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第70話 『ゲームオーバー』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第70話
『ゲームオーバー』
「レンさ~ん、ミカゲさ~ん、ワイバーン倒し終わりましたよ!!」
楓ちゃんとクリームソーダSが、ワイバーンを討伐して私達の元に戻ってくる。そして
「あれ、誰ですか、その方は?」
「その装備……まさか、ソイツは!?」
戻ってきた二人は、黒い鎧を着た人物に気づき、クリームソーダSはすぐさまその正体に気づいた。
「ムカデか!?」
「え!? ムカデさんと会えたんですか!?」
私達はムカデと出会うことができ、草原にある切り株に座り向かい合う。
「ムカデ、あんたにお願いがあって俺たちは探してたんだ」
早速本題を切り出したのはクリームソーダS。彼女はムカデの目を見て話し出す。ムカデはキリッとしたクリームソーダSの目線に、睨まれたのかと勘違いして、眉間にしわを寄せて睨み出す。
「事情は分かってる。俺もハッピーランランの映像を見てたからな。俺を連れてゲームをクリアしたい。そういうことだろ?」
「分かってるならありがたい。三つのフィールドを攻略するにはあんたの力が必要だ」
状況を分かっているのなら、良い返事が返ってくるだろう。そう期待して願い出る。しかし、ムカデの返答は違った。
「その必要はない」
まさかのムカデの答えに、クリームソーダSは食ってかかるように、身を乗り出した。
「なぜだ!? 現実に戻りたくないのか!!」
「勘違いするな。俺は三つのフィールドを攻略する必要がないと答えただけだ」
ムカデの言葉に理解が追いつかない私達は首を傾げる。
ゲームのクリアのためには三つのフィールドを攻略する必要があるのに、なぜその必要はないのか?
「アースガルズ、ヘルヘイム。この二つのフィールドはレベルの高いパーティならば、攻略が可能だ。そして名のあるプレイヤーがダンジョンに向かうのを俺は見ている」
このゲームがどれだけ難しいかは知らないが、強いプレイヤーはいるだろう。
そのプレイヤーにその二つの攻略は任せたということだ。しかし、
「ミズガルズにあるダンジョン。それだけは特殊で高レベルであればあるほど侵入を嫌う。理由は二つある。一つは三つのフィールドで一番難易度が高いからだ。アトラスソードのプレイヤーでは有名なことだ。そしてもう一つ……」
ムカデは逸らしていた目線を動かして、私と楓ちゃんに向けた。
「ミズガルズのダンジョンはレベルが10以下のプレイヤーをパーティに入れていないと入ることができない。本来なら、生け贄として初心者や捨て垢を連れて行くパーティがいるが……」
「今は現実世界と命がリンクしてる。それで攻略に行くプレイヤーが少ないんですね」
レベルの低いプレイヤーは難しいダンジョンに入れば、簡単にゲームオーバーになるだろう。
今の状況でそんなことに付き合ってくれる人はいない。
レベルの高いプレイヤーもそんな足手纏いを連れていれば、危険な状況があるだろう。
「低レベルで攻略を目指すプレイヤー。俺はそんなプレイヤーを待っていた。ミズガルズのダンジョン。一緒に来るか?」
ミズガルズの北東にある山脈地帯。そこに古びた遺跡跡地が広がっていた。
山の地形のへ移動で、遺跡のほとんどは埋もれていたり崩れている。そんな遺跡の間を縫うようにして進む。
「ミズガルズのダンジョンってどこにあるのよ? さっきから景色が全然変わらないんだけど」
私は隣でトラップを警戒しながら歩くミカゲに訊ねる。
「今、話しかけないでよ!! ダンジョンの近くには即死トラップなんかがあるのよ!! …………ダンジョンならもうすぐのはずよ」
ムカデと合流した後、ミカゲはパーティを抜けて逃げ出そうとしたが、クリームソーダSに説得されてここまで連れて来させられた。
ダンジョン攻略ということもあり、トラップを発見できるミカゲは必要不可欠な存在だ。しかし、ここまで怯えられると申し訳なくなる。
「見えた。あれがダンジョンの入り口だ」
瓦礫に埋もれた遺跡の入り口。そこがダンジョンの入り口となっており、看板には『ダンジョンへいらっしゃ~い』とふざけた文字が書かれていた。
「なにこの、ふざけた看板……」
「運営の遊びだ。気にするな」
看板に呆れる私の肩を叩き、クリームソーダSがダンジョンに入る。私もみんなに続いてダンジョンへ侵入した。
ダンジョンの中は光が届かず、暗闇に覆われている。
「フラッシュ!」
私は魔法を使い、灯りを作り出す。これで暗闇の中も進むことができる。
「レン、ナイス魔法だ」
クリームソーダSに褒められながら、私達はダンジョンの奥へ進む。
道中で動く床や、鏡で光を反射させる仕掛けを突破して、地下二階にあるボス部屋の前までたどり着いた。
「話を聞いてたらもっと難しいのかと思ってましたけど、思ってたより簡単でしたね」
「違うわ。これからよ、このダンジョンの恐ろしいところは……」
ボス部屋の扉を開ける前に、ムカデは振り返りパーティメンバーの様子を確認する。
「このダンジョンにいるのはリッチだ。今作で最も強いとされるボスモンスターだ。今作のストーリーでは滅んだ古代の王国の英雄だ。まだ誰も倒したことのないフィールドボスだ。油断するなよ!!」
ムカデの言葉に皆が頷くと、ムカデは扉を開けてボス部屋に入る。そこは図書館のように本に囲まれたステージであり、中央にツノの生えたフード姿の骸骨がいた。
骸骨は片手に持った本を手に話し始める。
「よくここまで来たな……」
骸骨が話している間、みんなは大人しく待っているが、私はこれがボスならと魔法で攻撃してみる。だが、ムービー演出中は無敵なのか。攻撃は全く効かないし、反応がない。
というか、ムービーを邪魔した私をムカデが睨みつけてくる。
「俺は何千年もこの図書館を守り続けてきたか……。それが王の望みであり、私の望みであると信じていたからだ。だが、邪王様が教えてくれた、私が本当に望んでいたものを……。さぁ、友よ、決戦と行こうではないか!」
ムービーが終わったようで、骸骨は姿が変化する。紫色のオーラを放ち、骸骨の上部の吹き出しに、HPと名前が表示された。
「滅びた王国の英雄ラークか。俺とクリームソーダSは前線へ。ミカゲとレンは援護を、金古は二人を守ってくれ!!」
リーダー気取りのムカデが指示を出し、私達は戦闘を開始する。
ラークは魔法で遠距離から攻撃してくるが、前線の二人は魔法の弾幕を掻い潜って攻撃。
攻撃の間にテレポートで距離を取るラークだが、逃げた先を予測して私は魔法で攻撃をする。
レベル差の影響でダメージは5しか入らないが、それでも何もないよりはマシだろうと続ける。
そして苦戦しながらも、誰も離脱することなく!!
