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第61話 『探偵と黒猫』
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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第61話
『探偵と黒猫』
「助けてくれって状況説明しなさいよ……」
タカヒロさんのことを知らなければ、この状況は猫の取り合い。だが、タカヒロさんに対する楓ちゃんの好意を考えれば、修羅場だ。
そしてこういう状況で大抵悪いのは……。
「悪いのはアンタね!!」
私は黒猫のことを指差す。
「早まるんじゃね!! 違うわ!!」
黒猫は否定した後、楓ちゃん達の横を通り抜けて、助けを求めるようにリエの元へ行く。
楓ちゃんは黒猫をリエに取られてソワソワしているが、もう一人の方はそんな様子はない。
「じゃあ、どういう状況なのよ?」
「オレが説明しましょう」
説明をすると出てきたのは、赤髪の女子高生。可愛い顔をしているが、声から強気な性格なのが滲み出る。
しかし、この声、どこかで聞いたことあるような?
「ねぇ、あなた。どこかで会ったかしら?」
私が尋ねると女子高生よりも早く、黒猫が口を開く。
「はぁ、お前なぁ。こいつを知らないのか……」
黒猫が呆れる中、女子高生の顔を見ていたリエは、思い出したようで声を上げた。
「あ!! 私知ってますよ!! この方、高校生探偵の金古 幸助(かねこ こうすけ)ですよ!!」
高校生探偵の……金古 幸助。そういえば前に高校生探偵がテレビで出ていたような、その時の人物に…………。
「あの高校生探偵か!!」
「今頃かよ……」
前にテレビを見ていた時に出ていた高校生探偵。その人物そのまんまだ。
「なんでそんなすごい人がここに!?」
「オレは事実を確認しに来ただけだ。そしたらそこのチビに絡まれて」
幸助は横目で楓ちゃんのことを睨みつける。睨まれた楓ちゃんは睨み返す。
「誰がチビですか。僕とほとんど身長変わらないじゃないですか」
楓ちゃんが言い返す感じから、石上君のように言い合いになると思ったが、幸助はそっぽを向いて反論しない。
幸助は楓ちゃんを無視して、話を戻す。
「オレは叔父さんの様子を見に来たんです」
「叔父さん?」
幸助の視線は黒猫に向かい、その場にいる全員が一斉に黒猫の方を見る。
「ああ、姪だ」
「「「え!?」」」
私達三人は驚いて声を上げた。その声の大きさで隣の家から壁を叩かれる。
「師匠の姪さんだったんですか……」
「お前なんだと思って事務所にあげたんだ」
「恋のライバルだと」
「今なんてった?」
黒猫が怯えてリエに抱きつく中。私はとりあえず、みんなを落ち着かせようと、台所に向かった。
「お茶淹れるから、それからゆっくり話しましょ」
お茶を淹れて、私は幸助と楓ちゃんと向かい合うように座っていた。本来事態の関係者である男は、猫に人格を乗っ取られて、幽霊と遊んでいる。
「僕が前に師匠が住んでいたアパートの前を通ったんです。その時に金古君を見つけて」
楓ちゃんの話では幸助がアパートに入っていくのを見て、それを怪しんで追いかけたようだ。
「オレはタカオジさんが亡くなった状況を確認に来たんです。そしたら坂本さんに捕まって……」
アパートで遭遇した二人。楓ちゃんはライバルだと思い、事務所に連れてきて、幸助は調査のために着いてきたようだ。
「それでなんであの状況に……」
そう、そこからなぜ、二人して黒猫を問い詰めていたのか。楓ちゃんは分かる。しかし、
「あなた、なんでミーちゃんの中にタカヒロさんがいるって分かったの?」
「状況証拠ですよ。戸棚に隠された猫缶を、ミーちゃんだけが開けられるはずがない。でも、猫が開けた痕跡があった。そこから推測したんです」
「そんなことで……」
「そして霊感のあったタカオジさんなら、警察よりもここに助けを求めるだろうと考えたわけです」
「霊感ねぇ」
確かに助けを求めにタカヒロさんとミーちゃんはこの事務所にやってきた。そこまでは当たっている。
「ねぇ、あなたテレビで幽霊は信じないって言ってなかった?」
私の覚えている限りでは、幸助は幽霊は信じないと公言していた。しかし、今の言い方では霊感を知っている風な口ぶりだった。
「信じたくないです。信じたくないんですよ、こんなふざけた力……」
「ということは……まさか」
「見えてるんですよ!! そこの猫と遊ぶ幽霊が!!」
幸助の目線にはリエの姿がある。見えているのは事実なようだ。
