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第54話 『呪いの投げ銭』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第54話
『呪いの投げ銭』




 窓の外は青空の広がる空の世界。見覚えのない空を飛ぶ乗り物の中で私はある部屋の扉を開けた。



 そこは小さなキッチンスペース。そこで三人の男女がなにやら言い合いをしている。
 私はその三人の言い合いに呆れながら、何かを言うとキッチンに置いてあったコップを手に取りそれを飲み干した。



 そして別の容器に新しく作った飲み物を移し替えると、お盆に乗せてどこかに向かう。
 扉を開けると、そこには…………






「レイさん!! 大変です。雨降ってますよ!!」



 ソファーで横になり、寝ていた私の身体が揺らされる。



「んぅっむ~、なによ~」



「だから雨が降ってるって言ってるじゃないですか!! 洗濯物干しっぱなしですよ!!」



 リエに起こされて私は夢から覚めた。



「え!? 雨!!」



 飛び上がると洗濯物を干しているベランダへ向かう。マンションについている屋根が雨を遮り、まだ濡れてはいなかった。



 天気予報では晴れだと言っていたのにと文句を言いながら、私はリエと協力して洗濯物をしまう。



 どうにかしまい終わった私は、テーブルを置いてあった覚めた紅茶を飲み干して、台所に片付けた。



「レイ。俺の新聞知らないか?」



 片付けてリビングに戻ろうとすると、部屋をウロウロしていた黒猫がトコトコとやってくる。



「あー、あれ。今日燃える火だったから捨てたけど」



「あれ今日のだぞ」



「どーせ、その上で寝るだけなんでしょ。読まないなら古新聞でも同じじゃない」



「読んでるわ!! お前はいつもいつも…………」



 ブツブツと始まった黒猫を放っておいて、私はリビングに戻る。黒猫は文句を言いながら私の後ろをヒナのようについてくる。



 私がソファーに座り込んでテレビをつけると、黒猫はこれ以上言っても無駄だと分かったのか、静かになりテレビの見える位置に移動すると丸くなった。



 テレビはサメが襲ってくる海外映画。途中からだったが見たことある映画だったため、内容に理解できそのまま見始める。
 施設の中に水が侵入してきて、ザメが大きく口を開けてヒロインを飲み込もうとする。



