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第69話 『ランランな気分で』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第69話
『ランランな気分で』
始まりの街を出たすぐ近くにある野原。私達はそこでモンスターと対峙していた。
「そこだ。レン!! 魔法で攻撃だ!!」
クリームソーダSの合図に私は両手を前に突き出す。そして大声で叫んだ。
「ファイヤーボール!!」
すると、両手からエネルギーが集まり、炎の球を形成して真っ直ぐ直線方向に発射された。
ファイヤーボールの向かった先は、緑色のスライム。スライムは炎の球にぶつかると、大爆発して消滅した。
「なかなかの腕前だ。レン」
「ふふふ~、私にかかればこんなもんよ」
「このゲームは現実の身体能力が色濃く反映されるからな。あんた現実でも空間認識やバランス感覚に優れてるんじゃないか?」
まぁ、私は人よりもその辺の能力には自信がある。対象との距離感を掴むのは得意だし、黒猫からも一番乗り心地がいいと評判だ……。
私がモンスターを倒して喜んでいると、突如空中からデッカい鳥? が降ってきた。
「なっ!? なに!!」
土埃を立てて、私達の前に落ちてきたそれの上には、片手剣を持った楓ちゃんが乗っていた。
「いや~、意外とコイツ強いですね~」
どうやらこのモンスターは楓ちゃんが倒してきたらしい。しかし、そのモンスターの見た目は、鳥というには不思議な特徴を持っている。
ニワトリのような見た目だが、蛇の尻尾がついており、大きさはトラック一台分という大きさだ。
倒されたモンスターを見たクリームソーダSは、目を丸くして大きく口を開けた。
「コイツはコカトリスじゃないか!? この辺りでは最もレベルの高い、上級者向けのモンスターだぞ!!」
「えぇ!?」
序盤の草原でなんてものを倒してくるんだ……。
「見かけないと思ったら、何しでかしてるのよー!!」
「いや~、僕は魔法使えないので、二人が魔法の訓練してる間暇だったので……」
「暇だからって…………まぁ、やられても復活できるからいいけど……」
クリームソーダSとパーティを組むことになった私達は、クリームソーダSに戦闘の仕方を教えてもらっていた。
その中で職業というものがあり、ステータス次第で職業を選択できることを知った。私は魔法職、楓ちゃんは戦士だ。
「あ、レンさん、クリームソーダSさん、ステータス画面見てください!! レベルが5つも上がってますよ!!」
コカトリスを倒してレベルが一気に上がった楓ちゃんが、嬉しそうに画面を見せびらかしてくる。
私はスライムを五体倒して、やっとレベルが上がったというのに……。なぜ、楓ちゃんはそんな強いモンスターを楽々倒せるのか……。やはり現実の能力というのが関係しているのか。
「レベルも上がったことだし、そろそろ街に戻りましょう!! 僕、新しい装備が欲しいです!!」
「そうね、装備があれば、もう少し戦いやすいかも」
楓ちゃんに負けているのが嫌な私は、良い装備を買って追い抜かしてやろうと企む。そして草原から移動して街に向かおうとした私達だが、道中で警報音のようなものが鳴り響いた。
「なんでしょう……。ここだけって感じじゃなさそうですね」
「ああ、これはゲーム全体に向けてだな」
私達がいるフィールドだけでなく、これはプレイヤー全員に起こっている現象のようだ。警報が鳴り終えると、私達の頭上に半透明な映像が流れ出す。
そしてその画面の中に……。
「やぁ、皆んな元気かな~? ハッピーランランだよ~!!」
見覚えのあるピエロの姿をした女性。3Dモデルで作られているが、クオリティが高くぬるぬる動く。
ランランの姿を見て、楓ちゃんは顎に手を当てる。
「あれって炎上して姿を消した配信者ですよね……。確か前に依頼で何かあったって……」
「ええ、悪霊を操って人を襲ってたのよ。中の人は依頼人の加藤さん。でも、なんでゲームの中に……」
ランランの中の人であり、プロデューサーの加藤さんは行方不明になっていたはず。しかし、なぜ、そのランランがゲーム内に現れたのか。
ランランはニヤリと笑うと、笑顔で手を振った。
「私ね~。前に任務を失敗して危ない立場なの。そこで皆んなの協力が欲しいんだ~」