「こ、この俺がやられるとは……」
フィールドボスであるラークを倒すことに成功した。
ラークのHPがゼロになると、再び演出に入る。さっさと終わって欲しい私は、魔法で攻撃するがやはり効果はない。
「ふふふ、感謝する。……俺はもう未練はない。最後にお前達と戦え、寂しくない時間を過ごせたからな」
ラークは消滅すると、ドクロマークの入った杖をドロップし、魔法職である私が貰う。正直欲しくはなかったが、渡された……。
っと、ラークを倒したことでゲーム内に連絡が入る。
『全フィールドボスが倒されました。ラストステージのルドベキアが解放されました』
そのメッセージと共に、マップの中央に新しいステージが現れる。
「他のプレイヤーもフィールドボスを倒したみたいだな。後はラスボスの元に向かうだけだ」
「そうですね!!」
これでゲームのクリアに近づいた。ポーションを飲み、体力を回復させていたムカデは、皆に突然パンを配り出す。
「何このパン?」
「このパンはパン魔人というモンスターがドロップするアイテムで、食べると任意の場所にテレポートすることができる。これを使ってラスボスの城へ行く」
「そんな便利なアイテムが!? そんなものがあるなら、早く使ってよ!!」
突然、便利アイテムを取り出したムカデに、私が文句を言うと、ムカデはため息を吐いて、
「パン魔人はレアモンスターだ。ほぼログインしてる俺もこの人数分しか持ってない」
「なら、もっと集めといてよ」
パンを食べてラスボスのいる城へテレポートした私達。
これからラスボス戦だというのに、私のレベルは……。
「私、レベルが5なんだけど、ここで待ってたほうがいいかな?」
まだ低レベルのままだった。
ラークとの戦闘も他人任せ、まぁ、あの時は低レベルなプレイヤーが必要だったとはいえ、今回は私達がついていく必要はない。
「え、レンさん。せっかくここまで来たんだから、ラスボス見ていきましょうよ」
「あんた、このゲームでゲームオーバーになったらどうなるか分かってるの? 今の私達じゃ、ラスボスに触れただけで終わりよ!?」
ラーク戦だって、必死に逃げ回っていた。そんな私達がラスボス戦に参加したら、確実に負ける。
私達の会話を聞き、クリームソーダSが頷く。
「そうだな。レンと金古はここで残った方がいいかもしれない。……だが」
クリームソーダSは逃げ出そうとするミカゲの首を掴んだ。猫のように首を掴まれたミカゲは暴れるが、クリームソーダSの力に敵わず逃げられない。
「残ってるのは邪王戦だけよ!? 私の力は必要ないはずよ!! 私を解放してよー!?」
「邪王はどんな攻撃をしてくるかわからないんだ。お前の力が必要になるかもしれないだろ」
「イヤァァァ!? 私は嫌よ!? やめてよ~!? 帰してよォォォォォ!!」
クリームソーダSは説得しようとするが、ミカゲはもう揺るがない。
結局、クリームソーダSはミカゲを解放して自由にさせた。怯えたミカゲは、姿を隠してどこかへと消えていった。
「じゃあ、俺たちだけでいくか。ムカデ」
「元々俺は一人で行くつもりだった。仲間がいるだけ心強い」
熱い握手をした二人が城へ入ろうとした時。城の入り口の向かいにある階段を登り、鎧の集団が現れた。
綺麗な列に成したプレイヤーの集団は、私達の横を通り抜けて城へ入っていく。
「な、なにあの凄そうな集団……」
「軍隊みたいなパーティでしたね」
城へ入って行ったのは、ざっと数えただけで50は超えていた。あんなに大きなパーティがあったとは……。
「あれは食品加工隊!?」
「なにそれ……」
「中級プレイヤーと上級プレイヤーを集めてできた攻略隊だ。リーダーをチクワ、副リーダーにハンペンで構成されて、死霊魔法を得意とするチーズ、クルセイダーのジャムを加えた攻略に一番近いとされるパーティだ。こんな短期間で城まで届くなんて、流石は攻略隊だ……」
クリームソーダSの解説を呆れながら聞き終え、私は楓ちゃんと城の前で待ち、食品加工隊の後を追うムカデ達を見送った。
「後はあの人達がラスボスを倒すのを待つだけね」
「そうですね」
城の前で座り込み、ラスボスがやられるのを待っていようとしたが、
「ねぇ、あの空を飛んでるモンスター、私達のこと狙ってない?」
「…………狙って、ますね」
私達は急いで城の中へ退避した。
城に入ると、すでに戦闘が始まっているようで、炸裂音や金属音が場内に響き渡る。私と楓ちゃんは柱に身を隠しながら、戦闘の様子を見守った。
多くのプレイヤーに囲まれる人物。あれが邪王なのだろう。しかし、その見た目は……。
「あれってゴキブ……」
「言わないで!!」
私は楓ちゃんの口を抑えて言わせないようにする。
あの邪王の見た目。それはまさしく全世界共通で嫌われる有名な虫Gである。前作ではオケラが魔王をやっていたと聞いたことがあったが、まさかあの虫を採用しているとは……。
超高速で移動する邪王にプレイヤー達は苦戦しながらも、どうにかダメージを与えている。
ダウンしているプレイヤーもいるが、お互いを守りながら上手くカバーして、今のところ誰もゲームオーバーになっていない。
