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第47話 『呪いの腕時計』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第47話
『呪いの腕時計』




 夕陽の差し込むホーム。仕事帰りのサラリーマンや学生が並ぶ中、改札を抜けて一人の青年が階段を駆け降りる。
 ホームに降り立つと、周囲を見渡してキョロキョロと何かを探す。そして彼はある人物を見つけると、服の裾で汗を拭って駆け寄った。



「まもなく一番線ホームに電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください」



 アナウンスが流れる中、手を伸ばす。後少し後少しで手が届く。しかし、青年の手が届く前に、



「おい、誰が落ちたぞ!!」



「救急車だ!! 救急車を呼べ!!」



 駅のホームにサイレンが響き渡り、赤い物体が散乱した。










「レイさんレイさん!! 今日の夜ご飯なんですか!! さっき買ってたやつですか!!」



 服の裾を引っ張り、買い物袋を覗いてくる幽霊。スーパーで買い物を終えた私達は、買い物袋を持ち事務所へ帰宅していた。



「今日は昨日の残りよ。まだカレーが残ってるじゃない。今日買ったのは明日の分よ」



「あー、そういえば残ってましたね……。まいっかカレーも好きですし!!」



 晩御飯のメニューを聞き、幽霊は腕を大きく振りながら先頭を歩く。
 さっき、スーパーに行く前に駅前で昼ごはんを食べたというのに、もう夜のことか……。幽霊なのにかなりの食いしん坊だ。



 事務所のあるビルが見えてきた頃。リエが道中の公園を見て



「あ、レイさん。あそこの人、何してるんでしょう?」



 公園の中を見ると、ベンチに座り込む青髪の青年。下を向き、深刻な顔をしている。



「テストで悪い点でも取ったんじゃない? それで帰れないとか」



 青年は学ランを着ており、学校を抜け出してきた学生という感じだ。
 私は面倒ごとに関わらないようにさっさと帰りたかったが、ジッと見ていたリエがあることに気づく。



「あの方がしている腕時計。呪われてますね」



「え!?」



 青年は虚な目で地面を見つめながらも、腕時計を撫でるように触っていた。
 依頼人というわけでもないし、放っておいてもよかったが、逆に面倒ごとが増える可能性もある。ならばと、



「ねぇ、そこの青年!!」



 私から接触してみることにした。話しかけると、青年は肩を上下させる。



「な、なんですかァ!?」



 言葉の尻が上がってしまい、緊張しているのが伝わってくる。



「いやいや、そうビビらないで。少し気になることがあったから、話しかけただけだから」



「そう、ですか……」



 少し落ち着いてきたのか、呼吸が整いだす。そんな青年の背後をフワフワとリエが飛び、腕時計を凝視する。



 リエの存在に気づいていないということは、この青年は霊感がないのだろう。



「それで気になることってなんですか?」



「その腕時計。見せてもらえる?」



 私はリエが呪われていると言っていた、腕時計を指差して見せて欲しいと懇願する。しかし、青年は腕時計を守るように隠すと、



「なんで、ですか!?」



 大切な物なのか、腕時計を完全に隠してしまう。
 本当に呪われているのなら、放置しておくわけにもいかない。



「あー、私この辺で霊能力者として活動しててね。その腕時計、呪われてるかもしれないの」



「この腕時計が呪われてる……!?」



 呪われていることを伝えると、青年は腕時計を取り出して確認するように見つめる。私やリエも腕時計を覗き込むが、私達が覗いていることに気づくと、青年は腕時計をまた隠してしまった。



「なんで、そんなことがわかるんですか……」



 青年の質問に私は答えがなく、リエに目線を向ける。



「霊力ですよ。霊力で見えるんです」



「霊力よ。それで呪われているのが分かったの」



 私はリエの言葉を聞いてから、その回答を青年に伝える。すると、青年は少し下を向き考えた後



「もしかしたら、そうじゃないかと……思ってたんです」



 青年は覚悟を決めたのか、勢いよく立ち上がる。そして私に向かって頭を下げた。



「霊能力さん、助けてください!!」








「その腕時計がタイムマシン? なにそれ?」



 助けを求めてきた青年の話を聞くため、私は青年の隣に座り、話を聞いていた。



「はい、正確には過去にしか行くことができない。それも36時間という制限がありますが」



 この青年の名前は川島 天馬(かわしま てんま)。川島君は数週間前に呪いの腕時計を拾い、その能力に気付いたという。
 その腕時計の能力。それはタイムリープ能力だ。たった36時間という時間制限はあるが、過去の自分に今の自分の意識を移すことができる。



