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第59話 『巻き物の悪霊』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第59話
『巻き物の悪霊』




「松尾、巻き物を返すでござる!!」



「それは無理な願いだ。俺はこの巻き物を持ち帰り、あの方に渡さなければならないからな」



「あの方……誰でござるか!!」



 セイは松尾に向けて詰問するが、松尾は答えることなく私達に背を向けると、



「教えるか。俺は新しい君主を見つけたんだ、お前達みたいな時代に捨てられた忍者と違ってな」



 松尾は巻き物を懐にしまうと、ポケットから別の巻き物を出して窓に向かって巻き物を投げた。巻き物は音と火花を出し、爆弾のように爆発する。
 そして穴の空いた壁を使い、松尾は外に顔を出した。



「逃げられちゃいますよ!!」



 リエが焦って私の背中を揺らす。しかし、私にどうこうできる相手ではない。



「お前達には感謝しているぞ。私では城戸を倒すことはできなかったからな」



 松尾は片足を前に出して城から脱出しようとする。逃げようとする松尾を止めようと、セイは走り出すが二人は部屋を一つ挟んだ場所におり、距離がある。
 足の速い楓ちゃんだとしても、城から落ちて逃げるだけの松尾には追いつけない。



「さらばだ。諸君……」



 松尾は重心を前に倒し、落下する形で城からの脱出を試みる。
 落下するだけ、簡単な脱出なのだが……。



「ん……足が………」



 足に何かが絡まっており、そのせいで逆さの宙吊り状態になってしまった。
 松尾は自身の足に絡まっているものが何か確認する。すると、目を凝らしてみてやっと見える細さの、細い糸が足に巻き付いていることに気づいた。



「これは!?」



 松尾の状態に私達も彼のことを注視し、糸が彼と繋がっているのを見つける。その糸を辿りその先にいたのは……。



「行かせない……松尾」



 糸を引っ張り松尾の止めたのは城戸だった。倒れた状態だが糸を引っ張り、松尾を捕まえていた。



「城戸か……。まだ意識があったか、だが、この程度で俺が止められるか」



 松尾はクナイを取り出すと、ナイフ代わりにして糸を切断しようとする。



「セイ君、逃しちゃダメ!!」



「城戸………………ああ!!」



 城戸の指示に少し戸惑いを見せたセイだったが、決断をして巻き物を取り戻すために松尾の元へ向かう。



「僕たちも!!」



 私達もセイの後を追って松尾の元へ駆け寄る。
 後少しでセイが松尾の元に辿り着きそうになった時。



「よし、切れたぞ!!」



 プチっという音と共に糸が切れて、松尾が落下していく。



「しまった逃げられたでござる!?」



 糸の先いた松尾が消え、頭を抱えるセイだが、私は城の上から下を見て、見えた状況をそのまま伝えた。



「あの、松尾……着地失敗して地面に埋まっているけど」



 松尾は頭から落下して上半身が、地面に埋まっていた。



「今すぐに追うでござる!」



 状況を知るとセイはすぐに下へ降りようとする。だが、そのセイの肩を掴み私は止める。



「待って!! それもそうだけど」



 私はセイを止めると、目線をある人物に向けた。そしてセイはその目線の動きを追って、その人物の顔を見る。



「あの人、どうするの?」



「城戸でござるか」



 立ち上がることはないが、顔を挙げてこちらを見ているクノイチ。楓ちゃんの一撃を喰らっているため、戦線復帰ができるとは思えないが……。



 セイは下に降りる前に、倒れている城戸の近づくと、彼女のことを見下ろした。



「城戸 紫月(きど しずき)……」



「…………」



 セイが確認するように名前を呼ぶと、城戸は目線を逸らすためにそっぽを向いた。



「なんで里から巻き物を盗んだでござる。お主の里でも悪霊の脅威は知られているでござろう」



「…………」



 答えない城戸にセイは諦めて私達の元に戻ってきた。そして階段に身体を向けると、



「下に降りて松尾を追うでござる」



「良いの? 彼女はこのままで?」



「大丈夫でござる。それより巻き物を取り戻す方が優先でござる」



 セイを先頭に私達は階段を駆け降りて、城の一階を目指す。登る時も大変だった階段だが、降りる時の方が疲れる。
 やっと一階まで降りきり、城の外に出た私達は松尾の落ちた場所に辿り着いた。



