14 / 105
第14話 『呪いのダンベル』
しおりを挟む
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第14話
『呪いのダンベル』
依頼人が帰って私達はテーブルに置かれたダンベルを囲んで話し合いをしていた。
「それでこのダンベルの呪いを解くためには、根本から解決するしかないって言ってたよね。それってどうしたら良いの?」
私は呪いの解き方について知っていそうなリエに聞く。リエはテーブルの肘を乗せ、テーブルに身を乗り出す。
「このダンベルは呪い発動の装置に過ぎません。このダンベルをどうにかしたからといって、呪いを解くことはできない」
「じゃあ、どうすれば?」
「このダンベルの持ち主を探します」
「ダンベルの持ち主?」
私は首を傾げる。楓ちゃんはテーブルの上で丸くなる猫を撫でながら会話に参加する。
「ダンベルの持ち主が呪いをかけている本人ってこと?」
「はい、楓さんの言う通りです。だから持ち主を探して、呪いをかけた理由を調査、それを解決させるんです!」
こうして私達はダンベルの持ち主を探すことになった。まずはダンベルの置かれていたジムに行き、誰が持ってきたのかを調査する。
私はダンベルをバックに入れて持ち運ぼうとするが……。
「持ち上がらない……」
「十キロが二本で二十キロありますからね……」
私とリエは重たいバックを見つめて、どうしようかと迷っていると、トイレに行っていた楓ちゃんが戻ってきた。
「あれ、どうしたんですか? 持てないなら僕が持ちますね」
楓ちゃんはバックを片手で軽々と持ち上げる。
「では行きましょ、師匠が玄関で待ってますよ」
「……は、はい」
依頼人に教えてもらったジムに着いて、そこのトレーナーにダンベルについて話を聞く。
「気づいたらあったんですよね。持ち主はわからなくって……」
働いているトレーナーにダンベルに聞いても、誰が持ってきたのか分からなかった。
しかし、トレーナーに聴き込みをしている中、一人のジムに通っている女性がジムの中に入ってくる。
女性はトレーナーに挨拶をして奥へと進もうとしていたが、私たちが持ってきたダンベルを見つけて足を止めた。
「そのダンベルって、もしかして」
「え、知ってるんですか?」
「え、まぁ、もしかしたらまたそのダンベル何かあったの?」
その女性はダンベルについて何か知っている様子だった。私達はその女性に少しだけ時間をもらい、ジムのロビーにあるベンチで話を聞く。
「そのダンベル。前に通ってたジムでもあったの。その時も呪いだって騒ぎになって、私は不気味だったから近づきもしなかったわ」
「そのジムはどこなんですか?」
「潰れたわ。そのダンベルの呪いでね」
「え!?」
女性の話を聞いていた私達は驚いて動きを止める。
「ダンベルを使った会員が次々と筋力をなくしてね。運動どころか、最終的には呼吸も出来なくなって。それで評判が悪くなってなくなっちゃったの」
筋肉が死滅する。その呪いの被害者がもう他にも出ていたとは……。しかし、呪いの力を舐めていた、死者が出るほどの呪いだったとは。
「レイさん、これは早く解決した方が良いですよ。これ以上呪いによる被害が増えるのは危険です」
ベンチの後ろの壁に半分埋まった状態のリエが私に伝える。
リエの言う通り、これは早く解決しないと被害が増えてしまう。
「このダンベルの持ち主が誰だか分かりませんか?」
私が聞くと女性は申し訳なさそうな表情で答える。
「ごめんなさい。私には分からないわ。でも」
そう言うと女性はリュックを開いて中からメモ帳を取り出す。そしてそのメモ帳に数字を書くと、
「当日そのジムのオーナーをやっていた人の連絡先。何度もナンパされて、嫌々メモさせられたんだけど、まさかこれが役に立つ時があるなんてね」
女性はメモ帳からその連絡先を破ると、それを私に渡してジムの中へと戻っていった。
「レイ、連絡してみるのか?」
楓ちゃんに抱っこされている黒猫が私の持ったメモを持って聞く。
「やるしかないでしょ」
ジムを出てすぐにある自販機の前で私達は早速貰ったメモを頼りに連絡をしてみることにした。