「凄いじゃない!! そんなことができるなら、なんでもできるよ!!」



 時間は一日半だが、それでも十分色々できる。やり方次第では億万長者にだってなることが可能だ。



「僕も最初はそう思って楽しんでました……。友達が遅刻しないようにしたり、クジの順番を譲って欲しいものを手に入れたり」



 思っていたよりしょぼいことに使っている
……。



「本当ですか~、呪われているのは確かですけど、過去に戻れるなんてどれだけの霊力が必要なのか……」



 リエが私の後ろで腕を組んで疑いの目線を向ける。しかし、リエのことが川島君には見えてはいない。仕方がないので私が代弁する。



「本当に戻れるの?」



「なら、試してみますか?」



 川島君は立ち上がると、公園の手洗い場へ移動する。そして上を向いている蛇口のパイプを捻り、勢いよく水を出した。



「何してるのよ?」



 辺りはびしょびしょで泥だらけだ。



「僕は今、地面を濡らしました。それでこの腕時計を使います。僕に触れてください、腕時計の所有者に接触している物もタイムリープの対象になりますから」



 川島君が手を伸ばし、私はその手を掴む。リエも私の背中に張り付いたところで、川島君は腕時計の針をほんの少しだけ動かした。



「ううっ!?」



 唐突に目眩がして私は倒れそうになる。しかし、倒れない。いや、倒れるわけがない。なぜなら今、ベンチに座っているから……。



 さっき、ベンチから移動して手洗い場へ移動したはず。なのに、気がついたら元いたベンチに座っていた。
 そして私と同じように顔色を悪くした川島君が、隣で座っている。



「これがタイムリープで……す」



「本当に、戻ったのね……。でも、なんでこんなに気持ち悪いの……」



「時間移動の酔いです。車酔いみたいなものですね」



 ほんの数分戻っただけでここまで辛い物なのか。



「リエ、大丈夫?」



 私はベンチの後ろで、液体を吐き出しているリエを心配する。



「だ、大丈夫……じゃないで…………オロロロロ!!」



「車酔いみたいなもの……ね。個人差があるのかもね」



 リエは船酔いもしていたし、時間移動で酔いやすい人なのかもしれない。



「誰と話してるんですか?」



 リエと話していることに疑問を持った川島君が首を傾げる。



「幽霊よ」



「幽霊!?」



 幽霊と聞き、両手で身体を抑える。まぁ、幽霊がいると言われれば、こんな反応か。



「大丈夫、私の相棒だから。腕時計が呪われてるのにいち早く気づいたのも、この子なのよ」



「そうなんですか。良い幽霊なんですね」



 良い幽霊が悪い幽霊かで言えば、今は公共の場で体液を吐き出すヤバいやつだが。
 リエも少し落ち着いてきたようなので、本題について尋ねる。



「それで助けてってどういうことなの?」



 私が聞くと、川島君の顔は一気に暗くなり、真剣な表情になる。



「助けたい人がいるんです……。でも、何度も何度も失敗して…………」



「どういうこと?」



「明日、僕の友達は必ず…………」





 川島君の親友。彼女は明日のどこかで必ず不幸が訪れる。それは命すら簡単に奪ってしまう事件。
 事故や犯罪など原因は様々だ。しかし、その親友は絶対に次の日を迎えることができないという。






「最初にあいつが事件に巻き込まれた時、僕がこの腕時計を拾ったのは、あいつを助けるため。そう確信しました。でも、どんなことをしても、あいつを救えない……助けてください!!」



 涙目ですがりたいてくる川島君。そんな川島君の頭を撫でて落ち着かせながら、私はリエに目線を送る。
 すると、リエは額に指を当てて少し考えた後、



「もしかしたら死期ではないでしょうか」



 リエがそんなことを言い出した。さらに続ける。



「人間には死期があって、死後の世界で鬼がそれを管理しているって話があります。その方はもしかしたら、死期が明日と決まっているのかもしれません」



 リエの考察を聞いた私は、そのままのことを川島君に伝える。しかし、死期が来たからと言われて、信じろという方が無理だ。



「じゃあ、運命で決められてるってことですか!!」



「さぁね。そういう可能性もあるって話よ。それに私は信じないよ、だって」



 私は近くにいるリエのことを捕まえると、頬っぺたを引っ張って遊ぶ。
 川島君から見たら、何もないところで手を動かしているだけに見えるはずだ。



「幽霊はどうなるのよ。死んでも未練を理由に天国に行かないのよ。そんなことができるんなら、死期なんておかしいじゃない」



「幽霊、ですか」



 川島君は困りながらも、落ち着きを取り戻した。死期が来たという話をされれば、怒るのも当然だ。こんなことを喋らせたリエにはまた後でお仕置きをするとして、



「でもそうね。未来が決まってるっていうことよね。どうにかしてそこを変えないといけないのね」



 川島君は何度もチャレンジして失敗している。だから、簡単には助けられないということ。
 私も死期があるとは信じたくはないが、未来を変えられないというのが、死期のようなものの可能性を感じさせる。