「認めたくないの?」
「認めたくないですよ。だって、普通の人には見えないものが見えるんです、おかしいじゃないですか」
確かにそうだ。最近見える人ばかり出会ってきたから、麻痺して来てたけど、私達の方が異常な方なのだ。
「だからオレは探偵になって、これは幽霊じゃなくてトリックか何かだって認めたかったんです。でも、調べれば調べるうち……」
否定できなくなっていったのだろう。
「なんでそんなに嫌うのよ?」
「オレの家系はこの力で苦しめられてきたんです。タカオジさんも同じです。だから一人で孤独に生きてきた」
家系からして霊感持ちなのだろうか。しかし、そのことを聞ける雰囲気ではない。幸助はかなりこの力を嫌っている様子だ。
話を聞いていた楓ちゃんは幸助を今度は自分から睨みつける。やられたらやり返す楓ちゃんだが、自分からこういった顔をするのは珍しい。
「なんで師匠が寂しがっていたのを知ってて、会いに来なかったんですか」
楓ちゃんは声を低くして尋ねる。その低さから怒っているのが伝わってくる。珍しく怒っているのは、タカヒロさん関係の話だからだろうか。
「オレだって仕事の傍ら追ってたんだ。でも、タカオジさんが身内でも追えないように情報を消すから……」
私はリエと遊んでいる黒猫の方に目をやる。探偵が見つけるのに時間がかかるのほど、足跡を消せるってどれだけすごいんだろうか。
あの変態が本当にそんなことをできるのか、疑いばかり出てくる。
とりあえずは彼が何者なのかは分かった。私は楓ちゃんに親指を立てる。
「よかったじゃん、ライバルじゃないよ」
すると、楓ちゃんは笑顔で親指を立てて返してくれた。
「はい!!」
素直だ。性別とか猫の状態とか、全ての問題を跳ね除けるような勢いで、純粋に喜んでいる。
私がちょっと楓ちゃんに引いていると、幸助は立ち上がった。
「では、オレは帰ります」
「え、もう帰っちゃうの? タカヒロさんと全然話してないじゃん」
とはいえ、今はミーちゃんに身体の権利を奪われて、話せる状況ではないが……。
「まだ事件の解決ができてませんし、タカオジさんの状況を確認したかっただけですから」
「そう……」
そそくさと荷物をまとめて帰りの支度をする。
タカヒロさんは身内の話をしようとしないし、交友関係も楓ちゃんと武本さんくらいだ。そんなタカヒロさんをせっかく訪ねてきたのに、こんなに早く帰ってしまうのは、少し寂しい。
荷物をまとめ終わった幸助は立ち上がると、コップに残っていたお茶を飲み切って、テーブルに置いた。
「美味しかったです。それでは……」
私に頭を下げた後、黒猫の方に寄ることなく。真っ直ぐ玄関へ向かう。私と楓ちゃんは見送るため、玄関まで着いて行く。
扉を開けて、幸助は廊下に出ると最後に扉を閉めるために振り返った。
「最後に皆さんに伝えておきたいことがあります」
顔を見せた幸助は真剣そのもの。しかし、皆と言っているが、奥にいるリエと黒猫に向けている様子はない。
私と楓ちゃんの二人に話そうとしている感じだった。
「オレは今、八神村で起きた事件を追ってます。オレの見立て通りなら、犯人はこの町に潜伏しているはずです。気をつけてください」
それだけ言い残すと、幸助はエレベーターへと向かっていき、建物から出ていった。
幸助を見送った私と楓ちゃんは事務所に戻る。
そして幽霊と遊んでいる黒猫に目線をやる。
「本当に話さなくて良かったの? おっさん」
私は猫に向けて話しかける。黒猫はリエの髪で遊んでいるようにフリをしていた。
「あの子が出て行く時にはミーちゃんから、戻ったんでしょ……」
「…………」
黒猫は何も言わず。答えることはない。
「レイさん、師匠は今、ミーちゃんに……」
「私が世話してるペットよ。今の身体を操ってるのがどっちかなんて分かるよ」
「そうなんですか?」
ミーちゃんが遊んでいる時は、右手で捕まえてから左手で挟んで、かぶりつく。そういう癖があるのだ。しかし、今は左手で髪を叩いているだけ。
やる気がない時でもミーちゃんは利き手を使う。しかし、利き手でなければ身体を支えられないのは、その身体に慣れていない人ということだ。
もう誤魔化すことができないと分かったのか、黒猫は演技をやめるとリエから離れる。
そして私達全員と一定の距離をとった位置に移動すると、どっしりとお腹をつけて座り込んだ。
「何も言うことはねぇよ」
「本気なの? アンタに会いに来たのよ?」
「アイツだって俺に話すことはなかっただろ。俺はもうこの世の人間じゃない。今はミーちゃんの身体にしがみついてるが、未練が無くなれば俺は消える魂だ。死者が生者に語ることなんてない」