携帯を取り出し私はその電話番号を打ち込む。私がメモと携帯を交互に見て打ち込んでいる中、楓ちゃんはズボンの後ろにあるポケットから財布を取り出して、自販機を見つめていた。
「師匠、リエちゃん、何か飲みたいものある?」
「ミーちゃんに人間の飲み物を飲ますな。持ってきたミーちゃん用の水を飲ませてくれ」
「私は今は要らないです」
リエは断ると楓ちゃんのバックの中から黒猫用の水を取り出して、黒猫に水を飲ませる。楓ちゃんはスポーツドリンクを買ってそれを飲んでいた。
「ねぇ、私だけ仕事してるの寂しいんだけど」
「電話だと一人でするしかないだろ」
「それはそうだけど」
黒猫に現実を突きつけられ、電話番号を打ち込み終えた私は携帯を耳に当てる。
日差しの照らす中で生暖かい携帯が耳にあたり気持ち悪いが、それでも我慢してしばらく待つと電話が繋がった。
「はい、黒淵さんでしょうか? …………はい、はい。あ、はい。えっとですね、呪いのダンベルの件でお話を聞きたくて、お時間いただけますでしょうか………………………はい、ありがとうございます。では後ほど」
電話を終えた私は楓ちゃんの買った冷たいスポーツドリンクに手を当てて涼んでいるリエと黒猫。そしてその二人を見守っている楓ちゃんに報告した。
「これから時間があるから直接会って話してくれるって、これで呪いのダンベルの所有者に近づけるかも!」
呪いのダンベルのあったジムの元オーナーに連絡を取り、直接会って話すことができることになった私達は、待ち合わせ場所に指定された駅前の喫茶店にたどり着いた。
「ここにその人がいるんですか?」
リエは私の背後を浮遊しながら質問してくる。
「そういうことになってるけど。もう着いてるのかな」
黒猫には楓ちゃんが持ってきたバックの中に隠れてもらい、私達は喫茶店に入る。
四人用のテーブル席が10席ほどあり、店内は半分の席が埋まっていた。
「二名様ですか?」
「あ、そうなんですけど、待ち合わせをしてて」
「待ち合わせですか。二名ほど、お待ちしているお客様がいるのですが」
「どちらですか?」
店員は手前にある入り口付近のテーブル席と、奥にトイレに近いテーブル席に待ち合わせの客がいることを教えてくれた。
手前の席には金髪のスーツを着た男性がパンケーキを食べている。奥の席ではうさ耳のカチューシャを付けた女性がコーヒーを飲んでいた。
電話の時の声は女性の声だったため、私は奥の席に行こうとしたのだが、その時に手前の席の男性が店員を呼ぶ。
「すみませーん。注文したいんですが」
その声はまるで女性のような声。そしてそのままの声で注文を続ける。
これではどちらが電話の相手だったか、分からない。
「レイさん、わからないんだったら電話してみたら良いんじゃないですか?」
私が迷っていると後ろで楓ちゃんがそう提案してくれた。それを聞いて私は携帯電話を取り出す。
そして履歴を開いた時、喫茶店の扉が開き新しいお客さんが入ってきた。
パイナップルのような髪型をした男性は、手前の席にいる金髪の男性の元へ躊躇することなく近づき、向かいの席に座った。
どうやら手前にいた男性は違うようだ。
そうなると、奥にいる女性が電話の相手ということになる。しかし、いざその女性に注目してみるとかなり変わった格好をしている。
うさ耳のカチューシャにメイド服を着こなし、まるで漫画の世界から飛び出してきたかのような格好をしている。
あのような格好をしている人が、元ジムの経営者だとも考えにくい。きっと別の待ち合わせをしている人だろう。
私達は先に着いてしまった、そういうことなのだろう。と私は携帯を閉じる。
私が携帯を閉じると、奥にいる女性は携帯を取り出して何か操作を始める。
その女性が携帯を触ると同時に、私の携帯に電話がかかってきた。
「あ、はい、…………待ち合わせの場所に着きました………………手を振ってる……?」
奥にいるうさ耳をつけた女性がこちらに向かって手を振っていた。
元ジムのオーナーと合流した私達。席に着くと女性は早速自己紹介を始めた。
「私は黒淵 モエカ。モエちゃんって呼んでね」
黒淵さんは顔の前に手でハートを作りながら紹介を終えた。
「私は霊宮寺 寒霧。それでこっちが坂本 楓ちゃ……君よ」