「これなら勝てますよ!!」
時間はかかったが、射王のHPは減っていき、ついに邪王は倒れた。プレイヤー達は勝利に喜び、歓喜の声を上げる。
そんな中、地に手をついた邪王はプレイヤーを睨みつけると……。
「この俺がやられるとは……。だが、このままやられるものか。俺が取り戻すんだ、世界を……」
ストーリーが飛んでいるため、邪王の台詞についていけない。このまま邪王は消滅するのかと思われた時、城の奥からピエロが現れた。
「皆んな~、元気~? ランランは元気だよ!!」
「ハッピーランラン!?」
ランランの登場で警戒を強めるプレイヤー達。武器を構えるプレイヤーに臆することなく、ランランは邪王に近づく。
「私ね。皆んなのために特別なデータを作ってきたんだ!! このままやられちゃってもつまんないでしょ、だから台サービス!!」
ランランはポケットの中から黒い球を取り出した。そのたまには白い文字で数字や英語がギッチリと詰め込まれており、ランランは邪王の頭に球を撫で入れる。
球は不思議なことに邪王の身体に吸収されると、邪王に変化が起きた。
身体から紫色のオーラを放ち、目を赤く光らせる。
「さぁ、邪王様。あなたの真の力を見せてあげるのよ!」
「フガァァァァァッ!!」
雄叫びをあげて新形態へと変化した邪王。ランランは後ろに下がると、邪王第二形態とプレイヤーの戦いを観戦し始めた。
「どうしましょう!? 僕達の参戦しますか!?」
「無理よ!! あれ見なさいよ、さっきよりも強そうじゃない!!」
明らかに邪王の性能が上がっている。スピードも三倍。攻撃のパターンも増えて、次々と繰り出される新技に苦戦させられている。
「でも、このままだとやられちゃいますよ!!」
「それもそうだけど……。私達がどうこう出来るレベルじゃないよ!!」
下手に飛び込めば、1秒も持たずにやられてしまう。私達が飛び込んだことで陣形が崩れれば、戦況が崩壊する可能性だってある。
ここは見守るしかないのだ。
「ただ待ってるなんて……僕にはできません!!」
「ちょっ!? 楓ちゃん!!」
私は楓ちゃんを押さえつけてでも止めようとするが、私では楓ちゃんを止めることはできず、飛び出して行ってしまう。
邪王の攻撃に陣形が崩れ出し、一人目の犠牲者が出そうになっていたが、楓ちゃんが得意の蹴り技で邪王の攻撃を止めて、一人のプレイヤーを救った。
「金古、なぜ!!」
「僕も手伝います!! 協力して倒しましょう!!」
楓ちゃんの身体能力の高さは、レベル差の壁を軽々と超えて、邪王にダメージを与えノックバックで動きを封じる。
その姿を見て、戦闘に希望が見えたのか。諦めかけていたプレイヤーはやる気を取り戻し、崩れかけていた陣形が元の形に戻った。
さらに新たにやってきた、クリアを目指すプレイヤーも先頭に参戦し、戦況が一気に有利になった。
「これが最後だ!!」
ムカデが剣を振り下ろし、邪王を切り付けると、邪王はHPが無くなり消滅した。
「やった!! 俺達の勝ちだ!!」
「これで帰れるぞ!!」
流石に邪王も消滅したため、私もプレイヤーの中に混じって一緒に喜ぶ。これでゲームから解放される。だが、
「皆んな、なかなかやるね~。でも、ランランは寂しいなぁ、皆んながいなくなっちゃうのは」
「なに言いやがる!! このさっさと俺たちを帰せ!!」
「僕達はクリアしたんだ!! 約束は守るのよ!!」
プレイヤーはランランに野次を飛ばすが、ランランは笑顔で向き合うと、
「やだぁ、私がルールよ」
頬に手を当てて可愛く見せる。
最初から約束を守るのつもりはなかったのだろう。そんな反応だ。
ランランの対応に腹を立てた一部のプレイヤーは、武器を手に持ち襲い掛かる。五人のプレイヤーが同時に攻撃を仕掛けるが、
「なっ!?」
プレイヤーの武器はランランに届く前に止まった。
武器を止めたのは、露出の高い衣装を見に纏い、黒い羽と尻尾を持った一人の少女だった。
リエの使うバリアのようなものを使い、プレイヤーの攻撃を弾き返してランランを守った少女は、ランランを守るようにプレイヤーの前に立ち塞がる。
「う、裏ボスか!?」
「はぁ? 誰がこんなつまんないゲームのキャラよ」
突如現れた少女に皆が動揺する中、楓ちゃんが耳打ちをする。
「悪霊です。一番最初の映像で、現実世界で生命力を吸った悪霊ですよ」
「あれが悪霊? なんか今までの悪霊と違くない? 賢そうっていうか、幽霊ぽいっていうか」
今まで出会った悪霊は、会った瞬間に襲ってくるようなものばかりだった。
だが、今回の悪霊は違う。会話もできるし、人間味がある。
「なんででしょう? 悪霊に成り立てって感じもしますけど、特殊な悪霊なのかもしれません。それに、ランランの手元を見てください」
楓ちゃんに言われて、ランランの手元を見ると、七色に輝く石を持っていた。
「前に師匠とレイさんが話していた悪霊を操る石ですよ。あれであの悪霊に命令を出してるんです。そうでなければ、悪霊の性質上、人を襲わないはずがないです」
「またあれを使ってるのね……。あれがなんなのかも気になるし、あの石を取り上げられないかしら?」
