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第65話 『お嬢様ですが』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第65話
『お嬢様ですが』




「気持ちですね~」



「そうね~」



 朝の日差しを浴びて、私とリエは公園のベンチでまったりしていた。



 朝食後の散歩で木々の紅葉をみながら、日の暖かさと秋風に当たりながら休憩。
 気持ちよさに寝てしまいそうな状態だ。



「しかし、今日は朝からこんなのんびりしてていいんですか~?」



「良いんじゃない~、毎日依頼があるわけじゃないし、何かあればタカヒロさんが電話してくれるよ」



 事務所では黒猫が留守番している。散歩に誘ってはみたが、用事がないなら外には出ないと頑固だったため、諦めた。



 私達が寛いでいると、近くの通りを歩いていた少女が私の存在に気づく。そして周りをキョロキョロと見渡した後、駆け足で近づいてきた。



 白と黒の高価そうなワンピースを着た吊り目の少女は、腰に左手を当てて、残った右手で私のことを指差す。



「あなた、私の下僕になりなさい!!」



「はっ?」



 突然、そんなことを口走ってきた。



 なぜ、見ず知らずの少女にそんなことを言われるのか。というか、コイツ誰なの、マジで!!



 私がポカーンとしていると、リエがふわふわと浮いて少女の周囲を回る。どうやらリエの姿は見えていないようで、リエには全く反応しない。



「あなたは……?」



 私はとにかく少女の情報を聞こうと訊ねる。すると、少女は身体を後ろに倒れそうなほど、反らせて威張る。



「私は知らないの? 私は神楽坂 有栖川(かぐらざか ありす)。神楽坂財閥の娘よ!! 平伏しなさい!!」



 なんか凄い威張ってきてうざい感じの少女。とりあえず、



「痛っ!!」



 私は少女の頭を軽く叩いた。



「なんで叩くのよ!!」



「うざかったから」



「この私がうざいですって!? ……………ごめんなさい」



 あれ、謝ってきた。思っていたよりも素直な子なのかもしれない。
 そんなやりとりを見ていたリエが驚いた顔で耳打ちしてくる。



「レイさん。何叩いてるんですか~。まずいですよ、この方、あの神楽坂財閥の娘さんですよ」



「もう知ってる。さっき自己紹介してたじゃない」



「ならやめてくださいよ!!」



「なんでそんなに焦ってるのよ?」



 なぜか私の行動に焦りを見せているリエ。そのリエの行動に私は疑問を持つ。



「それはそうですよ。神楽坂財閥はあのジェイナスに並ぶ大手企業ですよ!!」



 ジェイナスといえば、家具から電気製品、雑誌に車など多くの事業に手を出している大企業。
 買い物に行けば、その名前を見ないほどの大企業に並ぶとは……。



「日本では知名度は低いですが、主にヨーロッパの都市開発の八割に加担している企業です。そんな財閥の娘さんを怒らせたらどうなるか!!」



 リエに説明されて私はやっと、自分が犯した状況のヤバさに気づいた。この子を敵にしたら、どうなるかわからない。
 私は咄嗟に頭を下げる。そして謝ろうとしたが……。



「何頭下げてるのよ」



 頭を下げて下を向いていた私の下から、顔を覗かせて目を合わせてきた。突然の至近距離に、私は猫のように後ろに飛び跳ねて驚く。



「叩いたことなら気にしてないわ。私にも悪いところがあったからだろうし……」



 第一人称の威張り散らすお嬢様という印象とは違い、意外と真面目なのか? そんなことを言い出した。



「治はやられたらやり返せって言ってたからね。今のはやり返されたってことにしといてあげる」



 なんかおかしい気がするが、大事にならなくてよかった。しかし…………



「下僕になれってのは……」



 そう、なぜこうなかったのかというと、突然下僕になれとか言われたからだ。
 私が恐る恐る訊ねると、有栖川は胸に手を当てて顎を上げる。



「あなた一人で暇そうよね! 暇なら手伝いなさい!!」



「はぁ?」



 威張りながらまたしてもムカつくことを言う有栖川に私は再びチョップを食わらせる。



「痛い!!」



 今度はさっきよりも強めだったからか。頭を抱えて痛がる有栖川。その様子を見てリエはまたしても汗を流して、私に掴み掛かった。



「なにやってんですかーー!!!!」



「ムカついたから……」



 この娘の態度と言葉がいちいちイラっとくる。すると、有栖川はまたしゅんと大人しくなる。



「ごめんなさい……」



「あーいや、私もごめんね、何度も……」



 本当になんなんだ。この子の切り替わり具合は……。
 時折見せる良い子な面と、お嬢様気質な威張り散らす性格、その二つが交互に出る。



「それで手伝って欲しいことって何?」



「私、執事を探しにきたの。でも、一人じゃ見つけられなくて……。一緒に探しなさい!!」






 公園を出て、私達は住宅街を歩いていた。



「執事を探しにってどういうことなの?」



 家の執事をスカウトにでもきたのだろうか。



「私は今、八神村に住んでるんです……。お父様もお母様も仕事で海外に行っていて……。家には何人もの使用人がいるんですが、その中の一人、失踪した執事見つけたいんです!!」