 落下の影響で上半身の埋まっていた松尾は、どうやったのか地面から抜け出しており、泥まみれの顔をタオルで拭っていた。
 松尾の様子を見て、リエが私の背中に抱きつくと耳打ちしてくる。



「あの高さから落ちたのにほぼ無傷ですよ」



「石頭なのね」



「いや、そういうことで片付けて良いんでしょうか」



 私達がヒソヒソ話している中、セイは先頭に立つと松尾と交渉を始める。



「松尾、巻き物を返すでござる」



「断る」



 タオルで顔を拭き終えた松尾は、茶色くなったタオルを投げ捨てると、懐から例の巻き物を取り出した。
 そして見せびらかすように巻き物を上下させる。



「あの人は強い悪霊を探している。ヤマタノオロチを捧げれば、満足してもらえるのだ」



「あの人って誰でござるか!!」



「お主に教えてる必要はない。俺は巻き物を持って逃げるだけ…………」



 松尾がそこまで言いかけた時、巻き物がひとりでに動き出し、宙に浮いた。
 私の隣にいる楓ちゃんが手を額の位置に持ってきて、日陰を作って上を見上げる。



「巻き物が浮きました!?」



 巻き物は風船のように浮遊すると、松尾の頭上に移動する。
 その様子を見てリエが怯えるように私の背中に抱きついた。



「レイさん、楓さん。これは逃げた方が良さそうです」



「もしかして復活するとか?」



「完全ではないです。でも、一部が巻き物から漏れています」



 巻き物から空気の抜けるような音が出ると、紫色の煙が吹き出す。そしてその煙は形を変えて蛇の顔へと変身した。
 形としては巻き物から一匹の蛇が顔を覗かせた状況。しかし、その蛇の口は車ですら飲み込んでしまいそうな大きさだ。



「あれがヤマタノオロチでござるか……あんな恐ろしいものが……」



「セイさん。どうしますか!! このままでは巻き物と一緒にあの悪霊が持っていかれます!!」



「楓君。力を貸して欲しいでござる。拙者と楓君で松尾を止めるでござるよ」



「はい!!」



 セイと楓ちゃんが前に出て、松尾と戦うつもりでいる。私とリエは参加する度胸もなく、城の扉に身を隠して様子を見守る。



「拙者が悪霊を止めるでござる。楓君は松尾を!!」



「はい!! 任せてください!!」



 二人がタイミングを合わせて、松尾に仕掛けようとした時。ヤマタノオロチが動いた。
 大きな口を開けると、その口で松尾を頭からガブリと一口で飲み込む。



「何を!? グァァァァァァァァ!!!!」



 松尾は抵抗するが効果はなく。蛇の体内に飲み込まれてしまった。



「松尾が……食われたでござる!?」



 人を簡単に飲み込んでしまう悪霊。腰を落とし、背中を曲げてセイはビビり散らかす。
 そんな中、松尾を飲み込んだヤマタノオロチは、口の中で咀嚼した後。勢いよく何かを吐き出した。



 吐き出されたものはセイ達の目の前に転がる。



「松尾!? 生きてるでござるか!?」



 ヤマタノオロチの食われた松尾が、生きた状態で戻ってきた。蛇の分泌液が身体を覆っているが、無傷であり食われたことが嘘のようだ。
 松尾を吐き出したヤマタノオロチは、満足した表情でゲップをすると、顔を引っ込めて巻き物の中に入っていく。それにより巻き物は元の状態に戻った。