嫌な予感がする……。ランランの発言に不安を感じていると、楓ちゃんやクリームソーダSも同様な感情を感じているようで、一番体格のデカい私のそばに近づいてくる。
「今回用意したゲームはこちら!! 皆んなを本当の異世界へご招待~。簡単にルールを説明すると、ここはゲームだけどゲームじゃないの、なんでかって? それは~」
ランランの後ろに二つのモニターが現れる。そのモニターには猫耳のプレイヤーと、ベッドで寝ている出っ歯の男が映っていた。
「ゲームオーバーは現実世界での終わりを意味するからで~す!!」
ランランがそう言うと、猫耳のプレイヤーを囲むように、武装したオークが現れる。そしてそのオーク達はあっという間に猫耳のプレイヤーを串刺しにして倒してしまった。
猫耳のプレイヤーがやられて、ゲーム内から消えると、もう一つの画面に映っていた出っ歯の男に変化が起こる。
徐々に痩せ細っていき、ガリガリになって息をしなくなった。
「これって……!?」
「悪霊ですね……。精力と生命力を吸ってました……」
またしてもランランは悪霊を使い、何かを企んでいる様子。しかも今回は……
「これで分かったかな~、ゲーム内での終わりは現実での終わりも意味するの!」
これでゲーム内でリスポーンすることができなくなった。
「元の世界に戻りたかったら、ゲームをクリアしてね~。私はお姫様として待ってるから~」
ランランが説明を終えると、半透明な画面は消えた。今のは運営の悪ノリとか、そういうことだったら良いのだが、そんなことはないだろう。
「おい、なんなんだこれは!!」
「分かりません。でも、ヤバいことに巻き込まれましたよ!!」
今回は依頼を受けたわけではない。完全に巻き込まれただけだ。
運営に助けを求めようと連絡を取ろうとするが、連絡が取れない。それにログアウトしようとしても、ログアウトすることもできない。
「俺達はこの世界に閉じ込められたってことか」
「そうなるみたいね」
しかし、脱出手段はある。一つだけだが、確実な方法が……。
「ゲームをクリアしましょう!! 前に師匠と鬼ごっこに巻き込まれた時も、クリアして終わらせたんですよね!」
「クリアとは少し違ってたけど、ランランの言葉を信じるなら、クリアするしかないね」
私達はゲームのクリアを目指して、行動を起こすことにした。
まずは予定通り、街に戻り装備を整える。ゲームをクリアするためにはミズガルズ、アースガルズ、ヘルヘイムの三つのフィールドにあるダンジョンをクリアして、最終ステージを開放する必要がある。
ダンジョンの奥にはフィールドボスがおり、それを倒すためにもレベル上げと装備の調達が必要だ。
街ではプレイヤーが慌ただしく活動しており、ゲームクリアを目指している。
「とりあえず、今整えられる装備は手に入りましたけど、これからどうするんですか?」
「そうね~、やっぱりレベル上げかしら」
私と楓ちゃんが今後の予定について話し合っていると、クリームソーダSが割って入ってくる。
「いや、そんな時間はない」
そして真剣な顔でそんなことを言い出した。
「え? なんでよ」
「簡単だ。俺達はゲームをやったままここにいるんだ。現実の俺達の体は睡眠状態。つまりは飲食もできないし、他の機能も制限されている状態だ」
「そういえば、今は夢の世界みたいなものなのよね」
「このゲームは順当にクリアを目指せば、200時間は超える大ボリューム。そんなに時間をかけてれば、現実の身体が持たない」
そんなに時間をかけてれば、クリームソーダSの言う通り、現実の身体が危険かもしれない。それにクリアをしたって、ランランの約束だ。本当に戻れるかも不安だ。時間は極力抑えたい。
っとなると、
「じゃあ、どうするのよ!?」
その疑問にクリームソーダSは待ってましたとばかりに、
「ムカデを探す」
「ムカデ?」
あのウネウネ動く気持ち悪い虫のことだろうか。そんな虫、見たくもないし、探したくもない。
「なんでムカデなんて探すんですか? 強力な装備でも落とすんですか?」
「いいや、ムカデってのはプレイヤーネームさ。あらゆるゲームをやり尽くし、世界中のゲームを制覇した伝説のゲーマー。それがムカデだ」
「そんな凄そうな人が!?」
「このゲームにも度々ログインしてると聞く。そのプレイヤーを頼るしかない」