リエは見えていないし、黒猫は隠れているため自己紹介は省く。
私達が紹介を終えると、黒淵さんはテーブルに肘をつき、手の甲に顎を乗せる。
「へぇ~、なかなか可愛いわね」
そして私達の方を見てそう言った。
「ですよね。でも、楓ちゃんは男な……ん…………」
「違うわよ。あなたよ」
黒淵さんは突然身を乗り出すと、私の手を握りしめる。
「え……?」
「あなた、もっと可愛くなれるわよ」
黒淵さんは私の目を見てそんなことを言ってくる。楓ちゃんのことを言っているのかと思ったが、もしかして私のことなのだろうか。
黒淵さんは目を輝かせて、私の腕を強く握りしめる。
「鍛えれば絶対良い筋肉をつけられる!!」
「へぇ? 筋肉?」
私が混乱している中、黒淵さんはテーブルに腹を乗せて乗り出しながら、私の身体を触り出した。
「良いわ良いわ、すごく良い!! 筋肉付けないのはもったいないわよ!」
「ちょ、なんなんですか。黒淵さん」
私は黒淵さんの腕を振り払う。すると、黒淵さんは頬を膨らませて不機嫌そうな顔をする。
「モエちゃんって呼んでって言ったわよね。レイちゃん」
「も、モエちゃん……なんなんですか、突然」
「だから~、筋肉をね」
機嫌を直した黒淵さんは再びテーブルに身を乗り出して、私に触ってこようとする。嫌がる私を守るように、楓ちゃんが手を横に出す。
「モエ・チャンさん、やめてください。レイさんが嫌がってます」
しかし、黒淵さんはその腕を叩いて、楓ちゃんを睨んだ。
「私、男には興味ないの。あとちゃん付けやめてくれる」
「は、はい……」
楓ちゃんは速攻で負けた。隣で落ち込んでいる楓ちゃんを無視して、黒淵さんは私の身体に手を伸ばす。
私はメニュー表を盾にして黒淵さんから身を守り、本題に入った。
「モエちゃん、あなた呪いのダンベルを知ってるんですよね。教えてください、その持ち主は誰なんですか?」
呪いのダンベル。その単語が出た途端、黒淵さんの手が止まる。
黒淵さんは席に座り直して話を聞く体制になる。
「そうね。そういえば、呪いのダンベルについて話があるってことだったわね。あなたの体を見て興奮して忘れてたわ…………」
「興奮しないでください」
私は椅子の奥まで座り、黒淵さんから出来るだけ距離を取って会話を始める。
「呪いのダンベルは誰が持ってきたんですか?」
私が早速質問すると、黒淵さんは目を細めてつまらなそうに答えた。
「早いわね。本題に入るのが、でも良いわ答えてあげる。ダンベルの持ち主は夏目よ」
「夏目?」
私と楓ちゃんは首を傾げる。私達の後ろにいるリエも首を傾げた。
「私の経営するジムにあのダンベルがやってきたのは、今から丁度一年ほど前だった。それももうすでにいくつかの人間を伝い、呪いをばら撒いてきた後」
「じゃあ、あなたのジムにその夏目さんが来ていたわけではないんですか」
「ええ、そうよ。私がジムで働く前からその呪いはあったみたい。このダンベルはナドキエ製の初期モデルなの。だからこのダンベルが主流だった頃を考えれば、約十年前に呪いのダンベルがあったとこになる」
十年前。そんな前からこの呪いのダンベルが存在していたとは……。しかし、黒淵さんの話を聞いて疑問が浮かぶ。
「なぜ、持ち主が夏目さんだと分かったんですか?」
黒淵さんは店内の誰かを見る、目線で何かを送る。私達も黒淵さんの見た方を見るが、誰を見ていたのかは分からなかった。
黒淵さんは私の方に向き直すと話を続ける。
「呪いのダンベルがジムに来て、問題が起きて私もこの件について調べ出したわ。まぁ、持ち主がわかったときには、ジムは潰れて、ダンベルは消えていたけど……」
黒淵さんはポケットの中から一枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
その紙には見慣れない場所の住所が書かれている。
「ここが夏目の家よ。夏目自身は何年も前に亡くなっているみたいだけど、ここに呪いを解くヒントがあるかもしれないわ」
黒淵さんはその紙を私達に渡すと、立ち上がる。
「私が知っているのはここまでよ。それじゃ、私はこれで……」
黒淵さんは自身の会計分の小銭をテーブルに置いて店の入り口へと向かう。