 どうやら行方不明になった執事を探しにきたらしい。
 この街に来た執事と聞くと、嫌な人物を思い出す……。が、別人だと願おう。



「何人もいるんだったら無理して探す必要ないんじゃないの?」



 確かに行方不明だとどうなったのかは気になるが、主人が探しにいくほどでもないだろう。
 警察に任せていれば良いことだ。



「嫌よ!!」



 しかし、そんな私の言葉に有栖川は食ってかかるように声を張り上げた。
 驚いて目を丸くして何も言えずにいると、有栖川は冷静になり、驚かせてしまったことを謝ってから、



「あの執事だけは特別なのよ。木の登り方や柿の盗み方を教えてくれたわ。私にとって兄のような存在であり、困っているなら助けたいの」



 財閥のお嬢様なんてことを教えているんだ。
 さっき、やられたらやり返せとか言っていたが、あれもその執事に教えられたことなのだろうか……。



 しかし、そんな人物が失踪したとなれば、心配にもなる。だからこそ、こうして探しに来ているのだろう。
 私はもう一つ気になっていることを聞いてみることにした。



「でも、なんで一人で……?」



 そう、使用人が何人もいると言っていた。しかし、なぜ一人で来たのか。大勢で探した方が効率がいいはずだ。



「それは……私は屋敷を抜け出してきたからで…………」



「執事を探すために?」



「しょうがないじゃない!! 警察は役に立たないし、村の事件の影響で何ヶ月も屋敷に監禁状態だったのよ!!」



 誰も出してくれないから、抜け出してきたのか……。



「親が心配するんじゃないの?」



「しないよ。村で事件があった時だって、帰ってこなかったし、他の使用人もそうよ……。事件の時に隠れて、いてくれたのは治だけよ」



「忙しいの?」



「さぁね。だとしても緊急時に仕事を優先するのよ。心配なんてしてないわ」



 私は返す言葉が見つからずに黙り込む。そんな私のリエは耳元に呟く。



「複雑そうですね……」



「そうね……」



 頼れる人間はその執事だけ、しかし、その執事は行方不明。なんて可哀想な少女なのか……。
 っと、私たちが探し歩いていると、交差点の路地から見覚えのある人物が現れる。



「ん、レイさんじゃないですか」



「あなたは……。マッチョの方の後輩!!」



 現れたのは筋肉の異常に膨らんだ大男。そんな男性が現れて、有栖川はビビったのか、私の後ろに隠れる。



「仕事中ですか?」



「いえ、手伝いみたいな」



「ほほぉう、それはこの筋肉のお手伝いできることでしょうか!!」



 マッチョはポーズを取って訊ねてきた。



 事情を話すとマッチョな後輩は鼻先を掻いて唸る。



「執事ですか……。俺は見てないですね……」



「そうですか……」



 執事を見ていないか聞いてみたが、良い収穫はなかった。執事と聞いた時、少し前のニュースを思い出したようだが、わざとその話は避けた様子だ。



「この筋肉、お役に立てなくて申し訳ない!!」



 どこに筋肉要素があったのか……。



 マッチョは私の後ろに隠れている有栖川に、拳を握りしめてポーズを決めると、



「見つかると良いね。俺も何か分かったら、このレイさんに連絡する! では、俺はこれから講義なので!!」



 そう言い残して駅に向かって走っていった。
 マッチョがいなくなると、有栖川はホッとした様子で後ろから出てくる。そして一言……



「喰われるかと思った」



 それはないだろ!!



 マッチョと別れた私達は再び捜索を始める。マッチョからの収穫はなかったが、聞き込みという手があることに気づけた。
 そのため、聞き込みできそうな場所に向かうことにする。



「ここは?」



「喫茶店よ。聞き込みと言ったら喫茶店でしょ!」



「おー!! それはナイスアイデアよ!」



 私の提案に有栖川は拍手で答えてくれる。しかし、そんな有栖川とは違い、リエからは冷めた目線が向けられる。



「ちょっと休憩したかっただけですよね」



「…………」



「休憩ですよね」



「…………」




「そっぽ向かないでくださいよ!!」



 リエは無視して私は喫茶店に入る。そこはカウンター席しかない小さなお店。カウンターの向かい側では、茶髪の店主とオレンジ髪のバイト少女が働いていた。



 最近このお店を知って、暇な時に来ることがあるのだが、ここの店主は誰かに似ている気がする。どこかの怪盗に……。まぁ、そんなことはどうでも良いだろう。



 カウンター席に座り、私はメニュー表を有栖川に渡す。



「好きなもの頼んで良いよ」



「じゃあ、全メニュー一杯ずつください!」



「え!?」



 私だけでなくカウンターの向こうにいる店員も驚いて固まる。



「全部飲めるの!?」



「そんなことあるわけないじゃない。味見して美味しいものを探すのよ」



 何が良いか迷ったからってそんなことするな。
 私はメニューを取り返し、適当に良さそうなものを探す。



「そんなことはやめて……もう私が選ぶから」



 しばらくしてコーヒーとオレンジジュースがテーブルに置かれる。
 喫茶店に来れば、人も多くて聞き込みしやすいかと思ったが、そんなことはなく。店内は私達以外誰もいない。ガラガラな状態だった。