クリームソーダSは確信を持って宣言する。
確かに今の私達でゲームをクリアするとなれば、何日かかるか分からない。ならば、実力のあるゲーマーと手を組むのは手だろう。
だが、問題がある。
「そのムカデってプレイヤーはどこにいるのよ? 居場所が分からないんじゃ、どうしようもないじゃない」
私達はムカデとフレンドではない。そのため連絡を取る手段も居場所も分からないのだ。
ムカデを探し出したくても、フィールドは広大で当てもなく探すわけにはいかない。
クリームソーダSは返答に困り、何も言い出さなくなる。
結局は順当にレベルを上げて、クリアを目指すしかないのだろうか。
近道は諦めて、正規ルートでの攻略を考え始めた。そんな時だった。
「私知ってるわよ」
路地裏から犬の耳と尻尾をつけた女獣人が現れる。
「本当ですか!?」
「ええ、ミズガルズにある南の王国オリーヴにいるのを見たわ」
そんなことを言い出す獣人。しかし、この獣人はさっき会ったばかり、それに人の話を盗み聞きしていたのだ。
「それは本当なんですか?」
そんな獣人の言葉を信じるべきだろうか。私は疑り深く獣人の顔を見る。すると、私の顔が怖かったのか、獣人は顔を逸らした。
「待て、レン、楓。コイツは信用できる。俺の知り合いだ」
獣人を怪しむ中、クリームソーダSが割って入る。
「彼女はミカゲ。昔のパーティメンバーで、今もたまにクエストに同行するフレンドだ。……ミカゲ、今の話は本当なのか?」
「そうよ。あのフル装備は噂のムカデと一致する。それにパーティを組まずにレッドドラゴンを倒していたわ。あれはムカデよ」
「お前が言うってことは真実なんだな」
クリームソーダSは私達の方に身体を向ける。
「王都オリーヴはミズガルズでも高レベルのモンスターが出てくる土地だ。初心者には厳しいかもしれないが、どうする、付いてくるか?」
私達を試すように聞いてきた。私と楓ちゃんはお互いの顔を見て頷き合うと、
「当然ついて行くよ。私達だって元の世界に戻りたい。どうせ待ってても現実の身体は保たないんだから、ここでランランとは決着をつけるよ」
「僕もです。レイ……レンさんと師匠を苦しめたランランさんを、今回は僕が懲らしめてやります!! そのためにはムカデさんの力が必要なんです、行きましょう、王都へ!!」
私達の返事を聞き、クリームソーダSは嬉しそうに頬を上げる。
「危険なゲームだってのによ………。お前らみたいのは好きだぜ。おい、ミカゲ、お前もついてくるよな!!」
クリームソーダSはひっそりと逃げようとしていたミカゲの腕を掴み、逃げられないように引き寄せる。
「わ、私は他のプレイヤーがクリアしてくれれば……」
本来の反応はこうなのだろう。ゲームをやっていたら、突然命の関わるゲームに付き合わされたのだ。
ここは下手に参加せずに、他人に任せるのが安全だ。
「頼む、ミカゲ力を貸してくれ。俺達にはお前の力が必要なんだ」
クリームソーダSはミカゲの肩を両手で掴み、目を見て頼み込む。
「……しょうがないなぁ、私が手伝ってあげるわよ!! 王都に行くまで案内すれば良いんでしょ!!」
「助かるぜ、ミカゲ!!」
王都オリーヴへと向かう街道の途中。そこで私は……
「いやぁぁぁあっ!? 助けてーーー!!!!」
二足歩行の牛。ミノタウロスに追われていた。
「助けてよーー!!!! ミカゲちゃぁぁぁん!!!!」
「え、レン!? こっちに来ないで!?」
私はミノタウロスに追われながら、岩陰に隠れていたミカゲに助けを求める。
途中までは街道を順調に進むことができていた。高レベルなクリームソーダSとミカゲのコンビネーションと、レベルが低いが戦闘ができる楓ちゃん。そして遠距離での支援魔法の私。このパーティ構成でどうにかここまで来ることができた。
しかし、目的地であるオリーヴの街が目の前に見えたと言う時、事件が起きた。
上空に大きな羽を広げたトカゲ……。ワイバーンだった。
移動速度の遅い私がいるため、ワイバーンから逃げきれないと判断し、戦闘になったのだが、私の魔法はレベルの関係でワイバーンには効かず。
盗賊職であるミカゲもやることがなく、ワイバーンとの戦闘はクリームソーダSと楓ちゃんに任せていた。