「どうしたら……」



 私と川島君が頭を抱える中、リエはそのためにさっきの話をしたかのように、



「死期を変える手段があります」



 そんなことを口にした。



「死期を変える!? どうするのよ!!」



「死後の世界で死者の名簿があるのなら、その名簿を書き換えれば良い。死後の世界から迎えに来た使者に、別人を差し出して逃げ切ったというもの話があります」



「じゃあ、別の誰かを差し出せば良いってこと?」



 なんと残酷な。しかし、助かる手段としてはあり? なのかもしれない。
 だが、当然、その提案に乗るわけがない。



「僕は嫌です。他人を犠牲にするなんて!!」



「そうよね、何か他にないの?」



「んー、そうですね~」



 しかし、リエは腕を組んで、首を左右に揺らしながら考えるが、新しい案は出てこない。



「このまま悩んでてもしょうがない。まずは行動よ!!」



 結局新しい案も出ず、まずはその例の親友の元へ向かってみることにした。
 しかし、



「いませんね」



 川島君の案内で親友の自宅へ向かったのだが、親友は留守でいなかった。
 しばらく家の前で待って、帰宅を待ったのだが1時間以上経っても現れる気配はなく。私達は川島君を連れて、事務所に戻ることにした。



「おう、お前ら帰ってきたか」



 家に着くと、黒猫が出迎えてくれる。



「買い物に行ってたのに長かったな。ん、誰だそいつは?」









 黒猫にも事情を伝えると、



「運命を変える……か。難しいな。話を聞いた感じだと、死因も決まってないし、正確な場所や時間もない。確定してるのは明日ってことだけだ」



「そうなのよね。どうしたら……」



「だが、確定してるのは明日ってだけだ。つまり明日を乗り越えれば、死期を越えられる」



「それができないから困ってるのよ」



 すると、黒猫はソファーに座っていたリエの元へ向かう。そしてリエの膝に飛び乗ると、



「死因は現世に残るものが引き起こす。なら、この世のものじゃなければ、それを変えられるんじゃないか?」



「え、もしかして私がですか?」



 リエが猫を膝に乗せながら、自分のことを指差す。



「幽霊のお前だからできることだ」



「……私、だから…………任せてください!!」







 翌日、私達は川島君と共に親友の家に行き、自宅の前で張り込む。今日は休日ということもあり、家にいれば安全なのかもしれない。
 しかし、親友は今日起こることを知らない。しばらくして自宅から出てくると、駅に向かって歩き出す。



「出てきましたよ。追いましょう」



 黒猫はお留守番で、私とリエ、川島君で親友の後を追うことになった。度々気配を感じるのか、親友は振り返ってこちらを見るが、電柱の影に隠れてやり過ごす。



 工事現場の近くに差し掛かったところで、



「ここは前にも……」



 そんなことを川島君は呟いた。ということはここで事故が起こる可能性がある。私はリエの背中を押し、守るように指示を出す。
 リエは親友のそばに近づいた時。



「危ない!!」



 工事現場から声がして、上から鉄骨が降ってきた。親友は逃げることができず、頭を両手で覆うが、そんなものでガードできるはずがない。



「バリアです!!」



 リエは霊力を使い、半透明のバリアを作り出す。そしてそれで鉄骨を防いだ。
 リエのバリアにより、無事に鉄骨からは防げたようだ。



 またしばらく進み、駅に着くと今度はバスが親友に向かって突っ込んでくる。またしてもリエのバリアでどうにか防ぎ、守り抜くことに成功した。
 そうしてこのように何度も襲いくる、運命から守り抜き、ついに……。



「やった、やりました!! 日付が変わりましたよ!!」



 守り通すことに成功した。
 それでも一応、一時間ほど見守ったが、問題はなく。リエを戻した。



「霊宮寺さん……そして幽霊さん。ありがとうございます」



「良かったよ。無事に終われて」



 川島君も安心したようでホッとした表情だ。



「じゃあ、僕はこれで!!」



 川島君と別れ、私達も帰る。



「本当にこれで死期を逃れたんでしょうか?」



「できたのよ。だって無事だったじゃない」



「そうですけど……」







 次の日。川島はやっと助けることができて、浮かれていた。



「もう、これは要らないよな」



 もう過去に戻る必要はないだろうと、腕時計を外してその辺に投げ捨てる。そして工事現場の前を通っていると……。




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