 仕方なく私は店主に話しかける。



「あの聞きたいことがあるんですけど良いですか?」



「はい。なんでしょうか?」



 私は事情を店主に話す。そして執事の行方を知らないか訊ねてみたが。



「すみません……。この店には来ていないですね」



 結局ここでも情報はなかった。
 喫茶店での聞き込みを諦めて、普通に休憩しようと私はコーヒーを飲み始めると、オレンジ髪の少女が、店内の奥からパソコンを持って来た。



「私が調べてみましょうか?」



「調べるって……? そのパソコンで?」



 流石にネットで調べたからって出てくる情報じゃないだろう。私は心の中で小馬鹿にしながらも、少女がやけに自信満々なため任せてみることにする。
 少女は有栖川に執事の特徴と経歴を聞き込むと、その情報を元にパソコンを操作し始めた。



 パソコンの打ち込み音が聞こえる中、私はまったりとコーヒーを飲む。



「レイさん、レイさん!!」



「何よリエ」



「やっぱりあの店主の方、誰かに似てますよね~」



「気のせいよ。そんなわけないでしょ」



 そうだ。そんなはずはない……。確かに目元とか似ている気もするが……違うはず…………。



 と、そんな話をしていると、パソコンを操作していた少女が声を上げた。



「やりました!!」



「え、見つけたの!!」



 有栖川がカウンター席に身を乗り出して覗き込もうとする。しかし、少女はパソコンの画面は、秘密だと言って見えないようにしてから、



「あなたの探している執事さん……その行方、本当に知りたいですか?」



「そのために私はこの街に来たのよ!! 今更怖気付かないわ!!」



 少し言いにくそうにしている少女。しかし、有栖川の覚悟を聞き、言おうとした時。勢いよく店の扉が開いた。



「お嬢様、ここにいましたか!!」



 扉を開けて入って来たのは、白い髭を生やした老人。そしてその格好は執事らしいスーツ姿だった。



「じぃ!? なぜここに!!」



「屋敷を抜け出したと聞いて、この街に来ているのではと探したのです」



 執事は店に入ると、驚いて固まっている私や店員に一礼をする。



「すみません、お騒がせして。…………お嬢様帰りますよ」



 執事は扉を開けて、有栖川の通れるように道を広げる。有栖川のいる位置から真っ直ぐ歩くと、外には黒い車が停まっており、それに乗って帰ろうということだろう。
 だが、有栖川は立ち上がると、



「いやよ。私、治を見つけるまで帰らないわ!!」



 そう言って首を振った。
 この状態は予想していたのか。執事はため息を吐くと……。



「お嬢様には申し上げたくはなかったですが……。仕方がありません。彼は見つかりました」



「見つかったの!?」



「治が!!」



 探していた人物が見つかったと聞き、有栖川は執事に駆け寄る。
 そして嬉しそうに目を輝かせる。



「どこで!! 今何をしているの!?」



「それは……」



 言いにくそうにした執事は、私たちと顔を見てこの場で話す内容でないと判断したのか、有栖川の背中を押して外へと向かわせる。



「詳しいことは、車内で……」



 そう言って車へと連れて行く。はしゃいだ有栖川はお店を出て、車に乗り込もうとするが、途中で足を止めて振り返った。



「霊宮寺さん、手伝ってくれて感謝するわ!! またこの街に来ることがあったら、私のために働きなさい」



 笑顔でそんなことを言いながら、車に乗ってどこかへ走っていってしまった。



「行っちゃいましたね」



「見つかったんだったら良かったんじゃない。お会計お願い」



 私は立ち上がり、財布を取り出して会計を済ませる。



「そうですね。良かったですね! しかし、その執事さん何があったんでしょうね? 仕事を投げ出していなくなるなんて~」










 白髪の客が帰り、店内は静かになる。店主はコップを洗いながら、パソコンを閉じた少女の顔を見る。



「なぁ、さっきの子供が探してた人物は誰だったんだ? なんだか困った様子だったが……」



 情報を調べた少女が、言いにくそうにしていたことに気づいていた店主は、そのことに疑問を持ち、先ほどの対応について聞く。
 すると、少女は下を向き、小さな声で



「…………彼女が探していたのは国木田 治。彼は先日、刑務所で…………」






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