せめて援護できないかと考えていたのだが、そんな私にミノタウロスが襲いかかり、現在の状況。前線で戦える二人がワイバーンと戦闘をしているため、私とミカゲはミノタウロスから逃げ回っていた。
「ミカゲちゃん、どうにかできないの!? レベルは高いんでしょ!?」
「私のレベルは50は超えてるけど、基本はトラップ解除やアシストが仕事よ!! ミノタウロスには勝てないわよ!!」
私とミカゲは並走してミノタウロスから逃げる。背後で斧が振り回され、降った衝撃で起こった風が背中に当たり、すぐ近くまで迫ってきているのがわかる。
このままでは追いつかれてやられてしまう。ゲームオーバーになれば、現実でも……。
そんな中、私達の逃げる先に何者かがいるのを発見した。その人物は優雅に手を振ってくる。
「お前らこっちだ!!」
この人物が誰なのか。そんなことを考える暇もなく、私達はその人物に呼ばれるがまま、真っ直ぐと逃げる。そして
「後は任せろ」
すれ違い様に告げられる。
ミノタウロスは斧を振り上げて、私達がすれ違った人物に振り下ろす。しかし、斧が振り下ろされるよりも早く、剣を抜いて一撃でミノタウロスの首を跳ね飛ばした。
倒されたミノタウロスはドロップアイテムを落として消滅する。ミノタウロスを倒した人物は、ドロップアイテムを拾うと、私に向けて投げ渡してきた。
「これはお前達にやる。俺はこんなアイテムに興味ないしな」
「あ、どうも……」
ミノタウロスを倒した人物は、黒い鎧を付けた小柄な男性で、刀身の細い剣を持っていた。その人物を見たミカゲは、一歩身体を下がらせる。
「あ、あなたは!?」
「どうしたのよ、ミカゲちゃん? 知り合い?」
「知り合いも何も、この人よ。例のムカデは!!」
著者:ピラフドリア
第69話
『ランランな気分で』
始まりの街を出たすぐ近くにある野原。私達はそこでモンスターと対峙していた。
「そこだ。レン!! 魔法で攻撃だ!!」
クリームソーダSの合図に私は両手を前に突き出す。そして大声で叫んだ。
「ファイヤーボール!!」
すると、両手からエネルギーが集まり、炎の球を形成して真っ直ぐ直線方向に発射された。
ファイヤーボールの向かった先は、緑色のスライム。スライムは炎の球にぶつかると、大爆発して消滅した。
「なかなかの腕前だ。レン」
「ふふふ~、私にかかればこんなもんよ」
「このゲームは現実の身体能力が色濃く反映されるからな。あんた現実でも空間認識やバランス感覚に優れてるんじゃないか?」
まぁ、私は人よりもその辺の能力には自信がある。対象との距離感を掴むのは得意だし、黒猫からも一番乗り心地がいいと評判だ……。
私がモンスターを倒して喜んでいると、突如空中からデッカい鳥? が降ってきた。
「なっ!? なに!!」
土埃を立てて、私達の前に落ちてきたそれの上には、片手剣を持った楓ちゃんが乗っていた。
「いや~、意外とコイツ強いですね~」
どうやらこのモンスターは楓ちゃんが倒してきたらしい。しかし、そのモンスターの見た目は、鳥というには不思議な特徴を持っている。
ニワトリのような見た目だが、蛇の尻尾がついており、大きさはトラック一台分という大きさだ。
倒されたモンスターを見たクリームソーダSは、目を丸くして大きく口を開けた。
「コイツはコカトリスじゃないか!? この辺りでは最もレベルの高い、上級者向けのモンスターだぞ!!」
「えぇ!?」
序盤の草原でなんてものを倒してくるんだ……。
「見かけないと思ったら、何しでかしてるのよー!!」
「いや~、僕は魔法使えないので、二人が魔法の訓練してる間暇だったので……」
「暇だからって…………まぁ、やられても復活できるからいいけど……」
クリームソーダSとパーティを組むことになった私達は、クリームソーダSに戦闘の仕方を教えてもらっていた。
その中で職業というものがあり、ステータス次第で職業を選択できることを知った。私は魔法職、楓ちゃんは戦士だ。
「あ、レンさん、クリームソーダSさん、ステータス画面見てください!! レベルが5つも上がってますよ!!」
コカトリスを倒してレベルが一気に上がった楓ちゃんが、嬉しそうに画面を見せびらかしてくる。
私はスライムを五体倒して、やっとレベルが上がったというのに……。なぜ、楓ちゃんはそんな強いモンスターを楽々倒せるのか……。やはり現実の能力というのが関係しているのか。