私達は黒淵さんに渡された住所の書かれた紙を見て、、どこなのか確認しようと手元に待ってくる。
「あ、そうだ!!」
紙を目の前に持ってきたはずが、突然横から黒淵さんの顔が現れて塞いできた。
「うわぉ!? 帰ったんじゃ?」
「その前に~!」
黒淵さんは携帯電話を取り出すと、
「レイちゃん、あなたの連絡先教えてよ~」
黒淵さんも帰り、ついでに喫茶店で昼食を済ませた私達は、会計を終えて店を出ようとする。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店の入り口に行き、扉に手を伸ばしたとき。私の目線をコインが横切る。
突然コインが飛んできて驚いた私は、慌てながらも咄嗟にキャッチした。
「なにこれ? 五円玉?」
私が飛んできたコインを不思議そうに眺めていると、入り口の近くの席から声をかけられる。
「いや~すまないすまない。そこの麗しき白髪のマドモアゼル、コインが飛んでいってしまってね」
そこは待ち合わせで勘違いした他のお客さん達。喫茶店に入るときに見かけた二人と、もう一人男性が増えており、その人がコインを飛ばしてしまったようだ。
男性はコインを投げるように手招く。私がコインを投げ返すと、男性は綺麗にキャッチした。
「サンキュー!」
そして男性はコインを持ち直すと、親指で弾いて顔の高さまで飛ばしてキャッチ。それを何度も繰り返して遊んでいる。
「レイさん、早く行きましょ~」
扉をすり抜けたリエが外から呼ぶ。男性からの目線を感じながらも、コインを返したのだしと私は店を出た。
「店の中でコイン遊びって何考えてるんでしょうね。他の客に迷惑かけて」
店を出た後、後ろで楓ちゃんが文句を言っている。
「そうね。ま、関係ないのだし、行きましょう。目指すは夏目さん家よ!」
著者:ピラフドリア
第14話
『呪いのダンベル』
依頼人が帰って私達はテーブルに置かれたダンベルを囲んで話し合いをしていた。
「それでこのダンベルの呪いを解くためには、根本から解決するしかないって言ってたよね。それってどうしたら良いの?」
私は呪いの解き方について知っていそうなリエに聞く。リエはテーブルの肘を乗せ、テーブルに身を乗り出す。
「このダンベルは呪い発動の装置に過ぎません。このダンベルをどうにかしたからといって、呪いを解くことはできない」
「じゃあ、どうすれば?」
「このダンベルの持ち主を探します」
「ダンベルの持ち主?」
私は首を傾げる。楓ちゃんはテーブルの上で丸くなる猫を撫でながら会話に参加する。
「ダンベルの持ち主が呪いをかけている本人ってこと?」
「はい、楓さんの言う通りです。だから持ち主を探して、呪いをかけた理由を調査、それを解決させるんです!」
こうして私達はダンベルの持ち主を探すことになった。まずはダンベルの置かれていたジムに行き、誰が持ってきたのかを調査する。
私はダンベルをバックに入れて持ち運ぼうとするが……。
「持ち上がらない……」
「十キロが二本で二十キロありますからね……」
私とリエは重たいバックを見つめて、どうしようかと迷っていると、トイレに行っていた楓ちゃんが戻ってきた。
「あれ、どうしたんですか? 持てないなら僕が持ちますね」
楓ちゃんはバックを片手で軽々と持ち上げる。
「では行きましょ、師匠が玄関で待ってますよ」
「……は、はい」
依頼人に教えてもらったジムに着いて、そこのトレーナーにダンベルについて話を聞く。
「気づいたらあったんですよね。持ち主はわからなくって……」
働いているトレーナーにダンベルに聞いても、誰が持ってきたのか分からなかった。
しかし、トレーナーに聴き込みをしている中、一人のジムに通っている女性がジムの中に入ってくる。
女性はトレーナーに挨拶をして奥へと進もうとしていたが、私たちが持ってきたダンベルを見つけて足を止めた。
「そのダンベルって、もしかして」
「え、知ってるんですか?」
「え、まぁ、もしかしたらまたそのダンベル何かあったの?」
その女性はダンベルについて何か知っている様子だった。私達はその女性に少しだけ時間をもらい、ジムのロビーにあるベンチで話を聞く。