そんなことを言って、ここから動かないぞというふうに、座り込む黒猫。
「まぁ、それならそれでいいけどさ」
ないならないで、私も無理にとは言わない。この猫が頑固なのは知っている。
私は黒猫を放置して、テーブルにあるコップを片付ける。
「私も手伝います」
猫が構ってくれないため、リエも洗うのを手伝い始める。残った楓ちゃんは黒猫に近づいてしゃがみ込んだ。
「師匠。僕、彼女は師匠を心配して来てくれたんだと思いますよ。礼くらい言った方が良かったんじゃないですか?」
「さっきも言っただろ。俺はこの世の人間じゃないって、それに俺もアイツと同じで、霊感なんて否定したいし、して欲しい。だが、俺が何か言えば、否定できなくなる……」
「もう師匠の今の姿を見ちゃってるじゃないですか」
「そうじゃない。俺は……アイツを応援してるんだよ。だからこそ、今の俺の姿をこれ以上は見せたくない」
黒猫の説明を聞いても納得できない楓ちゃん。唸り声をあげて思考を巡らせるが、結局理解することはできなかった。しかし、
「なら、こうすればいいんですよ」
楓ちゃんは黒猫に手を伸ばすと抱き上げた。
「おい、何する気だ!!」
楓ちゃんに抱き上げられて暴れる黒猫。そんな黒猫を連れて、楓ちゃんは玄関へ向かった。
「レイさん、リエちゃん。少し出かけて来ますよ!!」
「おい、楓!! どこ行く気だ!!」
「師匠が喋らなければいいんです。なら……」
事務所を出て、現在住んでいるマンションを目指す。公園の遊具の影は、車道まで伸びる。
「国木田は尋問で、ハッピーランランの事件を知らないと言っていた。無関係に見える事件、だが…………」
独り言を呟く女子高生に、すれ違う人々は一瞬振り返り、見て見ぬフリをする。
公園を過ぎて交差点に差し掛かったところで、
「待ってください!!」
幸助を呼び止める声。考え事をしていた幸助は一瞬反応が遅れたが、すぐに振り返りその人物を確認する。
「君は……」
そこにいたのは事務所で出会った男子校生。その手には黒猫が抱きしめられていた。
「僕は師匠じゃないですけど、師匠ってこういう人だと思うんです。人が嫌いで、頑固でドジでいじっぱり。でも、寂しがり屋で優しいのが師匠です。だから、探してくれてたこと、本当は嬉しかったはずです」
「それだけ伝えに?」
「はい!!」
「…………」
本当にそれだけを言いに来たようで、はっきりと返事をする。他にも何かやるのかと思っていたため、幸助は少し戸惑う。
「じゃあ、お仕事頑張ってください!!」
楓ちゃんはクルッと向きを変えると、背を向けて事務所に帰ろうとする。そんな楓ちゃんに思わず、
「ちょ……っと」
幸助は声が出てしまった。呼び止められた楓ちゃんは足を止めて、身体を捻って振り返る。
「なんですか?」
「…………」
幸助は言葉がすぐには出ず。そのままの体制で数秒固まる。そしてやっと口を開くと、
「ミーちゃんをよろしく頼む」
幸助はそう言い残し、背を向けようとした時。
「無茶するなよ」
男子校生の方から声が聞こえて来た。聞き覚えがある声に、幸助は無意識に目線が向かう。
しかし、そこには男子校生の背中しかなく。見覚えのある人物の姿はない。
「俺は楓だ。良いか、俺はお前の前にいる高校生だ。……幸助、お前は昔から無茶する、本家で事件があった時もそうだったが、無茶だけはするなよ。あの頃と違って俺はいないが、今のお前には仲間がいるはずだ。ソイツらを頼れよな」
途中から口パクを頑張っていたが、全然会っていなかった男子校生は、一礼した後、背を向けて歩き出す。
「仲間を頼れか……。昔のタカオジさんからは考えられない言葉だな」
幸助は両足を揃えると、右手を額まで持って来て敬礼した。
著者:ピラフドリア
第61話
『探偵と黒猫』
「助けてくれって状況説明しなさいよ……」
タカヒロさんのことを知らなければ、この状況は猫の取り合い。だが、タカヒロさんに対する楓ちゃんの好意を考えれば、修羅場だ。
そしてこういう状況で大抵悪いのは……。
「悪いのはアンタね!!」
私は黒猫のことを指差す。
「早まるんじゃね!! 違うわ!!」
黒猫は否定した後、楓ちゃん達の横を通り抜けて、助けを求めるようにリエの元へ行く。
楓ちゃんは黒猫をリエに取られてソワソワしているが、もう一人の方はそんな様子はない。
「じゃあ、どういう状況なのよ?」
「オレが説明しましょう」
説明をすると出てきたのは、赤髪の女子高生。可愛い顔をしているが、声から強気な性格なのが滲み出る。
しかし、この声、どこかで聞いたことあるような?
