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第46話 『悪魔の海』

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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?



著者:ピラフドリア



第46話
『悪魔の海』




 大雨が降り、船が大きく揺れる。雨の当たる音と波の音が船内を包み込む。



「海賊さん達、大変そうですね……」



 リエがベッドで寝っ転がりながら、私に話しかける。



「そうね。ま、私としてはあなたと楓ちゃんも大変そうだけどね」



 船が嵐に突入し、私達は船内で休むことになった。
 少しでも身体を楽にしようと、リエと楓ちゃんをベッドに寝かしつけ、楓ちゃんは熟睡し、リエは横になってから少し楽になったようで雑談を始めた。



「リエ、この先に幽霊はいるのかな?」



「どうでしょう。海は命の危険と隣り合わせですからね。いると思いますよ」



「じゃあ、どこかで私たちが必要になることもあるかもしれないのね……」



 今のところ、海に出てから私達が仕事をすることはなく。無事にウォーキングトライアングルにも突入できた。



 まぁ、仕事がないならないでも良いのだが。もう船の旅だみんなヘトヘトだし……。






 それからしばらく経ち、嵐を抜けたのか、船の揺れが弱まった。



 扉についている円状の窓から外を見た黒猫が外が晴れているのを発見した。



「おい、外が晴れてるぞ」



「え、嵐抜けたんですか!! 師匠!!」



「うお!? 突然起きるなよ!!」



 私達は外に出ると、強い光が甲板を照らし、雲のある場所を抜け出していた。



「おう、お前ら出て来たのか」



 上半身半裸のクラブ船長が、濡れた服を絞って水を出す。
 私は空の様子を見てクラブ船長に尋ねる。



「海域を抜けたんですか?」



「いや、まだ抜けてない。ここは海域の中心。台風の目みたいな場所だ。ここはウォーキングトライアングルで唯一晴れている場所なんだ」



 クラブ船長の話を聞いていると、他の船員達が船の倉庫から大きな機械を取り出して来て、甲板に設置している。



「あれは潜水艇だ。この船も潜れるが小回りと何か発見した時に採取ができないからな。アームも付いてるし、あれならこの船と連絡が取れる」



「海に潜るの……。何のためにですか?」



「前にも言ったが、マリンスターを探すためだ。ウォーキングトライアングルの中心、ここにお宝があるはずなんだ」



 船員達はせっせと設置を終えると、二人の船員が船長に挨拶に来た。



「それでは船長、行って来ます!!」



「お宝を見つけてくるので、期待しててください!!」



 クラブ船長は二人の拳を強く握りしめ、握手をする。



「ああ、任せたぞ!!」



 そして二人を見送り、潜水艇は海の中へと消えていく。
 船員達とのやりとりを見ていた楓ちゃんは、クラブ船長に笑顔を向けた。



「仲が良いんですね」



「そうだろう。船員同士、信頼関係が大事だからな!!」



 クラブ船長は胸を張って答える。



「特にあの二人は特別だな。俺の初めての仲間だ。今じゃ三十人いる船だが、最初は五人だけだったんだ。そのうちの二人がアイツらだ」



 クラブ船長は甲板から潜水艇の消えた海の底を覗き込む。



「俺のくだらない野望にもこうして付き合ってくれる良い奴らだ」



 クラブ船長は振り向くと、楓ちゃんに顔を向ける。そしてニヤリと頬を上げた。



「お前にはいるか? 信頼できる仲間は?」



 クラブ船長は楓ちゃんを試すように聞く。すると、楓ちゃんは迷うことなく私達の方へと近づき、二人と一匹を抱きしめた。



「僕もいますよ!!」



 それを見てクラブ船長は大きく口を開けて笑う。



「ガハハハ!! 仲間は大事にしろよ!!」



 クラブ船長は親指を立ててグッドを伝える。楓ちゃんも答えるように親指を立てた。



「船長!! 潜水艇から無線です!!」



「おう!!」



 クラブ船長は船員達の元へ行き、無線で潜水艇と交信を進める。
 その間、私達は甲板で海を眺めながら暇を潰す。



「楓、お前俺達が仲間って答えて良かったのか?」



「なんでですか? 師匠」



 私の頭に乗っている黒猫が、前足で私の頭を叩く。



「リエはアイツらに見えてないから、お前はこの怪しい女と猫が仲間って言ったんだぞ」



「誰が怪しい女よ、誰が……」



 私は黒猫を説教してやろうとするが、楓ちゃんが私達に近づいて来たのでやめた。