「そのダンベル。前に通ってたジムでもあったの。その時も呪いだって騒ぎになって、私は不気味だったから近づきもしなかったわ」
「そのジムはどこなんですか?」
「潰れたわ。そのダンベルの呪いでね」
「え!?」
女性の話を聞いていた私達は驚いて動きを止める。
「ダンベルを使った会員が次々と筋力をなくしてね。運動どころか、最終的には呼吸も出来なくなって。それで評判が悪くなってなくなっちゃったの」
筋肉が死滅する。その呪いの被害者がもう他にも出ていたとは……。しかし、呪いの力を舐めていた、死者が出るほどの呪いだったとは。
「レイさん、これは早く解決した方が良いですよ。これ以上呪いによる被害が増えるのは危険です」
ベンチの後ろの壁に半分埋まった状態のリエが私に伝える。
リエの言う通り、これは早く解決しないと被害が増えてしまう。
「このダンベルの持ち主が誰だか分かりませんか?」
私が聞くと女性は申し訳なさそうな表情で答える。
「ごめんなさい。私には分からないわ。でも」
そう言うと女性はリュックを開いて中からメモ帳を取り出す。そしてそのメモ帳に数字を書くと、
「当日そのジムのオーナーをやっていた人の連絡先。何度もナンパされて、嫌々メモさせられたんだけど、まさかこれが役に立つ時があるなんてね」
女性はメモ帳からその連絡先を破ると、それを私に渡してジムの中へと戻っていった。
「レイ、連絡してみるのか?」
楓ちゃんに抱っこされている黒猫が私の持ったメモを持って聞く。
「やるしかないでしょ」
ジムを出てすぐにある自販機の前で私達は早速貰ったメモを頼りに連絡をしてみることにした。
携帯を取り出し私はその電話番号を打ち込む。私がメモと携帯を交互に見て打ち込んでいる中、楓ちゃんはズボンの後ろにあるポケットから財布を取り出して、自販機を見つめていた。
「師匠、リエちゃん、何か飲みたいものある?」
「ミーちゃんに人間の飲み物を飲ますな。持ってきたミーちゃん用の水を飲ませてくれ」
「私は今は要らないです」
リエは断ると楓ちゃんのバックの中から黒猫用の水を取り出して、黒猫に水を飲ませる。楓ちゃんはスポーツドリンクを買ってそれを飲んでいた。
「ねぇ、私だけ仕事してるの寂しいんだけど」
「電話だと一人でするしかないだろ」
「それはそうだけど」
黒猫に現実を突きつけられ、電話番号を打ち込み終えた私は携帯を耳に当てる。
日差しの照らす中で生暖かい携帯が耳にあたり気持ち悪いが、それでも我慢してしばらく待つと電話が繋がった。
「はい、黒淵さんでしょうか? …………はい、はい。あ、はい。えっとですね、呪いのダンベルの件でお話を聞きたくて、お時間いただけますでしょうか………………………はい、ありがとうございます。では後ほど」
電話を終えた私は楓ちゃんの買った冷たいスポーツドリンクに手を当てて涼んでいるリエと黒猫。そしてその二人を見守っている楓ちゃんに報告した。
「これから時間があるから直接会って話してくれるって、これで呪いのダンベルの所有者に近づけるかも!」
呪いのダンベルのあったジムの元オーナーに連絡を取り、直接会って話すことができることになった私達は、待ち合わせ場所に指定された駅前の喫茶店にたどり着いた。
「ここにその人がいるんですか?」
リエは私の背後を浮遊しながら質問してくる。
「そういうことになってるけど。もう着いてるのかな」
黒猫には楓ちゃんが持ってきたバックの中に隠れてもらい、私達は喫茶店に入る。
四人用のテーブル席が10席ほどあり、店内は半分の席が埋まっていた。
「二名様ですか?」
「あ、そうなんですけど、待ち合わせをしてて」
「待ち合わせですか。二名ほど、お待ちしているお客様がいるのですが」
「どちらですか?」
店員は手前にある入り口付近のテーブル席と、奥にトイレに近いテーブル席に待ち合わせの客がいることを教えてくれた。
手前の席には金髪のスーツを着た男性がパンケーキを食べている。奥の席ではうさ耳のカチューシャを付けた女性がコーヒーを飲んでいた。
電話の時の声は女性の声だったため、私は奥の席に行こうとしたのだが、その時に手前の席の男性が店員を呼ぶ。
「すみませーん。注文したいんですが」
その声はまるで女性のような声。そしてそのままの声で注文を続ける。