「レベルも上がったことだし、そろそろ街に戻りましょう!! 僕、新しい装備が欲しいです!!」
「そうね、装備があれば、もう少し戦いやすいかも」
楓ちゃんに負けているのが嫌な私は、良い装備を買って追い抜かしてやろうと企む。そして草原から移動して街に向かおうとした私達だが、道中で警報音のようなものが鳴り響いた。
「なんでしょう……。ここだけって感じじゃなさそうですね」
「ああ、これはゲーム全体に向けてだな」
私達がいるフィールドだけでなく、これはプレイヤー全員に起こっている現象のようだ。警報が鳴り終えると、私達の頭上に半透明な映像が流れ出す。
そしてその画面の中に……。
「やぁ、皆んな元気かな~? ハッピーランランだよ~!!」
見覚えのあるピエロの姿をした女性。3Dモデルで作られているが、クオリティが高くぬるぬる動く。
ランランの姿を見て、楓ちゃんは顎に手を当てる。
「あれって炎上して姿を消した配信者ですよね……。確か前に依頼で何かあったって……」
「ええ、悪霊を操って人を襲ってたのよ。中の人は依頼人の加藤さん。でも、なんでゲームの中に……」
ランランの中の人であり、プロデューサーの加藤さんは行方不明になっていたはず。しかし、なぜ、そのランランがゲーム内に現れたのか。
ランランはニヤリと笑うと、笑顔で手を振った。
「私ね~。前に任務を失敗して危ない立場なの。そこで皆んなの協力が欲しいんだ~」
嫌な予感がする……。ランランの発言に不安を感じていると、楓ちゃんやクリームソーダSも同様な感情を感じているようで、一番体格のデカい私のそばに近づいてくる。
「今回用意したゲームはこちら!! 皆んなを本当の異世界へご招待~。簡単にルールを説明すると、ここはゲームだけどゲームじゃないの、なんでかって? それは~」
ランランの後ろに二つのモニターが現れる。そのモニターには猫耳のプレイヤーと、ベッドで寝ている出っ歯の男が映っていた。
「ゲームオーバーは現実世界での終わりを意味するからで~す!!」
ランランがそう言うと、猫耳のプレイヤーを囲むように、武装したオークが現れる。そしてそのオーク達はあっという間に猫耳のプレイヤーを串刺しにして倒してしまった。
猫耳のプレイヤーがやられて、ゲーム内から消えると、もう一つの画面に映っていた出っ歯の男に変化が起こる。
徐々に痩せ細っていき、ガリガリになって息をしなくなった。
「これって……!?」
「悪霊ですね……。精力と生命力を吸ってました……」
またしてもランランは悪霊を使い、何かを企んでいる様子。しかも今回は……
「これで分かったかな~、ゲーム内での終わりは現実での終わりも意味するの!」
これでゲーム内でリスポーンすることができなくなった。
「元の世界に戻りたかったら、ゲームをクリアしてね~。私はお姫様として待ってるから~」
ランランが説明を終えると、半透明な画面は消えた。今のは運営の悪ノリとか、そういうことだったら良いのだが、そんなことはないだろう。
「おい、なんなんだこれは!!」
「分かりません。でも、ヤバいことに巻き込まれましたよ!!」
今回は依頼を受けたわけではない。完全に巻き込まれただけだ。
運営に助けを求めようと連絡を取ろうとするが、連絡が取れない。それにログアウトしようとしても、ログアウトすることもできない。
「俺達はこの世界に閉じ込められたってことか」
「そうなるみたいね」
しかし、脱出手段はある。一つだけだが、確実な方法が……。
「ゲームをクリアしましょう!! 前に師匠と鬼ごっこに巻き込まれた時も、クリアして終わらせたんですよね!」
「クリアとは少し違ってたけど、ランランの言葉を信じるなら、クリアするしかないね」
私達はゲームのクリアを目指して、行動を起こすことにした。
まずは予定通り、街に戻り装備を整える。ゲームをクリアするためにはミズガルズ、アースガルズ、ヘルヘイムの三つのフィールドにあるダンジョンをクリアして、最終ステージを開放する必要がある。
ダンジョンの奥にはフィールドボスがおり、それを倒すためにもレベル上げと装備の調達が必要だ。
街ではプレイヤーが慌ただしく活動しており、ゲームクリアを目指している。
「とりあえず、今整えられる装備は手に入りましたけど、これからどうするんですか?」