「ねぇ、あなた。どこかで会ったかしら?」
私が尋ねると女子高生よりも早く、黒猫が口を開く。
「はぁ、お前なぁ。こいつを知らないのか……」
黒猫が呆れる中、女子高生の顔を見ていたリエは、思い出したようで声を上げた。
「あ!! 私知ってますよ!! この方、高校生探偵の金古 幸助(かねこ こうすけ)ですよ!!」
高校生探偵の……金古 幸助。そういえば前に高校生探偵がテレビで出ていたような、その時の人物に…………。
「あの高校生探偵か!!」
「今頃かよ……」
前にテレビを見ていた時に出ていた高校生探偵。その人物そのまんまだ。
「なんでそんなすごい人がここに!?」
「オレは事実を確認しに来ただけだ。そしたらそこのチビに絡まれて」
幸助は横目で楓ちゃんのことを睨みつける。睨まれた楓ちゃんは睨み返す。
「誰がチビですか。僕とほとんど身長変わらないじゃないですか」
楓ちゃんが言い返す感じから、石上君のように言い合いになると思ったが、幸助はそっぽを向いて反論しない。
幸助は楓ちゃんを無視して、話を戻す。
「オレは叔父さんの様子を見に来たんです」
「叔父さん?」
幸助の視線は黒猫に向かい、その場にいる全員が一斉に黒猫の方を見る。
「ああ、姪だ」
「「「え!?」」」
私達三人は驚いて声を上げた。その声の大きさで隣の家から壁を叩かれる。
「師匠の姪さんだったんですか……」
「お前なんだと思って事務所にあげたんだ」
「恋のライバルだと」
「今なんてった?」
黒猫が怯えてリエに抱きつく中。私はとりあえず、みんなを落ち着かせようと、台所に向かった。
「お茶淹れるから、それからゆっくり話しましょ」
お茶を淹れて、私は幸助と楓ちゃんと向かい合うように座っていた。本来事態の関係者である男は、猫に人格を乗っ取られて、幽霊と遊んでいる。
「僕が前に師匠が住んでいたアパートの前を通ったんです。その時に金古君を見つけて」
楓ちゃんの話では幸助がアパートに入っていくのを見て、それを怪しんで追いかけたようだ。
「オレはタカオジさんが亡くなった状況を確認に来たんです。そしたら坂本さんに捕まって……」
アパートで遭遇した二人。楓ちゃんはライバルだと思い、事務所に連れてきて、幸助は調査のために着いてきたようだ。
「それでなんであの状況に……」
そう、そこからなぜ、二人して黒猫を問い詰めていたのか。楓ちゃんは分かる。しかし、
「あなた、なんでミーちゃんの中にタカヒロさんがいるって分かったの?」
「状況証拠ですよ。戸棚に隠された猫缶を、ミーちゃんだけが開けられるはずがない。でも、猫が開けた痕跡があった。そこから推測したんです」
「そんなことで……」
「そして霊感のあったタカオジさんなら、警察よりもここに助けを求めるだろうと考えたわけです」
「霊感ねぇ」
確かに助けを求めにタカヒロさんとミーちゃんはこの事務所にやってきた。そこまでは当たっている。
「ねぇ、あなたテレビで幽霊は信じないって言ってなかった?」
私の覚えている限りでは、幸助は幽霊は信じないと公言していた。しかし、今の言い方では霊感を知っている風な口ぶりだった。
「信じたくないです。信じたくないんですよ、こんなふざけた力……」
「ということは……まさか」
「見えてるんですよ!! そこの猫と遊ぶ幽霊が!!」
幸助の目線にはリエの姿がある。見えているのは事実なようだ。
「認めたくないの?」
「認めたくないですよ。だって、普通の人には見えないものが見えるんです、おかしいじゃないですか」
確かにそうだ。最近見える人ばかり出会ってきたから、麻痺して来てたけど、私達の方が異常な方なのだ。
「だからオレは探偵になって、これは幽霊じゃなくてトリックか何かだって認めたかったんです。でも、調べれば調べるうち……」
否定できなくなっていったのだろう。
「なんでそんなに嫌うのよ?」
「オレの家系はこの力で苦しめられてきたんです。タカオジさんも同じです。だから一人で孤独に生きてきた」
家系からして霊感持ちなのだろうか。しかし、そのことを聞ける雰囲気ではない。幸助はかなりこの力を嫌っている様子だ。
話を聞いていた楓ちゃんは幸助を今度は自分から睨みつける。やられたらやり返す楓ちゃんだが、自分からこういった顔をするのは珍しい。
「なんで師匠が寂しがっていたのを知ってて、会いに来なかったんですか」
楓ちゃんは声を低くして尋ねる。その低さから怒っているのが伝わってくる。珍しく怒っているのは、タカヒロさん関係の話だからだろうか。
「オレだって仕事の傍ら追ってたんだ。でも、タカオジさんが身内でも追えないように情報を消すから……」
私はリエと遊んでいる黒猫の方に目をやる。探偵が見つけるのに時間がかかるのほど、足跡を消せるってどれだけすごいんだろうか。
あの変態が本当にそんなことをできるのか、疑いばかり出てくる。
とりあえずは彼が何者なのかは分かった。私は楓ちゃんに親指を立てる。
「よかったじゃん、ライバルじゃないよ」
すると、楓ちゃんは笑顔で親指を立てて返してくれた。
「はい!!」
素直だ。性別とか猫の状態とか、全ての問題を跳ね除けるような勢いで、純粋に喜んでいる。
私がちょっと楓ちゃんに引いていると、幸助は立ち上がった。
「では、オレは帰ります」
「え、もう帰っちゃうの? タカヒロさんと全然話してないじゃん」
とはいえ、今はミーちゃんに身体の権利を奪われて、話せる状況ではないが……。
「まだ事件の解決ができてませんし、タカオジさんの状況を確認したかっただけですから」
「そう……」
そそくさと荷物をまとめて帰りの支度をする。
タカヒロさんは身内の話をしようとしないし、交友関係も楓ちゃんと武本さんくらいだ。そんなタカヒロさんをせっかく訪ねてきたのに、こんなに早く帰ってしまうのは、少し寂しい。
荷物をまとめ終わった幸助は立ち上がると、コップに残っていたお茶を飲み切って、テーブルに置いた。
「美味しかったです。それでは……」
私に頭を下げた後、黒猫の方に寄ることなく。真っ直ぐ玄関へ向かう。私と楓ちゃんは見送るため、玄関まで着いて行く。
扉を開けて、幸助は廊下に出ると最後に扉を閉めるために振り返った。
「最後に皆さんに伝えておきたいことがあります」
顔を見せた幸助は真剣そのもの。しかし、皆と言っているが、奥にいるリエと黒猫に向けている様子はない。
私と楓ちゃんの二人に話そうとしている感じだった。
「オレは今、八神村で起きた事件を追ってます。オレの見立て通りなら、犯人はこの町に潜伏しているはずです。気をつけてください」
それだけ言い残すと、幸助はエレベーターへと向かっていき、建物から出ていった。
幸助を見送った私と楓ちゃんは事務所に戻る。
そして幽霊と遊んでいる黒猫に目線をやる。
「本当に話さなくて良かったの? おっさん」
私は猫に向けて話しかける。黒猫はリエの髪で遊んでいるようにフリをしていた。
「あの子が出て行く時にはミーちゃんから、戻ったんでしょ……」
「…………」
黒猫は何も言わず。答えることはない。
「レイさん、師匠は今、ミーちゃんに……」
「私が世話してるペットよ。今の身体を操ってるのがどっちかなんて分かるよ」
「そうなんですか?」
ミーちゃんが遊んでいる時は、右手で捕まえてから左手で挟んで、かぶりつく。そういう癖があるのだ。しかし、今は左手で髪を叩いているだけ。
やる気がない時でもミーちゃんは利き手を使う。しかし、利き手でなければ身体を支えられないのは、その身体に慣れていない人ということだ。
もう誤魔化すことができないと分かったのか、黒猫は演技をやめるとリエから離れる。
そして私達全員と一定の距離をとった位置に移動すると、どっしりとお腹をつけて座り込んだ。