 私達は息を呑み、先の展開を見守っていると、



「ヤッホー!!!! きましたよ!!」



 事務所の勢いよく扉が開き、楓ちゃんが入ってきた。サメに襲われる瞬間に大声を出されて、私と黒猫は飛び上がった。



「うわっ!? ……って、楓か。脅かすなよ……」



「師匠とレイさん。なに抱き合ってるんですか? まさか!!」



「違うわ!! お前が脅かすからだ!!」



 驚いた勢いで私は黒猫に抱っこして、黒猫は私に飛びついていたようだ。黒猫は私から飛び降りる。



「んで、楓、そいつ誰だ?」



 黒猫は楓ちゃんの後ろにいる人物に目線を送る。驚いていて気にしていなかったが、楓ちゃんと一緒に誰かが入ってきていた。



「あ、紹介しますね。配信事務所でプロデューサーをしている加藤さんです」



 楓ちゃんに紹介された加藤さんは深々と頭を下げて挨拶をした。



「初めまして、加藤 正村(かとう まさむら)と申します。今回は依頼をしたく尋ねさせていただきました」






 加藤さんに事情を聞くと、京子ちゃん経由でうちの話を聞き、楓ちゃんにお願いして案内してもらったらしい。



 リビングにあるパイプ椅子を出して、私と加藤さんは向かい合うように座る。



「それで依頼内容はどうなものなんですか?」



 私が尋ねると依頼人の加藤さんは膝に手を置き、背筋を伸ばして依頼内容を語り出した。



「私は事務所でバーチャル配信者というものを管理していまして、その配信者の一人が配信中に怖いことばかり起こると、救援を求めてきたんです」



 依頼人の話を聞いていると、横で一緒に話を聞いていたリエが首を傾ける。



「バーチャル配信者? なんでしょうそれ」



 私もそれがなんなのか分からなかったため、ソファーで丸くなっている黒猫に目線をやる。しかし、黒猫も分からないようで目を逸らした。



「あ、すみません……。バーチャル配信者というのはですね」



 私がキョロキョロしていたからか。加藤さんは分からないことを察して説明をしてくれる。



「動画配信サイトでバーチャル上のキャラクターになりきって配信をする。いわゆるアイドルみたいなものです」



「そのアイドルが何かに怖がっていると?」



「はい」



 加藤さんはバッグの中からノートパソコンを取り出すと、ネットである人物を検索して見せる。



「こちらのハッピーランランという配信者の方です」



 画面には3Dで作られたピエロのコスプレをした可愛いキャラクターが映っていた。
 キャラクターが喋ると口や目も動き、アニメのようにキャラクターが動く。



 動画を見ていたリエが興奮気味に跳ねる。



「凄いですね!! これ!! 私もやってみたです!!」



 しかし、幽霊の声は依頼人には届かない。



 これがどうやって動いているのか気になった私は、加藤さんに質問をしてみる。



「これってどうやってやってるんですか?」



「これはですね。カメラで顔を認識してキャラクターの動きと連動させているんです」



 加藤さんはそう言いながらパソコンの画面で実践してくれる。
 その説明を聞いていたリエは、寂しそうに私の後ろに隠れて肩に両手を乗せる。



「カメラに映らないといけないって、私の霊力じゃ、反応してくれないかもですね……」



 加藤さんが夢中で説明して気を取られている間、私はリエの頭を撫でて慰める。
 一通り説明を終えた加藤さんは、一仕事を終えた感で汗を拭う。



「分かりましたか!!」



「まぁなんとなく……」



 興味本位で聞いただけのため、ソフトだなんだと言われても頭に入ってこなかった。



「それでその怖い現象っていうのはどんなことなんですか?」



 このまま話がそれでも面倒なので、本題に入る。



「はい。それなんですが……」



 加藤さんが説明しようとした時、携帯の呼び出し音が鳴る。
 どこだどこだとキョロキョロしていると、加藤さんがバッグの中から携帯電話を取り出した。



「すみません!! 少し席を外していいですか?」



「どうぞ……」



 携帯電話を持って事務所を出て、外の廊下で電話を始めた。
 加藤さんが電話をしている間、私は椅子の背もたれに体重をかけて楽な体勢になる。



「あれ? 依頼人はどこに行ったんですか?」



 台所でお茶を沸かしていた楓ちゃんが顔を出す。沸かし終わったお茶をお盆に乗せてテーブルに置く。



「電話中よ。仕事関係じゃない? てか、この依頼も仕事関係だし」



「どんな依頼でした?」



「まだ聞き途中よ。確か話だと……バーチャン配信者が怖がってるとか」



「それバーチャンじゃなくてバーチャルですよ。きっと」



 楓ちゃんはお茶を三人分持ってきてくれたので、私はそのうちの一つを飲む。
 沸かしたばっかりで熱く、唇にお湯がついた瞬間「あちっ!」と唇を話したが、それで温度が分かったため、風を吹きかけて冷ましてから飲む。