前の時もタカヒロさんが石を取り上げて、悪霊の制御権を奪った。今回も同じようにやれれば、このゲームを終わらせて、情報を喋らせることができる。
「無理です。あの悪霊、結構手強いですよ。僕一人では悪霊の足止めで精一杯です」
それができるだけでも十分すごいのだが……。しかし、石を取り上げられないとするとどうするべきか。そう迷っている中、
「動くな!!」
事態が急変した。ランランの背後にミカゲぎ現れると、ミカゲを後ろから拘束して、首元にナイフを突きつける。
「い、いつの間に後ろに……」
「私は盗賊よ。奇襲は得意なのよ」
ミカゲがランランを捕らえたことで、悪霊はランランを助けに行きたくても人質となっている状態のため、動けない。
「さぁ、ランラン。私達を帰しなさい」
ミカゲがナイフを突き立てて脅すと、
「わ、分かった。帰すからやめてくれ。頼む……」
「なら、まずはそこのモンスターを消すのよ」
ランランは抵抗できず、悪霊に現実に帰るように命令する。悪霊は大人しく姿を消す。次にログアウトできるようにするように指示を出すと、それにもランランは大人しく従った。
「これで良いだろ……。解放してくれ」
「口調が変わったわね。ランラン。それが本当のあなたなのね。でも、ここからが本番よ」
ログアウトが出来るようになったが、城に残ったプレイヤーはミカゲと一緒にランランを拘束する。そして拷問のような状態を作った。
「なぜこんなことをしたか。教えてもらうわ。そしてあなたの正体も全て警察に伝える」
ミカゲを中心にプレイヤーはランランのことを聞き出そうとする。
ムカデはログアウトできるようになると、さっさといなくなってしまったが、私達はゲームに残り、ランランの話を聞こうとしていた。
「……ふふふ、私は何も喋らない。すでに手は打ってある」
ランランがそう言った次の瞬間。
目の前が暗くなり、身体が軽くなる。何が起きたのかと両手を動かしてみると、
「痛い!!」
聞き慣れた声と共に何かに腕がぶつかった。
「レイ、楓。起きたか!!」
またしても聞き慣れた別の声。何者かが私の頭についているものを外すと、視界が広がり、見慣れた天井と黒髪の少女の顔が映った。
「リエ?」
「心配しましたよ!! レイさん!!」
寝っ転がった状態の私にリエが抱きついてくる。状況説明を求めて、私は顔の横で座っている黒猫に目線を向ける。
「お前と楓がゲームをやってから、ニュースになってな。どうやら帰って来れたみたいだな」
「じゃあ、ここは現実ってこと?」
「それ以外に何がある」
私達はゲームの世界から現実に帰ってきたようだ。私と同じく起き上がった楓ちゃんは、黒猫を発見するといち早く飛びつく。
「師匠~!! 久しぶりにあった気分です!!」
大人しく捕まった黒猫を眺めながら、私はリエに訊ねる。
「どれくらい時間が経ったの?」
「大体4時間くらいです。ニュースではゲーム内では時間の進みが早いって言っていたので、そちらの体感はもう少しあったかもしれませんが」
「そうね。丸一日くらいはいた気分よ」
戻って来れたのはよかった。しかし、ログアウトもしていないのになぜ突然元に戻ってきたのか。
その疑問は付けっぱなしになっている、テレビのニュースが教えてくれた。
「ゲーム会社がセキュリティの権限を取り戻したことで、ゲームの強制終了を実行。多くのプレイヤーが目を覚ましているようです」
ニュースでは誰かがセキュリティを取り戻して、ゲーム会社に送信したようだ。取り返せたセキュリティをもとに、全員を一斉に目覚めさせたらしい。
楓ちゃんの腕からするりと抜けて脱出した黒猫は、窓の外を見る。
「もう今日は遅い。今日のことは後で聞くから、楓は帰って良いぞ」
著者:ピラフドリア
第70話
『ゲームオーバー』
「レンさ~ん、ミカゲさ~ん、ワイバーン倒し終わりましたよ!!」
楓ちゃんとクリームソーダSが、ワイバーンを討伐して私達の元に戻ってくる。そして
「あれ、誰ですか、その方は?」
「その装備……まさか、ソイツは!?」
戻ってきた二人は、黒い鎧を着た人物に気づき、クリームソーダSはすぐさまその正体に気づいた。
「ムカデか!?」
「え!? ムカデさんと会えたんですか!?」
私達はムカデと出会うことができ、草原にある切り株に座り向かい合う。
「ムカデ、あんたにお願いがあって俺たちは探してたんだ」
早速本題を切り出したのはクリームソーダS。彼女はムカデの目を見て話し出す。ムカデはキリッとしたクリームソーダSの目線に、睨まれたのかと勘違いして、眉間にしわを寄せて睨み出す。
「事情は分かってる。俺もハッピーランランの映像を見てたからな。俺を連れてゲームをクリアしたい。そういうことだろ?」
「分かってるならありがたい。三つのフィールドを攻略するにはあんたの力が必要だ」
状況を分かっているのなら、良い返事が返ってくるだろう。そう期待して願い出る。しかし、ムカデの返答は違った。
「その必要はない」
まさかのムカデの答えに、クリームソーダSは食ってかかるように、身を乗り出した。
「なぜだ!? 現実に戻りたくないのか!!」
「勘違いするな。俺は三つのフィールドを攻略する必要がないと答えただけだ」