「そうね~、やっぱりレベル上げかしら」
私と楓ちゃんが今後の予定について話し合っていると、クリームソーダSが割って入ってくる。
「いや、そんな時間はない」
そして真剣な顔でそんなことを言い出した。
「え? なんでよ」
「簡単だ。俺達はゲームをやったままここにいるんだ。現実の俺達の体は睡眠状態。つまりは飲食もできないし、他の機能も制限されている状態だ」
「そういえば、今は夢の世界みたいなものなのよね」
「このゲームは順当にクリアを目指せば、200時間は超える大ボリューム。そんなに時間をかけてれば、現実の身体が持たない」
そんなに時間をかけてれば、クリームソーダSの言う通り、現実の身体が危険かもしれない。それにクリアをしたって、ランランの約束だ。本当に戻れるかも不安だ。時間は極力抑えたい。
っとなると、
「じゃあ、どうするのよ!?」
その疑問にクリームソーダSは待ってましたとばかりに、
「ムカデを探す」
「ムカデ?」
あのウネウネ動く気持ち悪い虫のことだろうか。そんな虫、見たくもないし、探したくもない。
「なんでムカデなんて探すんですか? 強力な装備でも落とすんですか?」
「いいや、ムカデってのはプレイヤーネームさ。あらゆるゲームをやり尽くし、世界中のゲームを制覇した伝説のゲーマー。それがムカデだ」
「そんな凄そうな人が!?」
「このゲームにも度々ログインしてると聞く。そのプレイヤーを頼るしかない」
クリームソーダSは確信を持って宣言する。
確かに今の私達でゲームをクリアするとなれば、何日かかるか分からない。ならば、実力のあるゲーマーと手を組むのは手だろう。
だが、問題がある。
「そのムカデってプレイヤーはどこにいるのよ? 居場所が分からないんじゃ、どうしようもないじゃない」
私達はムカデとフレンドではない。そのため連絡を取る手段も居場所も分からないのだ。
ムカデを探し出したくても、フィールドは広大で当てもなく探すわけにはいかない。
クリームソーダSは返答に困り、何も言い出さなくなる。
結局は順当にレベルを上げて、クリアを目指すしかないのだろうか。
近道は諦めて、正規ルートでの攻略を考え始めた。そんな時だった。
「私知ってるわよ」
路地裏から犬の耳と尻尾をつけた女獣人が現れる。
「本当ですか!?」
「ええ、ミズガルズにある南の王国オリーヴにいるのを見たわ」
そんなことを言い出す獣人。しかし、この獣人はさっき会ったばかり、それに人の話を盗み聞きしていたのだ。
「それは本当なんですか?」
そんな獣人の言葉を信じるべきだろうか。私は疑り深く獣人の顔を見る。すると、私の顔が怖かったのか、獣人は顔を逸らした。
「待て、レン、楓。コイツは信用できる。俺の知り合いだ」
獣人を怪しむ中、クリームソーダSが割って入る。
「彼女はミカゲ。昔のパーティメンバーで、今もたまにクエストに同行するフレンドだ。……ミカゲ、今の話は本当なのか?」
「そうよ。あのフル装備は噂のムカデと一致する。それにパーティを組まずにレッドドラゴンを倒していたわ。あれはムカデよ」
「お前が言うってことは真実なんだな」
クリームソーダSは私達の方に身体を向ける。
「王都オリーヴはミズガルズでも高レベルのモンスターが出てくる土地だ。初心者には厳しいかもしれないが、どうする、付いてくるか?」
私達を試すように聞いてきた。私と楓ちゃんはお互いの顔を見て頷き合うと、
「当然ついて行くよ。私達だって元の世界に戻りたい。どうせ待ってても現実の身体は保たないんだから、ここでランランとは決着をつけるよ」
「僕もです。レイ……レンさんと師匠を苦しめたランランさんを、今回は僕が懲らしめてやります!! そのためにはムカデさんの力が必要なんです、行きましょう、王都へ!!」
私達の返事を聞き、クリームソーダSは嬉しそうに頬を上げる。
「危険なゲームだってのによ………。お前らみたいのは好きだぜ。おい、ミカゲ、お前もついてくるよな!!」
クリームソーダSはひっそりと逃げようとしていたミカゲの腕を掴み、逃げられないように引き寄せる。
「わ、私は他のプレイヤーがクリアしてくれれば……」
本来の反応はこうなのだろう。ゲームをやっていたら、突然命の関わるゲームに付き合わされたのだ。
ここは下手に参加せずに、他人に任せるのが安全だ。