「さぁ、松尾。巻き物を返すでござる!!」



 悪霊にやられて懲りただろうと、セイは松尾を説得しようと試みる。
 食われたとはいえ、ここまでのことをした人物だ。簡単に説得に応じるとは思えない。だが、



「ああ、僕はなんて悪いことを……」



 松尾は正座をすると身体の向きを変えて、セイの方を正面にする。そして土下座をした。



「服部君。僕は君に、いや、君達になんて悪いことをしたんだ!! ああ、僕は僕は!!!!」



 突然人が変わったように謝り出す。私達が松尾の様子に困っていると、



「欲を食われたんだ……」



 城の中から女性の声がする。私達が振り向くと、そこには壁に手をかけて辛そうに歩く城戸の姿があった、



「わぁっ!? またやる気!?」



 城の扉に隠れていて城戸に一番近かった私は、ビビりながら変なポーズで臨戦態勢をなる。
 いざ、このポーズをしてみたがこの体制からどう攻撃を仕掛けるのか……。というか、絶対勝てない。



 今すぐに逃げ出したい状況で足が震えさせていると、



「戦わない。貴様らともう戦うつもりはない」



 そう言って城戸はその場に座り込んだ。立っているのもやっとなのだろう。息を切らして、顔を赤くしている。



「城戸 紫月……お主、何が目的でござる」



「もう大丈夫よ。昔みたいにシズって呼んで……」



 どうやらセイと城戸は知り合いようで、そんな会話をしている。しかし、セイはそっぽを向くと、



「他の里の者と親しくはせん。それにお主は巻き物を盗んだでござる」



 厳しい顔付きで城戸の言うことを聞かず、まずは正座をして無抵抗の松尾を縄で縛って動きを封じる。
 松尾を縛り、ヤマタノオロチが首を引っ込めた巻き物を拾い上げる。セイは警戒して慎重に拾い上げるが、悪霊の出てくる気配はない。



 巻き物をしまい、私達は一旦城の中に入る。そして松尾の状況や城戸の目的を聞くことにした。



 丁度茶室があったため、畳の上に座り城戸と向かい合う。



「城戸……もう一度聞く。なぜ、巻き物を盗んだでござる」



 私達は座っているが、セイは城戸を警戒しているのか。壁に寄りかかり、立った状態で詰問をする。



「セイ君も里で聞いたことない? 悪霊を集めているという組織の話」



「その呼び方はやめるでござる。拙者は服部 青河でござる。…………まぁ、その話は噂程度でござったが……。情報が曖昧で信ぴょう性に欠けていたでござるから、里の長は調査は後回しにと……」



 セイと城戸が真面目な話をしている中、私と楓ちゃんは水筒に入れてきたスポーツドリンクを飲んでゆったりする。



「はぁ、運動の後のスポドリは良いですね」



「そうね~。登ったり降りたりで疲れたよ~」



「ちょっと静かにしててでござる」



 セイに怒られて私達は肩を狭くして口を閉じる。
 忍者の二人は話題を戻す。



「城戸、お主がその組織の関係者でござるか?」



「違う。私はその組織が狙ってくるという情報を手に入れて、あなたの里に伝えに行ったんだ。だが、話は聞いてもらえず……。仕方なく巻き物を持って、この城に逃げ込んだんだ」



 話を聞いたセイは納得できないようで、腕を組んで唸った後、



「お主の言うことが本当だとして、なぜお主の里の者は何も言わないでござる。里の長同士の話し合いなら、説得できたでござろう……」



「それは出来ない……」



 城戸は目線を逸らし、唇の前歯で噛む。



「なぜでござる?」



「…………」



「言えない理由があるでござるか?」



「いや、そういうわけじゃ……」



「じゃあ、教えるでござる!!」



 セイが迫ると城戸は肩を落とし、目線を落とした。そして落ち込んだ表情で伝えた。



「里はその組織の関係者にやられたでござる」



「な!? そんなはずは!? 偵察隊は問題なしと報告を!!」



「遠目から見ただけじゃわからない。魂のない人の身体を操る術師がいたからだ。それで問題がないように見せかけていた。スパイも潜り込んでいたから、セイ君の里にもいるはずだ」