これではどちらが電話の相手だったか、分からない。
「レイさん、わからないんだったら電話してみたら良いんじゃないですか?」
私が迷っていると後ろで楓ちゃんがそう提案してくれた。それを聞いて私は携帯電話を取り出す。
そして履歴を開いた時、喫茶店の扉が開き新しいお客さんが入ってきた。
パイナップルのような髪型をした男性は、手前の席にいる金髪の男性の元へ躊躇することなく近づき、向かいの席に座った。
どうやら手前にいた男性は違うようだ。
そうなると、奥にいる女性が電話の相手ということになる。しかし、いざその女性に注目してみるとかなり変わった格好をしている。
うさ耳のカチューシャにメイド服を着こなし、まるで漫画の世界から飛び出してきたかのような格好をしている。
あのような格好をしている人が、元ジムの経営者だとも考えにくい。きっと別の待ち合わせをしている人だろう。
私達は先に着いてしまった、そういうことなのだろう。と私は携帯を閉じる。
私が携帯を閉じると、奥にいる女性は携帯を取り出して何か操作を始める。
その女性が携帯を触ると同時に、私の携帯に電話がかかってきた。
「あ、はい、…………待ち合わせの場所に着きました………………手を振ってる……?」
奥にいるうさ耳をつけた女性がこちらに向かって手を振っていた。
元ジムのオーナーと合流した私達。席に着くと女性は早速自己紹介を始めた。
「私は黒淵 モエカ。モエちゃんって呼んでね」
黒淵さんは顔の前に手でハートを作りながら紹介を終えた。
「私は霊宮寺 寒霧。それでこっちが坂本 楓ちゃ……君よ」
リエは見えていないし、黒猫は隠れているため自己紹介は省く。
私達が紹介を終えると、黒淵さんはテーブルに肘をつき、手の甲に顎を乗せる。
「へぇ~、なかなか可愛いわね」
そして私達の方を見てそう言った。
「ですよね。でも、楓ちゃんは男な……ん…………」
「違うわよ。あなたよ」
黒淵さんは突然身を乗り出すと、私の手を握りしめる。
「え……?」
「あなた、もっと可愛くなれるわよ」
黒淵さんは私の目を見てそんなことを言ってくる。楓ちゃんのことを言っているのかと思ったが、もしかして私のことなのだろうか。
黒淵さんは目を輝かせて、私の腕を強く握りしめる。
「鍛えれば絶対良い筋肉をつけられる!!」
「へぇ? 筋肉?」
私が混乱している中、黒淵さんはテーブルに腹を乗せて乗り出しながら、私の身体を触り出した。
「良いわ良いわ、すごく良い!! 筋肉付けないのはもったいないわよ!」
「ちょ、なんなんですか。黒淵さん」
私は黒淵さんの腕を振り払う。すると、黒淵さんは頬を膨らませて不機嫌そうな顔をする。
「モエちゃんって呼んでって言ったわよね。レイちゃん」
「も、モエちゃん……なんなんですか、突然」
「だから~、筋肉をね」
機嫌を直した黒淵さんは再びテーブルに身を乗り出して、私に触ってこようとする。嫌がる私を守るように、楓ちゃんが手を横に出す。
「モエ・チャンさん、やめてください。レイさんが嫌がってます」
しかし、黒淵さんはその腕を叩いて、楓ちゃんを睨んだ。
「私、男には興味ないの。あとちゃん付けやめてくれる」
「は、はい……」
楓ちゃんは速攻で負けた。隣で落ち込んでいる楓ちゃんを無視して、黒淵さんは私の身体に手を伸ばす。
私はメニュー表を盾にして黒淵さんから身を守り、本題に入った。
「モエちゃん、あなた呪いのダンベルを知ってるんですよね。教えてください、その持ち主は誰なんですか?」
呪いのダンベル。その単語が出た途端、黒淵さんの手が止まる。
黒淵さんは席に座り直して話を聞く体制になる。
「そうね。そういえば、呪いのダンベルについて話があるってことだったわね。あなたの体を見て興奮して忘れてたわ…………」
「興奮しないでください」
私は椅子の奥まで座り、黒淵さんから出来るだけ距離を取って会話を始める。
「呪いのダンベルは誰が持ってきたんですか?」
私が早速質問すると、黒淵さんは目を細めてつまらなそうに答えた。
「早いわね。本題に入るのが、でも良いわ答えてあげる。ダンベルの持ち主は夏目よ」
「夏目?」
私と楓ちゃんは首を傾げる。私達の後ろにいるリエも首を傾げた。