 私がお茶を飲んでいる間、黒猫は依頼人についてリエに尋ねる。



「なぁ、今回の依頼。幽霊関係だと思うか?」



「う~ん、どうでしょう。その本人を見てないのでなんとも言えないですね」



「まぁそうだよな……」



「しかし、怖いことですか。どんなことがあったんでしょ?」



 リエは私が冷ましたお茶に目線をやり、欲しそうにじーっと見てくる。



「…………いるの?」



「ちょっと、欲しいなぁって……ですね」



「しょーがないなぁ~」



 リエを私の膝の上に座らせてお茶を飲ませる。



「怖いことでしょ、ストーカーとか?」



「あー、なら怪しいのは石上君ですね」



「あんたはあの子をどんだけ敵視してるのよ……」



 楓ちゃんは黒猫の隣に座り、黒猫の首を撫でる。黒猫のゴロゴロと喉を鳴らす音がここまで聞こえてくる。
 私はりえを膝に乗せたまま、二人の方に首を向ける。



「しかし、配信ね~。今ってそういうのが流行ってるの?」



「そうみたいですよ。僕の友達もやってますよ」



「へぇ~、どんなの?」



「確かゲームをやってたはずです。噂だとすごく上手いらしいですよ」



「リエとどっちが上手いんだろう?」



 私が素朴な疑問を口にすると、お茶を手にしたリエが顔を上にあげてドヤ顔をする。



「私ですよ!」



 そんな話をしていると、電話を終えた加藤さんが事務所に戻ってきた。



「すみません。上司からの連絡だったもので……」



「いえ…………。それで依頼内容はどのような?」



 加藤さんは椅子に座り直すと依頼内容について話し始める。



「はい。それが怖いことというのがですね……。配信中にコメントをして、お金を貰うことができる機能があるんです。その機能で……」



 加藤さんの話では配信中に送られてくるコメントで、不自然なコメントがあるのだと言う。それは必ず0時丁度に送られてきて、そのコメントが送られた後、配信画面がバグり、キャラクターの顔が三百八十度回転して血だらけになるのだとか。



 配信者はそのような機能を入れていないし、配信アプリにもそのような機能はない。さらには録画にはその光景は残らない。
 しかし、加藤さんが配信を見ていたら、確かにその現象は起きたし、リスナーからのクレームも多い。



「そういうことなんです。どうにかなりませんか?」



 加藤さんが依頼は可能か尋ねてくる。私はバレないように膝に座っているリエに確認を取る。



「どうなの?」



「話だけじゃやっぱりわかりませんね。取り憑かれてる可能性も呪いの可能性もあります。その配信を見ない限りは……」



 話だけでは分からないようで、現時点では幽霊の仕業という確証はない。
 しかし、幽霊であろうがなかろうが、確認のためには。



 私は加藤さんの目を見ると、



「分かりました。依頼についてですがまだ幽霊の仕業かはハッキリとは分かりません。なのでその配信を一度確認させてください。その配信はいつやるんですか?」



 加藤さんはノートパソコンを開き、資料を確認してから、



「今日も行う予定になっています。10時から2時まで」



 こうしてまずはその配信のハプニングが幽霊の仕業なのかを確かめることになった。









 加藤さんは仕事の都合で事務所に戻り、楓ちゃんも明日朝練があるため、家に帰った。
 残ったのは私とリエ、黒猫。この三人で配信を見て幽霊の有無を確認する。



「レイ。そろそろ配信が始まる時間じゃないか?」



 夜ご飯を食べてゲームで遊んでいた私とリエに、ソファーで丸くなっていた黒猫が思い出したように言う。



「あ、そうでしたね!! レイさん、どうやって見るんですか?」



「ん、見方はねぇ~」



 私はゲームを操作してあるアプリを開く。開かれたのは動画再生アプリ。これで配信を見るのだ。



「パソコンじゃなくてゲームか。これで良いのか?」



「何で見たって変わらないでしょ。それにテレビなら画面デカいし」



 パソコンを使ってもよかったが、せっかくテレビの画面を使えるんだから、大画面で見た方が霊力を感じやすいかもしれない。
 話にあった恐怖シーンが流れたら叫んでしまいそうだが、まぁ、リエとタカヒロさん達もいるからどうにかなるだろう。



 教えてもらったチャンネル名を打ち込んで、配信を見始める。配信はすでに始まっており、



「視聴者数は3万人か。スゲェな……」



「ふぁぁ……眠たいです。まだ0時まで時間ありますよね。私はちょっと寝ま……す……………」



 リエはソファーで横になり、黒猫と私で配信を見続けることになった。ソファーをリエに取られた黒猫は椅子に座る私の膝の上で丸くなる。



「コーヒーこぼすなよ」



「ならそこで寝ないでよ」



 リエと一緒に寝ないために私はコーヒーを飲んで、眠気対策をする。
 それから時間が経ち、0時が近づいてきた……。





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