 楓ちゃんはもう一度私達に抱きつく。



「苦しいですよ、楓さん」



「どうしたのよ、今度は強いよ……」



 今度の楓ちゃんの抱きしめる力は強く。少し苦しいと感じるほどだ。
 楓ちゃんは抱きしめたまま、私とリエの間に顔を埋め、



「僕は嘘はつけませんから。僕にとって大切なものはここにあります」



 それを聞き、私とリエは楓ちゃんに抱きしめ返す。私の頭にいた黒猫も前足を出して、リエと楓ちゃんの頭の上に手を置いた。



「俺もだ」



「私もです」



「私もよ」



 私達は気持ちを伝え合うと、それぞれ離れる。



 安心感で心が満たされている中、無線をしているクラブ船長達の方では不穏な空気が流れていた。



「船長!! 大変です」



「どうした」



「何か、巨大に何かがこちらを睨んで……えわ!? 体当たりされました!!」



「巨大な? ……鯨か?」



「いえ、それ以上……え、口を開けて、まさか!?」



 大きく船が揺れる。私は立っていることができず、転びそうになるが、



「危ない!」



 楓ちゃんが腕を掴んで助けてくれた。楓ちゃんは私とリエを抱き寄せて、支えてくれる。



「師匠もしっかり捕まってくださいね!!」



「ああ、レイの頭に捕まってる!!」



 頭がヒリヒリするが非常事態のため、我慢だ。



「何があったんですか!!」



 私はクラブ船長達に叫ぶが、船員達も動揺している様子だ。無線の先からは雑音しか入ってこない。



 船が大きく揺れた原因は、潜水艦と繋がっているロープが引っ張られているためだ。
 そのままロープごと、船はバックしていく。



「どうなってるんだ!?」



「ロープに引っ張られてるんだ!! このままだと沈没するぞ!!」



 船員達が焦り出し、慌ただしくなる。そんな中、クラブ船長は腕を組み、静かに船員に指示を出した。



「ロープを切断しろ」



「しかし、潜水艇には二人が……」



「構わない」



 クラブ船長は眉一つ動かさず、それを聞いた船員達は文句を言わずに命令に従う。
 ロープを繋げている機会の前に立つと、切断するために刃物を持ってくる。



「待ってください!!」


「楓ちゃん!?」



 その様子を見て私達を支えたまま、楓ちゃんが叫ぶ。



「何見捨てようとしてるんですか!!仲間を大切にって話したばっかりじゃないですか!!」



 楓ちゃんは今すぐにでも船長達の元に駆け寄って、説教をしたいのだろう。
 だが、私達を支えているため動くことができない。



 クラブ船長は小さく



「お前達は続けてろ」



 そう船員に告げた後、身体の向きをこちらに向ける。



「海ってのは危険と隣り合わせだ。いつ何が起きてもおかしくない。あいつらも覚悟はできてた」



「覚悟がなんですか!! やっぱり海賊は海賊なんですね!!」



 楓ちゃんが怒鳴ると私の頭にいた黒猫がジャンプして楓ちゃんの頭に乗り移った。



「師匠!?」



 黒猫は楓ちゃんの頭に乗ると楓ちゃんを黙らせる。



「すまんな。俺がこいつを説得する。お前達の決断に口は出す気はないから、そのまま続けてくれ!」



「……猫が喋った」



 黒猫が喋り驚いた様子のクラブ船長だが、気にしている余裕はなく。



「ネコ! 感謝する」



 それだけ言って船員達を手伝いに行く。
 黒猫に会話を止められて楓ちゃんは不快そうな顔をする。



「何をするんですか、師匠」



「お前の気持ちはわかる。だが、俺にはあいつらの気持ちも分かる」



「……師匠?」



「あいつは他の船員達の命を預かってるんだ。決断が遅れれば、助かる命も助けられなくなる。あの船長はその判断をしたんだ。……俺は嫌いだがな」



 黒猫に説得され、一時的に楓ちゃんも落ち着く。会話をしている中、黒猫の視線が私に一瞬移った気もしたが気のせいだろう。



 船員達がロープを切断すると、船の動きは止まり、海面は静かになった。



「終わったのか……」



 黒猫が楓ちゃんの頭の上で呟いた時、船を囲むように海面がリング状に浮かび上がる。
 そしてその浮かんだ海面に何かがいるのが見える。



「あいつか……あいつらを襲ったのは!! 砲台を用意しろ!!」



 クラブ船長は船を囲む何かに向けて大砲を放つ。しかし、その物体は大きすぎて聞いている様子はない。



 やがてその物体が伸びて来て顔を出す。鱗に長い舌を持った蛇。蛇が蟠を巻いて船を囲んでいたのだ。



 この船だって、かなりの大きさだ。港で見た船と同じくらいの大きさだ。
 その船よりもはるかに大きな蛇は島すらも丸呑みしてしまいそうな勢いだ。



 蛇は船の甲板を見下ろすと、口を開く。



「何かと思えば人間か……」



「か、怪物が、喋った!?」



 巨大な蛇が人間の言葉を喋り、船員や私達は驚いて固まる。
 蛇は困った様子で舌を伸ばすと、口の中からある物を出した。



「こんなものを食っても美味しくないからな。返しておくぞ」



 それはロープの切断された潜水艇。潜水艇は甲板に置かれると、船員達が駆け寄って、中にいる二人の状態を確認した。



「船長!! 二人とも無事です!!」



「そうか」



 クラブ船長は大喜びすることはないが、声のトーンが少し上がった様子があった。
 船長は蛇の方に顔を向けると、



「おい、お前は何者だ!!」



 巨大な蛇に向かって威勢よく尋ねた。声はハッキリとしており、睨んでいる。しかし、足は震えており、ビビってはいるようだ。



「答える必要があるか?」



 蛇はそう言うと物色するように甲板を見渡す。そして私を見つけると、



「おい、そこの女」



 話しかけて来た。



「え、私!?」



「そうだ、こっちに来い」



 怖いがここで拒否して暴れられる方が怖いため、私は大人しく蛇の前に立つ。



「これを受け取るが良い」



 蛇の顔の前に黒いキューブが現れた。それは空中をヒラヒラと落ちると、私の前で滞空する。



「まさか、それがマリンスター!?」



 遠くでクラブ船長が喜び声を上げる。私は手を伸ばし、黒いキューブに触れる。するとキューブは吸いごれるように私の中へと入っていった。



「……触れたな」



 蛇の声が脳に直接響く。視界が眩み、私はふらふらと千鳥足になる。
 楓ちゃんが私のことを支えて、倒れることはなかったが、意識が薄くなり何も考えられなくなる。








「レイさん!! レイさん!!」



 リエの叫ぶ声。私は目を開くと楓ちゃんに抱き抱えられて眠ってしまっていた。



「……私は」



 周囲を見渡すが巨大な蛇の姿はない。だが、みんなの様子が変だ。
 船員達は顔を赤くし、リエと楓ちゃんは心配そうに見つめてくる。



「何があったの?」



 私は背を向けている黒猫に尋ねる。黒猫は振り向くことなく、



「……お前、自分の胸を揉んで、それから…………………」



「え、え!? なに!? 何があったの!? ねぇ!!」



 周囲の人間に聞き回るが、誰も答えることはない。
 リエは私に顔を近づけ、くっつきそうなくらい至近距離にくる。



「レイさん、さっきの蛇に取り憑かれてたんですよ」



「え、あの蛇は夢じゃなかったの…………てか、あれ幽霊だったの!?」



「幽霊……とは違う感じでしたけど。大変だったんですよ。私は取り憑けなくなって追い出されちゃいますし、レイさんが暴走しちゃいますし」



「そんな大変なことになってたのね……」



 リエかは説明を受け、なんとなく状況がわかってきた。



「でも、どうやって追い出したの?」



「僕と師匠で頑張ったんです。それで一瞬の隙をついてリエちゃんが取り憑き直して追い出しました」



「そうだったのね。ありがとう……。それでその蛇は?」



「海に消えました。暇つぶしができたとかで喜んで……」



 蛇に遊ばれていたのだろう。追い出せたのも、蛇が満足したからかもしれない。



 話を終えた私達にクラブ船長が近づいて来た。



「すまんな。危険なことをさせて」



「いえ、私達こそ。依頼だったのに力になれなくて」



「良いってことよ。成果はあった!」



「え、じゃあ、探してたものは見つけたんですか?」



 クラブ船長は目を瞑り、ゆっくりと首を横に振った。



「なかった。あの怪物の話ではこの海域ではないらしい。……信じられるとは思わないがな!!」



 クラブ船長はカニ手を掲げると船員達に指令を出す。



「よし、港に帰るぞ!!」



「え、帰るんですか」



「ガハハハ!! お前達を送り返さないといけないしな。それにこの海域は移動する、これ以上ここにいるのは不可能だ」



 船は動き出し、海域を抜け出す。またあの嵐の中を通り抜けるのかと思ったが、帰りは嵐に当たることはなく、数時間後には港に着いていた。



「ガハハハ!! 港に着いたぞ。お前達!!」



「オロロロロ~!!!!」



 リエと楓ちゃんは盛大に吐き出しながら船を降りる。



「お宝、見つかると良いね」



 私は船から降りて船長に告げる。船長は腕を組み胸を張って笑った。



「必ず見つけて見せるさ!! あの秘宝をこの手でな!!」






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