「私の経営するジムにあのダンベルがやってきたのは、今から丁度一年ほど前だった。それももうすでにいくつかの人間を伝い、呪いをばら撒いてきた後」
「じゃあ、あなたのジムにその夏目さんが来ていたわけではないんですか」
「ええ、そうよ。私がジムで働く前からその呪いはあったみたい。このダンベルはナドキエ製の初期モデルなの。だからこのダンベルが主流だった頃を考えれば、約十年前に呪いのダンベルがあったとこになる」
十年前。そんな前からこの呪いのダンベルが存在していたとは……。しかし、黒淵さんの話を聞いて疑問が浮かぶ。
「なぜ、持ち主が夏目さんだと分かったんですか?」
黒淵さんは店内の誰かを見る、目線で何かを送る。私達も黒淵さんの見た方を見るが、誰を見ていたのかは分からなかった。
黒淵さんは私の方に向き直すと話を続ける。
「呪いのダンベルがジムに来て、問題が起きて私もこの件について調べ出したわ。まぁ、持ち主がわかったときには、ジムは潰れて、ダンベルは消えていたけど……」
黒淵さんはポケットの中から一枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
その紙には見慣れない場所の住所が書かれている。
「ここが夏目の家よ。夏目自身は何年も前に亡くなっているみたいだけど、ここに呪いを解くヒントがあるかもしれないわ」
黒淵さんはその紙を私達に渡すと、立ち上がる。
「私が知っているのはここまでよ。それじゃ、私はこれで……」
黒淵さんは自身の会計分の小銭をテーブルに置いて店の入り口へと向かう。
私達は黒淵さんに渡された住所の書かれた紙を見て、、どこなのか確認しようと手元に待ってくる。
「あ、そうだ!!」
紙を目の前に持ってきたはずが、突然横から黒淵さんの顔が現れて塞いできた。
「うわぉ!? 帰ったんじゃ?」
「その前に~!」
黒淵さんは携帯電話を取り出すと、
「レイちゃん、あなたの連絡先教えてよ~」
黒淵さんも帰り、ついでに喫茶店で昼食を済ませた私達は、会計を終えて店を出ようとする。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店の入り口に行き、扉に手を伸ばしたとき。私の目線をコインが横切る。
突然コインが飛んできて驚いた私は、慌てながらも咄嗟にキャッチした。
「なにこれ? 五円玉?」
私が飛んできたコインを不思議そうに眺めていると、入り口の近くの席から声をかけられる。
「いや~すまないすまない。そこの麗しき白髪のマドモアゼル、コインが飛んでいってしまってね」
そこは待ち合わせで勘違いした他のお客さん達。喫茶店に入るときに見かけた二人と、もう一人男性が増えており、その人がコインを飛ばしてしまったようだ。
男性はコインを投げるように手招く。私がコインを投げ返すと、男性は綺麗にキャッチした。
「サンキュー!」
そして男性はコインを持ち直すと、親指で弾いて顔の高さまで飛ばしてキャッチ。それを何度も繰り返して遊んでいる。
「レイさん、早く行きましょ~」
扉をすり抜けたリエが外から呼ぶ。男性からの目線を感じながらも、コインを返したのだしと私は店を出た。
「店の中でコイン遊びって何考えてるんでしょうね。他の客に迷惑かけて」
店を出た後、後ろで楓ちゃんが文句を言っている。
「そうね。ま、関係ないのだし、行きましょう。目指すは夏目さん家よ!」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【改稿版】 凛と嵐 【完結済】
みやこ嬢
ミステリー
【2023年3月完結、2024年2月大幅改稿】
心を読む少女、凛。
霊が視える男、嵐。
2人は駅前の雑居ビル内にある小さな貸事務所で依頼者から相談を受けている。稼ぐためではなく、自分たちの居場所を作るために。
交通事故で我が子を失った母親。
事故物件を借りてしまった大学生。
周囲の人間が次々に死んでゆく青年。
別々の依頼のはずが、どこかで絡み合っていく。2人は能力を駆使して依頼者の悩みを解消できるのか。
☆☆☆
改稿前 全34話→大幅改稿後 全43話
登場人物&エピソードをプラスしました!