ムカデの言葉に理解が追いつかない私達は首を傾げる。
ゲームのクリアのためには三つのフィールドを攻略する必要があるのに、なぜその必要はないのか?
「アースガルズ、ヘルヘイム。この二つのフィールドはレベルの高いパーティならば、攻略が可能だ。そして名のあるプレイヤーがダンジョンに向かうのを俺は見ている」
このゲームがどれだけ難しいかは知らないが、強いプレイヤーはいるだろう。
そのプレイヤーにその二つの攻略は任せたということだ。しかし、
「ミズガルズにあるダンジョン。それだけは特殊で高レベルであればあるほど侵入を嫌う。理由は二つある。一つは三つのフィールドで一番難易度が高いからだ。アトラスソードのプレイヤーでは有名なことだ。そしてもう一つ……」
ムカデは逸らしていた目線を動かして、私と楓ちゃんに向けた。
「ミズガルズのダンジョンはレベルが10以下のプレイヤーをパーティに入れていないと入ることができない。本来なら、生け贄として初心者や捨て垢を連れて行くパーティがいるが……」
「今は現実世界と命がリンクしてる。それで攻略に行くプレイヤーが少ないんですね」
レベルの低いプレイヤーは難しいダンジョンに入れば、簡単にゲームオーバーになるだろう。
今の状況でそんなことに付き合ってくれる人はいない。
レベルの高いプレイヤーもそんな足手纏いを連れていれば、危険な状況があるだろう。
「低レベルで攻略を目指すプレイヤー。俺はそんなプレイヤーを待っていた。ミズガルズのダンジョン。一緒に来るか?」
ミズガルズの北東にある山脈地帯。そこに古びた遺跡跡地が広がっていた。
山の地形のへ移動で、遺跡のほとんどは埋もれていたり崩れている。そんな遺跡の間を縫うようにして進む。
「ミズガルズのダンジョンってどこにあるのよ? さっきから景色が全然変わらないんだけど」
私は隣でトラップを警戒しながら歩くミカゲに訊ねる。
「今、話しかけないでよ!! ダンジョンの近くには即死トラップなんかがあるのよ!! …………ダンジョンならもうすぐのはずよ」
ムカデと合流した後、ミカゲはパーティを抜けて逃げ出そうとしたが、クリームソーダSに説得されてここまで連れて来させられた。
ダンジョン攻略ということもあり、トラップを発見できるミカゲは必要不可欠な存在だ。しかし、ここまで怯えられると申し訳なくなる。
「見えた。あれがダンジョンの入り口だ」
瓦礫に埋もれた遺跡の入り口。そこがダンジョンの入り口となっており、看板には『ダンジョンへいらっしゃ~い』とふざけた文字が書かれていた。
「なにこの、ふざけた看板……」
「運営の遊びだ。気にするな」
看板に呆れる私の肩を叩き、クリームソーダSがダンジョンに入る。私もみんなに続いてダンジョンへ侵入した。
ダンジョンの中は光が届かず、暗闇に覆われている。
「フラッシュ!」
私は魔法を使い、灯りを作り出す。これで暗闇の中も進むことができる。
「レン、ナイス魔法だ」
クリームソーダSに褒められながら、私達はダンジョンの奥へ進む。
道中で動く床や、鏡で光を反射させる仕掛けを突破して、地下二階にあるボス部屋の前までたどり着いた。
「話を聞いてたらもっと難しいのかと思ってましたけど、思ってたより簡単でしたね」
「違うわ。これからよ、このダンジョンの恐ろしいところは……」
ボス部屋の扉を開ける前に、ムカデは振り返りパーティメンバーの様子を確認する。
「このダンジョンにいるのはリッチだ。今作で最も強いとされるボスモンスターだ。今作のストーリーでは滅んだ古代の王国の英雄だ。まだ誰も倒したことのないフィールドボスだ。油断するなよ!!」
ムカデの言葉に皆が頷くと、ムカデは扉を開けてボス部屋に入る。そこは図書館のように本に囲まれたステージであり、中央にツノの生えたフード姿の骸骨がいた。
骸骨は片手に持った本を手に話し始める。
「よくここまで来たな……」
骸骨が話している間、みんなは大人しく待っているが、私はこれがボスならと魔法で攻撃してみる。だが、ムービー演出中は無敵なのか。攻撃は全く効かないし、反応がない。
というか、ムービーを邪魔した私をムカデが睨みつけてくる。
「俺は何千年もこの図書館を守り続けてきたか……。それが王の望みであり、私の望みであると信じていたからだ。だが、邪王様が教えてくれた、私が本当に望んでいたものを……。さぁ、友よ、決戦と行こうではないか!」
ムービーが終わったようで、骸骨は姿が変化する。紫色のオーラを放ち、骸骨の上部の吹き出しに、HPと名前が表示された。
「滅びた王国の英雄ラークか。俺とクリームソーダSは前線へ。ミカゲとレンは援護を、金古は二人を守ってくれ!!」
リーダー気取りのムカデが指示を出し、私達は戦闘を開始する。
ラークは魔法で遠距離から攻撃してくるが、前線の二人は魔法の弾幕を掻い潜って攻撃。
攻撃の間にテレポートで距離を取るラークだが、逃げた先を予測して私は魔法で攻撃をする。
レベル差の影響でダメージは5しか入らないが、それでも何もないよりはマシだろうと続ける。
そして苦戦しながらも、誰も離脱することなく!!
「こ、この俺がやられるとは……」
フィールドボスであるラークを倒すことに成功した。
ラークのHPがゼロになると、再び演出に入る。さっさと終わって欲しい私は、魔法で攻撃するがやはり効果はない。
「ふふふ、感謝する。……俺はもう未練はない。最後にお前達と戦え、寂しくない時間を過ごせたからな」
ラークは消滅すると、ドクロマークの入った杖をドロップし、魔法職である私が貰う。正直欲しくはなかったが、渡された……。
っと、ラークを倒したことでゲーム内に連絡が入る。
『全フィールドボスが倒されました。ラストステージのルドベキアが解放されました』
そのメッセージと共に、マップの中央に新しいステージが現れる。
「他のプレイヤーもフィールドボスを倒したみたいだな。後はラスボスの元に向かうだけだ」
「そうですね!!」
これでゲームのクリアに近づいた。ポーションを飲み、体力を回復させていたムカデは、皆に突然パンを配り出す。
「何このパン?」
「このパンはパン魔人というモンスターがドロップするアイテムで、食べると任意の場所にテレポートすることができる。これを使ってラスボスの城へ行く」
「そんな便利なアイテムが!? そんなものがあるなら、早く使ってよ!!」
突然、便利アイテムを取り出したムカデに、私が文句を言うと、ムカデはため息を吐いて、
「パン魔人はレアモンスターだ。ほぼログインしてる俺もこの人数分しか持ってない」
「なら、もっと集めといてよ」
パンを食べてラスボスのいる城へテレポートした私達。
これからラスボス戦だというのに、私のレベルは……。
「私、レベルが5なんだけど、ここで待ってたほうがいいかな?」
まだ低レベルのままだった。
ラークとの戦闘も他人任せ、まぁ、あの時は低レベルなプレイヤーが必要だったとはいえ、今回は私達がついていく必要はない。
「え、レンさん。せっかくここまで来たんだから、ラスボス見ていきましょうよ」
「あんた、このゲームでゲームオーバーになったらどうなるか分かってるの? 今の私達じゃ、ラスボスに触れただけで終わりよ!?」
ラーク戦だって、必死に逃げ回っていた。そんな私達がラスボス戦に参加したら、確実に負ける。
私達の会話を聞き、クリームソーダSが頷く。
「そうだな。レンと金古はここで残った方がいいかもしれない。……だが」
クリームソーダSは逃げ出そうとするミカゲの首を掴んだ。猫のように首を掴まれたミカゲは暴れるが、クリームソーダSの力に敵わず逃げられない。
「残ってるのは邪王戦だけよ!? 私の力は必要ないはずよ!! 私を解放してよー!?」
「邪王はどんな攻撃をしてくるかわからないんだ。お前の力が必要になるかもしれないだろ」
「イヤァァァ!? 私は嫌よ!? やめてよ~!? 帰してよォォォォォ!!」
クリームソーダSは説得しようとするが、ミカゲはもう揺るがない。
結局、クリームソーダSはミカゲを解放して自由にさせた。怯えたミカゲは、姿を隠してどこかへと消えていった。
「じゃあ、俺たちだけでいくか。ムカデ」
「元々俺は一人で行くつもりだった。仲間がいるだけ心強い」
熱い握手をした二人が城へ入ろうとした時。城の入り口の向かいにある階段を登り、鎧の集団が現れた。
綺麗な列に成したプレイヤーの集団は、私達の横を通り抜けて城へ入っていく。
「な、なにあの凄そうな集団……」
「軍隊みたいなパーティでしたね」
城へ入って行ったのは、ざっと数えただけで50は超えていた。あんなに大きなパーティがあったとは……。
「あれは食品加工隊!?」
「なにそれ……」
「中級プレイヤーと上級プレイヤーを集めてできた攻略隊だ。リーダーをチクワ、副リーダーにハンペンで構成されて、死霊魔法を得意とするチーズ、クルセイダーのジャムを加えた攻略に一番近いとされるパーティだ。こんな短期間で城まで届くなんて、流石は攻略隊だ……」
クリームソーダSの解説を呆れながら聞き終え、私は楓ちゃんと城の前で待ち、食品加工隊の後を追うムカデ達を見送った。
「後はあの人達がラスボスを倒すのを待つだけね」
「そうですね」
城の前で座り込み、ラスボスがやられるのを待っていようとしたが、
「ねぇ、あの空を飛んでるモンスター、私達のこと狙ってない?」
「…………狙って、ますね」
私達は急いで城の中へ退避した。
城に入ると、すでに戦闘が始まっているようで、炸裂音や金属音が場内に響き渡る。私と楓ちゃんは柱に身を隠しながら、戦闘の様子を見守った。
多くのプレイヤーに囲まれる人物。あれが邪王なのだろう。しかし、その見た目は……。
「あれってゴキブ……」
「言わないで!!」
私は楓ちゃんの口を抑えて言わせないようにする。
あの邪王の見た目。それはまさしく全世界共通で嫌われる有名な虫Gである。前作ではオケラが魔王をやっていたと聞いたことがあったが、まさかあの虫を採用しているとは……。
超高速で移動する邪王にプレイヤー達は苦戦しながらも、どうにかダメージを与えている。
ダウンしているプレイヤーもいるが、お互いを守りながら上手くカバーして、今のところ誰もゲームオーバーになっていない。
「これなら勝てますよ!!」
時間はかかったが、射王のHPは減っていき、ついに邪王は倒れた。プレイヤー達は勝利に喜び、歓喜の声を上げる。
そんな中、地に手をついた邪王はプレイヤーを睨みつけると……。
「この俺がやられるとは……。だが、このままやられるものか。俺が取り戻すんだ、世界を……」
ストーリーが飛んでいるため、邪王の台詞についていけない。このまま邪王は消滅するのかと思われた時、城の奥からピエロが現れた。
「皆んな~、元気~? ランランは元気だよ!!」
「ハッピーランラン!?」
ランランの登場で警戒を強めるプレイヤー達。武器を構えるプレイヤーに臆することなく、ランランは邪王に近づく。
「私ね。皆んなのために特別なデータを作ってきたんだ!! このままやられちゃってもつまんないでしょ、だから台サービス!!」
ランランはポケットの中から黒い球を取り出した。そのたまには白い文字で数字や英語がギッチリと詰め込まれており、ランランは邪王の頭に球を撫で入れる。
球は不思議なことに邪王の身体に吸収されると、邪王に変化が起きた。
身体から紫色のオーラを放ち、目を赤く光らせる。
「さぁ、邪王様。あなたの真の力を見せてあげるのよ!」
「フガァァァァァッ!!」
雄叫びをあげて新形態へと変化した邪王。ランランは後ろに下がると、邪王第二形態とプレイヤーの戦いを観戦し始めた。
「どうしましょう!? 僕達の参戦しますか!?」
「無理よ!! あれ見なさいよ、さっきよりも強そうじゃない!!」
明らかに邪王の性能が上がっている。スピードも三倍。攻撃のパターンも増えて、次々と繰り出される新技に苦戦させられている。
「でも、このままだとやられちゃいますよ!!」
「それもそうだけど……。私達がどうこう出来るレベルじゃないよ!!」
下手に飛び込めば、1秒も持たずにやられてしまう。私達が飛び込んだことで陣形が崩れれば、戦況が崩壊する可能性だってある。
ここは見守るしかないのだ。
「ただ待ってるなんて……僕にはできません!!」
「ちょっ!? 楓ちゃん!!」
私は楓ちゃんを押さえつけてでも止めようとするが、私では楓ちゃんを止めることはできず、飛び出して行ってしまう。
邪王の攻撃に陣形が崩れ出し、一人目の犠牲者が出そうになっていたが、楓ちゃんが得意の蹴り技で邪王の攻撃を止めて、一人のプレイヤーを救った。
「金古、なぜ!!」
「僕も手伝います!! 協力して倒しましょう!!」
楓ちゃんの身体能力の高さは、レベル差の壁を軽々と超えて、邪王にダメージを与えノックバックで動きを封じる。
その姿を見て、戦闘に希望が見えたのか。諦めかけていたプレイヤーはやる気を取り戻し、崩れかけていた陣形が元の形に戻った。
さらに新たにやってきた、クリアを目指すプレイヤーも先頭に参戦し、戦況が一気に有利になった。
「これが最後だ!!」
ムカデが剣を振り下ろし、邪王を切り付けると、邪王はHPが無くなり消滅した。
「やった!! 俺達の勝ちだ!!」
「これで帰れるぞ!!」
流石に邪王も消滅したため、私もプレイヤーの中に混じって一緒に喜ぶ。これでゲームから解放される。だが、
「皆んな、なかなかやるね~。でも、ランランは寂しいなぁ、皆んながいなくなっちゃうのは」
「なに言いやがる!! このさっさと俺たちを帰せ!!」
「僕達はクリアしたんだ!! 約束は守るのよ!!」
プレイヤーはランランに野次を飛ばすが、ランランは笑顔で向き合うと、
「やだぁ、私がルールよ」
頬に手を当てて可愛く見せる。
最初から約束を守るのつもりはなかったのだろう。そんな反応だ。
ランランの対応に腹を立てた一部のプレイヤーは、武器を手に持ち襲い掛かる。五人のプレイヤーが同時に攻撃を仕掛けるが、
「なっ!?」
プレイヤーの武器はランランに届く前に止まった。
武器を止めたのは、露出の高い衣装を見に纏い、黒い羽と尻尾を持った一人の少女だった。
リエの使うバリアのようなものを使い、プレイヤーの攻撃を弾き返してランランを守った少女は、ランランを守るようにプレイヤーの前に立ち塞がる。
「う、裏ボスか!?」
「はぁ? 誰がこんなつまんないゲームのキャラよ」
突如現れた少女に皆が動揺する中、楓ちゃんが耳打ちをする。