「何も言うことはねぇよ」
「本気なの? アンタに会いに来たのよ?」
「アイツだって俺に話すことはなかっただろ。俺はもうこの世の人間じゃない。今はミーちゃんの身体にしがみついてるが、未練が無くなれば俺は消える魂だ。死者が生者に語ることなんてない」
そんなことを言って、ここから動かないぞというふうに、座り込む黒猫。
「まぁ、それならそれでいいけどさ」
ないならないで、私も無理にとは言わない。この猫が頑固なのは知っている。
私は黒猫を放置して、テーブルにあるコップを片付ける。
「私も手伝います」
猫が構ってくれないため、リエも洗うのを手伝い始める。残った楓ちゃんは黒猫に近づいてしゃがみ込んだ。
「師匠。僕、彼女は師匠を心配して来てくれたんだと思いますよ。礼くらい言った方が良かったんじゃないですか?」
「さっきも言っただろ。俺はこの世の人間じゃないって、それに俺もアイツと同じで、霊感なんて否定したいし、して欲しい。だが、俺が何か言えば、否定できなくなる……」
「もう師匠の今の姿を見ちゃってるじゃないですか」
「そうじゃない。俺は……アイツを応援してるんだよ。だからこそ、今の俺の姿をこれ以上は見せたくない」
黒猫の説明を聞いても納得できない楓ちゃん。唸り声をあげて思考を巡らせるが、結局理解することはできなかった。しかし、
「なら、こうすればいいんですよ」
楓ちゃんは黒猫に手を伸ばすと抱き上げた。
「おい、何する気だ!!」
楓ちゃんに抱き上げられて暴れる黒猫。そんな黒猫を連れて、楓ちゃんは玄関へ向かった。
「レイさん、リエちゃん。少し出かけて来ますよ!!」
「おい、楓!! どこ行く気だ!!」
「師匠が喋らなければいいんです。なら……」
事務所を出て、現在住んでいるマンションを目指す。公園の遊具の影は、車道まで伸びる。
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「待ってください!!」
幸助を呼び止める声。考え事をしていた幸助は一瞬反応が遅れたが、すぐに振り返りその人物を確認する。
「君は……」
そこにいたのは事務所で出会った男子校生。その手には黒猫が抱きしめられていた。
「僕は師匠じゃないですけど、師匠ってこういう人だと思うんです。人が嫌いで、頑固でドジでいじっぱり。でも、寂しがり屋で優しいのが師匠です。だから、探してくれてたこと、本当は嬉しかったはずです」
「それだけ伝えに?」
「はい!!」
「…………」
本当にそれだけを言いに来たようで、はっきりと返事をする。他にも何かやるのかと思っていたため、幸助は少し戸惑う。
「じゃあ、お仕事頑張ってください!!」
楓ちゃんはクルッと向きを変えると、背を向けて事務所に帰ろうとする。そんな楓ちゃんに思わず、
「ちょ……っと」
幸助は声が出てしまった。呼び止められた楓ちゃんは足を止めて、身体を捻って振り返る。
「なんですか?」
「…………」
幸助は言葉がすぐには出ず。そのままの体制で数秒固まる。そしてやっと口を開くと、
「ミーちゃんをよろしく頼む」
幸助はそう言い残し、背を向けようとした時。
「無茶するなよ」
男子校生の方から声が聞こえて来た。聞き覚えがある声に、幸助は無意識に目線が向かう。
しかし、そこには男子校生の背中しかなく。見覚えのある人物の姿はない。
「俺は楓だ。良いか、俺はお前の前にいる高校生だ。……幸助、お前は昔から無茶する、本家で事件があった時もそうだったが、無茶だけはするなよ。あの頃と違って俺はいないが、今のお前には仲間がいるはずだ。ソイツらを頼れよな」
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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