投稿漫画にて『りんとあらし 4コマ版』公開中!
第6回ホラー・ミステリー小説大賞では最終順位10位でした泣
邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
欲しいものはガチャで引け!~異世界召喚されましたが自由に生きます~
シリウス
ファンタジー
身体能力、頭脳はかなりのものであり、顔も中の上くらい。負け組とは言えなそうな生徒、藤田陸斗には一つのマイナス点があった。それは運であった。その不運さ故に彼は苦しい生活を強いられていた。そんなある日、彼はクラスごと異世界転移された。しかし、彼はステ振りで幸運に全てを振ったためその他のステータスはクラスで最弱となってしまった。
しかし、そのステ振りこそが彼が持っていたスキルを最大限生かすことになったのだった。(軽い復讐要素、内政チートあります。そういうのが嫌いなお方にはお勧めしません)初作品なので更新はかなり不定期になってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。
稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜
撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。
そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!?
どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか?
それは生後半年の頃に遡る。
『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。
おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。
なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。
しかも若い。え? どうなってんだ?
体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!?
神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。
何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。
何故ならそこで、俺は殺されたからだ。
ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。
でも、それなら魔族の問題はどうするんだ?
それも解決してやろうではないか!
小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。
今回は初めての0歳児スタートです。
小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。
今度こそ、殺されずに生き残れるのか!?
とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。
今回も癒しをお届けできればと思います。
だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
十和とわ
ファンタジー
悲運の王女アミレス・ヘル・フォーロイトは、必ず十五歳で死ぬ。
目が覚めたら──私は、そんなバッドエンド確定の、乙女ゲームの悪役王女に転生していた。
ヒロインを全ルートで殺そうとするわ、身内に捨てられ殺されるわ、何故かほぼ全ルートで死ぬわ、な殺伐としたキャラクター。
それがアミレスなのだが……もちろん私は死にたくないし、絶対に幸せになりたい。
だからやってみせるぞ、バッドエンド回避!死亡フラグを全て叩き折って、ハッピーエンドを迎えるんだ!
……ところで、皆の様子が明らかに変な気がするんだけど。気のせいだよね……?
登場人物もれなく全員倫理観が欠如してしまった世界で、無自覚に色んな人達の人生を狂わせた結果、老若男女人外問わず異常に愛されるようになった転生王女様が、自分なりの幸せを見つけるまでの物語です。
〇主人公が異常なので、恋愛面はとにかくま〜ったり進みます。
〇基本的には隔日更新です。
〇なろう・カクヨム・ベリーズカフェでも連載中です。
〇略称は「しぬしあ」です。
クロスタウン・アンノウン SFなの?なんなの?バカなの?無敵の南警察女署長 暴れます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ファンタジー
この作品は、すべてフィクションです。
実在する個人・団体とは一切関係ありません。
よろしくお願いします。
真剣にふざけてます、コメディ作品としてお楽しみいただければ幸いです。
第二次世界大戦、終戦直後、退役軍人のところに宇宙人3人が現れ、彼に財力と未来のテクノロジーを授ける。
それで・・・あぁそうさ、ソレデ?ナニ?的なくっどい説明的で下手くそな文章がのたくってますわ
だがな
なんでもありのめちゃくちゃなラストバトルに向かって一緒に読んでくだせェ
こっちやー命懸けで書いてんだァーオラァアアアアアアアアっ!
なに?バカなの?ヤケクソなの?イイネゼロなのねw
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる