を伸ばしてみる。
手を伸ばした先にはドアノブがあったので山田はドアノブを回して扉を開くと、目の前の景色は眩い光に覆われた。
閉じた瞼を恐る恐る開くとそこは白い部屋、足元の床は大理石のタイルが敷き詰められており窓は無く外の景色は確認出来ない。天井からはこの場に相応しくない電光掲示板が鎖で吊り下げられている。
周りを確認したが人は1人も居らず、この場には自分ただ1人が居ると山田は感じた。
そうしていると天井に吊り下がった電光掲示板から声が聞こえて来た。ピカピカの右から左に流れる文字はどこかの配信サイトを彷彿とさせるが今は気にしてられない。
『初めまして。悲しい事に君以外の者は《魔力》を感じることが出来なかった。』
『よって君だけが選ばれた。』
左右を見ると椅子が置いてあり、白いテーブルやコーヒーメーカーが壁に設置されている。
先程見たがカフェオレ好きのマイルドさえこの場には居ない。
『さて君の名前はなんというのかな?』
「山田悠斗、日本一頭のキレる名探偵だ」
『そうなのか。聞いた手前、言い難いが名前はどうだって良かった。』
『あとあまり自分を誇張しない方がいいと思うよ』
堂々と胸を張って格好を付けたかった山田は少し羞恥心を感じた。
『入りたまえ』と電子掲示板から聴こえるの声の後に続いて壁に今まで無かった扉が突然現れた。扉が開き、山田の目の前に現れたのは彼のよく知る人物。
『彼の名はマイルド・カフェ・ヲーレ。国際連合魔術機関イージスの魔術師であり私の部下だ。』
軽く会釈するマイルドは少し緊張しているかのように思える。
『早速で申し訳無いが君は彼と任務に当たってもらう。何、簡単な内容だ。』
「簡単な物ならお前がやれ!!」
『おっと口の利き方には注意したまえよ、君をこの場で殺すくらい容易なことは無いのだから』
「黙りマース」
『……。』
『魔力量に異常が見られた廃墟の調査だ…あ、それに今回から君はマイルド君とバディを組んでもらう。』
マイルドの話と相違点は無さそうだ。
話を終えた電光掲示板からの声は消え、ピカピカ光っていた文字も充電が無くなったのか消えてしまった。
「さて」とマイルドが手を叩いて此方に近付いて来る。
「一次試験クリアおめでとう。説明は省略するがさっきの電光掲示板の中身が俺の上司、そして君が俺と共に働く所が【国際連合魔術機関Aegis】だ。長いからイージスで良いだろう」
「俺の名前がマイルド・カフェ・ヲーレなのに呼び方がマイルドというのと同じように」
「下の補足必要無いだろ」
「……。」
「お前運転出来る?」
「ペーパードライバーさ」
「気が合うね俺もだ」
「俺が入って来た扉の先に車が駐車しているのだが、運転は不得意なんだ。」
「お前どうやって此処に来たんだ…」
「タクシーと電車乗り継いで来た」
「おかげで手持ちが無い」
「魔術師って案外大変なんだな」
「てっきりテレポートとかの空間移動を駆使して現場に急行する的なイメージだったけど、通勤費は出るの?」
「出ない代わりに給料が増える。それもこなした任務の数に応じて手当が付く」
「残業は任務後に上へ報告。任務以外の日は全て有給休暇になっているから俺としては普通の仕事するより楽で金も良い。」
「ホワイト企業じゃん」
「傍から見ればホワイトだが実際、単なる調査に地球外生命体が絡めば死ぬリスクが付き物だ」
「常に死と隣り合わせでも良いならこの職は向くさ」
「今の俺って辞めたらどうなんの?」
「辞めたら秘密裏に消される」
「辞めさせない前提で此処に呼ばれたんだよ」
「辞めマセーン」
扉を開いて出て行くと1台の赤のスポーツカーが在り、鍵はかかっていない。
「先輩が勿論運転するんだよな?」
「え?普通部下が運転すると思うけど、」
「《言いくるめ》を使います100%なので自動成功、あの~それって貴方の偏見ですよね?」
「もうその考え古臭いので止めてもらっても良いですか?というか貴方みたいなのがいるからブラック企業なんてものが生まれると思うんですよ、少しは進化して欲しいと思って私は貴方に運転をさせてあげます」
「くっそうぜぇ…《運転》しマース」
「俺紙ドライバーだからなぁ…失敗」
マイルドがエンジンをかけようと鍵を回したが上手く行かずにエンジンはかからない。
「使えねえ上司だ」
「ペーパー以前に紙にすら成らなかったらしい」
「お前がやれ」
「《運転》……初期値だからなぁ、失敗。」
山田が力いっぱい鍵を回すと根元で鍵は折れてしまった。
「鍵折れたわ、てかタクシー呼べないの?」
「何とか廻戦じゃ補助員で誰か居るもんだと思うけど」
運が良いことに此処からそう遠くない場所で休暇を楽しんでいた補助員の男が居ることにマイルドは気付いた。
「出ろ」プルルル
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