「信じられないが…………」



 セイは城戸に疑いの目を向け、信用できない様子。城戸の話だけでは確証を取れないため、もう一人の関係者に話を聞くことにした。



「松尾 紅(まつお こう)がお主もその組織の関係者でござるよな」



「はい。僕はその組織の関係者でございます」



「なんていう名前だ。言うでござる!!」



「知らないです!! 本当でございます。僕は術師になる素質が見込まれて、悪霊を奪いに来たんです」



「知らない? 嘘じゃないのか?」



 セイはクナイを突きつけて松尾を脅す。しかし、松尾は嘘偽りはないと答える。拷問をするかと悩んでいるセイに、城戸は松尾の状態について説明を加えた。



「さっきも言ったがその男は欲を食われた。偽りを言うような余力はない」



「なぜ、分かるでござる」



「セイ君も見たはずだ。ヤマタノオロチが松尾を喰らうところを。あの悪霊が求めるのは人欲。封じ込まれる前の悪霊の姿は、それぞれの首が欲の力を持ち、欲望を糧にする。そういう伝承がある」



「伝承でござろう。悪霊とはいえ、そんな力があるとは思えないでござる」



「伝承だけじゃない。私は里の者が食われる姿も見た。だから確証を持っていえる。元は私が盗んだのではなく、私の里にいたスパイが里の者に見せかけて持ってきたんだ。私は残った仲間と協力して、巻き物を手に入れて、ここに潜んでいたんだ」



「残ったのはお主だけ。それに拙者の里にもスパイがいるため、巻き物はお主が守るしかなかったということでござるな。ま、それは置いといて……」



 セイは松尾に視線を戻す。



「真実を言っているとして、お主の言うあの人とは誰でござる。組織がわからないとしてもその人物とは接触したでござろう」



「はい。執事とシスターを連れた西洋人です。服装は昔の貴族という感じの衣装の……本名は分かりませんが、こう呼ばれていました。アルカードと」



「アルカードか。それが今回の首謀者でござるね」



 情報を聞き出したセイは、白紙の巻き物を取り出すと、分かった情報を書き出す。そして窓から顔を出して外に投げ捨てた。
 外に放り出された巻き物を、近くで飛んでいた鳩が拾い上げ、どこかへ持っていってしまった。



「とりあえずは里には巻き物を取り返したことだけを報告したでござる。霊宮寺殿、坂本殿、今回の協力感謝でござる。これは報酬とおまけでござる」



 セイは依頼料を払うと、それと一緒に巻き物を渡してくる。



「まさか!? 例の悪霊の封じ込まれてる巻き物!!」



「違うでござる。流石にそれは渡せないでござるよ。それでその巻き物でござるが」



 巻き物を回して正面を見ると、そこには『火遁の術』と書かれていた。それを見たリエと楓ちゃんは左右で私の体を揺らして興奮する。



「忍者の巻き物ですよ!! しかも火遁!! 火が吹けるんですよ!! 火が!!」



「僕も欲しいです!! というかください!! 楽しそうです!!」



 私としてはこんな危なそうなもの渡されても困るが。貰えるものなら貰っておこう。



「私達は帰りますけど、セイさん達はどうするの?」



 私たちの仕事はここで終わりだ。城戸や松尾の尋問はセイの役割だろう。



「拙者の里にもスパイがいる可能性があるなら、帰るわけにもいかないでござる。信用できる仲間を呼び寄せて、城戸達から情報を聞き出すでござる」



「大変そうね」



「いつものことでござる。それよりも拙者としてはお主達を今回の件に巻き込ませてしまったことが心配でござる。大丈夫でござるか?」



「まぁ、巻き込まれたってより、今回は巻き込まれにいったからね。気にしなくて良いよ。また幽霊絡みで何かあったら呼んでちょうだい、それなら手伝うよ」



「それは助かるでござる。お主も拙者達の力が必要でござればいつでも連絡して欲しいでござる。あ、これメアドでござる」



 セイはメモ帳に筆でメールアドレスを書いて渡してくる。



「暗殺に隠蔽。忍者にできる依頼ならなんでもやるでござるよ」



「そんな物騒なことは頼むことはないと思うけど……一応もらっておくよ」






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