「頼む、ミカゲ力を貸してくれ。俺達にはお前の力が必要なんだ」
クリームソーダSはミカゲの肩を両手で掴み、目を見て頼み込む。
「……しょうがないなぁ、私が手伝ってあげるわよ!! 王都に行くまで案内すれば良いんでしょ!!」
「助かるぜ、ミカゲ!!」
王都オリーヴへと向かう街道の途中。そこで私は……
「いやぁぁぁあっ!? 助けてーーー!!!!」
二足歩行の牛。ミノタウロスに追われていた。
「助けてよーー!!!! ミカゲちゃぁぁぁん!!!!」
「え、レン!? こっちに来ないで!?」
私はミノタウロスに追われながら、岩陰に隠れていたミカゲに助けを求める。
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しかし、目的地であるオリーヴの街が目の前に見えたと言う時、事件が起きた。
上空に大きな羽を広げたトカゲ……。ワイバーンだった。
移動速度の遅い私がいるため、ワイバーンから逃げきれないと判断し、戦闘になったのだが、私の魔法はレベルの関係でワイバーンには効かず。
盗賊職であるミカゲもやることがなく、ワイバーンとの戦闘はクリームソーダSと楓ちゃんに任せていた。
せめて援護できないかと考えていたのだが、そんな私にミノタウロスが襲いかかり、現在の状況。前線で戦える二人がワイバーンと戦闘をしているため、私とミカゲはミノタウロスから逃げ回っていた。
「ミカゲちゃん、どうにかできないの!? レベルは高いんでしょ!?」
「私のレベルは50は超えてるけど、基本はトラップ解除やアシストが仕事よ!! ミノタウロスには勝てないわよ!!」
私とミカゲは並走してミノタウロスから逃げる。背後で斧が振り回され、降った衝撃で起こった風が背中に当たり、すぐ近くまで迫ってきているのがわかる。
このままでは追いつかれてやられてしまう。ゲームオーバーになれば、現実でも……。
そんな中、私達の逃げる先に何者かがいるのを発見した。その人物は優雅に手を振ってくる。
「お前らこっちだ!!」
この人物が誰なのか。そんなことを考える暇もなく、私達はその人物に呼ばれるがまま、真っ直ぐと逃げる。そして
「後は任せろ」
すれ違い様に告げられる。
ミノタウロスは斧を振り上げて、私達がすれ違った人物に振り下ろす。しかし、斧が振り下ろされるよりも早く、剣を抜いて一撃でミノタウロスの首を跳ね飛ばした。
倒されたミノタウロスはドロップアイテムを落として消滅する。ミノタウロスを倒した人物は、ドロップアイテムを拾うと、私に向けて投げ渡してきた。
「これはお前達にやる。俺はこんなアイテムに興味ないしな」
「あ、どうも……」
ミノタウロスを倒した人物は、黒い鎧を付けた小柄な男性で、刀身の細い剣を持っていた。その人物を見たミカゲは、一歩身体を下がらせる。
「あ、あなたは!?」
「どうしたのよ、ミカゲちゃん? 知り合い?」
「知り合いも何も、この人よ。例のムカデは!!」
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ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません
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大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。
貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。
序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。
だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。
そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」
「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「すまないが、俺には勝てないぞ?」
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