「悪霊です。一番最初の映像で、現実世界で生命力を吸った悪霊ですよ」
「あれが悪霊? なんか今までの悪霊と違くない? 賢そうっていうか、幽霊ぽいっていうか」
今まで出会った悪霊は、会った瞬間に襲ってくるようなものばかりだった。
だが、今回の悪霊は違う。会話もできるし、人間味がある。
「なんででしょう? 悪霊に成り立てって感じもしますけど、特殊な悪霊なのかもしれません。それに、ランランの手元を見てください」
楓ちゃんに言われて、ランランの手元を見ると、七色に輝く石を持っていた。
「前に師匠とレイさんが話していた悪霊を操る石ですよ。あれであの悪霊に命令を出してるんです。そうでなければ、悪霊の性質上、人を襲わないはずがないです」
「またあれを使ってるのね……。あれがなんなのかも気になるし、あの石を取り上げられないかしら?」
前の時もタカヒロさんが石を取り上げて、悪霊の制御権を奪った。今回も同じようにやれれば、このゲームを終わらせて、情報を喋らせることができる。
「無理です。あの悪霊、結構手強いですよ。僕一人では悪霊の足止めで精一杯です」
それができるだけでも十分すごいのだが……。しかし、石を取り上げられないとするとどうするべきか。そう迷っている中、
「動くな!!」
事態が急変した。ランランの背後にミカゲぎ現れると、ミカゲを後ろから拘束して、首元にナイフを突きつける。
「い、いつの間に後ろに……」
「私は盗賊よ。奇襲は得意なのよ」
ミカゲがランランを捕らえたことで、悪霊はランランを助けに行きたくても人質となっている状態のため、動けない。
「さぁ、ランラン。私達を帰しなさい」
ミカゲがナイフを突き立てて脅すと、
「わ、分かった。帰すからやめてくれ。頼む……」
「なら、まずはそこのモンスターを消すのよ」
ランランは抵抗できず、悪霊に現実に帰るように命令する。悪霊は大人しく姿を消す。次にログアウトできるようにするように指示を出すと、それにもランランは大人しく従った。
「これで良いだろ……。解放してくれ」
「口調が変わったわね。ランラン。それが本当のあなたなのね。でも、ここからが本番よ」
ログアウトが出来るようになったが、城に残ったプレイヤーはミカゲと一緒にランランを拘束する。そして拷問のような状態を作った。
「なぜこんなことをしたか。教えてもらうわ。そしてあなたの正体も全て警察に伝える」
ミカゲを中心にプレイヤーはランランのことを聞き出そうとする。
ムカデはログアウトできるようになると、さっさといなくなってしまったが、私達はゲームに残り、ランランの話を聞こうとしていた。
「……ふふふ、私は何も喋らない。すでに手は打ってある」
ランランがそう言った次の瞬間。
目の前が暗くなり、身体が軽くなる。何が起きたのかと両手を動かしてみると、
「痛い!!」
聞き慣れた声と共に何かに腕がぶつかった。
「レイ、楓。起きたか!!」
またしても聞き慣れた別の声。何者かが私の頭についているものを外すと、視界が広がり、見慣れた天井と黒髪の少女の顔が映った。
「リエ?」
「心配しましたよ!! レイさん!!」
寝っ転がった状態の私にリエが抱きついてくる。状況説明を求めて、私は顔の横で座っている黒猫に目線を向ける。
「お前と楓がゲームをやってから、ニュースになってな。どうやら帰って来れたみたいだな」
「じゃあ、ここは現実ってこと?」
「それ以外に何がある」
私達はゲームの世界から現実に帰ってきたようだ。私と同じく起き上がった楓ちゃんは、黒猫を発見するといち早く飛びつく。
「師匠~!! 久しぶりにあった気分です!!」
大人しく捕まった黒猫を眺めながら、私はリエに訊ねる。
「どれくらい時間が経ったの?」
「大体4時間くらいです。ニュースではゲーム内では時間の進みが早いって言っていたので、そちらの体感はもう少しあったかもしれませんが」
「そうね。丸一日くらいはいた気分よ」
戻って来れたのはよかった。しかし、ログアウトもしていないのになぜ突然元に戻ってきたのか。
その疑問は付けっぱなしになっている、テレビのニュースが教えてくれた。
「ゲーム会社がセキュリティの権限を取り戻したことで、ゲームの強制終了を実行。多くのプレイヤーが目を覚ましているようです」
ニュースでは誰かがセキュリティを取り戻して、ゲーム会社に送信したようだ。取り返せたセキュリティをもとに、全員を一斉に目覚めさせたらしい。
楓ちゃんの腕からするりと抜けて脱出した黒猫は、窓の外を見る。
「もう今日は遅い。今日のことは後で聞くから、楓は帰って良いぞ」
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